ちこと
2020-09-15 12:12:16
1608文字
Public poke小説・SS
 

たいよう

ゲン+サト。新無印37話派生で、アローラ初上陸のゲンガーの短いお話です。

 こんなにもまぶしい太陽があるのかと、ゲンガーは初めて知った。
 アローラ地方と呼ばれるその地は、色濃い自然に溢れていた。空も、海も、森の木々もなにもかも、鮮明で深い色に満ちている。
 目に映る自然すべてが印象深く、そのなかに、ごくごく当たり前に混じって生きるポケモンと人間たちを、ゲンガーは不思議な心地で眺めていた。
 それらすべてを照らす太陽は、ゲンガーがよく知るはずの太陽よりも、大きく、まぶしく、暖かかった。
「ゲンガー、暑くないか?」
 アローラの地で、ゲンガーがはじめてモンスターボールから出てきたとき、サトシはそう訊いた。ゲンガーの体温はもともとまわりの生き物よりも低いので、外気との温度差に体が驚くと思ったのかもしれなかった。
 そのときゲンガーは、ほんのすこしだけ思案したのち、「げん」とひとこと、首を横に振った。
 
 月が夜を照らす。
 ゲンガーは、ふたたび不思議な心地になった。アローラの空は、夜ですら明るかった。
 サトシの部屋だというロフトの窓から、ゲンガーはふわりと外に出ていた。木で組まれた屋根の上にちょこんと座り、夜空を眺めていた。
 月が大きい。白い光が海に煌々と落ちる。暗いはずの夜の海は、細かな光に溢れていた。
 ゲンガーは、昼の海も夜の海も知っている。三年をすごし、いまも暮らすあのクチバの屋敷からも、海を見ることができるからだ。
 けれども、ゲンガーの眼前にひろがるアローラの海は、ゲンガーの知る夜の海とはまるで違って見えた。月だけでなく星々も、大きく明るく、数えきれないほどに散りばめられて、夜空で輝いているからだった。
 アローラは、太陽も月も、驚くほどにまぶしい。だがゲンガーは、それがいやではなかった。いやではないと、むしろ好ましいという気持ちが、自然と芽生えていた。
 だからずっと、空を眺めていた。
 
「ゲンガー」
 
 ごくごくちいさな声が、ゲンガーを呼んだ。
 振り向くと、ロフトの窓から、サトシがひょこりと顔を出していた。
「ここにいたんだな」
 あくまでささやくような小声で、サトシが屋根の上へと乗り出す。慣れたように、ゲンガーの横に腰をおろした。
「眠れないのか?」
……げん」
 昼間のように、首を横に振る。
「そっか。ならよかった」
 それだけ言って、サトシはゲンガーに倣うように、夜空を仰いだ。
 
 さぁ、と夜風が肌を撫でる。そのやわらかさが、ちょうど眼前の月明かりに似ていて、ゲンガーは自然と目をほそめた。
 それを目にとめたのか、サトシがそっと尋ねる。
「きもちいいか?」
「げんが」
「そっか。よかったぁ」
 サトシの言葉尻がふにゃりととろけた。ずいぶんと嬉しそうに聞こえて、ゲンガーはまばたきをしてサトシを見る。
 サトシは微笑んでいた。
「おれ、アローラの空も海も大好きなんだ。だから、ゲンガーが気に入ってくれたんなら、すげー嬉しい」
 目をほそめて、顔をくしゃくしゃして、サトシはにかりと笑った。
……げん」
 ゲンガーの笑みが、自然と深くなる。いつもみかづき形に笑っている自分の口が、心からの笑みに満たされていくのがわかる。
 ゲンガーの前で、サトシは笑っていた。サトシのそういう顔を見ると、ゲンガーはいつも心地よくなる。
 その心地がなにかに似ていると、ゲンガーはふと気づいた。
 顔をあげて、また月を見る。夜の向こうにあるはずの、朝になればふたたび昇ってくる太陽のことも、月の向こうに見えてくる。
 
……げんげろげー」
 
 アローラのまぶしい太陽も、月も、きらいではない理由を、ゲンガーはふいに理解した。
 まぶしくて、あたたかくて、それでいて、やさしいと思う。
 それは、
 
 ――おれの仲間になってよ。
 
 あの日から、ゲンガーに幾度となく向けられた。
 あの笑顔に、とてもよく似ていたからだった。