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ちこと
2024-10-29 20:52:45
3139文字
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poke小説・SS
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まねっこ
2021年に書いたルカ+サトです。aniメディアのハロウィンポスターに触発されたものでした。
サトシはその日、〝ルカリオ〟をまとって現れた。
「みんなー! おやつの時間だぞ~!」
サトシとゴウの大きな声を皮切りに、サクラギパークがにわかに騒がしくなる。手すりの上から顔を出したふたりを見て、ルカリオは一瞬、身を固くした。かれらの見た目が、いつもと違う。
身にまとっている衣類は見慣れたものだが、頭の上になにか、大きなものを被っていた。サトシの頭のその上に、もうひとつ頭がある。ぴんと立った青い耳、ひくりと動きそうな黒い鼻。そして、やや上を眺めるような赤い目。
ルカリオの視線に気づいたのか、サトシが駆けよってきた。
「へへー、似合うだろ! ルカリオのかっこ!」
「がう
……
」
にっこりと笑うサトシの頭上には、やっぱりもうひとつ頭がある。サトシとは似ても似つかない、自分を
――
ルカリオを模した頭が。
横に視線をそらすと、ゴウとエースバーン、そしてインテレオンが目に入った。同じ景色に映すことで、ルカリオはやっと理解する。ゴウの格好は、インテレオンの姿を模したものだ。
遅れて加わったコハルもまた、常とは異なる様相だった。ぴんと立った耳を頭につけ、首回りにもふもふとした毛を模したものをつけている。イーブイが足元で跳ねているので、ルカリオはこれもすぐにさとった。どうやらかれらの格好は統一されている。
皆、自分のポケモンの格好をしてやってきたのだ。
三人が腕に提げたバスケットからは、いろとりどりのおやつがどんどん現れ、ポケモンたちに配られていく。サトシの手ではうまく掴むことができないようで、ピカチュウがかわりにバスケットのなかに手を伸ばし、おやつを取りだしていた。
ひととおり配り終わるころには、カイリューもゲンガーも、ネギガナイトもウオノラゴンも、自然、ひとところに集まっていた。ルカリオも同じだった。サトシがこちらへ向かって駆けてくるのが見えたからだ。
「みんな、ちゃんとおやつもらったか?」
「ばう!」
「うら~」
にこにこ微笑むカイリューとウオノラゴンが代表して応えている。ネギガナイトは静かにサトシのそばに立っており、いっぽうゲンガーは、サトシの後ろにまわって、興味深げになにかをつまんでいた。
「あ、それ? しっぽだよ、しっぽ」
「げんが」
ゲンガーが手を離すと、青いしっぽの先っぽが、ぽとりと地面に落ちた。ルカリオのぴんと立つそれとは、似ても似つかない。まがいものなのだから当然だ。
「あちゃあ。さっきキクナさんに直してもらったんだけどな」
サトシの足元で、しっぽは頼りなげにぷらぷらと揺れている。
配られたおやつは美味しかった。
手のひらについた残りを舐めとっていると、すぐそばに気配を感じた。首を横に向けるとともに、サトシと目が合う。
「なあルカリオ、どうだ? このかっこう」
サトシは腕を広げてみせた。ルカリオになにか反応してもらいたいらしい。
だがルカリオは、うまく応じることができないのだった。心のうちでうごめいているのがどういうたぐいのものなのか、ルカリオ自身もわからないでいる。
「ほら、おそろい」
そう言って、サトシは手を差し出した。ルカリオの手を模したものに包まれている。
求められている気がして、ルカリオも手を伸ばした。
ふたつの手のひらが触れる。
ルカリオがすこし力を込めると、サトシの手はふにゃりとゆがんだ。
「あれっ」
ルカリオの手のひらに負けるように、ふにゃふにゃと潰れかけていく。サトシは慌てて手を引っこめた。
「あちゃあ」
先ほども聞いた声だ。やはり、ルカリオのそれとは似ても似つかない。
ルカリオの体は、かくとうタイプのポケモンが持つ特徴と、はがねタイプのポケモン、その両方を併せもっている。硬くたくましくあって当然だった。似ても似つかなくて当然だった。
サトシが纏っているものは、どこもかしこもやわらかい。
そう思ったとき、ルカリオは、うごめく気持ちの正体に触れた気がした。
*
「ルカリオ、嬉しくなかったのかなあ」
サトシがぼんやり呟くと、ゴウとコハルもそれに応じた。
「なんか反応薄かったよな」
「お揃い、恥ずかしかったのかな」
ハロウィンのお遊びを終え、全員元の服装に戻っていた。おやつタイムの後、夕飯まで時間があったので、三人でサクラギパークを周り、ポケモンたちの様子をうかがう。
ゴウとコハルの格好を見て、インテレオンもイーブイも、それぞれ嬉しそうな反応を見せていた。だがサトシのルカリオは、ほとんど無言でサトシの格好を見るばかりだったのだ。
「おれは楽しかったんだけどなあ。ルカリオになったみたいでさ」
そんなことをぼやきながら、ゴウたちと一度別れ、ウオノラゴンを探して水場を覗いてみることにした。道を下っていくと、川のように水が流れる場所にたどり着くのだが、道の途中で横を向き、水場を見ようとすると、ちょっとした崖のようになっている。そうやって、先んじて水場を覗くと、ちょうどウオノラゴンが水面に顔を出したところだった。
「あ、ウオノラゴン!」
「うーの」
サトシと目が合い、ウオノラゴンは水から飛び出した。が、勢い余ってか「ごちん」という音がした。すぐそばにせり立っていた岩場に顔をぶつけたようだ。
「うら~」
「おいおい、大丈夫か?」
ウオノラゴンは涙目だ。はやく行って撫でてやろうと、ふいに足元が逸る。
そうしたら、足を踏み外した。かかとが宙を掻き、しばらく先まで地面はない。
「やば
……
っ」
ひやり、足元から寒気が這い上る。
「がう!」
強い声がして、サトシのお腹を、なにかが支えた。
直後、落下は止まった。
*
「さ、さんきゅー、ルカリオ」
「
……
わう」
片腕にぐいと力を込め、ルカリオはサトシを引き上げた。地面に足をつけ、サトシはほっと息をついている。それを目にし、ルカリオも思いきり息を吐き出したくなった。
サトシの肩をぽん、と撫でると、
「うん、大丈夫」
と穏やかな声が返ってきた。それで、ルカリオも今度こそ息をつく。
サトシの姿は、見慣れたものに戻っていた。それでもルカリオは、心のうちに、まだほんのすこしざわめきを残している。
すこし目を離しただけで、崖から落ちかけられては、ルカリオのほうが落ち着かない。サトシとルカリオとでは、あまりにも違うから。
見た目を似せようとしても、違うものは違う。サトシの手はやわらかいままだし、腕も脚も、さっき触れた胴もなにもかも、ルカリオのようにはならない。
だから、こうして守ることができて、やっと心が落ち着いてくる。
サトシとルカリオとでは、あまりにも、違うから。
「あれ、おれの帽子」
「わう?」
ぶるる、と鼻を鳴らし、サトシの視線を追う。崖から落ちかけたはずみで、サトシの帽子が頭を離れ、宙を舞っていた。
赤い帽子はゆっくりと揺れ、やがて、ルカリオの頭にぽすんと落下した。
サトシの視線はルカリオに向く。たちまち、その顔いちめんに笑みが広がるのが見えた。
「
……
ははっ。ルカリオ、けっこう似合うぜ! 見てみろよ」
ぐいと肩を掴まれ、崖の下を覗かされる。目線の先にはウオノラゴンがいて、その向こうに水面があり、そこにルカリオの姿が映っていた。
サトシの赤い帽子を被っている。
ルカリオは、一瞬固まった。ルカリオが、サトシの帽子を被っている。
ふうわり、と、心のうちがざわめいた。
ついさっきまで、サトシは、とても嬉しそうにルカリオの格好をしていた。
ルカリオは、その理由を、とうとう理解したのだった。
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