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ちこと
2015-05-24 01:27:32
2489文字
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poke小説・SS
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君が目覚めるまでの時間
ビクティニ映画後日談妄想。ドレ+サトです。過去に某方にお礼として捧げました。
白いベッド。静かに音を立てる点滴。
静謐な空間におよそ不釣り合いなはずの少年は、しかし、そのベッドの上でこんこんと眠り続けていた。
病室のドアがゆっくりと開き、ドレッドが足を踏み入れる。
ベッドの脇で、少年の相棒が彼を迎えた。
「
……
まだ、目を覚まさないのかい」
「ぴかーちゅ
……
」
ちちち、とりポケモンの鳴き声が窓の外から聞こえる。
カーテンの向こうはまだ薄暗く、夜明けは訪れたばかりだ。この建物の中の生き物は、おそらくまだほとんどが眠っている。
そんな朝早くから、しかし彼の相棒は、彼のそばを離れない。
「君は、ちゃんと寝ている?」
「ぴかっちゅ」
殊勝に頷いているが、その表情は芳しくない。
無理もない。城のてっぺんで、ビクティニが姿を消した後も、意識をなくした少年のそばに、相棒はずっとついていた。
一度彼が目を覚ました時も、まっさきに抱きついたのはこのピカチュウだ。
それなのに、少年
……
サトシは、再び倒れてしまった。ピカチュウの心境は、ドレッドも、察するに余りある。
だからこそ、胸中の罪悪感が加速する。
ゆっくりと、ベッドに近づく。ピカチュウは一度床に降りて、ドレッドに傍らを譲ってくれた。
ありがとうと声をかけ、そっとベッドを覗き込む。
真っ白なベッドにそのちいさな体をうずめ、サトシは眠り続けている。
彼のこんな表情を、ドレッドは、以前にも見たことがあった。
成層圏のむこう、光も届かないような場所で、彼は力なく倒れていた。
最初に駆け寄ったときは、ドレッドの心臓のほうが止まりそうだったかもしれない。倒れた彼の顔色は蒼白で、目はかたく閉じられていた。呼吸をしているのを確認するまで、こちらのほうが、生きた心地がしなかった。
――――
すべて、僕のせいだ。
ここにビクティニがいないのも、彼が倒れているのも。
結果として、サトシは助かり、ビクティニも無事帰ってきてくれた。
だが、ビクティニの姿を見て気が緩んだのか、あのあとすぐに、サトシは意識をなくしてしまった。
慌てて駆け寄り抱き起こした時の、彼の体の冷たさを覚えている。
低体温症だと診断され、適切な処置を受け、何日か経った。
あとは目を覚ますだけだというのに、どうしてか、彼はまだ眠り続けている。
昼も夜も、彼の仲間が、代わる代わる彼を見守った。いまはまだ眠っているが、おそらく昨夜も、遅くまでついていたのだろう。サイドテーブルに、飲みかけの紅茶と食べかけのマカロンが残っていた。
彼の仲間も、
――――
ビクティニも。彼が目を覚ますことを願って、いまはいっとき、夢を見ている。
ドレッドは、そっと、サトシの頬に手を伸ばした。
あのときよりも、あたたかい。ちゃんと、体温はそこにある。情けなくも、それに安堵してしまう自分がいる。
こんな姿の彼を見て、出てくる言葉は、いつもひとつだけなのだ。
「
……
すまなかった
…………
」
母の願いを叶えたかった。
大地の郷を取り戻したかった。
そのためなら、どんな犠牲も、躊躇わず受け入れようとしたはずだった。
だけど、現実はどうだろう。
たったひとつの犠牲すら、こんなにも恐れている自分がいる。自分の半分ほどしか生きていないだろう少年の、その命が失われかけたことを、こんなにも恐怖する自分がいる。
なにかを引きかえに得ようとする理想、真実、なんと空虚なことだろうか。
それに気づかせてくれたのは、ここに眠る、年端もいかない英雄だ。
ほんとうに自分がやらなければならないことをもう一度考えようと、そう思わせてくれたのは、この英雄だ。
ただひたむきに、がむしゃらに、友だちのことを想って突き進んだのは
…………
そうやって、友だちだけでなく、ドレッドすらも救ってくれたのは、この少年だ。
カーテンのむこうが、徐々に明るくなっていく。じきに、朝が来る。
その隙間から差し込む光が、サトシの頬に降りかかる。
眩しくはないのだろうか。なのに、サトシはまだ目を覚まさない。
ドレッドの胸が、握りつぶされたかのように苦しくなる。
――――
君に伝えたいことが、たくさんあるんだ。
いまはただ、謝ることしかできなくて。
だけど本当は、謝るだけではなくて、もっともっと、伝えたい気持ちがある。
それなのに、君はまだ、起きてはくれない
……
。
「
……
ぴかぴ
……
」
振り返ると、サイドテーブルの上で、ピカチュウがさみしそうに呟いていた。
その傍らには、リボンのついたバスケットがある。彼らの仲間の青年がマカロンを入れていた、見慣れたものだ。
いまも、その中には、手つかずのマカロンが残っているようだ。
ドレッドの目は、ふいに、色とりどりのそれに吸い寄せられる。
そのうちのひとつを手にとった。赤みがかかった橙色は、ビクティニのようにも、彼のようにも見える。
――――
彼らはいつも、笑っていたな。
マカロンを取り合いながらはしゃいで、そんな風に友情を結んで、心から笑いあっていた。
彼らの笑い合う声を、もう一度、ここで聞きたい。
マカロンを持ったまま、ドレッドは、サトシが眠るベッドにもう一度近づく。
そっとかがんで、眠ったままのサトシの耳元に、ゆっくりと顔を寄せ、マカロンを近づける。
「
…………
君が起きないなら、残りのマカロンは、僕が全部食べてしまうよ
…………
」
そうささやいて、マカロンをゆっくりと、自分の口もとに運ぶ
……
。
そのドレッドの手を、ひとまわりもふたまわりもちいさな手が止めた。
ドレッドは、目を見開く。
すぐ後ろで、ピカチュウが反応する気配もある。
「
……
だめですよ、ドレッドさん」
ドレッドの顔がくしゃりと歪む。
それを見て、サトシはおかしそうに、ふにゃりと微笑んだ。
「
…………
おはよう、サトシ」
絞り出すようにそう言って、くしゃくしゃの顔のまま、ドレッドも笑った。
――――
君に伝えたいことがたくさんある。
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