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ちこと
2024-10-29 21:09:00
3079文字
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poke小説・SS
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きょだいな くちの むこうがわ
2022年頃に書いたゲン+サトです。キョダイマックス練習中の一幕。
「でっかい口だなぁ」
首を持ちあげ、サトシはしみじみと呟いた。向き合うのは、念願のキョダイマックスを果たしたゲンガーだ。ちょうど、影のなかから姿を覗かせるときのように、ラテラルスタジアムの地面から巨大な半身が生えている。
いつものすがたと異なるのは、なんといってもその口だ。顔の半分以上を占めるほどに大きくひろがって、覗きこんでも全容がわからない。
「巨大なトンネルみたいだな」
すこし下がった後ろから、ゴウの声がする。キョダイマックスしたゲンガーにどんなことができるのか、オニオンに許可をとってスタジアムで検証しているところだった。ゴウはスマホロトムで録画し、記録をとってくれている。
「ほんとだ。トンネルみたい」
「げん?」
ずいぶん上のほうから、ゲンガーの、常よりも低い声がする。巨大になっただけのことはあり、腹の底に響く重低音だ。かれの目の位置からでは、自分の口のなかを見ることはできないだろう。サトシは首をさらに上げ、ゲンガーに目を合わせた。聞こえるよう声を張りあげる。
「ゲンガー! おまえの口、すっごくでっかくなってるぞ~!」
「げん! げんが!」
音は低いが、声色は無邪気だ。見上げる首が痛くなるほどの高さにある目が、嬉しそうにほそめられる。
サトシはもう一度、ゲンガーの口へと目を戻した。大きくまあるく開いた奥から、巨大な舌がべろりと出ている。その先は真っ暗で、なにも見えない。
「
……
どこまで続いてるんだろ」
トンネルならば出口があるが、ゲンガーの口はどうなっているのだろう。
キョダイマックスしたすがたのなかで、もっとも特徴的なところだ。詳しく知ることができれば、バトルにも役立つかもしれない。
なによりも単純に、サトシは気になってしかたがなかった。ゲンガーの口はどうなっているのだろう?
「おれ、ちょっと入ってみる!」
そうと決めたら、もう駆け出さずにはいられなかった。
「ぴかぴ?」
「え、おい、サトシ!」
「すぐ戻る~!」
ピカチュウとゴウの声を背に、サトシはゲンガーのトンネル目がけて走り出した。
最初は駆け足だったが、周りが暗くなるにつれ、自然と歩幅が狭まっていった。本当に、洞窟かなにかを探検するかのような心地になる。
サトシの身長に比べ、ゲンガーの口のトンネルはあまりにも巨大だ。それでも、奥へと進めば、やがて外の光は届かなくなる。薄ら闇のなか、その先はぽかりと暗く、なにも見えないままだ。
ゆっくりと歩を進めるサトシの足裏は、地面を踏みしめる感触だった。ゲンガーの口のなかではあるけれど、半身が地面に沈んだままだからだろうか。そんなことを考えながら歩くうち、ふいに足が空を切った。
「あれっ」
地面がなくなっている。
トンネルの先は、奥ではなく、下に続いている。そう気づいたときには、サトシの体はもう、重力につかまっていた。
「うわ
……
っ」
体が宙に投げ出される。
ゲンガーの口の奥、地へと続く穴に、サトシはすぅと落ちていく。
「あわわわわわっ」
思わず手足をばたつかせても、つかまるところはなにもなかった。周りはもう、完全な闇だ。真っ暗な穴のなかを、サトシはただ落ちていく。
――
どこまで落ちるんだろ。
背筋につめたい汗がはしる。とっくに地面の下であるはずだった。この先がどうなっているのか、ほんとうに、何もわからない。
「ゲンガー」
呼びかけるように声をあげた。そう、ここは、ゲンガーの口のなかだ。そのはずだった。
サトシの知る、みかづき型に大きく笑う口。ときおり、おどかすように大きな舌が躍る。はみがきしてみないかと誘ったときは逃げられてしまった。ゲンガーがいつもあげる、サトシがよく知る、かれのいたずら好きで楽しげな声は、ここから出ているはずだった。
「なぁ、ゲンガー」
その先をどう言ったらよいかわからず、サトシはただ、名前を呼んだ。
「ゲンガー」
と。
落下しつづけるサトシのからだを、ふいにやわらかいものが受け止めた。
「
……
これって」
尻もちをついて座りこみ、サトシは体の下にあるものに触れた。ぬちぬちと弾力があり、温かい。すこし湿っている。ざらついてもいる。
「ゲンガーの、舌?」
――
げん、が!
「わ」
穴全体が震えた。いまのは、ゲンガーの声だ。サトシの問いに応えたのだ。
ゆっくりと、体が浮上していく。舌ごと持ち上がっていく。
ずいぶん深くまで落ちたと見え、地上の明かりまではしばらく時間がかかりそうだった。
「
……
ああ、びっくりした」
――
げん?
腹の底に響くような合いの手が入る。
「おまえの口のなか、すごいなあ。この下って、どうなってるんだろ」
――
げんが~?
「ゲンガーもわかんない?」
――
……
。
あれ。ふいに静かになり、サトシは首をかしげた。
足元のゲンガーの舌は、ゆっくりと、だが確実に、サトシを地上へと運んでゆく。やがて光がぽつりと見えた。
「あ、」
出口! そう思うと同時、ゲンガーの舌が、ふいに大きくうごめいた。
ぐぐっ、とのたうち、サトシの体を一気に押しだす。
「うわわわっ」
ぽーんと弧を描くように、サトシはゲンガーのトンネルの外へと投げ出された。
サトシを迎える地上の光は、ほっとするほどにあたたかかった。
「はー、びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだ!」
「ぴかちゅ」
座りこむサトシのすぐ横で、ゴウが腕を組んでいる。ピカチュウが不満げに鳴き、サトシの膝に飛びのった。
「置いてっちゃってごめんな」
黄色い頭を撫でてやると、ぴんと立っていた両耳がへにょりと垂れた。どうやら、ピカチュウには許してもらえたようだ。
いっぽうゴウは、サトシの目の前にスマホロトムを突き出す。画面には、キョダイマックスしたゲンガーのすがたが映っていた。
「サトシがなかに入っていったあと、俺、調べたんだよ。そしたらびっくりすることが書いてあってさ」
「あ、おれもあった! びっくりすること」
「いいから、ここ見ろ!」
ゴウが指し示した先には、解説の文章が書かれている。いや、どちらかというと、研究者の想像した文章なのかもしれない。
――
巨大な口の向こう側は、あの世へと続いているという。
「
……
あの世」
「そう、あの世! 俺、これ読んでめちゃくちゃはらはらしたんだからな」
「ごめんごめん。でも、あの世とかぜんぜんそんなことなかったよ。ただ落っこちただけで」
「落っこちた!?」
「うん。ずーっとまっさかさまって感じ。でも、ゲンガーが助けてくれたんだ」
「ゲンガーが?」
「そう。ゲンガーの舌がさ、ぐわぁーって。あ、ってことは」
サトシは立ち上がり、振り向いた。大きくそびえるキョダイマックスも、そろそろ効果が切れるころだろうか。首を持ちあげると、ぎょろりと光るゲンガーの目と、サトシの目がかちりと合った。
キョダイマックスしたゲンガーの瞳は、いつもと異なり、ぎらぎらと金色に光っている。だが、その奥にまたたくものは、やはりサトシの知るゲンガーなのだった。
「うん。やっぱり、ゲンガーはゲンガーなんだよな」
「いきなり何だよ」
「でっかくなっても、ゲンガーの口のなかは、やっぱりゲンガーの口のなかってこと!」
な、ゲンガー! と、サトシは大きく声をかけた。
「おれを助けてくれたもんな!」
「
……
げんげろ、げ~!」
深く響くような重低音で、ゲンガーが応えた。
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