ちこと
2016-01-03 20:10:30
790文字
Public poke小説・SS
 

重なり離れて

サトシゲッコウガのダメージ共有描写が明らかになったあたりで突発的に書いた妄想でした。

 ゲッコウガは見た。地面に倒れふすトレーナーを見た。腕の中で目覚めない友だちを見た。ベットに体をうずめ、眠りつづけるパートナーを見た。
 仲間を守れると思った力で大切なものを傷つけるとは、なんという皮肉だろう。いったいどこの誰が、こんな力を自分たちに授けたというのだろう。
 ゲッコウガは高みを望んだ。強くなることを望んだ。その希望のために、パートナーを自分で選んだ。
 だけど、こんな皮肉は望んでいない。高みへ向かう力に高揚したのは確かだ。だけど、こうなることなど望んでいない。
 もしかしたら、いちばん、傷つけたくなかったものなのに。

 どこか青白いままの頬に、ゲッコウガはひたと触れた。
 ふたりの境界がとけあう。混ざりあう。ぞっとした瞬間に手を引いた。ふたりがひとつになることの、喜びと、高揚と、大きな恐怖とが渦をまく。
 ゲッコウガが傷つけば、かれは同じだけ、痛みを負う。
 ならば、ひとつになどならなくていい。傷つけたくないものを傷つける力などいらない。
 そうして力を拒むこともまた、ゲッコウガの胸を痛ませる。
 ここにきてもなお、高みへの想いを捨てきれない自分がいる。矛盾する心はばらばらになり、もはやひとつとはほど遠い。

 答えは見えない。わからない。ゲッコウガだけではわからない。

 ひとつだけわかることは、いちばん傷つけたくなかったものを、これ以上に傷つけたくはないということだけだ。
 月夜に照らされた影が、ゆっくりと屈む。
 かれのひたいに、ゲッコウガのひたいがそっと触れる。
 しばし、目を閉じる。
 月明かりの下、ゲッコウガはただ、かれのことを想った。


 紅色の瞳がそっと開かれる。
 ふ、と目をほそめ、ゲッコウガは、かれの姿を目に焼きつける。
 ひゅうと夜風が吹いたあと、月明かりが射しこむ窓辺に、はためくカーテンだけが残っていた。