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豆炭々炬燵
4008文字
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ダンジョン飯
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【ミスライ】Trick yet Treat
ミスルン『お菓子いいから悪戯させろ』
HW突貫小説ミスライ🍽️🧀編
開口一番。
「
…
女王陛下からのお達しです
……
」
憔悴しきった面持ちで半ば強引に渡された衣装越しに渡してきた当人──パッタドルに視線を向ける。
普段の恰好と打って変わりエイジングが施された包帯を全身に巻きつけている姿の見慣れなさ。包帯の巻きが甘いらしく溜息まじりに解け掛かった先端を巻き直していた。
無言で待つ私に気が付き俯きがちだった顔を上げ背筋を伸ばし事の顛末を説明しているが、ここに来るまでに精も根も尽き果てたのを察するに余るほど覇気のない弱々しい声音だった。
「──、というわけです」
「そうか」
説明し終えたパッタドルが再び包帯が解けた箇所に手を伸ばす前に簡易的な接着魔法を施す。
伸ばしかけた手が空に留まり、暫くして視覚から得た情報を咀嚼できたのか緩やかに手を下ろし私と向き合った。
「お心遣いありがとうございます
…
」
「うん」
パッタドルが何故体の輪郭が浮き彫りになっている包帯姿をしているのか。その意味をようやく理解出来た。
長命種であるエルフから見ても長いの時を経て地上に突如として現れた黄金郷。その一千年以上変わらなかった国は多種多様な種族を受け入れ、こと新たに即位した国王が周囲に齎す力が何なのか未だに突き止められていない。西方エルフの国としても貴重過ぎる迷宮内で体験した事を外部に漏らす素振りはないが、古代魔術を使用した上に迷宮の主にもなった現宮廷魔術師であるマルシルを傍に置いているのも含め要監視対象には変わらない。
だが、表向きは良き友好関係を築き続けていきたい。
それ故新国王が熱心に国の祭事として定着させようとしているものには全力で取り掛かるように、という事か。
「ご機嫌取りか」
「そう、ですね
…
。ああ、すみません。私このあとマルシルの所へ顔を出しに行きますので、ライオス国王お願いします
……
」
「わかった」
いっそ壁に手を付いた方が良い足取りでマルシルの所へ向かうパッタドルを追い掛けるように彼女の妖精が今にも墜落しそうな羽ばたきで私にドライアドの実の中身をくりぬいた物を渡してきた。
「言い忘れてました
…
。もし、子供から
…
えっと
……
『トリックオアトリート』と言われたらお菓子をあげてください
……
」
首だけ振り返り思い出した事を告げ終わったパッタドルが妖精を連れ重たい足取りで歩き出す。
角を曲がるまで見送り扉を閉め、渡された菓子が詰められたドライアドの実と細かな箇所まで手が込んでいる衣服を三度見下ろした。
あまり好んで着ない複雑で独創的なセンスを全て着替え終えた頃には天辺にあった太陽が月と入れ替わる寸前だった。
黄昏時の城下町に漂う柔らかな灯りの根源が其処彼処に置かれたドライアドの実から発せられ、その異質さ以上に城下町に犇きあっている住人達の恰好は実際にいる魔物から私の知りえないものまで多岐に渡り、その誰も彼もが笑顔で満ちていた。
パッタドルから聞いた呪文めいた言葉を嬉々として言う子供らに菓子を渡し目当ての人物を探し歩く。幸い菓子を配りつつ目撃情報を逆に辿れば存外早く見つかった。
賑やかで活気に満ちている奥の奥。目的の人物を中心にして形成されている輪を突破しようにも人の波に押され遠ざかるばかり。どうするべきか。
人々が止めどもなく重なり合う僅かな隙間を縫い、実り豊かな収穫時期の象徴とされる瞳が私を見つけ一層煌めいた。
「やあ! ミスルンっ! あなたも来てくれて嬉しいよ!」
弾んだ声が合図となって私とメリニ国王──、ライオスの前に道がやおら現れる。左右に分かれる多民族国家を謳うにもってこいな風貌の住人達。その誰もが私とライオスを興味深そうに眺め、やたら優しい笑みを称えその場を後にして行った。
先程の人だかりが嘘のように疎らとなった広場に残された二人の影が暖色の光に揺らめく。
「いいのか。何か話してたんじゃないのか」
「話? 嗚呼、この祭りの成り立ちについては用意してくれたお立ち台で説明し終わって」
「うん」
「さっきまで俺が着ている服装について語っていたところだ」
「なるほど。良ければ私にもこの祭りの成り立ちについて聞かせてほしい」
「もちろん! この祭りは
……
」
──
───
────
身振り手振り。国王直々に熱弁する祭りの成り立ちは大凡分かった。
要はとある地方にある死者が還ってくる日に倣い、死者に扮した仮装をすることで生者なのを偽って身を守り、魔除けにドライアドの実に明かりを灯し、死者生者混濁の祭りに興じると。
そして、折角の祭りなのだから仮装は死者から魔物、果てに空想上のまで各々好みの恰好に身を包み、子供らは『トリックオアトリート』という専用の言葉を大人達に言う事で菓子を貰う又は悪戯をする。
西方エルフ国でも聞いた事のない風習だ。王立図書館に貯蔵されている文献にあるかどうかすら怪しい。余程閉鎖された地域、または西方エルフ国でも取りこぼす程の地域で行われているか定かではないな。
興奮頻りに今自分が着ている衣装に話がシフトしているライオスを見上げる。鼻息荒く語るライオス曰く、彼自身が着ている衣装は謂わば『ライオスが考えたカッコイイモンスターver.2』らしい。前に見たイラストもそうだが多頭が好みなのか。
今日の為に誂えたとっておき、そうイヌ科特有の足を模した手袋を固く握りしめたかと思えば両手を広げ上機嫌にその場で回った。たしかに尾骶骨から伸びる上質な毛並みは同じイヌ科モンスターの尾を染色して使用されているのが窺える。
「折角だからみんなのも俺が全部デザインしたんだ!」
至極楽しげに胸を張って語るライオスの言葉が呼び水になって、この広場に着くまで出会った妹ファリンを始めとする彼と親しい者達の顔が脳裏を過っていく。
妹ファリンは感性と価値観が近しいのだろう。心底嬉しそうに赤い頬をさらに染めていた。その隣にいた宮廷魔術師のマルシルが終始納得いかない顔をしていたが、ファリンが「似合っている」「可愛いよ」「とっても可愛い」と褒める度、満更でもない顔つきになっていったな。
深く長い溜息を事あるごとに吐き、それでもやれやれ顔で衣装に身を包むチルチャック。兎角気にする様子もなく出来たての菓子を振舞うセンシ。頗る機嫌が悪いイヅツミを抱きかかえ満面の笑みで城下町を練り歩いていくオーガ。
他の者達を見かけていないが、それでも一目で分かる意匠の凝らしたデザインに感嘆の声が零れる。
「すごいな」
「褒めてくれて嬉しいよ!」
嗚呼、特に頭に刺さった斧から滴り落ちる血が眼球をも染め俊敏な身のこなしで各国首脳の相手をしているカブルーの恰好は実にリアルだ。
此方を睨みつける剣呑とした眼光。まさに鬼気迫る表情を引き出すのは並大抵のことでは出来ないだろう。
制止の言葉を紡ぎかけている唇の動きを読み、私は想像以上に触り心地の良い獣の手を掴み喧騒犇く城下町に紛れ込む。
ワンテンポ遅れ鼓膜を震わす声に私だけ緩く振り返る。すぐ後方のライオスが目を白黒させるだけで首を声がする方向へ捻らないのは十中八九意匠を凝らした被り物所為に違いまい。
あてもなく、あるとしたら掛けられる声から逃げるように人の波を掻き分け明かりが遠のいた路地裏を駆け抜け、少々肌寒い風が駆け抜ける小さな水飲み場に辿り着いた。
掴んでいた手が急に重さを増し視線を辿れば、最近運動不足らしい不規則で荒い息遣いで膝に手を付き背を丸めているライオスが目に入る。
「あ、熱い
…
っ」
着こんでいる衣服の差か。額に浮かんだ汗を拭い被っていた被り物を脱いだライオスが風を受け火照っていた頬を冷やしていく。
立ち昇る湯気が薄まるにつれ呼吸が落ち着いたライオスが私を見据える。
「ここに俺を連れてきた理由を教えてくれないか」
敵視はおろか無防備の無警戒。純粋な疑問を投げかけるメリニ国王に隻眼を細め、カサついた唇の両端に人差し指と中指を添え魔法で作った鋭い犬歯をうねる赤い舌と共に満月色の瞳に映し出す。
「おおっ。犬歯が伸びて益々、」
「そうだ。お前が望んだ魔物そのものだ」
まだ賑わっていた広場で聞いた、ライオスがデザインした衣装のモチーフが頭蓋奥で漆黒の翼を広げ嘲笑する。
未だ私が言った事の意味を理解出来ずに首を捻るライオスの汗ばんだ太い首筋をなぞり、指の背で熱の引いてきているトールマン特有の耳を撫で口元を寄せ囁いた。
──お菓子いいから悪戯させろ
顰めた声に宿る情欲は飢え渇き、疑問を抱かせる暇を与えず私は塩辛い味を舌の上で躍らせ、普段ない鋭さを脈動する血管を隠す皮膚にやわく突き立てる。
遅すぎる危機感に体を強張らせ剥がしにかかるライオスの抵抗心を紛い物でしかない吸血行為で摘み取った。血を啜る代わりに赤い証を刻み、視線を交わせる距離まで身を引く。
不快感からではない不理解で眉根を潜め何かを問いかけた唇を塞ぎスライムが這いずる音を口腔内に響かせる。
人気のない水飲み場に満ちる短く熱い二人の息遣い。戸惑い抵抗する意思を薄く削ぎ落とすのにつれ、ライオスから力が抜け気付いた頃には膝立ちなって私を蕩け朦朧とした眼差しで見上げていた。
暑さではない違う意味で上気した色白の肌の艶めかしさ。緩慢な動きで身に降り掛かった事態を理解して瞠る瞳。戦慄いた唇から言葉に満たない声を途切れ途切れ紡ぐ様は見ていて飽きない。
「私がお前に向ける感情の種類が分かったか」
淡々と告げる私から目を逸らし泳がせていた琥珀色が参ったと云わんばかりに恐る恐る私を再び見上げ浅く頷いた。
しかし、私が向ける感情の種類を否定はしないものの何故なのか分からないと見える。赤みの引かない顔で懸命に思考を巡らせている愛らしさに私は小さく笑ったのだった。
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