ひさびさに🍰が書きたかった

さとう(@satou_ff14_)さんちのシュガくんと、しお(@oooruka_cr)さんちのモリンくんの良すぎるCPこと🍰が大好きすぎるのでまたやらかしました。
とある事件がきっかけで落ち込むシュガ君とそれを見るモリン君の話。

――酸鼻を極めた事件だった。
 最初は、若い女性が次々に行方不明になっている、その行方を探ってくれないか、との依頼だった。自警団である赤誠組も調査はしていたが、被害者が花街の住人ばかりということもあって腰が重く、しびれを切らした被害者の友人たちが冒険者の手を借りた、というのが事の経緯だ。
 数日に渡る捜索の末、シュガを含めた数人は被害者たちと誘拐犯をクガネの花街、その中で最も大きい妓楼の一部屋で見つけた。
 もっとも、被害者はすでに全員こと切れており、誘拐犯は積み上げた死体を使って呼び出した妖魔に胸を貫かれて息絶える寸前であったのだが。
 誘拐犯はその妓楼のかつての太夫であったという。際立って美しいがゆえに身請け先が相争って結局決まらず、遊女の子である彼女は年季を明けても行き場所がなく、やり手となってなお美しさに執着したのだろうと妓楼の主は語った。だが彼女自身は自らの思いを語ることなく死んでおり、真実はもう闇の底だ。シュガたちは妖魔を討ち取ったが、それで被害者たちが戻ってくることもない。
 もう少し早くあの妓楼まで辿り着いていれば。もう少し早く妖魔を討ち取れていれば。そうすれば一人でも助かったかもしれない。彼女がどうしてあのような凶行に走ったのか分かったかもしれない。
 だがそれは叶わなかった。斃した妖魔は塵も残らない。残ったのは哀れな遊女たちの折り重なった死体だけだ。
 そうしてシュガは妓楼から帰ってきてからずっと、ただひたすらに剣を振り続けている。

 大見世「若桜屋」で事件が起きた、という風聞はモリンの耳にも入ってきていた。このクガネで最も有名な見世の一つであるから、もちろん幕府も見世も金をばら撒いて口止めをしている。だが人の口に戸は立てられない。役者であり陰間であるモリンだからこそ漏れ聞けたものはあり、そのどれもが顔を顰めたくなるような血生臭いものだった。
 しかしまあ、動機にしてはありふれていると男は思う。色を売る人間ならば皆突きつけられる問題だ。春を鬻いで生きていれば、何をどうしようと齢という壁が立ちはだかる。そしてそれに伴う衰えも。モリンのようにさっさと河原者になれればよいが、そうでなければ人心は離れ、日に日に失われる若さとひとりきりで向き合うこととなる。それに耐えられるものはどれほどいるか。ましてその女は、妓楼で生まれ妓楼で育ち、妓楼で太夫となったのだ。たとえ打掛を脱ぎ捨て、やり手として生きようとも、かつての日々を捨てられなかったのは想像に難くない。その果てに妖魔の囁きに耳を貸したか、誰かが吹き込んだかは知らないが、とかく花街ではたたき売りしている程度の狂気である。
 気に入らないのは、その事件に関わっていたのが最近のお気に入りの棒ことシュガであることだ。正しく言えば、本当に関わっていたのは知らないが、だいたいそのあたりから延々とトレーニングを続けており、モリンが何をしようともうわの空で誘いにも全く応じないことが気に入らない。
 今日も役者が見ていることさえ眼中になく、シュガは街はずれの森の中で剣を振るっている。素人の目から見てもその剣筋には感情が滲んでおり、空気を切る鋭い音とは裏腹に、常の安定感が全くなかった。モリンさえ分かる。あれはただ、怒りと焦りに任せて体を虐めているだけだ。それもずっと。
 役者は大仰にため息を吐いた。何が詰まらないって、きっとこれからすることはそれこそお節介で、らしくもないと分かっているからだった。しかし、こうも鬼気迫る様子を見せられ続けていることこそモリンにとっては詰まらない。このナイト君は、真面目で純情で愚かなほど真っ直ぐで、そのくせ欲に逆らえないような人間でないと面白くないのだ。だのにこのままでは歪んでしまう。狂気に心を囚われすぎれば、それはすなわち狂人であるのだから。
……ナイトくんさぁ、いつまでそうやって自分を虐めるつもり?」
「は?」
 シュガは常以上に冷たい目線をモリンに投げてきた。明らかに苛立っているのだが、それを自覚していないのだろう。いつもの呆れたような感情のない声は冷え切って、刃のように役者を刺す。
「だってもう一週間になるだろ。さすがの俺ちゃんだってやりすぎなことくらい分かるぜ」
 しかしそれも気にせず、だいたいさ~とモリンは大仰に肩をすくめる。
「それって自罰? 罪悪感? どっちでもいいけどさ、そんなことやったってもうどうにもなんないぜ、みんな死んじまったんだろ?」
 は、と嗤う。顎を上げ、せいぜい馬鹿にするように。しかしてシュガはカッと顔に朱を上らせ、モリンの胸倉を掴み上げた。怒りに任せた力でわずかに足元が浮き、役者の喉が少し締まった。
「うるさい、黙れ! アンタに何がわかる!」
 その唇はわなわなと震え、噛みしめすぎたのか血がにじんでいる。真面目過ぎてショックを受けたことさえ受け流せなかったのか、とモリンは思う。服を掴まれたことで締まる喉は、しかしよく回る役者の口を塞ぐほどではない。
「あんたの気持ちなんてわかりゃしねえよ。俺ちゃんが分かるのはな、死んだやつに囚われすぎたっていいことなんざないってことさ」
 それとも慰めてほしかったか? 辛かったねえ、悲しかったねえ、って赤ん坊にするみたいによしよしした方がよかったか?
 そう言ってモリンは嘲笑う。相手から見て嘲笑って見えるように口の端を上げて見せた。
「アンタは……!」
 さらに持ち上げられ、ギリリと首が締まる。さすがに苦しくなって、だがその様子を見せることはしない。
 モリンは漸く藻掻いてシュガの手から逃れ、その勢いのままがぶり、口を大きく開けて相手の唇を食んだ。
 そのまま舌でちろちろと撫でていれば、焦燥の灯ったシュガの目から、ゆるゆると力が抜けていく。
「壊れた女郎のことなんざ、ここらで忘れときな。花街の闇はナイト君には深すぎる」
 その闇の中を泳ぐ役者はそっと囁いた。