Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ちこと
2016-08-05 20:49:10
1944文字
Public
anpk以外のジャンル
Clear cache
無題
妖ウォのイナ+ウサです。
「妖怪も風邪って引くんですなぁ」
「うるさいダニ
……
」
黄色のスーツを脱がされ、兎らしさのかけらもなくなってしまった状態で、USAピョンはゆるゆるとため息を漏らした。
「熱あるんだからこんな篭るの着ちゃだめでしょ〜」とあれよあれよと脱がせていくイナホに抗うのは、常ですら難しいことなのに、熱でふらふらする現状では余計に無理な相談だった。
「まさにナメ吉ですなぁ。そういえばUSAピョンってうさぎじゃなくてただの小動物だったっけ」
「テメー
……
」
ベッド脇でニヤニヤと笑うその眼鏡がうらめしい。
スーツを脱がされ、ベッドに放り込まれ、それからずっとこの状態だ。もはや放置である。
「すこしは看病らしいことしたらどうダニ」
「ええ〜〜このわたしがすでにナイチンゲールのごとく清らかで完璧な看病をしているというのに!? USAピョンぜいたく〜〜」
「テメー
……
」
つい人さし指がうずうずと動くが、ヘルメットがないのでベイダーモードになりようもない。
(さてはこいつそこまで分かって煽ってるダニ?)
少なくとも目の前の彼女からは、風邪をひいた同居人をいたわる様子は微塵も見えない。
そもそも妖怪になってから、風邪などひいたことはなかった。先のイナホの言葉ではないけれど、まさかいまの自分が風邪をひくとは思わなかったのだ。
妖怪になってからの自分が。
「
…………
」
丸まって背を向け、だんまりしてしまったUSAピョンに、イナホは追撃をやめ、そのままふらりと部屋を出ていってしまった。
ばたん、と乾いた音を立てて、ドアが閉まる。
やっと静かになったダニか
……
と息をつこうとして、USAピョンは、なぜだか逆に、息苦しさをおぼえた。
しん、と、痛いほど静まり返ったイナホの部屋に、自分の息の音だけが響く。
目を閉じてみたが、寝つけそうになかった。
(はかせ
…………
)
妖怪になってからは、風邪をひいたことなどなかった。
だけど生前、たったひとりの友人といたときは、何度か体調を崩したような記憶がある。
忙しい間をぬって、懸命に看病し、いたわってくれた、かの人の顔を思い出す。
たまらず、ぱちりと目を開けた。
目を開けたところで、飛び込んでくるのは、誰もいないこの部屋だけだった。
「うー
…………
」
声にならない声が漏れる。イナホにはぜったい聞かれたくない声だ。
そのときふいに、ドアの向こうに気配を感じた。
「USAピョン?」
がちゃり、ドアが開くと同時、USAピョンは思わず目を瞑ってしまった。
「ありゃりゃ、寝ちゃったかぁ」
ひとりごとを漏らしながら、気配が近づくのを背中で感じる。
なぜか、かちゃかちゃ、という軽い音が、足音と一緒に聞こえていた。
「まぁベタというか、定番中の定番だけど」
ことん、と、テーブルの上に何かが置かれる。
「なつかしいな〜、リクが熱出した時によく作ったんだよねぇ」
ふわりと、あたたかい香りが鼻腔をくすぐった。
「せっかくこのイナホちゃんが、手ずから食べさせてあげよーと思ったんだけどな〜。まー、起きたときには食べやすい温度になってるんじゃない?」
それじゃあUSAピョン、あとでね。
ぱたん、と、ドアが静かに閉まった。
ぱか、と、USAピョンは閉じていた目を開ける。
テーブルに目を向けると、ひとり分の土鍋と、れんげと、取り皿が置かれていた。
「
…………
」
それをじっと見つめ、それからUSAピョンはおもむろに、もう一度目を閉じてみた。
するとまぶたのうらにぼんやりと、この部屋の様子が浮かんでくる。イナホが座る勉強机、いつも自分が寝るときにこもる棚、さっき鍋が置かれていたテーブル、それから、いま自分が寝ているベッド。
ぱかりと目を開けると、それと同じ光景が目の前にあった。
(あたりまえダニ)
あたりまえだ、いま自分は、イナホの部屋を思い浮かべたのだから。
寸分たがわず思い浮かべることができたくらいには、USAピョンはずっと、この部屋で、イナホといるのだ。
そんなことに思い至って、するとなぜだか、さっきと同じはずの静まり返った部屋が、急にやさしくなった気がする。
ここはかの人と過ごしたあの場所ではないし、いまいつも一緒にいる彼女と、かの人は似ても似つかない。
それなのに、USAピョンはきょうもここにいる。
「
……
おなかすいたダニ」
もぞもぞと起き出して、テーブルへと向かう。
きちんと正座して、手を合わせた。
「
……
いただきますダニ、イナホ」
ぱか、と、鍋の蓋を開けた。
病人とは思えないほど勢いのある怒りの声が、大きくイナホの名を呼ぶのは、それからすぐのことだった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内