ちこと
2015-11-29 21:27:35
2327文字
Public poke小説・SS
 

うとうとうつら

XYのオン+サトでルチャ+サトです。ほのぼのしています。

 あふ、とひとつ、あくびが出た。
 大きな木の幹に背中をあずけ、日陰に腰を落ち着かせる。
 ぽかぽかといい陽気、そのうえにランチのあとだ。うとうとしてくるのはもうしょうがない。
 舟をこぎかけているサトシの、その膝の上では、オンバットが同じようにうつらうつらしていた。
「おっ、ん……おん……
 こくり、こくり、かくん。
 ちいさな頭を揺らして、それでもまだ寝るまいとふんばっているようだ。
 金色の、おおきな瞳が半目がちで、とろけてうるんでいる。本人の意思に反するかのように、目が「ねむたい」と全力で訴えている。
 その必死な様子に、サトシは思わず笑みをこぼした。
「いいよ、オンバット。昼寝しようぜ」
 そう言って、頭をそっと撫でてやる。ちいさな後頭部がなんとも愛らしいのだ。
 サトシとしては、眠気を妨げないようにと思ってやさしく触れてみた。
 だがオンバットは、
「おーん……
 弱よわしく、ふるふると首を横に振る。「まだねない、もうちょっとがんばる」と言いたいらしい。
「飛ぶ練習は、昼寝のあとにしよう。そのほうが思いっきりやれるって」
「おー、んー……
 オンバットはまだふんばる。
 もしかすると、飛行練習のコーチふたりのことを気にしているのだろうか。
 だけどそんな心配はせずとも、いまのオンバットを見れば、かれの兄貴分ふたりも、こころよく昼寝に応じてくれると思うのに。
 実際、兄貴分の片割れは、サトシの視界の先ですでに舟をこいでいるのだ。
「落ちるなよ、ファイアロー」
 余計な心配かもしれないが、大樹の枝先にとまるかれには、いちおう声をかけておく。応じる声があったかどうかは微妙なところだ。
 さて、ではもうひとりの兄貴分はどこだろう。
 ざっと見たところ、サトシの視界の中にはいない。オンバットを膝に乗せているので、後ろを思いきり向くこともできない。
 ――でもまあ、こんな天気だし、あいつもどこかで昼寝してるかな。
 あるいは、ひとり鍛錬の最中かもしれない。ちょっと時間に空きができると、かれはすぐに、手ごろな木々でトレーニングを始めるのだ。
 ――オンバットのタマゴだって、そのときに見つけたんだよなあ。
 サトシもトレーニングは好きだが、かれのそれは「さすが」と言うべきほどかもしれない。戦いの中に美学を見いだすかれは、いつだってストイックに、おのれを高めていく。
 そして、かれのそういう姿が、サトシはとても好きだ。
 ――トレーニングしてるんだったら、おれも混ざりたいかも。
 森の中で孤高におのれを鍛えてきたのがかれだ。しかし、トレーニングにサトシや仲間たちが混ざると、それはそれで嬉しそうな顔を見せてくれる。
 サトシだってポケモンたちとトレーニングするのが大好きなのだから、お互いにうれしい時間だといえるだろう。
 もしいまもひとりでがんばっているのなら、そこに混ざりにいきたい気もする。
 だけどいま、オンバットが気持ちよさそうだしなあ。
 そんなことをぼんやりと考えていたサトシの鼻腔に、ふと、なにかの匂いが届いた。
 ……あれ、これは。
 花のようなあまい香りではない。食欲をそそるような、食べものの匂いでもない。
 いい匂い……とはすこし違っていて、かといって不快なものでもない。
 強いて言うならば、「ケモノくさい」だろうか。
 形容するのが難しいこの匂いを、サトシはじつは、よく知っている。
……
 知っているから、オンバットを起こしてしまわないように、こっそりと微笑んだ。
 サトシに何度もやわらかく撫でられて、オンバットはそろそろ限界だった。そのうちに、頭をかっくんと落として、とうとう寝息をたてはじめた。
 すぴすぴ、と漏れる音すら、なんともかわいらしい。
 さて、と目を閉じると、サトシは木の幹によりかかった。
 背中ごしに匂いが強くなる。間違いないな、と確信があった。
 サトシはそっと口をひらく。
……おれもちょっと寝るからさ」
 オンバットが眠りに落ちるまではふんばったが、サトシ自身の眠気もそろそろ限界だった。声がふやける。
「おまえもこっちに来て、一緒に昼寝しようぜ……
 たぶん、かれは、遠慮しているのだ。
 弟分があんまり気持ちよさそうにしているから、割って入りづらいのだろう。
 弟みたいな存在ができたのはきっとはじめてだろうから、かれなりに気を遣いたいこともあるようなのだ。
 そんなこと気にしなくていいのにな、とサトシは思う。仲間想いなところはかれの好きなところのひとつだが、いつかのように、自分の気持ちを優先したってかまわないのだ。
 ……だって、この匂いは。
 サトシは知っている。この匂いは、ときおりポケモンたちが出すたぐいの匂いだ。
 それぞれに違う匂いだが、おそらく意味は共通している。どういうときに出るものなのかも、サトシは知っている。
 右手はオンバットを撫でたまま、左手をそっと後ろに動かす。
 すると、ちいさな手に触れた。
 手は一瞬だけこわばるが、すぐに力を抜いたようだった。ちょっとだけ握ってやる。
 サトシが握った手が離れ、かわりに手の主が、木の向こう側からそっと姿を見せてくれた。
 なんだかめずらしく照れくさそうなルチャブルに、サトシは笑って手招きする。

 ――この匂い、おまえがあまえるときの匂いだもんな。




 サトシの右手には、ちいさくかわいいオンバットの頭。
 そして左手に、ふさふさと気持ちいいルチャブルの羽毛。
 三人全員しあわせで、真ん中がすこし贅沢な形で、午後の陽気のもと、眠りのなかへととろけていった。