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ちこと
2016-03-28 18:03:33
3021文字
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poke小説・SS
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熱
XY&Z真っ最中の頃に書いたゲコ+サトでした。ちょっぴり不穏を楽しんでいます。
「あれ? ねえサトシ、ケロマツどこ?」
「ああ、ケロマツならさっき、森の向こうのほうに行ったぜ。はやく特訓したいんだってさ」
こんなやりとりが、たとえばランチの後片付けをしているときなどによくあった。ユリーカに応えたサトシもまた、手に持った食器をすべて片付けると、特訓に合流しようとピカチュウともども駆けていったものだ。
それは、仲間たちの何体かが姿を変え、また顔ぶれが変わったいまもそうかわりない。
トレーナーに似たからか、元来の性質もあるのか。
サトシのポケモンたちは、特訓をするのが好きだ。
すぱっという鋭い音とともに、太い枝が真下に落ちる。
「おっ、やってるな」
慣れ親しんだ声が聞こえたからか、ゲッコウガは「いあいぎり」の刃をしまう。
「おれも混ぜろよ、ゲッコウガ」
「ぴぃーかちゅう」
サトシの目をみると、ゲッコウガはしずかに頷いた。
ここ最近、サトシはとくに、ゲッコウガと特訓を行うことが増えた。
もちろんほかのポケモンたちとも特訓しているが、元来活発な仲間たちは、サトシが先導せずとも自主的に特訓をはじめることも多い。ルチャブルなどその最たるもので、近ごろは兄貴分に影響されてか、オンバーンもそれに倣って動き出しているようだった。
そんなときはかれらの自主性に任せることにして、サトシはしばしば、ゲッコウガとの時間を密にしている。
理由はもちろん、いまだ謎の多いゲッコウガの現象についてだった。
「よぉし、いくぞゲッコウガ!『いあいぎり』!!」
「こう、がっ!!」
サトシの指示に応え、ゲッコウガが白刃を生じさせる。
それに対し、ピカチュウは自己の判断で、尻尾を銀色に硬化させる。
「いあいぎり」と「アイアンテール」がぶつかりあい、ぎぃん、と重い音が響いた。
「まだまだ!『みずしゅりけん』!」
「こうっ!」
「ぴぃっか
……
ちゅぴぃっ!!」
何度も技がぶつかりあい、そのたびに衝撃波が森の木々を揺らす。
だが、そうした攻防を何度か繰り返したものの、サトシたちが求める現象は起こらなかった。
いったん休憩しようとサトシが声をかけ、三人で適当な切り株に腰掛ける。
「うーん
……
やっぱりそう簡単にはいかないなあ」
「こう」
こくりと頷くゲッコウガは、どこかもどかしげに、手のひらに視線を落とす。
サトシとゲッコウガに生じた現象は、ゲッコウガの力を飛躍的に上昇させた。タマゴから生まれたばかりのケロマツのころから、孤高に強さを求めてきたかれにとって、願ってもみないほどの力だったことだろう。
だからこそ、自分たちの意思で制御しきれない、いまのこの状況に焦らされる。サトシもそう思うのだから、力を発揮するゲッコウガ自身にとっては余計にもどかしいことだろう。
シトロンもなにかと気にかけ、何度かデータを取ってくれているが、まだはっきりとした分析結果は出ていない。そもそも、あの現象そのものがほとんど起こらないのだから、データの集めようがなかった。
とにかくもう一度あの現象をと、こうしてピカチュウの力を借りて擬似バトルをしてみるものの、まだ件の現象に至ったことはない。それは今日も同じだった。
「ぴかぴ、ぴーかぴか、ちゅう?」
なにか思い当たることはないの、と相棒が尋ねる。当人であるサトシにも、なにか自覚症状はないのか、ということだろう。
「うーん
……
いっつも、なんか気がついたらああなってるって感じだもんなぁ」
「こう」
「ただ、いっつもすっげぇ熱くなるんだよな。前も言ったけど、気持ちも、体も。で、がーっとなって、ぐわーって
……
」
「ぴかぴ
……
」
相棒の相変わらずの表現力に、ピカチュウはうなだれる。
しかし当のサトシは、いまの言葉を選ぶなかで、ふいになにかに思い至った。
「
……
そうだ、いつも、熱くなるんだ
…………
」
「ぴ?」
「おれ、いつも、熱くなるんだよ」
言って、ゲッコウガに向き直る。
かれが見つめていた手を取り、ぎゅうと握った。
「目の前の相手のこと、バトルのこと、それからなにより、おまえのことを考えて
……
そしたら、すっげぇ、すっげぇ、熱くなるんだ」
驚いたように開かれたゲッコウガの目を、サトシは見つめる。
「どんなに強い相手でも、負けるかって
……
おまえならやれるって、おまえが諦めない限りおれも諦めないって、そう思ったときに熱くなって、そしたらおまえが、応えてくれるんだ」
ゲッコウガが目を瞬かせる。
ぎゅうと握っていた手が強く握り返されたのを、サトシは感じた。
そうだろ、ゲッコウガ。
そうしたら、おれたち、ひとつになるんだ。
どくんと、鼓動が大きく高鳴るのを、サトシはたしかに感じた。
ケロマツのサトシへの想いは、ヒャッコクジムでゴジカに語られたとおりのものだった。
だから、ゲコガシラになっていたかれは、否定することもつけ加えることもなく、サトシに強く頷いて応えた。
その想いは、ゲッコウガになったいまも、かわりない。
たがいの想いに全力で応えあうことの、なんと心地いいことか。なんと胸の熱くなることか。
その熱の導くままに、サトシとゲッコウガはひとつになる。
その瞬間を思い出し、ゲッコウガの鼓動が、大きく大きく高鳴った。
「
――――
っ」
「こう
……
ッ」
ひゅう、と瞬間、サトシとゲッコウガの呼吸がとまる。
「ぴ!?」
ふたりの異変にピカチュウは驚くが、それも一瞬のことで、ふたりはすぐに肩の力を抜いた。
深く息を吐きながら、呆然と、確かめるようにサトシはつぶやく。
「
……
いま、だった、よな」
「こう、が」
そう頷くゲッコウガも、サトシと同じ顔をしていた。
はっきりとした姿の変化は起こらなかった。
だけどたしかに、この一瞬、あの変化と同じ感覚だった。
ピカチュウには、サトシとゲッコウガのあいだに生じたことの、たしかなことはわからない。ふたりにはありありとわかるのに、ピカチュウには図りかねることがあるのだ。
それでも、ピカチュウにもわかった。ふたりはいま、たしかな感覚を掴みかけた。
肩で息をし、頬をわずかに蒸気させ、サトシはゲッコウガの手を握る。
その手を握り返したゲッコウガは、サトシのひたいに、おのれのひたいを寄せてきた。
「!」
サトシはわずかに驚いたが、すぐに、静かに目を閉じる。
いま得た感覚の残滓を、ひとつ残らずふたりで拾いにいくかのように。
サトシの心は、あまりに大きな高揚で満たされていた。
そして、サトシの心がそうだということは、かれの心も同じだということを、サトシはよぅくわかっている。
よぅく、わかったのだ。
なんて、心地いいことだろう。たまらない感覚だろう。
こんなふうにひとつとなって、あの、ただひとつの力に繋がるというのか。
それはあまりに甘美なことに思えた。
かつて感じた痛みも、疲労も、どこか彼方へととろけて消えてしまうかのように。
サトシとゲッコウガは、ひとつになるのだ。
たがいの想いが、重なり、熱を持ち、とろけて、それがひとつの力となって凝固するのだ。
かつて語られた試練も、危うさも、その熱の前にとけてしまうかのように。
サトシとゲッコウガは、しばしの間、熱を掴んだその余韻に浸りつづけた。
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