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ちこと
2015-11-28 21:30:27
2901文字
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poke小説・SS
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わからなくていい、一生の。
サトピカとモンスターボールのお話。XYの時期に書いたものです。
ピカチュウは、モンスターボールに入るのがきらいだ。
そんなことは、もう仲間うちでは常識のようなもので、新しい旅の仲間にも、わりと早いうちに伝えられる。
ピカチュウは、モンスターボールに入るのがきらいだ。
だからピカチュウは、モンスターボールに入ったことがほとんどない。
最後にボールに入ったのはいつだったろう、と、ピカチュウはふと考える。
きっかけは昼間の会話だ。シトロン、ユリーカ、セレナに、まだ伝えていなかったことをサトシが伝えた。つまり、ピカチュウがボールに入らない理由を。
だから、ピカチュウはいつもサトシといっしょなんだね。そう笑ったのはユリーカだ。
その通りだと、いつもの場所で、サトシの肩口でうなずいたあと、ふいにピカチュウは思ったのだ。
最後にボールに入ったのはいつだったろう、と。
皆が寝静まった深夜に、ピカチュウはぼんやり考える。テントの中だと夜空が見えず、それは考えごとには向かないので、そっと寝袋から這い出てきた。あいつが起きる気配はない。
すぐそばの切り株に腰掛けた。夜空を見上げるときょうも晴天、星がきらきら瞬いて、なんだかとっても気持ちがいい。
さて、と気を取り直して、ピカチュウは記憶を辿ってみた。ボール。ボールに入った記憶。あの、だいっきらいな、ボールの中の
……
。
しばらく思い出を遡って、ピカチュウは驚いた。ぜんぜん、まったく、思い出せない。そもそも、ボールの中がどんなものだったかすら。
きらいだったのに。ほんとうに、いやだったのに。どこがどういやなのか、恐怖する感覚がこみ上げても、言葉にあらわすことができない。
それもそのはずだ。記憶の検索を終えて、ピカチュウは納得してしまった。
……
サトシと旅に出てから、一度も、ボールに入ったことがない。
ピカチュウは思い出した。最後にボールに入ったのは、あの日の前の晩だ。
マサラタウンから四人、男の子が旅立つ。オーキド研究所で、ポケモンをもらって。
そんな話を、博士がポケモンたちに聞かせていた。その中に、ピカチュウもいた。
入りたくなかった。だいっきらいだった。だけど仕方なく、ピカチュウは、あの赤い光を、しぶしぶと受け入れて
……
。
……
次に外に出たときには、もう、サトシがいたんだ。
あの日から、もう、ボールに入ったことはない。
ふいに夢から浮上した、まどろみの中で、サトシはふと考える。
……
そういえば、おれ、ピカチュウをボールに入れたことってあったっけ
……
?
昼間あんな会話をしたからか、なぜだか急に、気になった。
うつらうつら、寝ぼけ眼で記憶を辿る。
ボールに入るよう、言ったことだけなら何度かあった。たとえば、雪山でビバークしたこともあったっけ、とか。それに何より、あの、旅立ちの日、とか。
ピカチュウがいやがるのは百も承知だ。だけど、ボールの中なら安全だからと、そう言い諭して、ボールを掲げたことがあった。
……
だけどあいつは、かたくなに、ボールに入ろうとしないから。
サトシは一度も、ピカチュウをボールに入れたことがない。
そこまで考えて、サトシはふいに覚醒した。そしてすぐに、傍らにいるはずの存在がいないことに気づく。
どくん、と心臓がうるさいくらいに鳴った。条件反射だから仕方ない。
……
だってあいつは、いつだって。
テントの入り口はわずかに開いていて、月明かりがひっそりと差し込む。
その隙間を押し広げて、サトシは外に這い出た。
がさ、という音がして、ピカチュウの耳がぴんと立つ。
振り向くと、思った通りのひとがいた。寝間着代わりのタンクトップはいつもの通りで、でもなぜだか、肩で息をしている。
「
……
ピカチュウ」
ほっとしたような声をきいて、ああ、心配させたんだな、と気づいた。なにせ自分は、いつでもどこでも、狙われる相手に事欠かない。まったく迷惑な話だけれど。
「ぴかぴ」
へいきだよ、ちょっと考えごとをしてただけ。
そんなつもりで名前を呼べば、向こうは安心したようにへへっと笑う。
「おれも、ちょうど、考えごとしてたんだ」
そうしたら、おまえがいないんだもんな。
びっくりしたんだぜと言いながら、サトシは、ピカチュウのとなりに腰掛ける。
「ぴーか?」
「うん。そういえば、旅に出てから、おまえをボールに入れたことなかったなって」
おや。ピカチュウは目をまるくした。まったくぼくたちは、おんなじことを考えていたんだねと。
「ぴーか、ぴかちゅう」
「ピカチュウも同じこと考えてたのか?」
「ぴかぴっか」
「そっかあ。なんか、ふしぎだよなあ」
「ぴかちゅう」
そうだね、ほんとうにふしぎだ。きみはポケモントレーナーで、大切な仲間が入ったボールをいくつもその腰に提げて、いくつもの大地を踏みしめて、いくつもの冒険を巡ってきた。
それだというのに、その冒険のすべてをともにしたぼくは、たったの一度も、きみの腰にいたことがない。
「おれ、これまで何度もボールを使ってきたのに、おまえをボールに戻す感覚だけは、わからないんだ」
もしかしたら、一生、わからないままなのかもな。
そう言って笑うサトシは、それを望んでいるように見えた。それに、ピカチュウもきっと、それを望んでいる。
悪いやつに奪われたくないなら、そんな心配をするくらいなら、寝るときもボールに入れて、大事に持っておけばいい。だけどもちろん、サトシとピカチュウの間で、そんなことは起こらない。
ボールの中の方が安全だと、サトシもピカチュウもわかっている。だから、ときにサトシは、ピカチュウをボールに戻そうとすることもあるけれど。
結局、それはかなわない。だって、ピカチュウが望まないから。
そして、サトシもきっと、それをわかっているから。
ピカチュウは夜空を見上げた。きょうは満月だ。モンスターボールのように、まんまるのお月さまだ。
それから、となりを見上げた。お月さまを見上げて、笑うサトシがいる。
ピカチュウも、サトシにボールに戻される感覚は、きっと一生わからない。だって、ピカチュウは、それを望んでいる。
切り株を蹴って、飛び上がった。勢いをつけてきたピカチュウを、サトシはぎゅっと抱きとめる。
……
結局、きっと。この感覚を、ほんのいっときでも、手放すことが惜しいのだ。そう思うと、そちらのほうが、むしろずっとこわいのだ。
きみのとなりで、きみと同じものを、きみと一緒に見れないなんて。
結局、そんな感覚は、いまのぼくらに、耐えられるわけがないのだ。
あの旅立ちの日から、ぼくらはもう、そう決まっている。
あの日の、はじまりのときに。オニスズメと向かい合った、あの雷雨のときに。
きみとぼくが、ともに向かうことを決めた、あの瞬間に。
いままでも、これからも、ぼくのいる場所は、ずうっと。
いままでも、これからも、おまえのいる場所は、きっと。
きみの、おれの、肩の上。
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