しちろ
2024-10-30 19:29:58
15617文字
Public コラボLOM小説(ごちゃLOM)
 

ジュンくんとシオン 5

コラボ小説第五話。瑠璃くんとシオンの回。何でも許せる人向けとはもう言わない。ここまできたら、何でも許せる人しか読んでいないはずだから……。
・X(旧Twitter)『#ごちゃまぜLOM』のタグから火悠さん、yoshidaさんの関連作品(絵、漫画、小説)が見られます。ぜひ!

ジュン
温厚で楽天的な性格と、内面の繊細さを兼ね備える二面性ゴリラ。
油断するとすぐにR18にしてくるファ・ディールの民。彼のファ・ディールが、なんでこんなこと(本文参照)になっちゃってるのか、それはもう一人のアーティファクト使いのイメージが関係しているとかいないとか。

瑠璃くん
ジュンの親友&悪友。ジュンが女神の夢を見て旅に出た直後、まだ他人との距離感がうまくつかめなかったジュンと、ストーカーでやはり人づきあいの分からない瑠璃が出会い、互いに心身ともに切磋琢磨してまともな生命体へと進化しあった、ある意味特別な間柄。心を許した相手以外への警戒心は非常に強い。レディパールと恋人関係。

シオン
すぐにギャグ時空に巻き込まれる、バカのファ・ディールの民。なんでもやる課すぐやる課。目的を果たすためならば恥もプライドも平気で捨てる。今回もひどいですが、こいつ大体こんなもんなのでがっかりしないでください。



※※※


 瑠璃がジュンの家を訪れると、謎の爆発音が聞こえた。
「な、なんだ!!!」
 ペット牧場の方だ。
 何事かと駆けだした瑠璃に、反対方向から全身黒づくめの不審人物が駆け寄ってきた。
「あ、瑠璃! ちょうどよかった! 一人足りなかったんだよ! こっち来て、ほら早く!」
「な、な、な、誰だ、お前、ジュンか!?」
 やけにガタイの良い全身タイツが、強引に瑠璃を引っ張り牧場へ連れて行く。
 牧場にはジュンを含め、大小の黒タイツが四名もそろっていた。
「お、おい! なんだ、ちょ、ちょっと待て、この格好は」
「いいから黙って! すぐ終わるから!!!」
 説明もなく、ジュンに全身黒タイツにされた瑠璃は、この通りにやればいいからと謎の台本を押し付けられた。
「よし、行くよ! みんな、用意はいいかい!?」
「おう!!!」

「リクーム!!!」
「バータ!!!」
「ジース!!!」
「グルド!!!」
「ギニュー!!!」

「みんなそろって! ギニュー特戦隊!!!」

 背景でどぉんと爆発が起き、タイミングよく正面に置かれたカメラのフラッシュがたかれた。

……おい待て、なんだこれは」
 無理やりバータ役をやらされた瑠璃が、ポーズをとったまま、センターのジュンに聞いた。
「とくに意味はない! ないけど、やりたかっただけ!」
 無駄に文字数を喰ったが、ジュンの言う通り、単にやりたかっただけでとくに意味はない。ちなみに爆発の効果は、給湯器の役割を終えた火のドラムである。



「とりあえず、経緯を説明してもらおうか」
 撮影後、秒で元の砂マント姿に戻った瑠璃は、謎の黒タイツ軍団を前に両腕を組んだ。初っ端からバカとしか言えない。そして意味が分からない。
「ドラゴンボールだよ、知らないの? おれもコロナも大好きなんだ!」
「さっきのはギニュー特戦隊のスペシャルファイティングポーズです! 瑠璃さんもコミックス読みます? 貸しますよ、絶対ハマりますから!」
 全身黒タイツ姿のバドとコロナが、「フュージョン!」とか言いながらポーズをとっている。瑠璃にはさっぱりわからないが、やたらと息は合っている。
 タイマーセットしていたカメラを確認しながら、ジュンが言った。
「集合写真、バドとコロナに、どうしてもってお願いされてね。ちょっと恥ずかしいかなって思ったんだけど、僕もだんだん楽しくなっちゃって。やっぱりいいよね、ドラゴンボール」
「そうじゃなくて! お前ら、なんでそろいもそろってタイツなのかと聞いているんだ、オレは!」
「怒りっぽいなぁ瑠璃。仮装だよ、コスプレ。ハロウィンだもの。僕はダークストーカーやるんだ」
 四名のうち、ジュンの黒タイツは全身鎧の下着だったらしい。カメラのチェックを終えたジュンは、隅に置いてあった、やたらとごつい鎧を装着しはじめた。表面は元の色の上からくすんだ金色のペンキで塗装してあり、歴戦の雰囲気を出そうとしてか、わざと刀傷の跡がつけられている。
「ドミナで仮装イベントやるの。僕は警備係。お祭りってトラブル起きがちだし、悪い連中が大きな催しを狙うこともあるからね。……うーん、やっぱりゴーレムのほうがかわいかったかなぁ。でも仕事って考えると、いざって時の俊敏性がなぁ」
 体格の良いジュンが全身鎧で身を固め、大きな剣を背負うと、見事なダークストーカーぶりである。本物と間違われて討伐されないことを祈る。
「私たちは、シャドウゼロでっす! シャドウゼロを捕まえろ! ザンネン0プリ! なんちて」
 真っ黒の双子が瑠璃に向かって、ビシッとポーズを決めた。
 全身黒タイツでも、バドとコロナは、まあいいんだと思う。可愛いし。
……キサマはなんだ」
「シャドウゼロだけど」
 双子シャドウゼロを左右に従えた、妙に頭身の高い、全身黒タイツ。シャドウゼロらしくのっぺらの仮面をかぶっているが、おそらく中身は、初対面で瑠璃の脛を蹴ったクソガキである。
 瑠璃の視線に気づいたらしいシャドウゼロ大(シオン)が、すかさずポーズをとった。
「シャドウゼロを捕まえろ! 瑠璃くんザンネン、0プリ♡」
 瑠璃は拳を固めた。このウザさ、本気で殴りたい。
「瑠璃、止めてよ。シオン君、子どもらに付き合ってくれてるだけなのに」
 ダークストーカーに背後に庇われたシャドウゼロ大が、片手を腰に当て、もう片手を上げてキメポーズ(32ゼロプリ♡)をしている。瑠璃は抜刀しかかった。


 そもそも、瑠璃はシオンが好きではない。
 まず、第一印象が最悪だった。
「ミニジュン?」
 初対面のシオンは、眉一つ動かさずに瑠璃の脛を思いっきり蹴り飛ばした。しかもどこかに姿を消して謝りもしない。
「なんなんだ、あのクソガキは!」
 脛を真っ赤にした瑠璃が怒鳴ると、まあまあとジュンがとりなした。それでも瑠璃が怒りを収めずにいると、しまいにはジュンのほうが怒りだした。
「あれは瑠璃だってよくなかったよ! 初めて会うのに失礼じゃない! 服が似てるのは偶然だってシオン君言ってたし」
「お前のバカは奈落級か! 本当にたまたまの偶然で、お前みたいな珍奇な格好した人間が世界に二人もいてたまるか! 服どころか、頭巾も手袋も、靴までまったく同じだろうが。そうです真似しましたコスプレですって言う方が、よほど納得できるぜ」
「よく見てるね、瑠璃……っていうか、バカっていう方がバカだし? 珍奇!? 言い方!」
「珍奇だし珍妙だろ! そんな変な頭巾、やたら売っててたまるか。そもそもアイツ、何者だ。怪しすぎるだろ」
「怪しくないよ。真面目で優しい、いい子だよ!」
 あまりにジュンが強情なので、つられて瑠璃もムキになってしまった。本当に優しい奴なら、初対面の珠魅にいきなり蹴りなどいれんだろう。
「いい子って、会って数日だろ。何がわかるんだ? 怪しくないって、アイツの素性は知ってるのか? 親戚って言ってたが嘘だろう」
「あ、えっと……それは」
 瑠璃がチクリと指摘すると、ジュンが初めて言葉に詰まった。
 瑠璃はジュンの親族の有無を知らないが、彼が天涯孤独だろうことは言動から察していた。ジュンは自分の過去や家族に関する話題を極端に避けていて、触れたがらなかったからだ。少なくとも、仲の良い血縁などいるとは思えない。
 ジュンは弱り顔で頬を搔くと、瑠璃への説得方法を変えた。
「あの子、自分の家に帰れなくて困ってるんだよ。だから、僕が家に誘ったの。家のこと手伝ってくれて、双子も懐いてるし」
「家に帰れないって、家出小僧とか、下手したら犯罪者とかかもしれないんだぜ。お前、その調子で得体の知れないヤツホイホイ家に上げちまって、何度も困ったことになってるだろう。シオンだっけか? ああいう、暗い目をした人間は、見た目通りのおとなしいヤツじゃないぜ。オレの経験上」
 瑠璃が言うと、ジュンは本気で気分を害したようだった。
「さっきから、人のこと勝手に決めつけないでくれる? 瑠璃が言うのがワッツやボンボヤジやポキールやヌヌザック先生のことならね、あれは彼らが僕の家に勝手に入ってきたの。あとね、目つきや印象だったら、初対面のときの瑠璃のほうがシオン君の数億倍は酷かったよ。町中の人、怯えさせちゃってさ」
 ジュンは完全にへそを曲げてしまい、その日はもう口をきいてくれなかった。ジュンから満足のいく返答が得られなかった瑠璃は、双子にも聞いてみた。
「シオン? 見た感じよりいい人だよ。本読んでくれるし、家のこと手伝ってくれるし」
 では、シオンがどこから来た何者なのかと尋ねるとやはり、知らないと返ってきた。ドミナに住んでいたらしいというが、瑠璃の知る限り、その家は何年も空き家のはずだ。
 瑠璃は不信感を強めた。
(あのガキ、怪しい。よく見ておいた方がいいかもしれないな)
 ジュンは人一倍繊細で傷つきやすい面がある。そのくせ人が好くて頼まれごとを断れないから利用されやすいし、時には手ひどい目に遭うこともある。それを付き合いの深い瑠璃はよく知っている。人間という種族は嘘つきで強欲で、信用できない者が多いことも。
 以上が、シオンとはじめて会った日の瑠璃の記憶である。


 で、今に戻る。
 瑠璃がハロウィンに興味ないと知ると、ジュンが不満そうに声を上げた。
「えーっ! 瑠璃、ハロウィン興味ないって? なぁんだ、てっきりお祭り見にきたんだと思ったのに」
「そのつもりだったら、パールか真珠と来てるよ。煌めきの都市からも何人か、祭りに出かけたみたいだけどな。エメロードなんか、前日からやたらでかい鞄持って準備してたぜ」
「へえ、じゃあ、もしかしたら現地で会えるかな? 瑠璃、本当にもう帰るの? レディパールと真珠姫によろしくね」
「瑠璃さん、またね! 写真、後で送りますから!」
「ああ、またな。それから、写真は送らんでいいぜ……!」
 レディパールの、謎写真コレクションがまた増えてしまう。
 全身黒タイツ五名による、スペシャルファイティングポーズ撮影会を終えたあと、ジュンは警備の仕事に行ってしまい、黒タイツ三兄弟は連れだってハロウィン見学に出かけていった。瑠璃とシオンの関係が微妙なことを知っているからか、ジュンに「いっしょにいったら?」と誘われなかったのは、瑠璃には幸いだった。マイホームからは全員いなくなって一人だけ残されて、帰るしかないわけだが。
「と、見せかけて」
 瑠璃は、シオンを偵察するつもりで、彼のあとをこっそりつけた。祭りなら人混みに紛れ込みやすい。しかも、ジュンが仕事でいないのは好都合だ。


 ◆


 ドミナの町は、ハロウィンで大いに盛り上がっていた。街中にハロウィンの飾り付けが施され、仮装した人々が出歩き、子どもたちが大人にお菓子をねだっている。
 黒タイツと距離を取りつつ、瑠璃がいつもの姿で歩いていると、町の人間たち――とりわけ、お化けに扮した子どもたちが積極的に声をかけてきた。
「トリックオアトリート! 怖い顔のお兄さん、お菓子持ってる? まんまるドロップならあるって? やったー! お兄さん、最高! いい扮装だね! 似合ってる!」
「そこのハンサムな兄さん、胸に石の種族? ああ、流行りのやつか! うんうん、いいじゃないか、クオリティ高いね。今日は何人も見かけたよ」
 瑠璃は唸った。なぜだ。なぜ、誰も珠魅に違和感を抱かない。しかも、どいつもこいつもやたらと友好的だ。理由がわからない。はっきり言って気味が悪い。
「流行り? この格好がか?」
「でしょ?」
 瑠璃が尋ねると、町の人はニコニコ笑った。青年は頭に猫耳をつけ、青と白を基調とする、凛とした雰囲気の洒落た衣装。これも何かのキャラクターらしい。
「おしゃれだよね、胸に宝石。お兄さんと同じコスの人、他にも見たなぁ。けど、一番人気はやっぱり赤い帽子のジュンくんだね。やっぱり現実世界の英雄はねえ、みんなのあこがれだからねえ。僕の今の推しは見ての通り、モーさんだけどね!」
「コ、コスプレ……
 瑠璃の服やマントは普通の旅装束で、面白みがあるようなものではない。瑠璃自身、ジュンのように有名なわけでもない。しかし、ここではどうやら珠魅の仮装(瑠璃含む)が大人気らしい。どういうことだ。
「公園のほうでも、別のイベントやってるらしいよ。行ってみたら?」
「別のイベント?」
 遠目に見える黒タイツが、小さい連れに風船を買ってやっている。祭りを楽しんでいるらしい三人組を気にしながら、瑠璃は訊いた。
「うん、ハロウィンに合わせて違う催しやってるみたい。紙袋を両手にもった男性たちとか、カート引いてる女の子がたくさん歩いてった。胸に石つけた人たちもいたよ」
 珠魅の格好をした者たちがいるらしいイベント。それはそれで気にはなるが、シャドウゼロトリオを見失ってしまう。
 別会場は諦めた瑠璃は、素直にシャドウゼロ一味を追跡することにした。全身タイツのシャドウゼロ、普段の町にいたらただの変態だが、町中仮装だらけの今日だけは普通にまぎれている。
「恐るべしだな、ハロウィン……
 ジュンは仕事前に「大きな催しを悪い奴が狙うこともある」と話していた。これはたしかに怪しい連中が紛れ込んでもすぐにはわからないし、何かあれば確実に大ごとになる。
「へええ、兄さん、珠魅の仮装かい。……珍しい」
 途中、野卑な男に声をかけられた。一応仮装のつもりなのか、申し訳程度のマントをつけている。白目は黄色く濁っていて、酒臭かった。瑠璃はフンと鼻を鳴らした。
「そういうアンタは、ガラの悪そうな格好だな。まるで本物みたいだぜ」
「まあな。ハロウィンの悪役、大盗賊の登場! ってわけだ。役作りまでそれっぽいだろ?」
 珠魅とセットじゃ笑えんな、と瑠璃はそっぽを向いた。向きながら、もう一つの会場のことを考えた。そこにいるはずのジュンに、会いに行った方がいいかもしれない。
 その時、距離が離れているはずのシャドウゼロと、目が合った、気がした。



 ここから少しだけ、非常にどうでもいい話をする。どれくらいどうでもいいって、冒頭のドラゴンボールくらいどうでもいいので、興味のない人は読み飛ばしてもらってもよい。
 珠魅がなぜ、この世界でこんなに人気になったのか。それは、会場警備の仕事を引き受けたジュンが目の当たりにしていた。
 ハロウィンとは別の、イベント会場。そこが、ジュンの受け持ち箇所であった。
「なんてこったい……
 ジュンは絶望した。

【ドミナ同人誌即売会・ハロウィン】

「ああ~っ、最&高!! 待ってた甲斐があったわ! ハロウィン合わせの、ジュン様の新刊が盛りだくさん……! ありがとう世界……今日は財布爆散するまで買いつくすわ……!」
「砂マントも最近ぐっと増えたわよね~! わかる、わかるわ! たまにドミナで見かけるんだけど、こう、人間離れしたシャープな美しさっていうの? ジュン様と並んでると妄想はかどってもうおかず何杯でもイケちゃうし、時々、白い美少女とか黒いドレスの美女とも歩いてるじゃない、もう、三人の誰がマント様の本命なのかしらね……! NLBLどれもいいわ、おいしいわ……!」
「ついに、待望の『フロオライト』様の眼鏡総攻本も出ちゃうし……! それから、『町RUダ』さんの、あーまち本(成人指定)が、まさかの奈落から委託販売……!」
「なんですって、あの伝説の神々の新刊が……! だめよ! 現人神たちの美しさとあまりの神々しさに目が潰れてしまうかもしれない……!」
 どれが誰の話題で、どの本がどんな内容なのか想像つく気もするが、したくはない。
 会場内には、見知った顔が何人もいた。それらは町で手作りお菓子をくれた女の子だったり、煌めきの都市で見たことある珠魅だったり、エメロードだったりした。
(この鎧、死んでも脱ぐわけにはいかない……!)
 ジュンは即売会会場を巡回しながら、鎧の下で震えていた。




「本物だろ、兄ちゃん」
 瑠璃はまたしても声をかけられた。さりげなく取り巻いたのは、体格の良い、荒くれた風体の男が数名。そのうち一人は、先ほどのマントをつけた盗賊風の男だった。
「最近、ドミナに珠魅がたびたび来るって情報があったからな。定期的にカートや紙袋もって出没するとか本名を伏せて符丁で呼び合うとか。張っていた甲斐があったぜ」」
 瑠璃は全力で男泣きしたくなった。珠魅の……! イメージ……
 それはともかく、泣いている場合ではない。せっかくの楽しい祭りなのに双子をシオンに預け、ジュンが警備していたのはこういう連中がいるせいだ。
「つまるところ、アンタらも本物なわけだ」
「そういうことさ、ラピスラズリ。運がいいぜ。核がまた増えるな」
 チッと舌打ちして、瑠璃はいきなり一人にタックルを食らわせた。男が倒れたその隙に、瑠璃は包囲から抜け出し、反対側へ駆け出した。すぐさま悪漢どもが追ってくる。つくづく胸糞悪いと思った。マナの樹が栄えてもいくつも巨悪が斃れても、相変わらずこの世の中は、珠魅にとってはクソみたいな人間だらけだ。瑠璃が、ジュン以外の人間をそう簡単に信用できない理由である。
「アイツ一人だ! 逃がすな、人気のない方に追い込め!」
 冗談ではない。
 バラバラと追ってくる足音、いくつも角を曲がってそれらを撒こうとし、瑠璃は広めの通りに出た。今日は祭りだ。人の数が多すぎる。こんな場所で剣戟とはいかない。
 人の流れと逆走しながら走り、何人かとはぶつかりそうになりながら、瑠璃は駆けた。男たちはしつこく追ってくる。場を乱された人間たちがわあきゃあと喚き、なんだ、騒ぎか喧嘩かなどと口々に文句を言う。

「泥棒、泥棒! 誰か、警察! 警察呼んで!」

 喧噪をぶち抜いて、響き渡るような大声がした。
 周囲が一斉にざわつき、瑠璃を追う、男たちがたじろいだ。
「な、なんだ?」
 瑠璃が戸惑っていると、
「瑠璃くん、こっち」
 いきなりひょいと腕をつかまれ、茂みに連れ込まれた。わっと声を上げる間もなく、瑠璃の姿が植え込みの中に吸い込まれた。瑠璃の姿を見失った野盗共が、茂みの前をバタバタと駆けていく。
「な、なんだ、急に!」
 瑠璃は慌てふためいた。

 黒い全身タイツが、そこにいた。

 ぎゃあああと悲鳴を上げかけ、口をふさがれる。瑠璃の口をふさぎつつ、茂みの中で体育座りをしていた黒タイツは、しぃともう片方の指を立てて、自分の口(たぶん)に当てた。
「瑠璃くん、大丈夫。安心安全の俺です。俺とは、俺です」
「ふざけんな、本気で核が砕けるかと思ったわ!!!」
 黒タイツの俺ことシオンが、ぺろりと顔の仮面を外した。目下正体不明、瑠璃が信用できない人間第一位の、ジュンの家の居候である。
 先の泥棒の一言で、茂みの外は騒然となっていた。
 核という名の心臓をバクバクさせる瑠璃に、シオンが声を潜めて訊いてきた。
「瑠璃くん、俺のことつけてたろ。何の用?」
「用はない。いつから気づいてた」
「ジュンくんの家出てからずっと。いつ話しかけてくるのかなって思ってた」
 何を考えているのかわからない顔をして、平然と言ってくる。瑠璃は苦虫を噛み潰したような顔になった。やっぱりコイツ、気に食わない。
「ところで、今の連中は? なんで絡まれたんだ。ケンカ?」
「この辺りでは珍しくもないな。盗賊だとさ」
 へえ、とシオンが首を横に傾けた。
「なら、もっと言えば、あれかな」
 シオンは口頭では言わず、指で胸元に丸く円を描いた。言わんとするところは伝わった。珠魅狩り、と言いたいらしい。
「アンタも珠魅、知っているのか」
「まあ、他の人よりは、多少」
 シオンは、ジュンくんに教えてもらったから、と続けた。ジュンめ、部外者に余計なこと教えやがって。
「会場にヘンなのいるな、と思って。コロナとバドには、ジュンくんに知らせるよう頼んだ」
「アンタは? 一人で何やってる」
「俺は……
 シオンは瑠璃の顔を見ながら何やら言いかけて、外していた仮面をぺとりとつけた。
「いいだろ、別に」
 そういえばさっきの大声、こいつの声に似ていたような。確認したかったが、瑠璃が言う前に、シオンはさっさと先の話をした。
「ひとまず追い払えそうかな。このままここから離れよう。風体は覚えた。警察やジュンくんがじきにやってくる。安全な場所まで離れて、あとはそちらに任せればいい」
「だが、このままじゃ見失っちまうぜ。おそらく、どこかにアジトがあるんだろう」
……追うの?」
「オレは騎士だ。仲間を傷つけるやつは見過ごせない」
 シオンが茂みの向こうにのっぺら顔を向けた。「警察!」の一言で野盗は一斉に逃げ出したが、まだ見える範囲にいた。
「瑠璃くんがどれだけ腕に自信があるのか知らないけれど、珠魅が珠魅狩りを追いかけるのは、いくらなんでもどうかと思う。しかも一人じゃ、カモがネギ背負っていくようなもんだろう。あなたには仕事を任せられる仲間がいるんだから、多少時間はかかっても、そっちに頼んだ方がいいと思う」
 瑠璃は片眉を上げた。初見の印象より意外とまとも……というか、まるでジュンみたいなことを言う奴だ。顔も声も性格も言葉遣いも、ジュンとは全く違うのに。ついでに言うと、全身黒タイツのド変態のくせに。
「気を使ってくれているところ悪いが、連中を追いかける理由がオレにはできた。アンタがどれだけ珠魅のことや、オレたちとあいつとの間柄を知っているか知らんがな。あいつら、核が『また』増えるって言いやがったんだ」
……
 今度は、シオンが察したらしい。
 正確には、シオンは面をつけているからどういう顔をしているか瑠璃にはわからなかったが、少なくとも瑠璃はそう感じた。こいつ、思った以上に珠魅に詳しそうだ、とも。
「シオン。別に、アンタに協力しろとは言ってない。オレは確かにジュンのことは親友だと思っている。そのジュンがアンタを信じているとしても、オレはそう簡単にアンタのことは信用できない。アンタは珠魅じゃない。人間だからな」
「正直だなぁ、瑠璃くん」
 シオンが折り曲げた膝の上に、両腕と顎をちょこんと乗せた。子どもが拗ねたらこんな体勢か。
「なら、ますます一人で行ったらダメじゃないか。例えば俺が珠魅狩りの仲間で、背後からいきなり襲いかかったりしたらどうする気だ」
 これを聞いた瑠璃は、よほど変な顔をしてしまったらしい。
 シオンは瑠璃を(おそらく)まじまじと見、数秒の沈黙が流れた。
「違うの? 俺のこと、ずっとそういう風に見て、警戒しているんだと思っていた」
……可愛げのないガキだな、アンタ」
「よく言われる」
 図星を指された瑠璃は悪態をつくのがせいぜいだ。このタイツ、マイペースでぼんやりしているやつだと思っていたが、それだけではないのかもしれない。
「ともかく、そういうわけだ。祭りにはエメロードたちも来ているからな、そっちこそジュンに任せるさ。お前、ついてくる気があるなら来てもいいぜ」
「俺のこと、信用しないんじゃなかったっけ」
「していない。だが、来ても構わん」
「素直じゃないなぁ」
 面をかぶっているが、シオンがため息をついたのが分かった。
「追う前に、一つ聞いておきたい。シオン。戦えるのか、アンタ」
……まあ、他の人よりは、多少」
 嘘か真か、シオンはさきほどとまるきり同じ返事をした。


 ◆


 瑠璃とシオンは、敵に見つからないよう距離を保ちながら、逃げる珠魅狩りを追いかけた。シオンは身を隠しながらの追跡にやたらと慣れており、瑠璃の邪魔になるようなことは一切なかった。小柄な黒タイツだから目立たないし。いろんな意味で目立ってほしくもないし。
 たまに瑠璃とシオンに気づいた人は「シャドウゼロがこんなところに!」「お兄さんのペットですか、いいですね!」などと目を丸くして驚いている。ハロウィン中だからか? それとも本気か。人間たちどうなっている。
「首がかゆい」
 小走りしながら、シオンは黒タイツの上から首のあたりをぼりぼり搔いた。わたあめみたいな天然パーマが首筋辺りにたまっていると思われた。ぴったりタイツがそこだけもっさりしている。
「知るか。アンタが好きでしてる格好だろ。いやなら着替えろよ」
「着替える暇くれなかったの誰だよ。着替えるったって、もしもの時のタイツの予備しかない」
 持ってんのかよ、替えタイツ。
 シオンは「やっぱりかゆい」と言いながら、先行する瑠璃のマントをつんつん引っ張った。
「瑠璃くん、ヘアゴム持ってない? 麻紐とかでもいい」
「ない!」
 怒鳴った瑠璃の後方で、真珠姫のあどけない声がした。
「瑠璃くん……髪の毛のゴム、切れちゃったみたい。どうしよう」
「なんだ、しょうがないな。ほら、これ使え」
 ん?
「ありがとう、瑠璃くん」
 脊髄反射で渡してしまった瑠璃だが、こんなところに真珠姫がいるわけがない。
 おかしいと思って振り向くと、全身タイツのシャドウゼロが平然とヘアゴムを受け取っていた。
「キ、サ、マはぁああああ!」
「似てた?」
「似すぎててアンタの首を絞めたいくらいだ」
「もう絞めてるけど」
 シオンの首を絞めて前後にがくがく揺さぶるが、シオンは、首は絞められてもヘアゴムは離さない。ついに瑠璃はヘアゴム(真珠姫&レディパール専用)を奪い返すことはできず、無駄に上手い声真似を披露してくれたシャドウゼロは、一度、お面と頭部のタイツを脱いで、ゴムで首の後ろをひとつに結わえた。

 秋風や 金髪なびく 黒タイツ (ラピスラズリの騎士 心の俳句)

 冴えわたる青空の下、黒々とした全身タイツを装着している以上変態には違いないが、せめて頭と顔が出てるほうがましだろうか……。いや、もうどっちでも変態だから変わらない。頼む神よ、願いが叶うならばオレは今、こいつと他人のふりがしたい。
 当該の黒タイツを連れてきたのは自分である事実は記憶から抹消して、瑠璃は心の底から願った。


 男らをつけていくと、ご丁寧にも、アジトらしき建物まで案内された。
「見張りがいるな」
 正面の入り口には、見張りの男が立っている。
 どうやって中に入るか。
 場所が分かったのならジュンくんとこに一度戻れば? という、シオンの穏当かつ消極的提案は速やかに却下する。そろそろ双子の情報がジュンや警察まで回るころだろう。さっきの騒ぎもある。警察と出直す間に逃げられたくない。
「裏口とかないのか。こっそり入ることができればよかったんだが」
「なるべくこっそり行きたいなら、これ着る? 俺の替えタイツ」
「着るか! 本当に持ってたのか、気色悪いな!」
 瑠璃は、シオンがどこからともなく取り出した予備タイツを地面にたたきつけた。このぴったりタイツのどこにしまっていたのか知らないが、人肌程度にほんのり温かくて破り捨てたいと思った。
「目立たなくていいと思うけど。それに、町の人たちみんな、『本物かと思った! こんな素晴らしいシャドウゼロは見たことがない!』って絶賛してくれたし」
「どう考えても世辞だろ。見ろよ、鏡を。人間たちの生温かい笑顔を。そしてオレの目を」
 しょうがないと言った風に頭のあたりを搔いたシオンが、これまた唐突に縄を取り出した。
「なら、おとり作戦で行こう。俺は獲物を捕まえてきた魔物、瑠璃くんは捕虜ってことで」
「おい。なんだ、これは」
「人間界伝統の縛り方」
 何をどうやったのか、一瞬で瑠璃は荒縄に縛り上げられていた。しかも。
「亀甲縛りにしろと誰が言った!!」
「なるべく、核にダメージがいかない縛り方を考えた結果なんだけど……というより、亀甲縛りなんて言葉よく知ってるな、珠魅なのに」
「いるか! そんな優しさ!」
 シオンのいらぬ気づかいにより、見事に核を避けて緊縛されている。
 時代劇ならお白州に連れていかれる罪人だが、薄い本が町の片隅で売られてた状況を思うと、違うモノに見えなくもない。
 もうどうにでもなれ! やけくそになった瑠璃は、亀甲縛りされたまま、タイツのシャドウゼロに引っ立てられる形で堂々と見張りの前に出た。
「なんだ、貴様らは」

 ジュミヲ、ツレテキマシタ。

 黒タイツは、凄む見張りに向かってジェスチャーした。
「シャドウゼロか。よし、通れ」
 なぜバレない……
 シャドウゼロともども、小汚い建物の中へ引き入れられながら、瑠璃は、つくづく人間たちの脳の脆弱性を疑った。敵も味方もそれ以外もバカばっかりだ。信じられるのはジュンと彼の身内くらいだが、そのジュンにしても、バカでないかというとやっぱりバカだ。それも、かなりのレベルのバカだ。
 町中で警察騒ぎになりかけて、盗賊はアジトを放棄する直前だったらしい。
 ラピスの核が、じりじり灼けるような感覚がした。盗品や強奪品なのだろう、金目のものを片っ端から懐やら鞄やらに収めていた男たちは、突然現れた瑠璃を見て舌なめずりする。一緒にいる黒タイツの方は気にもされない。
「誰かと思えば、さっきの宝石ちゃんじゃないか。逃げたと思ったらわざわざ来てくれたのか。しかも縄付きで」
「へえ、逃げる直前で運がいいや。見れば見るほど極上品だぜ。今までの中で一番高く売れるかもしれねえ」
「おい、無駄口聞いてねえでさっさと核だけ盗っちまえ。警察来る前にずらかるぞ」
 珠魅狩りどもの濁りきった、ギラギラした欲望が、核に集まっているのが分かった。瑠璃の肌がざわりと粟立った。身体中がぞわぞわする。最悪だ、反吐が出る。
 瑠璃の核を抜こうと、男の手が伸びてくる。
 瑠璃は瞬きも忘れてそれを見ていた。身体は縛り上げられていて動けない。茂みの中で聞いた、シオンの言葉を思い出した。もし俺が、珠魅狩りの仲間だったらどうするつもりだ――
 突然、黒い影が伸びてきて、男の腕を痛烈に蹴り上げた。
「うおっ!?」
 男がバランスを崩して頭が下がったところを、強烈な踵落としが襲った。男は白目をむいてその場にがくりと膝をつき、泡を吹きながら横倒しになった。
「このチビ、なにしやがる!」
 ようやく瑠璃の横にいる存在に気付いたらしい。黒タイツに一斉に襲い掛かった野盗たちは、一斉に後方へ吹っ飛ばされて、同時に瑠璃の縄がバラバラに切れた。自由を取り戻した瑠璃が「クソ」と毒づきながら剣を抜く。
「おい、アンタ」
 五、六名が、テーブルに身体や頭をぶつけてうずくまり、あるいは床に倒れて動けなくなっている。
 瑠璃が影の方を見ると、瞬く間に数人の男を倒した黒タイツは、黒い手をぐーぱーしながら普段の調子でけろっと言った。
「普通の人より、ちょっと戦える」
「なるほど」
 敵の全員、的確に急所を狙っておいて、よく言ったものである。
「残りのゴミもとっとと片付けるぞ。『ある』はずだ、絶対」
 瑠璃が核に一度触れ、ひるむ残党に近接した。オブシダンソードが翻るたび、敵の数は着実に減っていく。
「瑠璃くん、気持ちはわかるけどほどほどに」
「アンタに言われたくないんだが!」
 離れた場所から、きゅい、と弓を引く音がした。連れを狙っている。瑠璃の剣では間に合わない。
「あぶ」
 瑠璃が注意を促す前に、シオンがその辺に落ちていた汚いフォークを拾い上げた。背後を見もせずに放られたフォークは、男の服に刺さって壁に縫い留め、男が吠えたところへさらに顔面に酒瓶が投げつけられて、男はあえなく気絶した。いろんな意味でとんでもねえな。瑠璃の心境としては、感心すると言うよりもはや呆れ半分である。
「ひ、ひいっ!」
 とてもかなわないと悟り、残りの二人が裏口から逃げ出そうとした。
 ちり。瑠璃の核がまた灼けた。瑠璃の、切れ長の目が鋭く光った。
「あいつだ!」
 黒い風が動いた。
 瑠璃が目で追う間もなかった。次の瞬間には、シオンが片手ずつ、今にも逃げだそうとしていた連中の首根っこを捕まえてぶらりとぶら下げていた。
「どっち?」
 やられた珠魅狩りは、二人とも完全に目を回している。
 瑠璃はつかつかと歩み寄ると、核の反応に従って、シオンの右手に吊るされた男の懐をまさぐった。
……あった」
 奪われていた、珠魅の核。チクショウめ。
 苛立ちついでに男を蹴ると、男が低く呻いた。
「まだ、感じる」
 煌めきをもとに家探しすると、タンスの引き出しの二重底の中に、もうひとつ核が隠されていた。
「これで、全部?」
 後ろから、ぼそりと声が聞こえた。
「よかったね。仲間だろ」
 瑠璃が振り向くと、シオンが「暑かった」と顔の面を取って、頭部を脱ぐところだった。結んでいた髪をほどき、額にはりついた髪を指でかきあげる。暑いとは言っているが、汗をかいているようには見えない。
 建物内は静まり返っていた。今や動いているのは、自分と黒ずくめの少年だけだ。
 瑠璃は、そこではじめて気づいた。珠魅狩りだけがきれいに斃され、部屋や壁や調度品には一切の乱れがない。その、斃れている人間にしても、頭部、頸部、あるいはそのほかの肌の露出部分のみ。全員、核を隠せそうな部分は全て避けて攻撃されている。あれだけ一方的に攻め、制圧しながら、人にもモノにも必要最低限のダメージしか与えていない。
(こいつ……
 だから、かえってぞっとした。単純な力比べなら、シオンはジュンに……もしかしたら瑠璃にも劣るかもしれない。だがこの少年、明らかに自分より格上だ。下手したら、ジュンより強いかもしれないとさえ思った。並外れた素早さ、技術、身のこなし、視野の広さ。判断能力の高さ。戦う挙動のすべてがあまりに鋭敏で、隙と無駄がなさすぎる。
 背筋に冷たいものを感じながら、瑠璃は二つの核を見つめた。石でありながら簡単に傷ついてしまう、儚く脆い珠魅の核。二つとも一切の傷はなかった。
「シオン。アンタ、本当に何なんだ」
「遠い親戚って、ジュンくんが言っているはずだけど」
「ごまかすな。真面目に聞いてるんだ」
 シオンは答えない。無言で盗賊を避けながら落ちていたお面のところまで歩いて行くと、そっと拾い上げた。そして、こんなことを言う。
「瑠璃くん、あまり無茶してジュンくんに心配かけないほうがいい。あなたがジュンくんを案じるように、ジュンくんもあなたに対して多分そうだと思うから」
 シオンは下を向いているから、その表情は瑠璃からはわからない。彼の拾ったシャドウゼロのお面は、改めて見ると凝った造りはしておらず、祭りや縁日で子どもがかぶるような、簡素でちゃちな面だった。
「俺はね、ジュンくんの、とてもとても、遠い親戚。血は……繋がってないけど」
 シオンはそこまで言って、お面をぱくりとかぶった。
 瑠璃が何を訊いても、シオンはきっとこれ以上は答えないだろう。アジトが再度うるさくなる前に、瑠璃はタイツのシャドウゼロを連れて建物を出た。
 瑠璃たちがアジトを離れて間もなく、情報提供を受けた警察が踏み込んできた。
「なんだ、シャドウゼロか」
 警察官らとすれ違いながらシオンは平気で歩いていたが、見た目がシャドウゼロなので、誰も気にしなかった。瑠璃はつくづく理解できないと思った。あの変態スタイル、人間には本当に判別できないらしい。


 ◆


 帰宅した双子と、シオン。ついでに瑠璃。
 仕事を終えたジュン。ハロウィンの夜、彼らはマイホームで夕食を共にした。
「せっかくのお祭りに盗賊が出るなんてね。大変なことになっちゃったなぁ」
 泥棒騒ぎで、警察ともどもバタバタしたらしい。予定より遅く帰宅したジュンは、それでも「お客さんに怪我人とか出なくてよかった」とニコニコ笑った。
「お祭りでも悪い奴やっつけちゃうなんて! さすが師匠!」
 せっかくのハロウィンが台無しだわとコロナは不機嫌そうだが、バドは無邪気に喜んでいる。師匠の活躍がうれしくてたまらないのである。
 それを見たジュンが少しだけ、弟子に申し訳なさそうな顔をした。
「それが……僕、今回は何もやってないんだよ。僕たちが泥棒のアジトに踏み込んだら、最初から全部終わってて」
「終わってた? どういうこと?」
「警察隊が突入したら、やっつけられてたの。悪い人みんな」
「みんな?」
「神風が吹いたか、女神の罰でも当たったか……それこそ、ハロウィンで奈落の底から出てきたお化けにでもやられたか、みたいにね……。わるぅいやつらの、アジトの中の……どこも荒れた形跡なんて……ないのに……悪者だけがぁ~……ばたばた……と~」
「ひえええ、師匠やめてよーーー! なんだろ! こわ!」
 調子に乗っておどろおどろしい口調になっていくジュンに、バドが大げさに怖がり、なるほど謎の正義の味方ですね、とコロナはちっとも乗らずに言った。話がだんだん怪談じみてきたが、それが誰の仕業か、瑠璃は知っている。
 瑠璃が斜向かいを見やると、さきほどまで全身黒かった少年は、いつものジュンのコスプレ姿に戻って、もくもくとくりぬきカボチャのグラタンを食べていた。
「瑠璃は……シオン君と一緒だったんだ? てっきりお前、煌めきの都市に帰ったと思ってたのに」
 ジュンが、意外そうに瑠璃に聞いてくる。瑠璃が「まぁな」と答えると、ジュンはいかにも複雑そうな笑顔を浮かべた。都市に帰ったと思っていたのに、しかも、警戒心丸出しにしていたシオンと二人きりでいたとか、大丈夫だったのか心配しているらしい。
「けっこう楽しかったぜ。ジュン、そいつ、お前の親戚なんだろう」
 たまには、お前以外の人間と行動するのも悪くないな。
 瑠璃がジュンに言う。いつの間にか、シオンが顔を上げて瑠璃を見ていた。ジュンは、今度は本当にうれしそうな笑顔になって「そっかぁ」と言った。
「でも、二人が並んで歩いていたって、ちょっと不思議な気がするな。どんな感じだったの?」
 ジュンに聞かれたシオンが、どこからともなく荒縄を取り出した。
 瑠璃は再び意味なく亀甲縛りにされ、ジュンはすかさずカメラを手に取り、フラッシュをたいた。