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ちこと
2024-10-29 22:05:50
2068文字
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poke小説・SS
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にたものどうし
2024年のともだち記念日に書いたサト+ピカです。なかよくけんかしなという短文。
黄色の背中が、いつもより遠い。いつも肩の上かすぐ横にいるのに、いまはサトシの歩幅で三歩も四歩も離れている。
ピカチュウがそうして距離をとっていることの、理由は明らかだった。ごくごく単純なことだ。
つい数分前、サトシはピカチュウと喧嘩した。
喧嘩、といってもささいなものだ。いつものようにじゃれあいながら歩くなか、ピカチュウが不意にいたずらじみたちょっかいをかけてきた。サトシは思いのほか驚き、つい声を荒げて抗議した。自分でも意図していなかったくらいの大きな声が出た。
サトシの強い語気を浴び、ピカチュウもまた目を見開いた。眉間のしわが深くなる。声を荒げて反撃する。反撃されて、サトシもあとに引けなくなる。「だっておまえが驚かすから」「ぴかぴか、ぴかちゅ」などという応酬がつづく。
そうしてつんとそっぽを向き、ピカチュウはサトシから距離をとって歩きだした。それが、ほんの数分前のことだ。
サトシはこっそりとため息をつき、前を歩く背中を見た。いつも頬に触れるやわらかい体毛が、あたたかい熱が遠い。たったそれだけなのに、心が沈む。
簡単なことだ。サトシのほうから謝ってしまえばいい。それはわかっているのだが。
サトシが全面的に悪ければ謝罪もする。だが今回、先にはじめたのはピカチュウのほうだ。ピカチュウがムキになっているのだ。そう思うとサトシの負けん気も発動して、根負けできずつい押し黙ってしまう。
きっとピカチュウもほとんど同じことを考えているだろう。だって、目の前の背中がいつも以上にちいさく見える。頭もいくらか前に下がって見える。そのくせサトシを振り返ることはしない。お互いにいじっぱりだ。
なんでこうなっちゃったんだろう。
空は青く晴れ渡り、心地よいそよ風が吹き、あちこちから野生のポケモンたちの鳴き声が聞こえる。こんなにも気持ちの良い昼下がりなのに、サトシの心は沈んでいく。
とうとう我慢できなくなり、サトシは足を止めた。ほとんど同時に、ピカチュウも止まった。
――
あ。
たぶんこのあと、ピカチュウは振り返る。口を開く。サトシがやろうとしていることを、ピカチュウも同じようにやろうとしている。
サトシの直感が形になる、ほんの一瞬前。
「
――
ぴ」
ピカチュウの耳がなにかを察知するように揺れたと同時に、ごうと強い風が吹いた。
「うわっ」
突風だ。サトシは咄嗟に帽子を押さえ、腕で顔を覆った。よろめきかけるほどの強風をぐっとこらえる。
――
ピカチュウ。
腕で覆ったばかりの顔をはっと上げた。サトシよりちいさい黄色い体。目の前にいた。飛ばされていない。
「ピカチュウ!」
駆け出して両手を伸ばす。ほとんど同時に目が合った。ピカチュウはサトシに向かって地を蹴り、
――
同時に、尾を白銀に光らせた。
「ちゅう、ぴっかぁ!」
力強いかけ声とともに“アイアンテール”がきらめく。硬く光る尾は、サトシのすぐそばまで迫っていたものをあやまたず打ち弾いた。
ピカチュウに弾かれて視界の端に飛んでいったのは、大きく太い木の枝だった。
「ぴっ」
「ピカチュウっ」
“アイアンテール”の発動が終わるとともに、ピカチュウの体が宙に浮く。サトシは今度こそ両手を伸ばし、ピカチュウを抱きとめた。
そのままぎゅうと抱きしめる。ピカチュウのちいさな手が、サトシの胸にぐっとしがみつくのを感じる。
そうやってふたりでかたまって、やがて突風をやり過ごした。
「
……
はぁ、びっくりした」
「ぴかちゅ
……
」
腕のなかのピカチュウと、今度こそ目がぱちりと合う。ほとんど同時に笑みがこぼれるのがわかった。
「ありがとな、ピカチュウ」
「ぴーか。ぴかぴ、ぴかちゅう」
あいだの距離はゼロになり、お互いの体温をじかに感じる。
見つめあい、どちらからともなく口をひらいた。
「さっき、ごめんな」
「ぴか、ぴかぴか」
「うん。おあいこな」
雲が晴れた気がした。降りそそぐ昼下がりの陽気は心地よく、空は澄んで晴れ渡り、大好きなともだちがまっすぐにサトシを見ている。
なんて気持ちいいんだろう。
あるべきものがあるべきところにおさまったような、唯一無二のピースがはまったような、そんな心地よさだった。
「そういえば、あの突風、なんだったんだろう」
「ぴーか。ぴかちゅ」
「だよな。今日、全然風強くないのに」
そこまで話して、顔を見合わせた。たぶん、お互いに同じことを思いついている。
いまの風が、ただの自然現象じゃないとしたら? 人知の及ばぬような、不思議ななにかが
――
サトシのまだ知らないポケモンが、起こしていったのだとしたら?
「あいつ、あっちに吹いていったよな」
「ぴかぴか」
「ってことは、追いかけたらその先にいるかも!」
「ぴかちゅ!」
「あっ、待てってピカチュウ!」
フライングで駆け出した相棒に追いつこうと、サトシも思いっきり地を蹴る。
進んでいたはずの道をはずれ、ふたりで風の先へと駆けてゆく。
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