ちこと
2016-06-26 00:54:45
1936文字
Public poke小説・SS
 

あわあわと背中

仲良くお風呂に入るゲコ+サトです。

 ごし、ごし、ごし。
 白い泡がぷかぷかと舞い、熱いほどの湯気がほわりと漂う。
 上下に動かす手を止めることなく、サトシはゲッコウガに話しかけた。
「きもちいいか? ゲッコウガ」
「こうがっ」
 泡立てたスポンジで、ゲッコウガの背中をごしごしとこする。
 いつのまにか大きくなったその背中は、広く、力強く、両手でしっかり力をこめてやらなければ足りない。するとはね返るような感触があって、そんなところにも、ゲッコウガの日々の鍛錬のあかしが見てとれる。
 かれがケロマツだったころを思い出して、サトシは知らず顔をほころばせた。
「こうが?」
 大きく声を洩らしたわけでもないのに、ゲッコウガはそれに気づいたのだろうか。きょとんと首をかしげてきたので、サトシの笑みがことさらに深くなる。
「大きくなったなぁ、って思ってさ」
 進化したんだから、当たり前なんだけどな。おまえが頑張って強くなってくれたのも、よくわかってるしさ。
 そう続けて言いながら、サトシは手を動かした。首すじ、脇、背中と、ともにここまで来てくれたかれをいたわるかのように洗ってやる。
 ゲッコウガは肩の力を抜いて、サトシにされるがままとなっている。目をほそめた表情が、心地よいと語っている。
 いつもバトルで見せる逞しさや鋭さはいっとき形を潜めて、ゲッコウガは、サトシに背中を委ねていた。 

 いまはシンクロしているわけではない。
 だけど、ゲッコウガの気持ちが手にとるようにわかる。

 サトシが動かす手と、先ほどの言葉に、かれはくすぐったさすら感じながら、心を温めている。
 それがふしぎなほどによく伝わってくるから、サトシもつられて顔をほころばせた。
 ボディーソープの香りが、ふっとふたりの鼻をかすめる。


***


「こうが、こう」
「え、おれも?」
 ゲッコウガの背中を流してやり、そろそろ出るかと言おうとしたところで、サトシはすとん、と座らせられた。
 背後にまわり、ゲッコウガは、先ほどサトシが使っていたスポンジを手にとる。
 サトシのまねをするように、スポンジを握り泡立てると、またまねをするようにして、サトシの背をこすり始めた。
「わ、いてて」
「こう?」
「はは、大丈夫」
 力加減が難しいらしく、すこしひりついた痛みを感じた。
 サトシがあげた声にすぐ応じて、ゲッコウガは手をゆるめたようだった。痛みはおさまり、今度はなぜるようにして、スポンジが背中を滑る感覚がある。
「ふっ、ははっ、くすぐったいよゲッコウガ」
 すこし困ったように笑いながら、サトシは肩をすくめた。
 するとどうだろう、ゲッコウガは、どうしたものかとおろおろする。
「こうが……
 やはり、力加減がうまくいかないようだ。
 慣れないことに戸惑いながら、けれどもやめることはせず、ゲッコウガはまたサトシの背をこする。
 先ほど自分がしてもらった感覚を思い出しているのだろう、首すじ、脇、背中と、順々になぜていく。
 サトシは小刻みに震えながら、吹き出すのをこらえていた。
 ゲッコウガの手つきはとても優しい。優しいからこそ、どうしてもくすぐったい。
 けれどここで吹き出してしまっては、さらにゲッコウガが戸惑ってしまうだろう。だからサトシは耐えているのだが、やはりくすぐったいものはくすぐったい。
 ゲッコウガはきっと、いたわるように、背を洗ってくれているのだろう。先ほどのサトシと同じように。
 時おりサトシの背に、スポンジではなく、ゲッコウガの手がぺたりと触れる。大きいな、とサトシは思うが、それは裏返せば、ゲッコウガにとって、サトシの背は小さいということでもあるのだろう。
 だから、よけいにやりにくいのかもしれないな。
 それでも、ゲッコウガのがんばりがよくよく伝わるので、サトシの顔はほころばずにはいられない。
「こうが?」
 サトシの笑みに気づいたのだろう、ゲッコウガが怪訝そうに尋ねる。
 それには応えず、かわりにサトシは、微笑んでゲッコウガの顔を見あげる。
 ふわふわの泡と湯気の中で、ふたりの視線がかちりと合った。
「ありがとな、ゲッコウガ」
「こう、こうが」
 うなずいて、ゲッコウガも、サトシの背中を流してやる。

 そして最後に、ぽん、と、手のひらでその背をやさしく叩いた。
「ゲッコウガ?」
「こう」
 それきり、ゲッコウガは応えなかった。
 けれど、ほそまったその瞳の奥に、いたわるような、慈しむような、なつかしむような色が見てとれた気がした。

 さっきおれが思ったみたいなことを、ゲッコウガも思ったのかな。
 そんなことを考えながら、サトシはまた、くすぐったさを感じた。