シノハラ
2024-10-29 23:08:23
1157文字
Public ルムメ
 

暮らし始めて日が浅いルムメ書き散らし

2024/2/3初出
先輩がそもそも絶縁した相手とまた顔を合わせるようになったことを他人に知られたくないと思っていたけどどうも違うっぽいと気がつく後輩の回

「仲直りしたんですか?」
 ある程度予想していた質問ではあった。この本屋は教令院の寮からもそう遠くなく、学生時代からアルハイゼンは出入りしている。もちろん、それにかつてのカーヴェが付き合った回数など両手どころか両足の指の数を加えても足りないはずだ。
 そこの店主が共同研究の顛末や誌面上の反駁の応酬を知らずとも、ぱたりと二人揃っての来店がなくなればあれこれと察せられても致し方がないだろう。
 そんなアルハイゼンがカーヴェの名前の注文票を持って、定期購読中の学術誌を受け取りに来た。この雑誌は建築に携わる者向けの構成となっており、アルハイゼンも図書館の類いで見かけでもしない限りなかなか目を通す機会がない。
 今更アルハイゼンの素行を疑うわけではないだろうが、何かしらの不正が働かれていないかを調べる義務が店主にはあるはずだ。
「この前偶然出くわして」
 嘘ではないが、店主が思うような仲直りをしているかは正直なところアルハイゼンには分からなかった。そうですか、と相槌を打ってから店主はそれ以上の追及を避けて奥の部屋に引っ込んだ。どうやらアルハイゼンの回答を信じて取り分けしておいた本を取りに行くことにしたらしい。アルハイゼンの発言が虚偽だとしても、居場所を突き止めて詰め寄るのはそう難しいことでもないと考えたのかもしれない。
 受付で店主が戻ってくるのを待ちながら、どの程度の仲に思われたのだろうかと考える。発売日に取りに行けない雑誌を代わりに取りに行く仲の適切な親密さをアルハイゼンは知らなかった。
 故に正確には推し測りようがなかったが、成人した者にありがちな何ヶ月に一度会う程度の交友関係ではなかなか難しいのではないかと思う。この後アルハイゼンが彼の居場所に荷物を送ることだってできただろうが、そこまでしてすぐに手元にほしい本とも思えない。本当についで程度でなければこのお使いは成立しないのだ。
 それくらい考えてカーヴェはアルハイゼンに依頼しているはずである。少なくとも頻繁に顔を合わせる関係に戻ったと、店主に知られても良いと判断してアルハイゼンにあの一枚っぺらの紙を寄越したのだ。あんなにもアルハイゼンの家に居候している事実を露見させたがらないあの男が。
「こっちがカーヴェさんの分。よろしくお伝えください」
「ああ、ありがとう」
 二つに分けた袋を手渡されて、アルハイゼンは一つ相槌を打って踵を返す。夕闇が迫る家路を辿りつつ二人分の包みを視界に収めて、ようやく感情的になりがちで意図をうまく伝えてくれない彼の真意を理解したように思う。
 今度彼の仕事が落ち着いた辺りで、カーヴェを外食に誘ってみてもいいかもしれない。アルハイゼンの考えに間違いがかなければ、案外気軽に乗ってきてくれるはずだった。