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ちこと
2013-05-06 21:38:36
3872文字
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poke小説・SS
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これも無限の可能性の一つ(epN最終話サトピカ妄想)
「おれとロケット団で、あのマシンを壊します!」
そうNさんに言って、こぶしをぎゅっと握る。ほんとうに言いたかった言葉を飲み込む。
地面を蹴って、一気に駆け出した。ポケモンたちを出すのは危ない。なら、この身ひとつで突っ込むだけだ。
うしろから、相棒の声が飛ぶ。だけど振り向かない。
おれとロケット団で、あのマシンを壊しに行く。
……
おれたち、じゃなくて。
ほんとうは
……
そう、言いたかったけど。
*
「ぴかぴっ!」
駆け出したその背中に向けて、ピカチュウは叫ぶ。
いつもなら、自分も一緒に飛び出している。相棒とふたり並び立って、どこへでも突っ込んでいくはずだった。
だけど、いまは飛び出せない。いまにも地を蹴りそうな足を叱咤して、ピカチュウはそのちいさなこぶしを握る。長耳の奥で、声がこだまする。
『みつかったら、操られちゃうからな』
それはピカチュウを心配してのことだと、わかっている。わかっていて、それでもその言葉は、ピカチュウの胸をざらざらと撫ぜた。
飛び出したい。だけど、飛び出しちゃいけない。だってもし、もしも。またあの不快な電波を、浴びてしまったら。
らしくないことだと、ピカチュウは思った。それはきっとサトシも同じだ。ピカチュウもサトシも、絶対的な自信を持っていた。
ピカチュウにサトシの声が届かないわけがない。だから、あんな電波になんて絶対負けない。
いつもだったら信じ切っていた。だから、いつもだったら迷わず飛び出していた。
信じ切っていたはずなのに、あのとき、ピカチュウにサトシの声は届かなかった。
*
おれたちなら、だいじょうぶ。あんなマシンになんて絶対負けない。
サトシの胸に爛々と輝いていたはずの自信が、わずかながらにしぼんでいく。
ひとりで飛び出したのは、ピカチュウを危険な目に合わせないためだ。ピカチュウたちを守ると決めたからだ。
だけど、その決意の中に、揺らいだものが入っていないと言い切れるだろうか。
負けないと、思っていた。おれの声が、ピカチュウに届かないわけがない。そして、おれの声が届いたピカチュウが、あんなマシンに負けるわけがない。
そう信じていた。信じ切っていた。
信じ切っていたはずなのに、サトシの意識が飛ぶその瞬間まで、ピカチュウがもとに戻ることはなかった。
*
声が届かなかった、わけではない。ピカチュウはそのときを振り返る。
まったく届かなかったわけではないのだ。煮えたぎるような激情、真っ赤に染まった視界、そんな中でもサトシの声は、たしかにピカチュウのもとに届いてはいた。
だけどそれは、あまりに脆弱だった。
まるで分厚いフィルターがかかったように、かすかな声のみが、わずかにピカチュウの心に響く。けれどその声はくぐもっていて、なにを言っているのかも、だれが言っているのかもわからなかった。
大きな激情とわずかな虚ろの世界。その虚ろに刺し入って、奥底のピカチュウを覚醒させるなにかがあれば、よかった。
だけどかすかにしか届かない脆弱な声は、虚ろの世界を虚ろのままとした。
かつてピカチュウが打ち破ったはずのコントロールマシンは、ここに来るまでに相当の強化を重ねてきたらしい。
結果としてピカチュウは、自力でコントロールに打ち勝つことができなかった。
打ち勝つことができなかった、その電波を、もう一度浴びてしまったら。
ピカチュウを踏みとどまらせる揺らぎは、その懸念のなかにある。
真っ赤だった視界がクリアになった瞬間を、まざまざと脳裏に思い描く。
正気に戻ったピカチュウが最初に見たのは、自分を抱きしめたまま目を閉じた、ぼろぼろの相棒の姿だった。
それだけで、なにがあったのかを悟るのは、ピカチュウには充分すぎた。
『
……
ぴかぴ
……
?』
全身を襲う疲労感の中でも、湧きあがるおそろしさは消えない。
だってピカチュウの電撃なんて、サトシは食らい慣れている。なかなか起きない朝の気つけにだって使うほどだ。それでも気絶なんてしない。ボルテッカーを食らったってぴんぴんしていたのだ。
そんなサトシが、ピカチュウを抱いたまま気を失っている。全身の火傷は電撃によるものだと、ピカチュウはいやというほど分かっていた。
あのマシンにかかれば、ピカチュウはこれほどの威力の攻撃を、サトシに向けてしまえるのだ。
ピカチュウが踏みとどまる理由など、それだけで十分すぎた。
ピカチュウがサトシを信じないなんてありえない。だから、サトシの声が自分に届くことだって、いつもなら迷いなく信じられるのに。
不安が、迷いが、揺らぎとなって、ピカチュウのこころを曇らせる。
*
サトシがピカチュウを信じないなんて、そんなことはあり得ない。
でも、だったら、ピカチュウを置いて飛び出すことなんてしないはずだ。いつもなら、ピカチュウはあんなマシンになんて負けないと、信じ切れるはずだ。
だからほんとうは、「おれたち」と言いたかった。おれとピカチュウであのマシンを壊すと、はっきり言い切れたならよかった。
言い切れなかったのは、真っ赤な目をしたピカチュウが、サトシの脳裏から離れてくれないからだろう。
『おまえなら、きっと、おれのこと
……
』
「きっと」だなんてそんな、不安ともとれるような言葉なんて、あのとき言わなければよかった。
『わかって、くれるよな』
あんな震えるような声でなんて、言うんじゃなかった。
おまえならだいじょうぶだって、絶対に勝てるって、そんなふうに言ってやればよかった。
ピカチュウ、おまえがあんな目に遭ったのは、きっと、おれのせいでもあるんだ。
だから、今度こそ守る。そうだ、おれがピカチュウを守るんだ。
だからいまおれは、ひとりで駆け出しているんだ。
*
ピカチュウの瞳に、「いま」のサトシが映る。
丸腰で駆け出して、敵陣に突っ込んだサトシは、ポケモンたちに囲まれていた。
真っ赤な目をぎらつかせた、ドッコラーにローブシン、おおきなゴルーグ
……
ヘレナとバーベナのポケモンたちもいる。操られずともプラズマ団に従う、レパルダスも。
そのどれもが敵意をむき出しにしている。その矛先がだれに向けられているのかなど、明らかだった。
ピカチュウのこころが、一瞬、大洪水になった。
つい先ほどまで感じていた不安、迷い。ともすれば罪悪感とも言えそうな、揺らぎ。
それに逆らうようにして、ピカチュウの根っこのところが奮い立つ。
相反するような気持ちが激流となって、ピカチュウの中でぶつかりあった。
レシラムすら操るようなコントロールマシンに、ピカチュウは一度負けている。
二度と操られたりしないなんて、そんな保証はどこにもない。
もしかしたらまた、操られるかもしれない。また、サトシを傷つけてしまうかもしれない。
それがなんだっていうんだ。
もしかしたら。また。そんな気持ちが何になる。そんな不安が何になる。
たしかに一度は負けた。次に勝てる保証もない。
だけど
……
負けるという保証も、ありはしない。
「いま」、サトシは戦っている。ピカチュウたちを守るために。いまのこの状況を、なんとかするために。
その「いま」を看過するなんて、そんなのはピカチュウじゃない。サトシの相棒じゃない。
サトシを傷つけるかもしれない、そんな不安が何だ。
「いま」サトシが危ないのに、そんな理由で動かずになんていられるか。
相棒のもとに向かわずになんていられるか!
「ぴかぴっ!!」
ニャースの制止も振り切って、ピカチュウは駆け出す。
ポケモンコントロールマシン? それがなんだ。
たしかに一度は負けた。次に勝てる保証もない。
だけどピカチュウは、サトシといっしょに戦うのだ。たとえサトシに止められたって、絶対にいっしょに戦うのだ。
だから、戦う。全力で戦う。全身全霊で、あのマシンに打ち克ってやる。
そう覚悟を決めたらもう、あとは飛び出すだけだから。
*
自分を呼ぶ声が聞こえて、サトシは振り向く。
隠れているように言ったはずの相棒が、こちらめがけて駆け出してきていた。
その瞳に光をみる。力強い声を聞く。
ひとりで駆け出したサトシのもとへ、駆けてくる相棒を見る。
そうしたらもう、サトシのこころにくすぶっていた何かが、あっというまに消え失せた。
こっちに来るな、だなんて、言えるわけがない。言う気もない。
だからサトシはあっというまに笑顔になる。
「そうか、止めても無駄か!」
そうか、ピカチュウ。おまえは、来てくれるんだな。いっしょに戦ってくれるんだな。
いや、そんなの、当たり前か。そうだよな。ごめん。おれはきっと、弱気になってた。
だけどおまえが来てくれたから、もう、弱気になったりなんてしない。揺らいだりなんて、しない。
またマシンに狙われるかもしれない。だけど、もう、負ける気なんてしない。
いっしょに戦おう、ピカチュウ。
おまえもそう思うから、いま、来てくれたんだろ?
「ぴいっかちゅう!」
*
ふたりは信じる。信じ切る。
おれの声はぜったいに、おまえに届く。
きみの声はぜったいに、ぼくに届く。
ふたりのこころが、そんな風に重なれば、もうぜったいに、負けるわけがない。
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