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yukiponta1996
2024-10-30 19:52:11
9300文字
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狂った街にて(1)
付き合ってない二人が任務に出て最終的に出られない部屋っぽいところで正気を失って×××する話
オリキャラが色々出てきますアニオリ風なので
五代目火影・綱手の采配は時に気まぐれだ。
「お前一緒に行ってこい」
カカシが任務についての詳細を聞いている間に、何某かの用があって火影室を訪れた中忍に綱手はいきなりそう告げた。
「は!?」
まるで青天の霹靂だ、とでも言いたげに件の中忍が目を丸くしている。カカシとて声を上げないまでも同じ気持ちで綱手を凝視してしまった
――
任務内容はさして珍しいものではない。
行方不明になった木ノ葉の忍びの捜索及び救出。抹殺の選択肢がないのは二月ほど前に本人からの式が届いていたからだ。
――
貴重な薬草が手に入る村を見つけた。どうにか手に入れて帰還する。
件の忍びは医療班に属する中忍で薬事に熱心であったため、その式の内容に不審な点は見当たらないと判断したのだろう。
「万が一があれば容赦はしませんよ」
カカシは念の為釘は刺しておいた。彼が里抜けを企てない保証はないからだ。
それを鼻で笑った綱手は代わりとばかり小さな密閉容器を差し出した。中を検めればカプセル様の薬と思われるものが三つ。
歯で噛み砕かない限り中の薬剤を摂取できないタイプのものらしい。
解毒剤か何かかと尋ねれば、念の為持っておけとのことだ。作るのに苦労するから渡せるのはこの量が限界らしい。
「いります?」
「念のためだ。念のため」
これが必要になる場面を想像できないし、手は出したくないのが本音だが任務に油断は禁物だ。
それはそれとして彼からの式には、火の国内、木ノ葉隠れの里の西南に位置する森の中にいる、ということだけは書かれていたがもしかしたら本人にもはっきりした位置がわからなくなっていたのかもしれない。足止めを食っている可能性のある村についての詳細は不明。
「なーんか釈然としませんね」
「実はな
――
」
そんなやりとりの最中に火影室の扉がノックされた。特段に秘匿する必要もないのだろう、綱手は入れ、と一言声を掛けた。そうして姿を現したのは忍者アカデミー教師のうみのイルカだ。
「どうした」
綱手が水を向ければ、 はたけカカシがいたことに一瞬たじろいだように見えたイルカだったが、扉の前で姿勢を正し、
「先日の
――
」
何か告げようとしたところで綱手が先の台詞を投げたのだ。
「は!?」
「任務だ、任務、お前カカシと一緒に行ってこい」
「え
……
俺が、ですか?」
本音はどうして俺が、と言いたいのだろう。再稼働したアカデミーがようやく軌道に乗ったタイミングで里外任務に駆り出されるのは遠慮したい、とよく感情を映す彼の顔に書いてある。
忍犬使いであり捜索任務に長けているはたけカカシがこの任務に宛がわれたことに納得はするが、イルカにしてみれば降ってわいた災難みたいなものだと言えなくもない。
「いいな、カカシ」
「はぁ、まぁ」
有無を言わせぬ口調で言われたら、嫌だとも言えなかった。カカシにしてみれば忍犬さえいれば十分事足りる任務だ。綱手は最初からイルカを任務に宛がうつもりだったのだろうか。
どう考えたって無理がなくない?
カカシの内心はそれこそ釈然としない。
「せ、精一杯務めさせていただきます」
イルカはカカシに向かって頭を下げた。彼とて中忍。大蛇丸による木ノ葉崩しの後の人手不足は未だ続いている中、そうそうわがままも言っていられないのはわかっているだろう。表情は硬いが不満の色は伺えない。
「消息不明の医療忍の捜索だ。コヤノガクエ、お前知ってるか」
綱手がイルカに手短に内容を告げるとイルカは目を瞬かせた。
「アカデミーで同期でした
……
、行方不明って」
ああそういう事情か。
ならば飲み込むしかないと思っていたら、
「知り合いか! ならちょうどいい」
綱手はそう言ったのだ。
冗談はやめて欲しいと言うのがカカシの本音だ。
そんな気まぐれでツーマンセルなんて組まされるこっちの身にもなって欲しい。いや、それはイルカも同じ気持ちだろうが。
なにせイルカは、カカシにとって意見の相違で言い争った数少ない相手だからだ。
中忍試験における下忍推挙の場でカカシの決断に鬼かと思うような形相で異を唱えたのが隣にいるうみのイルカだ。
情には厚いがそれ故感情論に走り勝ち。忍びとしては甘い考えを持つ男。だからこそ、忍者アカデミーの教師が務まるとも言えるが間違っても背中を預けて戦える相手だとは思えない。
当時互いに謝罪はしたはずだが中忍試験から大蛇丸による木ノ葉崩し、その後の混乱の中うちはサスケの里抜け
――
怒涛のような日々の中で腹を割って話す機会はなかったし、それをしようとも思わなかった。
それがどうして。
文句の一つや二つ言ってみたい気にもなったがそういうわけにもいかない。
綱手は顔の前で手を組み、身を乗り出した。
「薄葉村の可能性がある」
そんな村の名前、聞いたことがあっただろうか。
消息不明となっているガクエの式にあった木ノ葉隠れの里の西南に位置する森の中に、かつてあったと言われる村の名前だと綱手は言う。
「消えたんですか?」
綱手の口ぶりからはそう聞こえる。
「そうだ」
元々その村の住民は不思議な存在で、森の中のどこかから人の多い街に行商に来て、森の中のどこかへと帰っていく。かつては木ノ葉の里でも火の国内の市街地に行けば運が良ければ彼らの扱う希少な薬草を手に入れられたそうだが、いつの頃からか彼らは姿を見せなくなった。
その村を探そうとしてもどうしても見つからなかったという。村の存在が消えてから十年と経っていないらしいがその存在も存在価値も薄れていったのだと。
「探そうとしても見つからないって、そんなことあります?」
率直な疑問をぶつけてみれば、
「わからん!」
投げやりに言われてカカシは肩を竦めた。
「捜索ついでにその辺りも探ってこい」
イルカは終始神妙な顔つきで綱手の話を聞いていたが、さすがにこの発言には驚いたのかカカシに視線を寄越した。なんか話がデカくなってませんかと聞きたげに。
俺に振らないで、と言いたい気持ちを抑え、
「まぁ、それはできればってことで」
一言告げて、何某かの報告があるらしいイルカを残してカカシは先に火影室を後にする。綱手が副作用の定かではない解毒剤を渡したのも詳細が不明だから最大限の警戒はしろ、ということだろう。
出立は明朝。
そういうわけでカカシはこの奇妙な捜索任務にうみのイルカとツーマンセルという形で就くことになったのだった。
隣を駆ける男から伝わる必要以上の緊張に、カカシは密かにため息をついた。
イルカは精一杯務めると言ったが、出立の段階から二人の間には妙な緊張感が漂っていた。
ここまで来るのに丸二日。任務に必要な会話はする。大人なのだから世間話もそれなりにある。
イルカがアカデミー時代に同期だったガクエは極真面目で勉強熱心、いわゆるガリ勉だったとの言である。イルカは彼のことが心配だ、と至極当たり前の心情を述べた。
そういう中でこちらに対しては何か言いたいことがあるような、ないような微妙な空気感を醸す男にカカシは言い知れぬ苛立ちと限界を感じていた。
「あー、イルカ先生」
駆ける速度は一切緩めていない。先を行く忍犬から一定の距離を取りつつカカシは隣の男の名を呼んだ。
「はい」
硬い声で応じる男に、どうしてこちらが妙な気を遣わなければならないのかと思いつつ、
「ま、気楽に行きましょう。俺の忍犬たちは優秀ですからね。そのうち手がかり見つかりますって」
極めて気安く感じられるように声を掛ける。
なにせガクエの匂いを追えばいいだけの話だ。探しても見つけられない村だろうが別の場所だろうがどうと言うこともない。
イルカは少しだけ頬を緩めたようだ。
「ありがとうございます」
どうやらカカシの気遣いを多少は理解してくれたようで、
「あの、カカシさん。すみません、俺なんかとじゃ気詰まりでしょう」
ようやく本音のようなものが彼の口から零れ落ちた。だが、これには若干苦笑するしかない。
「別にそんなこたぁないですよ。知らない仲でもないじゃないですか」
決して短くないであろう任務の間、出来る限り円滑な関係を築きたいと考えるのは普通のことで、そんな相手の自己卑下に、そうですね、と答える馬鹿が何処にいるのだろうと思う。
だが実際気詰まりであることは否定できない。
「あの、その節は
……
」
こんな改まった言い方をするのは、件の言い争いのことだからだろう。
「はいはい、その話はもう終わったでしょ?」
ああ、苛立ちの原因はこれか、と思った。
互いに謝罪はしたはずだが腹を割って話したわけではない。
ここまでのイルカの様子からしても何かわだかるものがあるのだろう。
それでも今更蒸し返されるのは気分のいいものではない。カカシが命を賭して守ろうとした少年たちは散り散りになった。彼らの力を信じて背中を押したカカシの選択が、結果的には彼らをばらばらにしたと言われたら否定は出来ないが、だからといってあの時の選択を後悔しているわけではない。ただ己の無力さを歯噛みするだけで。
「あの、カカシさん、誤解されているかもしれないので言いたいんですが」
おや、とカカシは片眉を上げた。
どうやら他に言いたいことがあるらしい。
「俺は、カカシさんが誰よりもアイツらを理解していたんだって思ってます。死の森を突破したアイツらを見てそう思ったんです。いつかきっと、サスケも還って来るって俺は信じてます」
あまりにも真っすぐで、なんの衒いもない声に胸を衝かれて咄嗟に言葉が出なかった。
「あー
……
」
ひたすら続く森の中の濃い緑色の景色が他人事のように流れていく。
「
……
ま、そうなるといいんですけどね」
本来ならば礼の一つも言うべきだろうと思ったが、素直に口に出来なかった。多分照れ臭かったからだ。誤魔化すように軽く応じたカカシに、イルカは今度ははっきりと頬を緩めたようだった。
「ずっと伝えたかったんです。なかなか機会もなくて、だからよかったです」
カカシはまた面食らう羽目になった。どうしてこの男はこうも真っすぐなのだろう。
「あー、まぁ、それは何より」
元々イルカのこの真っすぐさが苦手だった。しかも今の彼は勝手に自分の言いたいことを言ってすっきりしている。こちらの反応の鈍さなどお構いなしだ。けれども不思議と嫌な感じはしなかった。
つまり多少なりとも弱ってはいるのだろう。それを不覚にもこの男に掬い上げられてしまったのだ。
「あ、カカシさん」
イルカが声を上げる。前方を行く忍犬がふいに立ち止まったからだ。
それにしても随分と吹っ切れた明るい声に聞こえてちょっと調子のいい男だなと思ってしまった。
気がつけばかなり森の深いところに入り込んでいる。通常の移動ルートからはかなり離れ、鬱蒼とした木々が茂る森の中に届く光は疎らだ。
「どしたの、パックン」
太い枝の上で待つ忍犬の傍らに二人で降り立ち、声を掛ける。
「ここからはゆっくり行く方がいい」
他の忍犬たちからの報告から、捜索の道筋は既に一本に絞られている。
「何かあった?」
パックンは腐葉土の地面に降り立った。
後を追って地面に降りたところでカカシはふいに覚えた違和感に辺りを見渡す。それからポケットの中から方位磁石を取り出した。
「どうされました?」
「磁場が狂ってる」
本来北を指すべき針はぐるぐると回転するばかりで全く機能していない。いったいどの地点からこの状態だったのか定かではないが、なるほど、探そうとしても見つけられないのはこういう理由からだと考えれば合点がいく。
気がつけば、小さな背中はとことこと歩みを進めていた。慌てて後を追えば、木々の向こうに何かが見える。
「
……
遺跡、でしょうか」
目を凝らしてイルカが言う。
近づいてみれば、石造りの立派な門、その向こうには石畳の地面が続き石造りの民家と思しき家々が立ち並ぶ。石の壁には苔がむし、それらは周囲に生い茂る枝葉に侵蝕され始めていた。
「どうだろ、そこまでは」
「みたいですね。最近まで人が住んでた」
カカシは頷いた。人の気配は感じられないが少なくとも数年前までは人が暮らしていたのではと思える。
「ここが綱手さまの言っていた薄葉村なんでしょうか」
「それはなんとも
……
」
消えた、とは即ち人がいなくなったと同義とも考えられるが、標識が掲げられているわけでもないので何とも判断はし難い。
はっきりしているのは数十年、数百年先、ここが森の中に埋もれてしまえば本当に詳細不明の遺跡になってしまうだろうということだけだ。
木の葉隠れの里を抱える火の国は広大で、その土地の大半は森が占めている。忍びの世界の起こり以前から人は存在していたし、かつては栄えた文化文明があったとて不思議はない。森の奥深くでひっそり暮らす集落には忍びなどには用のないかもしれない。
「こんなとこがあるなんて知りませんでした
……
」
何とも素直にイルカが言葉を発するから、思わずカカシは小さく笑っていた。
隠れ里なんてのはちょっと規模の大きな井戸のようなものかもしれないと思った。
前を歩くパックンが振り返る。
「見ていくか」
「ま、一応」
捜索の対象者がここに立ち寄った可能性もある。パックンの口ぶりからあまり期待は出来ないなとは思ったが、素通りするのは憚られる。
だが、まさに人っ子一人いない集落からわかったことは完全に朽ち果てた家屋が多い中辛うじて生活の跡が見受けられる家屋がいくつかある、というくらいで何の手がかりも得られなかった。
「なんで何もないんでしょうか」
イルカは顎に手を当てて真剣に考えこんでいる。
本当に何もない。争った後も、もっと言えば誰かが死んだ形跡すら。
「捨てられちまったんですかね
……
」
心底残念だとでも言いたげにイルカはちょっと肩を落としている。
まるでたった今見つけたばかりのこの集落そのものに情を移してしまったような発言にカカシは小さく目を剥いた。外部の勢力に根絶やしにされたとは思えないから、
「そこ、そんなに落ち込むとこじゃなくない?」
カカシは思わず口走っていた。しまった、と思ったがもう遅い。
イルカは心外だと言わんばかりに眉を顰め唇を尖らせた。
「別に、落ち込んではいません!」
「ならいいけど」
カカシは苦笑した。
情には厚いがそれ故感情論に走り勝ち。忍びとしては甘い考えを持つ男。
その印象は何一つ変わらない。
けれどもまぁこれはこれでいいのかなと思った。二人の間にあった妙な緊張感はとりあえず解けたようだから必要以上に気を遣いすぎることもないだろう。
確かにイルカの言う通り、この小さな街は持ち主に捨てられたのだ。
「ま、それはさておき、先に進むしかないみたい」
パックンは早々に踵を返して入って来た門を出ていく。恐らくその先にガクエの辿った軌跡があるとわかっていたからだろう。
徒歩で日が落ちるまでの数時間を行く間に同じような廃村を二つばかり目にした翌朝、二人と一匹は森の中に密やかに佇む小さな集落の入り口に辿り着いたのだった。
目の前にそびえるのは人の背丈の倍はあろうかという煉瓦造りの壁。木ノ葉の里を囲む壁と同じような印象だが恐らく規模は極めて小さい。そしてここまでの道程で目にした廃村と同じように苔むし、蔦が這い、まるで周りの木々と一体となったような佇まいだ。小さな木製の扉が設けられていて、ここが入り口であることに間違いはなさそうだ。門番と思しき者の姿はない。
辺りにはうっすらと霧が漂いはっきり言うと不気味な光景だ。
だが確かに壁の向こうには人の気配がある。それからただならぬ気配も。
本当にコヤノガクエがここにいるとして、いったい何があった。
念のためだと解毒剤を手渡した綱手の顔が過ぎり、一抹の不安がカカシの胸を過るがここで引き返す選択肢はない。
「ここなの、パックン」
「恐らくな。ってことで拙者はここで失礼する」
「ええ
……
!?」
「言っておくが拙者はガクエの匂いを追っていたのではない。途中からはな」
「えー、そうなの?」
「
……
さぼりおって」
使役の文句にカカシは苦笑しつつ首の後ろを掻いた。正直忍犬に任せっきりだったことは否定できない。意識して嗅覚を働かせずとも、この場に木々と土の湿った匂いの中に甘ったるい匂いが混じっているのはわかる。パックンはそれを追ってここまで来たということだ。
「あ、幻滅しました?」
思わずイルカに問いかけた。使役に仕事を任せて自分はサボっていた、と思われるのはちょっとバツが悪かった。
イルカは眉を下げて苦笑している。
「カカシさんは力を抜くのがお上手なんだなと」
「上手いこと言う
……
」
思わず呟いていた。これは褒められているのか貶されているのかちょっとわからない。
「カカシ、それからイルカ殿、十分気をつけた方がいい」
「え、ちょっと待ってパ
……
ッ」
主人が制止する間もなく、最も付き合いの長い忍犬は小さな煙を上げて姿を消した。
「決断が、早いですね
……
」
「ほんと、主人を主人と思ってない」
遠慮がちにイルカが言うから同意と若干の愚痴を溢してしまった。イルカの苦笑いに苦笑いを返してカカシはひとつ息をついた。
「ここからは念のため忍び装束は解いて行きます。俺たちも薬草を探してる旅人ってことで。仲間が不治の病ってことにでもしますか」
「はい」
イルカは神妙な顔つきで頷いた。
「ま、忠告もあったことですし」
軽い調子で言ってみたがイルカの顔つきは変わらない。この男も何かしら感じ取っているのだろう。
互いに印を組み一般人の姿に変化する。チャクラの消費は出来る限り抑えたいから変えたのは着衣だけだ。
カカシは小さく目を見張った。髪を緩く後ろで束ねただけでイルカの印象がいつもと変わって見えたからだ。額当てのない顔に黒い髪が幾筋か流れ落ちるだけで随分と柔らかい雰囲気になるものだ。
一方のイルカはというとこちらはわかりやすく目を見開いている。真っ黒い瞳がまんまるだ。
「いや
……
男前でびっくりしました
……
」
変に怪しまれるのも面倒だから素顔を晒しただけだがまたぞろこうも真っすぐに感想を述べられるとなんと返せばいいかわからなくなる。
「普通でしょ」
カカシは素気無く言って扉に向き直る。
小さな扉に施錠はなされていなかったが意外と重く、渋々と言った体でカカシとイルカを壁の中へ迎え入れた。そうして突然開けた視界の向こうはこれまで見て来た鬱蒼とした森とは一転した世界であった。
大通りというには細やかな一本の曲がりくねった石畳の道。足を踏み入れてみれば、木々の合間を縫って点在する民家はどこも畑があり家畜の声もした。自給自足という言葉が浮かぶ。畑には穀物や野菜の他に薬草と思しき植物が幾種類も生い茂り、摘み取りの作業に勤しむ者が数人いるようだ。
一見すれば長閑な風景だが、外と同じように漂う霧のせいでどことなく薄暗く空気が重い。
重いどころか
――
ここは危険な場所だとカカシの頭の中にがんがん警鐘が鳴り響く。
確かに人はいる。むしろ思った以上に人通りがある。
誰も彼も一見すれば至極穏やかな顔つきをしている。さざめく様な笑い声。寄り添いながら歩く夫婦。家の前に置かれたベンチで談笑する老人たち。
白く濁る空気。それから辺りに漂う甘い匂い。
明らかに余所者と分かる二人に視線を投げる者はいても不審がる様子はない。
「あの、すみません」
カカシは玄関先に座り込み煙管を嗜む一人の男に声を掛けた。煙管から立ち上る煙が鼻を掠め、甘い匂いは一層濃くなった。
斜め後ろに立つイルカが眉を顰め口元に手を当てたのがわかる。
「ここで貴重な薬草が手に入ると聞きました。本当ですか」
ぼんやりと中空を眺める初老の男は、その声に初めて気がついたように視線をカカシに向けた。
「あ
……
、ああ、ササメさまのところに行けば。勝手に売り渡したりしたりはできないよ
……
」
カカシはイルカと視線を合わせた。
明らかにこの男の様子がおかしい。どこも見ていないような澱んだ視線。夢現を漂うようなぼんやりした声音。
「そのササメさまはどこに」
男はゆっくりと腕を上げ集落の一番奥、小山のようになった森を指さした。
「あの方が来てよかった
……
」
カカシは小さく目を見張った。ここが薄葉村だと仮定して、外部にささやかな接点を持っていたはずの住人が何時の頃からか姿を見せなくなったとしたら、それは男の言うササメという人物がここに来たからだとも考えられる。
ひとまず礼を告げて再び歩き出す。
「じゃぁここが」
イルカが確信したように問いかける。
「そう考えるのが自然ですね」
「っていうかなんか
……
おかしくないですか」
「おかしいどころか」
異常だ。
誰も彼も、先の男と同じ目と声をしていた。まるで本人の意思も自我もなく、偽りの幸福に身を浸しているように見えたのだ。
どこかから女の嬌声が聞こえる。酩酊した声は狂気すら孕んで耳を障る。まだ日の落ちないこの時間に開け放たれた窓の向こうで何が行われているのかは考えるべくもない。そして誰もそれに気を留めない。
またどこから、嬌声が聞こえる。今度は男のものだ。
「狂ってますね
……
」
イルカはまた眉を顰めた。
「ほんと」
ガクエが寄越した式には貴重な薬草が手に入る街を見つけた、とあった。
薬草とは毒と紙一重の存在だ。人を救いもすれば狂わせもする。あるいは
――
「イルカ先生、薬物訓練は」
「一通りは」
中忍以上に課せられる訓練を終えているのであればそこに文句はつけられない。
「信用しないわけじゃないけど十分気を付けて」
「はい」
信用しないわけではない。できれば信用したい。それでもカカシの不安はその大きさを増した。百戦錬磨を自覚する自分ですら危機感を覚えるのに、この男の耐性が如何ほどものかカカシは把握していない。
カカシはポケットに潜ませた容器に触れた。まさかこれを使うような事態を想定しなければならなくなるとは考えもしていなかった。
己の見通しの甘さに舌打ちしたい気分だった。
うみのイルカとツーマンセルを組まねばならなくなったことに気を取られたなんて言い訳は通用しない。
二人が辿り着いたのは森の中でひっそりと、幸せに暮らすことのできる桃源郷。薬に犯された街。
「大丈夫です!」
やけに力強く言ったイルカの頬を流れた汗に出来れば気づきたくなかったなと思った。
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