ちこと
2024-10-29 21:14:50
3933文字
Public poke小説・SS
 

おみまいにいこう

2022年に書いたウオ+サトです。二本前のゲン+サト、一本前のネギ+サトからの続きです。

 
 今日、サトシはお休みだ。風邪を引いて、部屋で眠っている。
 普段ふたりで手分けしているポケモンたちのお世話を、ゴウひとりでするのは大変だろう。そう思い、コハルはクラスメイトに頼んで、朝と夕の当番を代わってもらった。
 放課後になり、イーブイとともに、早々にスクールを後にした。研究所の入り口で出迎えてくれたワンパチを撫で、メインルームに鞄を置き、サクラギパークを訪れる。
 ゴウと合流し、分担を確認して、ポケモンたちのすみかを回る。水場に足を向けると、水色の大きな頭が見えた。水辺のはしっこにへたりと座った背中が、いつもよりも丸いような気がする。脇に置かれた皿の上には、ポケモンフーズがいくらか残されていた。
「ウオノラゴン?」
 声をかけると、大きな頭がゆっくりとこちらを向く。
……うーら」
 ウオノラゴンの目は、へにょりと垂れていた。それを見て、コハルの脳裏に、朝の光景が思い出される。
 いつまでたってもサトシがやってこないからか、ウオノラゴンは朝から元気がないように見えた。それでコハルは、かれの頭を撫でて、「あとでお見舞いにいこうね」と話しかけたのだった。
 朝は慌ただしく、登校の時間が来てしまったため、結局ウオノラゴンに付きあえなかった。ウオノラゴンはきっと、昼間もこの調子だったのだろう。いつもおいしそうに食べていたポケモンフーズも、すこし残してしまっている。
「うん、よし」
 ひとり頷いて、ウオノラゴンのもとに駆けていく。朝と同じに手を伸ばし、コハルはウオノラゴンの頭を撫でた。
「わたしと一緒に、お見舞いに行こう、ウオノラゴン。サトシに会いにいこう」
 サトシ、という音をきいたからか、ウオノラゴンの瞳が、ふときらめいたように見えた。

 ウオノラゴンを先導するように、サクラギパークのなかを歩く。その途中に、花畑のエリアを通りすがった。
 ゴウのフラベベたちがふわふわと舞っている。フラベベの花も、その下に広がる花々も、いつもとてもかわいらしい。コハルは目にするたび、自然と笑顔が浮かぶのだった。イーブイは早々に花畑に飛びこんで、「ぶいぶい!」と尻尾を振って喜んでいる。
 そこでふと、思い至った。お見舞いにちょうどいい。
「ウオノラゴン、ちょっと寄り道していい?」
「うら?」
「お花がとってもきれいだから」
 そう言って、フラベベたちへ駆けよる。
「ごめんね。このお花、すこしもらってもいいかな」
 突然話しかけたからか、フラベベたちはきょとんとまばたきし、互いに顔を見合わせている。「ちょっとだけわけてほしいの」と重ねて言うと、今度はこちらを見て「べべ!」と笑って頷いてくれた。
「ありがとう」
 微笑みをかえして、ウオノラゴンを呼ぶ。
「ね、よかったら、一緒に選ばない? サトシに持っていってあげよう」
 右手をひろげて、花畑を指してみる。色とりどりの花ばなを目に映して、ウオノラゴンはすこしの間止まって見えた。
……うらら~!」
 頭の両脇のヒレをぱたぱたと動かしてから、ウオノラゴンは花畑に向かってしゃがみこんだ。どうやら、伝わったようだ。心なしか、先ほどよりも元気になったように見える。
 そういえば、とコハルは思った。ウオノラゴンはずっと昔、一度化石になったけど、もともと生きていた時代にも、こんなふうに花が咲いていたのかも。
 ――お花、好きなのかな。
 そう思うと、なんだか嬉しい。コハルも花が大好きだ。
「ウオノラゴン、どのお花が好き?」
 尋ねながら目に留まったのは、青い花びらがかわいらしい小花だった。そういえば、サトシはよく青い服を着ている。ちょうどいいかなと、一輪もらうことにする。
 コハルの手のなかにおさまった青い花を、ウオノラゴンがじっと見つめた。ぱちぱち、まばたきをする。
「このお花がいいのかな」
 ならもう一輪、と手を伸ばす。と、
「うーの!」
 となりから声が飛んだ。同意の声色とは違って聞こえた。あれ、この色じゃなかったのかな。
「ウオノラゴン?」
 となりを向いて尋ねると、ウオノラゴンと目が合った。首をかしげてみせると、ウオノラゴンは、コハルのまねをするように、ぐぐっと頭をかしげてくる。
「こっち? それとも、こっち?」
 別の花をいくつか指してみる。すると何度めかで、「うらら!」と声があがった。コハルには、「それ!」と聞こえた。
「このお花?」
 もう一度となりを見ると、ウオノラゴンは目を細め、「うーら!」と明るい声を出した。やっぱり、「これ」なのだ。
 あらためて、自分で指した花を見る。最初に摘んだ花と似ているが、花びらは目が覚めるような黄色だった。
 一輪摘みとって、青い花に添える。すると、なんだかずいぶんとしっくりきた。いつもとなりにあることが当然のように、青い花と黄色い花が並んだ。
……ああ、そっかぁ」
 自然と笑みがこぼれるのがわかった。
 ――きっと、ウオノラゴンにとっても、これがしっくりくる「いつも」なんだ。
「ね」
 ふたつ並んだ花を見せると、ウオノラゴンは「うらら~!」と声をあげ、その場で両足を動かした。おいしいものを食べたときや、うれしいことがあったときのように、ご機嫌なステップを踏んでいるみたいだった。


 ちいさな花束を手に、イーブイとウオノラゴンと、研究所の廊下を歩く。
 目当ての扉の近くまでさしかかると、その前にネギガナイトがいるのが見えた。いつものように、長いネギの剣をまっすぐに持って、ぴしりと背筋よく立っている。まるで、この扉の門番だ。
「入っていい?」
 ひと声かけると、「ぎゃも」と静かに頷いて、脇によけてくれた。「ありがとう」とお礼を言って、そっと扉を開ける。
「あれ、コハル」
 ベッドのなかで半身を起こし、サトシがこちらを向いた。
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、さっきちょうど起きたんだ」
 そう言いながら、枕もとのピカチュウを撫でている。こちらもぱちりと目を覚ましていて、「ちゃあ」とやわらかく鳴きながら、気持ちよさそうに目を細めていた。
「具合どう?」
「うん、だいぶよくなった。いっぱい寝たし」
「そっか、よかったね」
 たしかに、朝見たときよりも顔色がよくなっている。きっと明日には快復するだろう。
「ウオノラゴン、さみしがってたから」
 そう言って、ドアを大きく開ける。「おいで」と声をかけると、ウオノラゴンが大きな頭をひょこりと覗かせた。
「ウオノラゴン!」
 サトシが、ぱあっと明るい声を出す。すると、ウオノラゴンの瞳がみるみるうちにきらめいた。
「うーの!」
 ドアをはねとばす勢いで、一気に部屋に入ってきた。そのままベッドにぶつかるかと思ったが、
「ぎゃも!」
 と、ネギガナイトがすべりこんで、盾でがっちりとウオノラゴンを止めてくれた。物語に出てくる騎士のようで、コハルはつい感心してしまった。ゴウが前に言っていたとおりだ。
 そんなことを思っているあいだに、ネギガナイトとピカチュウが、ウオノラゴンをなだめてくれた。ひと息ついて、コハルはあらためて声をかける。
「ウオノラゴンがさみしがってたから、一緒にお見舞いに行こう、って誘ったの」
「そっか。サンキュー、コハル」
 サトシは、すぐそばに迫るウオノラゴンに手を伸ばした。よしよし、と言うかのように、その大きな頭を撫でる。
「朝、行けなくてごめんな、ウオノラゴン」
「うーら、うーら」
 ウオノラゴンは、頭の脇のヒレをぱたぱたと動かしている。今日コハルが目にしたなかで、いちばん嬉しそうな仕草だ。
 やっぱりこうしてよかったな、と思う。ウオノラゴンが元気になった。
 そこでふと、手に持っていた花束を思い出す。
「サトシ。これ、お見舞い。ウオノラゴンが選んだの」
「え?」
 目の前に、そっと差し出す。青と黄色、ふたつの花が仲良く並んでいる。
「これ、ウオノラゴンが?」
「うん。これがいいって」
 ひと息ついて、ほんのすこし、強調する。
「青には、黄色がいいんだって」
 言いながら、コハルの頬には笑みが浮かんだ。
 だが、サトシはそれだけではぴんとこなかったようだ。「?」と首を傾げるので、もうひと声添えることにする。
「だって、ほら」
 サトシと、サトシのとなりでこちらを見上げるピカチュウを、交互に見る。
「ふたりとも、いつもこうして一緒にいるのを、ウオノラゴンも見てるんだよ」
 ね? と振り返ると、ウオノラゴンはちょうど頷くように「うらら!」と声をあげた。
 それでやっと、サトシもわかったらしい。きょとんとしていた目と口に、みるみるうちに笑みがひろがる。
……そっか」
「うん」
「そっかぁ」
 へへ、と微笑んで、サトシは両手を伸ばした。ウオノラゴンの頭をかかえ、ぎゅうと抱きよせる。
「ありがとうなぁ、ウオノラゴン」
「うーの、うーの」
「明日は一緒に、いっぱい遊ぼうなぁ」
「うらら、うらら~」
 ほっぺたとほっぺたをくっつけて、サトシとウオノラゴンが一緒に笑う。
 つられて、コハルも笑顔になった。そうやってふたりを眺めるうちに、ふと気づく。今日のサトシは、パジャマがわりに黄色のシャツを着ている。
 だから、サトシとウオノラゴンも、黄色と青だ。黄色と青で、並んでいる。
「ふふっ」
 コハルの笑い声を聞きとめて、足元でイーブイが「ぶい!」と嬉しそうに鳴いた。しゃがんで、その頭を撫でてやる。
「イーブイ、一緒に花びんを探しにいこっか」
 ――黄色と青を並べて、お部屋にかわいく活けてあげよう。