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溶けかけ。
2024-10-30 20:54:21
2605文字
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ほぼ日刊
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食卓を彩るは、君の笑顔と一匙のスープ
妊娠したばかりのフリーナとスパダリしてるヌヴィレットのふわふわ優しい夫婦のお話。
「ふう
……
洗濯終わり。でも、晴れてよかった」
フリーナが太陽に手をかざす。久々に見た太陽は眩しくて思わず目を細めた。足元のランドリーバスケットには取り込んだばかりの洗濯物が積まれて山を成していた。それを見て、フリーナは口角を上げる。乾燥用のマシナリーも悪くないけど、お日様の匂いの方がやっぱり好きだ。
「って、うわっ
……
!」
突如として、強い風が吹いた。干したばかりのシーツはバタバタとけたたましい音を立て、足元のバスケットがごろんと転がった。
──倒れるっ
……
!
強風の煽りにフリーナの華奢な身体がよろめく。
反射的に目を閉じて、腹を抱えた。
せめて、この子たちだけは守らなくては────
……
「洗濯くらい、私がすると言ったはずだが
……
?」
頭の上から声がした。フリーナの背を受け止めたヌヴィレットは、珍しいことに肩で息をしていた。──どうやら、走って来てくれたらしい。
「ヌヴィレット
……
」
ほぅ
……
とヌヴィレットが安堵のため息をついた。咎めるような薄紫の瞳はフリーナを心配してのことだと知っている。
「ご、ごめん
……
でも天気が良くて
……
」
「君が家でじっとしていられない性分なのは良く知っている
……
だが、今は君と
……
この子たちのためにも控えてはくれないだろうか?」
ヌヴィレットの手がフリーナの腹を愛撫する。まだ薄い腹には小さな命が二人分宿っている。それは、理解しているのだが、
「
……
妊婦でも多少の運動が必要って聞いたんだ
……
だから、キミと居るときだけは許してくれ。キミがいないときは大人しくしてるから
……
!」
上目遣いに懇願されて、ヌヴィレットは息を吐き出した。大概、自分も彼女のおねだりに弱い。
「はあ
……
分かった。ただし、私が居るときだけだ」
フリーナの顔がぱっと明るく輝いた。
「ありがとう!ヌヴィレット」
フリーナの笑顔に目を細める。この顔が見たくて、つい、許してしまうのは自身の悪い癖だ──そう思いながら、ヌヴィレットはフリーナの膝裏に手を差し入れると、彼女を横向きに抱き上げた。
「えっと
……
僕、歩けるよ
……
?」
フリーナが僅かに頰を紅く染めながら、洗濯物に顔を埋めた。ヌヴィレットはそんな彼女を見つめる。
「今日は私を心配させた罰だと思ってくれ
……
ああ、ありがとう、君たち」
ヌヴィレットが歩きだせば、後ろからフリーナのサロンメンバーたちがついてくる。ジェントルマン・アッシャーの一本の足とクラバレッタの片方のハサミには、それぞれ一つずつ、バスケットの取っ手が握られていた。
「美味しい
……
また、腕を上げたね」
野菜スープを一口含んだフリーナが目を輝かせた。その顔を見られただけで、作ったかいがあるというものだ。
というのも、フリーナは悪阻が酷い体質らしく、始めの頃は何を食べても吐き出してしまっていた。必要な栄養すら採れず、痩せ細っていく彼女の姿に、何度、死を覚悟したのか分からない。食べられる物を模索する日々が続き、最終的には水と果物、そしてヌヴィレット謹製のスープに落ち着いた。
今でこそ、同じテーブルを囲えるようになったが、そこに至るまでを考えれば考えるほど、この瞬間が貴重な物に思えてくる。
ヌヴィレットは僅かに表情を緩めた。
「旅人から色々とコツを教えて貰ったのでね」
「へえ
……
二人は元気だった?」
他愛のない話をしながら夕飯を食べる。フォンテーヌ廷に出入りすることが少なくなった僕としては、友人たちの近況を聞ける貴重な機会だ。
「ふう
……
お腹が苦しくなるほど食べてしまったよ」
「それはよかった。子どもたちも喜んでいることだろう」
洗い物を終えたヌヴィレットがフリーナの隣に座る。ソファのスプリングが軋む音がして、座面が僅かに傾いた。フリーナは肩を抱かれながら、妊娠しているとはいえ、いくらなんでも過保護すぎやしないだろうか、と思った。ヌヴィレットがフリーナの腹を撫でる。
「君はもっと栄養を採りたまえ。子どもが二人もいるのだから
……
」
僕のお腹にあるふたつの命。本来ならば、子どもが何人いるかなど、まだ分からない時期だ。だが、そこはヌヴィレットの血を引く子どもたちだ。元素視覚を使うことで、青色の元素の痕跡をはっきりと見ることが出来るのだ。
「そうだけど
……
でも、こんなに食べていたら、子供たちが生まれた後も食べ癖が残って、丸々太ったプクプク獣みたいになってしまうかもしれないだろう?」
「私はどんな君でも構わないのだが
……
」
「僕が気にするの!──まったく、もう!キミには乙女心ってやつが分かってないんだから!」
フリーナが腕を組んで、ぷいっとそっぽを向いた。ヌヴィレットはそんなフリーナの耳に口を寄せると囁いた。
「今も魅力的だが
……
太った君もきっと素敵なことだろう
……
」
フリーナは身体をびくんっと跳ねさせた後、呆れたような視線をヌヴィレットに向けた。
「キミ、僕に甘すぎるんじゃない?」
「そうだろうか?」
「そうだよ」
「そうか
……
だが、嘘は言っていない」
ヌヴィレットはゆっくりとソファから降りるとフリーナの前で膝をついて腕を広げた。
「それ、普通の女の人だったら怒るじゃ済まないからね?」
フリーナが浅く座り直すとヌヴィレットは彼女を腕の中へと閉じ込めた。彼は耳をフリーナの腹へとぴったりと当てると目を閉じた。
「毎日、それやってるけど、楽しい?」
人である僕にはまだ、子供たちを感じられないが、龍である彼ならば、子供たちを感じることが出来るのだろうか。
「楽しい
……
というのは適切ではないな。強いて言うなら子どもたちの声を聞いているようなものか」
これは驚いた。彼は子供たちと会話が出来るのか──フリーナは目を見開く。
「勘違いをしているようだから、言っておくが、君が思うような会話はしていない」
「あ、そうなんだ
……
じゃあ、どんな感じなんだい?」
はしたないことだとは思うが、ヌヴィレットに迫る。彼は眉を少し上げるだけで、意に返した様子もなく続けた。
「ふむ
……
言語化するのは非常に困難なように思う。だが、子供たちはしっかり育っている
……
と、言うことは出来る」
ヌヴィレットの言葉にフリーナは、ぽかんとした顔をした後、やがて──ふわりと微笑んだ。
「そっか
……
なら、いいや」
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