ゲッコウガは見た。地面に倒れふすトレーナーを見た。腕の中で目覚めない友だちを見た。ベットに体をうずめ、眠りつづけるパートナーを見た。
仲間を守れると思った力で大切なものを傷つけるとは、なんという皮肉だろう。いったいどこの誰が、こんな力を自分たちに授けたというのだろう。
ゲッコウガは高みを望んだ。強くなることを望んだ。その希望のために、パートナーを自分で選んだ。
だけど、こんな皮肉は望んでいない。高みへ向かう力に高揚したのは確かだ。だけど、こうなることなど望んでいない。
もしかしたら、いちばん、傷つけたくなかったものなのに。
どこか青白いままの頬に、ゲッコウガはひたと触れた。
ふたりの境界がとけあう。混ざりあう。ぞっとした瞬間に手を引いた。ふたりがひとつになることの、喜びと、高揚と、大きな恐怖とが渦をまく。
ゲッコウガが傷つけば、かれは同じだけ、痛みを負う。
ならば、ひとつになどならなくていい。傷つけたくないものを傷つける力などいらない。
そうして力を拒むこともまた、ゲッコウガの胸を痛ませる。
ここにきてもなお、高みへの想いを捨てきれない自分がいる。矛盾する心はばらばらになり、もはやひとつとはほど遠い。
答えは見えない。わからない。ゲッコウガだけではわからない。
ひとつだけわかることは、いちばん傷つけたくなかったものを、これ以上に傷つけたくはないということだけだ。
月夜に照らされた影が、ゆっくりと屈む。
かれのひたいに、ゲッコウガのひたいがそっと触れる。
しばし、目を閉じる。
月明かりの下、ゲッコウガはただ、かれのことを想った。
紅色の瞳がそっと開かれる。
ふ、と目をほそめ、ゲッコウガは、かれの姿を目に焼きつける。
ひゅうと夜風が吹いたあと、月明かりが射しこむ窓辺に、はためくカーテンだけが残っていた。
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