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ちこと
2024-10-29 21:13:04
2360文字
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poke小説・SS
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剣でもなく、盾でもなく
2022年サトシの日の前夜祭として書きました。ネギ+サトです。
一本前のゲン+サトからつながっています。
サトシは今日は「おやすみ」で、部屋で寝ているという。
朝、そのようなことをゴウとコハルから聞かされ、ネギガナイトはひとりで、日課の鍛錬に勤しんでいた。
広大なサクラギパークのなかでも、ごつごつとした岩肌が目立つところ。カモネギだったころからの気に入りの場所だ。この屋敷に来たばかりのころは、この場所でひとり、みずからを鍛えつづけていた。
それがいつからか、ひとりではなくなった。サトシと、ピカチュウと、ルカリオと、カイリューとゲンガーと、ときおりウオノラゴンとも。一緒に鍛錬する日々が日常となり、それはネギガナイトにとって、いやなものではなかった。いやなものではなくなっていた。
だからむしろ、おかしな心地になる。今日は、どんなに技を高めても、心が満たされることがない。
「
……
ぎゃも」
岩肌に何回打ちつけても、太刀に切れがない。ネギガナイトはその剣たるネギを引き、構えるのをやめた。
足を引き、鍛錬場をあとにする。
屋敷には、足を踏み入れたことは数えるほどしかない。生活はサクラギパークで事足りるし、自慢の得物を抱えたままでは、屋内はどうしても動きにくいからだ。
ネギの先が天井を貫かぬよう気をつけて、ネギガナイトは廊下を進んだ。あまり歩きまわらないから、屋敷の全貌はよく知らない。だが、目的地の場所はわかっていた。廊下のはじまりから数えて、いくつめかの扉の前に、ネギガナイトは立つ。
ドアノブに羽を伸ばそうとし、そこで動きが止まった。左に抱く盾はともかく、右にこの剣たるネギを抱いたままでは、扉の向こうの、さほど広さのない室内で、満足に動けるとは思えなかった。
「
……
」
しばし、止まる。
やがてネギガナイトは、ゆっくりと、丁寧に、ネギを廊下の端に横たえた。
「ぎゃも」
この屋敷にいる人間はみな、このネギがいかに大切なものかをわかってくれているはずだ。
ネギガナイトはネギを置き、目の前の扉を開け、なかへと入っていった。
二段ベッドの下、こんもりと盛られた毛布の下で、サトシが静かに眠っている。そのすぐ横には、ピカチュウがぴたりと寄りそって、ともに寝息を立てていた。
肌が常よりも赤い。呼吸もすこし荒く見える。だから「おやすみ」になったのだと、ネギガナイトは合点がいった。
室内にいたのは、寝息を立てるふたりのみだった。ルカリオはこちらかと思ったが、いまは外しているらしい。
とても静かな空間だった。静かで、穏やかで、なにも起こりそうにない。
来てはみたものの、この後何をすべきか、ネギガナイトは考えあぐねいた。差し迫った危険はあるとは思えず、外敵を警戒する必要もない。そもそも、得物のネギは部屋の外だ。
ぼんやりと立ちつくしていると、ふとちいさな声が耳に届いた。
――
サトシだ。
ベッドのそばへ寄り、様子をうかがおうとする。そのときに、左の盾もそっと床へ置いてしまった。両の羽をベッドのふちに置き、身を乗りだして覗きこむ。
「う
……
ん」
どうやら寝言のようだった。呼ばれたわけではなかったと思い、身を戻そうとする。だがどうにも動きがたく、ネギガナイトはそのまま、サトシの顔をじっと見ていた。
胸の奥が、むずがゆい。
サトシは静かに眠ったままで、ネギガナイトはそれを見ているだけだ。そこに問題はない。サトシの体調を見るに、必要なのは休息だ。それがあれば、きちんと回復するだろう。ネギガナイトが、剣と盾を構える必要はないのだ。
ただ、どうにも、落ち着かない。
サトシはここにいるのに、毎日見て、聞くことのできる、あの表情と声がない。だから足りない。
はやくまた、サトシと一緒に鍛錬がしたい。
カモネギのころから目指していた高みへ、ひとりで向かう気はとうにない。サトシがいい、サトシとともにゆきたいと、そう思ったときに、ネギガナイトはこの姿へその身を変えたのだから。
落ち着かぬ心地を抱えたまま、ネギガナイトはずっと、サトシの顔を見つめていた。
と。
「
……
あれぇ」
は、と我に返る。いつのまにか、サトシと目が合っていた。
「ネギガナイト、きてたんだ」
「
……
ぎゃも」
「ありがとなぁ。あれ、ネギは
……
?」
何かが足りていないとすぐに気づいたらしい。ネギガナイトは慌ててドアを指した。
「あ、廊下に
……
」
「ぎゃも」
「よかったぁ」
そう言って、サトシの顔がほころぶ。
その声と顔を見た瞬間に、ネギガナイトの胸のつかえが、すぅと消えていくのがわかった。
「だってさ、おまえの大事なネギだから
……
」
常よりも力の抜けた声で、いつかに聞いたようなことを繰り返す。サトシの瞳がネギガナイトを見ていた。それだけで、なにかが満たされてゆく心地になる。
ゆっくりと、右の羽を伸ばす。
ひたいのあたりに羽毛でそっと触れると、ずいぶんと体温が高く感じた。
「わ、きもちいーな、それ
……
」
サトシの目がほそまった。声のとおり、心地よさそうな表情で、寝具にしずみこむ。
そのまま、やわらかく撫でてやる。
サトシの頭に、直に触れるのははじめてだった。それを知ってか知らずか、サトシはとろけるように頬をゆるめる。
「ありがとな、ネギガナイト
……
」
「
……
ぎゃも」
静かに頷いてみせると、サトシは間もなく瞳を閉じ、ふたたび寝息を立てはじめた。
ネギガナイトはまた、サトシの寝顔を眺めるかたちとなる。だが胸の奥は、先ほどと比べるべくもなく凪いでいた。
みずからの羽で、サトシの頭をゆっくりと撫でる。サトシの穏やかな寝顔と寝息が、ネギガナイトのもとへ届く。
胸の奥が、満たされてゆく。
くちばしの端をそっと上げ、ネギガナイトはひとり笑んだ。
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