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しちろ
2024-10-31 10:11:44
1614文字
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LOM・連載主人公の短編
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トリックオアトリート!
女主と男主のハロウィン。わりと仲良し。
空き家の扉、今日もノック。
呼ばれたシオンが家から出ると、いきなり陰から、がば、と白いシーツが飛び出した。
「な、なに」
「トリックオアトリート! ハッピーハロウィン、シオン!」
開けられた二つの穴からのぞく、明るい青い目。
この時期よく見かける、簡単お化けの仮装
――
中身は案の定、棒の刺さったお嬢さんである。シーツをかぶった小柄な身体を、両手を上げてにゅうと伸ばし、精一杯大きく見せようとしている。
「
……
なにやってんの」
シオンが白い眼をすると、カイはかぶっていたシーツを持ち上げて、下から顔をのぞかせた。隠されていた顔にはご丁寧に血糊が塗られていて、こちらはいきなり見るとちょっとびっくりする。
「ハロウィンだよ、10月31日。ハロウィンと言えばカボチャ、そして楽しく仮装してお菓子をしこたま食べられる日。つまりあたしが好きなだけ甘いもの食べてお腹いっぱいになってもよい日、ということですよ。コロナとバドには配ったから今度はあたしの番」
「ハロウィンなのは知っている。後半部分はほとんど間違っていると思うし、お前は甘いものをいつでも食べていると思う」
「そういうわけですから、シオンさん。トリックオアトリート。くださいお菓子を」
「聞けよ、人の話を」
要するに、ハロウィンのお菓子をたかりに来たわけだ。マイホームでは双子の保護者役を請け負うカイだが、まだ、自分ももらってはしゃぎたい気持ちも残しているお年頃なのである。
まあ、キミが持ってる気もせんのだが
……
などと言いかけるカイの手に、バラバラとお菓子が落ちてきた。キャンディ、チョコ、マシュマロ。
「まさか、キミがきちんと用意してくれていたとは」
「こういうこともあろうかと」
カイの手にお菓子を落としながらシオンは言った。準備のよろしいことである。
やったー、ありがとうとカイが素直に喜ぶと、シオンが半眼で聞いてきた。
「お前、もし俺が持ってなかったら、何する気だったんだ」
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。
「あ、えーと。ですね」
カイは動きをぴたりと止めて、上目になってしまった。考えていなかった。シオン相手に
……
なんだろうか。帽子をとる、くすぐる、巻き毛をひっぱる
……
真面目に考えているうち、次第に妙な方向に想像し始めて、だんだん変な汗が出てきた。
「トリックオアトリート」
シオンが、なぜか汗をかきだしたカイに向かって掌を出してきた。
「ハッピーハロウィン。カイ、お前がもらったんなら、俺だってもらっていいよな?」
言われてカイは気がついた。自分は、彼に渡すお菓子を持っていない。双子に全部渡してしまったのだ。
なにかないの? と重ねて聞かれて、カイは何かないかポケットの中をまさぐりながら、赤くなったり青くなったりを繰り返した。たった今、うっかり変なことを考えてしまったせいで。
「ないなら、こっち」
シオンの手が耳元に伸びてきた。今までにないくらい、優しくさりげない動き。
さらに、もう一方の腕で頭を引き寄せられて、二人の距離がぐっと縮まった。
体温を感じた。カイの心臓がいっそう跳ね上がった。互いにもう子どもではない、ハロウィンのイタズラは、とても甘い
――
。
「トンボが頭に止まってる」
「
……
はい?」
秋風が吹き抜けた。
シオンの手が離れると、彼の立てた指の先に、羽を休めた赤トンボが止まっていた。いつの間にか、カイの頭に止まっていたらしい。
トンボを驚かせないよう、シオンが指をそっと空に差し出した。茜色の薄羽を細かく振るわせてトンボは飛び立って、秋空へ高く旅立っていく。
二人でそれを見送ってしばし、やがて互いに目が合った。
「もしかして
……
何か、期待した?」
シオンににやっと笑われて、カイはつい息を吞む。
それから、真っ赤になって叫んだ。
「そんなわけないでしょ、こんの、バカーっ!」
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