ヒナツキ
2024-10-31 09:47:30
3166文字
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宗さにファンタジーパロ1

・自我夢注意
・自我夢なので作中にヒナツキって名前が出てきます!!
・精霊とか神獣とか出てくるファンタジー風のパロ
・衣装は東南アジア風のイメージ
・左文字兄弟は王国の王子様、さには侍女で18歳の設定
・乱は女装している(さには女の子だと思っている)

「あ! ねぇねぇヒナツキ!」
 よく通る明るい声に、目にかかるほど前髪を伸ばしている侍女が足をとめた。振り返ると小柄な少女がぱたぱたと駆け寄ってくる。
「どうしたの、乱ちゃん?」
「ヒナツキはこれから掃除だよね? そっちは引き受けるから、宗三様へのお茶出しを代わってもらえないかなぁ?」
 お願い、と乱が顔の前で両手を合わせた。
「ほら、ここ数日の宗三様、ちょっとピリピリしてるでしょ? ……契約の儀が上手くいってないんじゃないかって、みんな気を揉んでるよね」
「ああ……
 顔を寄せて小声になった乱に侍女は曖昧な返事を返した。
 この国の王族は、国に棲まう神獣たちと契約を交わしその力を借りることができる。数年前など第一王子である江雪が歴代の王族でも初めて霊峰の蒼象との契約に成功して、国を挙げてのお祭り騒ぎとなった。
 今回は第二王子である宗三に西の森に棲まう白狐との縁が見えると託宣があり、朔の日から五日ほど森へ出向いているらしいのだが、未だに契約成立の話は聞こえてこないのだ。
「はじめに高圧的な態度で話しかけちゃったらしいからねぇ……
「え?」
「いや、なんでもない。お茶をお運びするのは構わないよ。でも、ナーバスになっていらっしゃるからって私たちに八つ当たりするような方じゃないでしょう?」
「そんなことないよ! 宗三様の機嫌を治せるのはヒナツキだけだから!」
「まさかぁ」
 ガッツポーズで力説されて思わず苦笑を返した。確かに宗三には気難しそうな雰囲気はあるかもしれないが、話せばすぐに優しい人なのだとわかる。彼を怖がるのは新人くらいだ。
「まぁとにかく、お茶を引き受けることは構わないよ。さっそく準備に行ってくるね」
「ありがとう、よろしくね!」
 乱に手を振られながら侍女は調理場へと向かった。
(そうよ……宗三様、お優しい方なのに)
 茶の準備をしながら考え込む。森の白狐と話が拗れてしまっているのは宗三の人柄が上手く伝わっていないからだ。どうにかお力になれないかしら、と侍女は作戦を立てた。
 ────白狐の言い分を何故知っているのだと、悟られるわけにはいかないので。


「宗三様、お茶をお持ちしました」
 ノックをし扉の外から声をかければすぐに応えがあった。失礼します、と扉を開けて中に踏み込めば、宗三はテーブルに沢山の書物を広げていて、神獣の伝承、契約の儀の記録などを片っ端から読み込んでいるようだった。
「ありがとうございます。そこに置いておいてください」
「はい。ですが宗三様、お茶は覚めたら香りも味も落ちてしまいます。少し休憩をなさってはいかがでしょうか?」
「そういうわけには……せめてきりがいいところまで」
「宗三様」
 侍女は怯まずににこにこと続ける。
「そんな風に根を詰めても煮詰まってしまうだけですよ。一度離れて、ご気分を変えてみれば見えてくるものもあるかもしれませんよ?」
…………あなたには敵いませんね」
 宗三はようやく書物から視線を上げると、ふっと苦笑して肩の力を抜いた。
「せっかく用意してくれたのですものね。美味しいうちにいただきましょうか」
「はい! すぐにお淹れしますね」
 侍女はてきぱきと茶器を扱い始めた。作業しながらそっと宗三を窺えば、大きく背伸びをしたり目頭を揉んだりしている。疲労が溜まっているのだろう。侍女は「そういえば」と明るく話を切り出した。
「街にお使いへ出た侍女が聞いてきた噂話なのですが、とある貴族の男性がプロポーズに失敗してしまったそうです。お相手のご令嬢は婚約者であったのに、ですよ」
「へぇ?」
 さほど関心がなさそうな相槌だ。侍女は調子を変えずに話を続けた。
「実際にお会いするのは初めて、というときだったそうです。貴族の方は第一声で『お前は妻になるのだから、自分の言うことには従うように』と横柄に言ってしまったそうなんですね」
…………!」
 ぴくりと宗三が片眉を上げた。侍女は気づかないふりをして喋り続ける。
「結婚は決まっていることで、妻になればそのような振る舞いを求められることもご令嬢も理解なさっていたのでしょう。それでも、初対面で自分を軽んじるような冷たい言葉を投げられたくはなかった。それで素直に『はい』と言えなくなってしまったんですね」
……その話って」
「はい?」
……いえ。それで、その婚約はどうなったんです?」
「周囲からのアドバイスもあって、プロポーズをやり直したそうです。ご令嬢のために花束を用意して、誠意を込めて『自分についてきてほしい』と伝えたそうですよ」
「誠意……
「一生を添い遂げるのですもの。叶うなら温かな関係を築きたいと思いますよね」
 侍女は円卓に茶器や茶菓子を並べ、椅子を引いてにこりと微笑んだ。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」


 片付けを終え、庭に出ると侍女へ大きな蝶が飛んできた。揚羽蝶だ。
 蝶は宗三の眷属である。この国の王族は幼少期に虫などの精霊と契約し、その祝福を受けるのが慣わしだから。
 侍女は上方へすいと手を伸ばした。その指先に揚羽蝶がとまる。
「ええ、きっと大丈夫。宗三様は聡明なお方だから」
 侍女は蝶へ向かって微笑んだ。
「近いうちにまた白狐様へご挨拶に行くわ。あの方の好きな果物を持ってね。だからどうか宗三様にもう一度チャンスをと伝えてもらえるかしら?」
 宗三は兄の江雪に続かなければと焦っていただけなのだ。兄のため、父のため、そして国のためにと第二王子としての役割を果たそうとして、神獣を調伏しようとしてしまった。それで白狐の反感を買ってしまったのだが、まだ間に合う。
 蝶はまるで侍女の言葉を理解したように指から離れると、侍女の周りをふわふわと一周してから空へと飛んでいった。
「ヒナツキ〜!」
 また元気な声がして、通路から乱が駆けてくる。
「乱ちゃん、掃除終わったの?」
「終わったよー! ヒナツキはどうだった? 宗三様は」
「大丈夫だったよ」
「それならよかった! 今は何をしていたの?」
「片付けが済んだから、お庭を見ていたの」
 侍女はにこりと微笑んだ。間違っても蝶と会話していたなどと知られるわけにはいかない。
 自分が普通ではないと、異常だと知られてしまったら、きっと王宮を追い出されて行き場を失ってしまうから。

 ────その力のことを、誰にも言ってはいけないよ。

 院長の石田に言い聞かされた、その厳しい声を思い出す。あれは侍女が幼かった頃、虫や小鳥と会話をしていたら周りの子供達から気味悪がられてしまったときのことだ。
 彼らの声が聞こえるのだと言っても信じてもらえず、嘘つきと責められて、泣いていたら石田がやってきた。事情を説明したら石田はこちらの言い分を信じてくれたのだが、同時に「そのことは誰にも知られてはいけない」と言ってきたのだ。
 ああ、だからか。と、そのとき腑に落ちた。
 だから自分は孤児院に捨てられていたのか、と────

「ヒナツキ?」
 侍女はハッと我に返った。つい物思いに耽ってしまっていた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
 侍女は表情を笑顔に取り繕うと、ぽんと手を叩いた。
「そうだ、料理長がおやつを分けてくれたの。よかったら部屋で一緒に食べない?」
「わぁ、行く行く!」
 乱はぴょんぴょんと元気に飛び跳ねた。その可愛らしさに自然と笑みが零れ、侍女は乱を連れて歩き出した。


 宗三が白狐との契約に成功して盛大な宴が開かれたのはこの二日後のこと。
「ヒナツキ。どうか僕と、結婚を前提に付き合っていただけませんか」
 膝を突かれ恭しく右手を取られたのはその日の夜のことだった。