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ちこと
2016-02-11 22:27:56
2521文字
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poke小説・SS
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ハンドメイド
XYの頃に書いたほのぼのサト+ピカです。サトシがクッキーを作(る手伝いをし)たよという話。
さく、という小気味よい音が鳴り、クッキーにちいさな歯型がつく。
歯型のぬしは、口のなかのものを飲みこむと、満足げにひと鳴きした。
「うまいか? ピカチュウ」
「ぴーかっちゅう」
サトシの肩に乗ったまま、ピカチュウは頷く。かれがご機嫌に食べているクッキーは、なんとサトシが手ずから焼いたものだった。
とはいえ、サトシがすべて作ったというわけではない。
聞けば、ユリーカが自力でクッキーを作りたがっていたという。だが刃物こそ扱わないものの、オーブンで火傷をしてしまう恐れもある。セレナが付き添えればよかったが、あいにく彼女は次の大会へ向け、ポケモンたちのアクセサリーをあつらえようと買い物へ出ていた。
ユリーカがどうしたものかと逡巡していたところに、たまたまサトシが通りすがった。そのまま、ふたりでクッキーを作る運びとなったのだ。
「生地はほとんどユリーカが作ったもんなあ。そりゃうまいか」
「ぴーか」
相棒の料理の腕が芳しくないことは、ピカチュウはよぅく知っている。かれひとりでこれが作れるとは、微塵も思っていなかった。
「でもさ、焼くのはおれがやったんだぜ。いい焼き色だろ」
ユリーカが火傷をしてはいけないと、オーブンからの出し入れはサトシが請け負ったのだ。
「ぴーか、ぴかぴ、ぴかちゅ?」
でも前にポフレを焦がしてたよね
……
とピカチュウがつつくと、サトシは気まずげに顔をしかめた。
「だから、ユリーカに見てもらってたんだって
……
そりゃ、おれひとりじゃ焦がしてたかもしれないけどさぁ」
そういえば、デントのためにアイリスとふたりで料理をしたときも、サトシは鍋のなかのものを見事に焦がしていた。
それをピカチュウが言及すると、サトシはますます渋い顔をする。
「うーん、やっぱおれ、料理って向いてないのかな
……
」
「ぴーかちゅ」
ピカチュウは否定はしなかった。
サトシの不器用さはいまに始まったものではないし、そもそもかれはおそらく、料理をするにあたっての「ちょうどいい加減」というものににぶいのだ。
だから焦がす。加減を間違える。
そのあたりの素養は、かれの母親からは遺伝しなかったらしい。
ピカチュウがもろもろ考えているあいだに、当事者であるはずのサトシは、ピカチュウの前のクッキーにすいと手を伸ばしていた。
「おれはやっぱり、作るより、食べるほうがいいや」
へらりと笑い、大口をあけ、クッキーを放りこむ。
よくよく咀嚼し、飲みこんで、満足げに目をほそめた。
「うまい!」
「ぴかちゅ
……
」
うまいのは当たり前だ。レシピを教えたセレナと、それを忠実に再現したユリーカの腕がいいのだ。
つぎのクッキーを手に取りながら、ピカチュウはいやな予感に首をかしげた。
いまの言葉をきくに、この相棒はもしや、この先ろくに料理をする気がないということだろうか。
いや、多少なりとも自炊はするべきだ。いつも料理上手の仲間が手を貸してくれるという保証はない。ピカチュウ自身の食事のためにも、できることなら料理はできるようになってほしい。
しかし本人がやる気になったところで、あの腕ではいかんともしがたい。
これは案外、由々しき問題なのかもしれない
……
顔をしかめながら、ピカチュウはつぎのクッキーに手をかけた。
さく。
……
やっぱり、美味しい。
「ぴーか
……
」
小声で独りごちる。
不思議だ。先ほどからひそかに思っていたことだが、このクッキーはどうも美味しすぎる。
もちろん、セレナが作るお菓子はいつも美味しい。だがこの美味しさは、いつもと何だか違う気がする。
ユリーカの腕だろうか。彼女はじつはお菓子作りの才を秘めていたのだろうか。
「ぴかちゅ
……
?」
いやいやと、首をかしげる。
信じられないほど美味しいものに出会う機会は、そう多くもないがあるにはあった。そうした経験から感じた「美味しい」と、この「美味しい」は、根本的に、なにか違う。
「どうした? ピカチュウ」
きょとんとした声を聞き、ピカチュウは相棒を見た。
「
……
ぴかぴ
……
」
思わず呆れた声が出る。口もとにクッキーの食べかすを残したままだ。
仕方なく、小さな指先でつまみとってやる。
「あ、さんきゅ」
「ぴかぴか」
もったいないので、ピカチュウはそのまま、サトシの食べかすを口に運んだ。
「ぴ」
あ。
同じだ。
同じなのだ。
……
なるほど、そういうことか。
「ぴかぴ」
「わ、ピカチュウ、くすぐったいって」
頬にまだ残っていた食べかすを、ピカチュウはそのままぺろりと舐めとる。
なんだかいやに美味しいと思う、思ってしまう、その理由はあまりに単純だった。
(だってこれは、サトシが)
あまりに単純だ。
作られる工程のなかに、かれの手が入っている。
「かれが手ずから焼いた」クッキーになっている。
それを知ってしまっただけで味覚に影響するのは、いつも美味しいお菓子を作ろうと腐心するセレナにも申し訳ない。
だけどやっぱり、どうあっても、美味しい。
「ピカチュウ、そんなに気に入ったのか」
「ぴかちゅう」
口に含むと、胸の奥がなんだかくすぐったくなる。
へんてこな経験だ。お菓子を食べて、胸がうずく。
「
……
ぴーか」
そうだ、いいことを思いついた。
今度はサトシにも、同じ経験をさせてやろう。
セレナやユリーカ、テールナーにもお願いをしてみようか。きっとこころよく応じてくれるだろう。
ピカチュウはサトシより器用な気がするし、うまくできるのではないだろうか。
「ぴかっぴか」
「ピカチュウ、なんか楽しそうだな
……
?」
くふふ、とほくそ笑んで、サトシにはまだ言ってやらない。
そうか、ピカチュウが手ずから作ったものを、サトシに食べてもらえるのか。
「ぴかっぴか」
これもまたくすぐったい。
そして楽しい。とても楽しい。
きっといい経験にもなるぞと確信して、ピカチュウはひとり、満足げにうなずく。
相棒のその満ち足りたような顔の理由に、サトシはいつまでもピンとこずにいた。
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