ちこと
2024-03-14 00:00:26
3603文字
Public poke小説・SS
 

Star with Sol #1

サトシとソルガレオが再会するお話、1話目です。つづきます。

 まばゆい日差しが降りそそぐ。
 その光を遮るほどに大きな影が、サトシとピカチュウの顔にかかった。
 肩口の相棒と顔を見合わせ、目前の巨体を振りあおぐ。
 突然現れた存在に、しかし驚いたのは最初だけで、あっという間に喜びのほうが全身を満たした。
――ソルガレオ!」
 太陽のたてがみをもつウルトラビースト――サトシたちの「ほしぐも」は、サトシの声に応えるように、ひとつ頷いた。


〈1〉

「ソルガレオ。おれたち、どこに向かってるんだ?」
「ぴーか」
 返答はなく、ソルガレオは、大地を駆けるかのようにその四肢を動かし進んでいる。地面も何もなく、ただきらめく光がトンネルを成しているかのようなこの空間を、サトシは以前にも通ったことがあった。初めてのときは、ちょうどいまと同じように、ソルガレオの背に乗って、ソルガレオに連れていってもらったのだ。
「ここ、ウルトラホールだよなぁ」
「ぴかぴか」
「ってことは、どこか別の世界に向かってるのかな」
 ソルガレオとはいましがた再会したばかりだった。前触れもなくサトシとピカチュウのいる地に現れると、足をたたんで屈み、サトシに向かって背を示すような仕草をしてみせた。促されるままにその背に乗ると、ソルガレオはすぐさま立ち上がり、宙に向かって吠え立てる。空を切り裂くように現れた穴に向かって、サトシとピカチュウを乗せたまま、ソルガレオは駆け出したのだった。
 それからは、ずっとウルトラホールを進んでいる。ソルガレオが開けた、サトシたちの世界と別の世界を繋ぐトンネルだ。道の先は同じ光がつづくばかりで、どこか目的地が近いようには見えない。
 まあいいか、そのうち分かるだろうと、サトシは考えるのをやめた。乗り出していた身をすとんと降ろし、ソルガレオの背中に体をあずける。
 ひさしぶりに触れた白い背は、もしかしたら以前よりもさらにたくましくなっているのではないだろうか。記憶以上に頼もしく見えるそれを撫でると、太陽のような温かさを感じた。この感触は、記憶とまったく違わない。
――ひさしぶりだなぁ。元気だったか?」
 ぐる、とソルガレオの喉がかすかに鳴る。
「そっか、よかった」
 最後に会ったのは、サトシがアローラを発つ直前だった。それからいままでサトシとピカチュウがどんな冒険をしてきたか、ソルガレオはどんなふうにすごしていたのか。話したいこと、伝えたいこと、聞きたいことが、サトシにはたくさんあった。だが、こうしてソルガレオに触れていると、それだけで心のどこかが満たされていく。
 ソルガレオの飛行をじゃましないよう、広い背中をそっと、少しだけ撫でる。と、触れている背がふるえ、「ぐるる」と喉が鳴る音が聞こえた。撫でる範囲をひろげてみると、ぐるぐるという音はさらに続く。
 ――これって。
 手を伸ばし、今度は首の後ろのあたりに触れてみる。くるる、ぐるるる、と、大きな喉がふるえて鳴る。そのころには、サトシは笑みを抑えられなくなっていた。
 ソルガレオ、なんだかガオガエンにそっくりじゃないか。
 厳密には、進化する前のニャビーやニャヒートの頃の記憶が多いか。とにかく、サトシが撫でているうちに喉を鳴らしはじめるさまは、ソルガレオもひねこポケモンたちもまるで同じだ。
 ぐるぐると鳴る音が嬉しくて、サトシは撫でる手が止まらない。
 撫でられるがままだったソルガレオは、しかしそのうちに「ぐるぅ」と鳴き、首を上げた。
「わっ、ソルガレオ?」
 やりすぎちゃったかな。サトシがそう思っているうちに、光ばかりだったウルトラホールの空間に亀裂が走る。
 ソルガレオが開けた、どこか別の空間へとつながる出口だ。四肢を大きく動かして、ソルガレオはそのなかに入っていった。

 その世界は、サトシにとっては初めての場所だった。ウツロイドの世界とも、ベベノムの世界とも、名前も知らないウルトラビーストの世界とも違う。
 きっとここも誰かの、ウルトラビーストの世界なのだろう。どんなポケモンがいるのかと、サトシは初めて見るその世界に目を巡らせる。
 だがサトシが周囲をよくよく見ようとする前に、ソルガレオは足早に地上へと降りていってしまう。大きな岩のようなものの脇に降り立つと、その岩を背に、ソルガレオは脚をたたんだ。
 その姿勢に促されるように、サトシはピカチュウとともにソルガレオの背中から降りる。顔を上げ、改めて周囲を見渡した。

「なぁソルガレオ、ここって――
 問いかけながら振りかえる。だが最後まで言う前に、サトシの顔は白いたてがみに埋まった。
「んん?」
 あったかい。ソルガレオだ。ソルガレオが――サトシに顔をすり寄せている。頭をこすりつけている。
「わっ、ちょ、ソルガレオ」
「ぐるる」
 喉がふるえる音だ。さっきまでもきこえていて、なぜか急に止まってしまっていた音。それがふたたび鳴っている。
 サトシが気づく間にも、ソルガレオはぐるると喉を鳴らしながらサトシに頭をすり寄せる。すりすりというよりぐいぐいと、押しつけてくるように頭が迫る。
「うわっとと」
 ソルガレオの頭はサトシの何倍も大きいのだ。勢いに負けてバランスを崩しかける。ピカチュウは「ぴぃっか」と、サトシの頭から降りてしまう。
 いつもならサトシに気を遣うように触れてくれるのに、今日のソルガレオはなんだかちょっと強引だ。
 強引に、頭をすりすりと。
……もしかして」
 サトシはそういうしぐさにも覚えがあった。
 すり寄ってくる顔の、顎の下あたりを撫でてやる。ごろごろごろ、と喉がひときわ元気に鳴ったと思うと、ソルガレオは顎を反らせた。
「もっと?」
 顎の下、首の横から背中のほうへ。ソルガレオが向けてくるところに手のひらをあて、サトシは「よ~しよし」と撫でていく。
……ぐるる」
 いつのまにか、ソルガレオの目が細められている。地面に座った姿勢も、いつもよりも脱力して見える。
「きもちいいか~? ソルガレオ」
「ぐるぅ」
「そっか。おまえ、これがしたかったのかぁ」
 がまんできなくなってしまったのだ。ウルトラホールでの移動中に、サトシがソルガレオを急に撫ではじめるから。
 動きながらではなく、リラックスして、思いきり撫でてもらいたかったのだ。
「気づかなくってごめんなぁ」
 そう言いながらも、サトシは笑みがこぼれるのを抑えきれない。サトシの横で、ピカチュウも嬉しそうに笑っている。きっとサトシと同じ気持ちなのだろう。
 ソルガレオが――ほしぐもが甘えるなんて、いつぶりだろう。サトシの何倍も大きくたくましく育ったかれに、あのちいさな赤ん坊の笑顔が重なる。
「そうだ。ソルガレオ、おなかすいてないか?」
 空色の瞳がまばたく。ソルガレオはこてんと首をかしげた。どうやら空腹の心配はないようだ。
「ならいいんだけど。金平糖、アローラの家に置いてきちゃったからさ」
 ほしぐもの主食だった金平糖入れは、サトシがアローラを発つときにククイの家に置いてきた。いつか、ソルガレオがまたメレメレ島に現れるかもしれないと思ったからだ。サトシは自然と、ソルガレオとの再会はアローラの地で起こるものと思っていた。
「あれ……でも」
 今回は違った。サトシが居た場所はアローラでも、アローラの外でかつてウルトラホールが開いた雪原でもない。
 ウルトラホールが開く場所は、限られていたのではなかったか。
「ソルガレオ――どうしてあそこにいたんだ?」
 青い瞳がこちらを見る。ソルガレオの瞳のまわりは、まるでアローラの夜空のようだ。不思議な光がいくつも、きらきらとまばたいている。
 その宇宙のような瞳でサトシを見つめると、ソルガレオは顎を伸ばし、サトシの服を口でつまんだ。
「え、ちょ」
 引っぱられ、バランスを崩し、サトシはそのまま、寝そべったソルガレオの横腹に倒れこむ。自分の体のそばにおさまったサトシへ、ソルガレオは首を伸ばし、顔をすり寄せた。
 顔も、体も、ソルガレオに包まれる。すべてがぽかぽかと温かい。
「ぴーかちゅ」
 耳もとで相棒の声がした。視線を向けると、サトシの頭のすぐそばでピカチュウがまるくなっている。こちらも全身をソルガレオに預け、ぬくぬくと、とても心地よさそうだ。
……まぁ、いっか」
 なんだか眠くなってきた。
 ソルガレオもリラックスしているようだし、きっとここに危険はないのだろう。
 まずは休んで、これからのことは目が覚めてから考えればいい。
 いまはこうして、一緒に眠ろう。


 すぴすぴと、穏やかな寝息が二対きこえてくる。
 自身の体に全身を預け、心地よさそうに眠っている。
 サトシとピカチュウの寝顔を、ソルガレオはじっと見つめていた。