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ちこと
2024-10-29 22:08:54
1317文字
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poke小説・SS
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いつもの癖
2024年5月に書いた短文です。ツイッターのハッシュタグ企画(#サ無茶)にお邪魔しました。
その高所に、サトシは身を竦ませた。
眼下にひろがる景色は遠すぎて、もはや霞んでみえる。おまけに足場は狭く、もしすこしでもバランスを崩したらという想像に、背筋がひゅっと寒くなる。
そうやって、恐怖心を覚えたはずの場所だった。数刻前、サトシは、ここから落下する想像にすくなからず恐怖したはずだった。
だがそれは、眼前の光景を前に霧散する。サトシの視界は、心は、目の前で宙に放り出された、名も知らないちいさなポケモンのことでいっぱいになる。
いま飛行できるポケモンがいない。あそこまで手が届くポケモンがいない。そんな理由は一拍遅れてついてくるもので、いまこの瞬間、サトシの手と足は、ただ目の前のポケモンめがけて動いていた。
「
――
あぶない!」
狭い足場を蹴って飛び出し、恐れたはずの高所に身を躍らせる。両腕をめいっぱい伸ばし、届いたそのポケモンのちいさな体を、胸にぎゅうと抱きこんだ。
あとは重力につかまるのみ。
「~~~~っ」
空気が肌を切る。景色がすさまじい速さで下へと移る。眼前に、地面が近づいていく。
ぐっと息を呑んだ瞬間、落下がとまった。
「あれ?」
思わず閉じていた目をおそるおそる開く。サトシの体は、地面を前にしてふよふよと浮いていた。正確には、サトシの腰の部分をつかまえて、ふよふよ浮かぶ影があった。首を後ろに向けると、赤い目と視線が合う。
「ゲンガー!」
「げんげろ~」
ほうと息をついて、やれやれまにあったというような顔で、ゲンガーが苦笑していた。
ゲンガーの手によって、サトシの両足は無事に地面へと降り立つ。
「ありがとな、ゲンガー」
「げんがぁ」
いつのまにそばに戻ってきてくれていたのだろう。気づかなかったなと思っていたら、草むらを抜けて黄色の相棒が駆けてきた。あっというまにサトシの肩口にのぼる。
「ぴかぴ!」
「ピカチュウ」
どうやら合流すべく戻る途中で、ゲンガーとともにサトシの行動を目にしたらしい。ちょっと怒ってきこえるピカチュウの声が、サトシの耳をつんつんと叩いた。
「心配かけてごめん」
「ぴーか」
なにかを呑みこむようにうなずいて、ピカチュウはサトシに頬をすり寄せる。いつもどおり温かなその体温を感じ、サトシの胸もだんだんと落ち着きを取りもどしていく。
「だいじょうぶだったか?」
そう言って、胸に抱えたままだったポケモンを覗きこむ。ちいさな体が動き、おずおずとサトシを見上げた。
目と目が合い、それから、ポケモンの表情がほっとほころぶ。
「
……
よかったぁ」
やっぱり初めて見るポケモンだ。なんていう名前なんだろう。どんなやつなんだろう。そんな気持ちを追い越して、まず、安堵がサトシの胸を包む。
この笑顔を見られてよかった。無事で良かった。
あのとき伸ばした手が、間に合って良かった。
そう思ってしまう限り、自分のこの癖は直らないだろうことを、サトシは心のどこかで自覚している。もちろん命は惜しいので、なんとか気をつけていきたいけれど。
とりあえずはお礼とお詫びをこめて、すぐそばのピカチュウとゲンガーを、思いっきり撫でて抱きしめた。
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