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花人
2024-10-29 11:32:49
6504文字
Public
零英
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零英 保証延長恋わずらい【R15】
2023年零くん誕。零くんの誕生日、空中庭園に呼び出される英智くんの話。
※内容はほぼ全年齢ですがR18行為を匂わせています。
※セフレ前提の両片思いです。
11月2日。すっかり黒が広がった世界は、未だにたくさんの人々が馬鹿騒ぎする声で溢れかえっている。そんな中、英智のスマートフォンに1本の電話が入った。
画面に映ったのは、本日の「もう一人の主役」の名前だった。どうやら、お呼び出しらしい。
英智は小さくため息をつくと、まだ喧騒の続くニューディの事務所を後にした。
✽✽✽
空中庭園に着くと、そこには既に先客がいた。闇夜に溶ける髪を、まだ微妙に温かさが残る風に揺らしている。無言で月を眺める後ろ姿は、いつもより少しだけ小さく見えた。
常に人々の中心にいる彼がこうして一人静かに月を見ているとは意外だった。本日の主役ともあろう者が、一体こんなところで何をしているのだろうか。
月明かりに照らされた零の後ろ姿は、酷く絵になる。もし美術館に飾られていたら、一瞬でギャラリーたちの心を奪って、他の絵のことなど頭から追い出していただろう。
「
……
」
英智の心臓が、小さく音を立てる。数メートル離れているというのに、1回1回規則的に脈を刻む鼓動が彼に聞こえているような気がする。妙な緊張感を覚えて、無意識に唇から息が漏れた。
美しい月と自分たちしか存在しない、静まり返った空間。建物の外だというのに、突然密室に二人きりで閉じ込められたような気まずさを感じて、何となくむず痒い。
音を立てないように足を止めると、「のう」と先客が声をあげた。
「おぬし、我輩に何か言うことあるじゃろう」
一応気配は消していたつもりだったが、どうやら気づかれていたらしい。
くるりと振り返る先客に、英智はニコリと微笑んだ。
「そうだね。じゃあ、お望み通り言おうか。誕生日おめでとう」
零は待ってましたと言わんばかりにニコリと微笑んだ。
「うむ。ありがとう。やはり人から祝われるというのは嬉しいのう。普段口が裂けてもこういうことは言いたがらないおぬしに言われると、喜びもひとしおじゃ」
うわべだけエレガントにコーティングされたお祝いの言葉に、零は全く動じなかった。どこか満足そうな表情を浮かべる彼の顔を見て、英智は微笑んだまま心の中で眉を顰める。
ルームメイトとはいえ、敵同士であるセックスフレンドに誕生日を祝われて何が良いのだろうか。相変わらず、何を考えているのか分からない。
英智は誤魔化すように腕を組むと、肩をすくめた。
「そう。それは良かったね。喜んでもらえて僕も嬉しいよ。要件はそれだけかい?じゃあ、これで失礼するよ」
くるりと踵を返そうとする英智に、零はすかさず「これ」と声をかけてきた。
「まさかおぬし、こ〜んなにアンニュイな雰囲気を漂わせて一人寂しく月を眺めておる老人を、このまま置いていくつもりかえ?」
零はそう冗談めかすように言葉を続けると、柵に背を向けた。そのまま柵の上に両肘を乗せると、肩を竦めながら不敵な笑みを浮かべて英智を見つめてくる。
英智は零の目を見つめ返すと、微笑みを絶やさないよう努めながら小さく肩で溜息をついた。
「君は老人ごっこをしているだけで、本物のご老人ではないからね。あいにくだけれど、自分からアンニュイなんて言う人間に構うほど暇ではないんだ」
「それが本日の主役にとる態度かえ。相変わらず冷たいのう。色んな意味で凍えてしまいそうじゃ。我輩が凍え死んだらおぬしのせいじゃな」
「ふふ、脅迫のつもりかい?こんなところに呼び出したのは君の方だろう。むしろわざわざ瀬名くんの方を抜け出して来てあげたのだから、感謝してほしいくらいなのだけれど」
「
……
まぁそうじゃな。そのことには感謝しておるが」
「なら、もう用はないよね。君が風邪を引いても僕には関係ないけれど、君も凍える前に事務所に戻りなさい。じゃあ、僕はもう行くから」
再び踵を返そうとする英智の手首を、零が軽く掴む。
ふわ、と風が吹く。と同時に、零は流れるように己と柵の手すりの間に英智の身体を閉じ込めた。
「
……
どこに行くつもりじゃ?」
闇に浮かぶルビーが、少しだけ雰囲気を変える。英智は何も言わないまま、じっと見つめてくる紅い瞳を見つめ返した。
真紅の瞳は、相変わらず何を考えているのか全く読めない。
何秒か見つめあった後、英智は数cm先に向けて口を開いた。
「勿論、瀬名くんのところだよ。誰かさんと違ってパーティーが長引いたせいで片付けが終わっていなくてね。せっかく元3Aのメンバーが集まったから、楽しく皆で片付けていたんだ。君に呼び出されるまで、ね」
「それはそれは。楽しそうで何よりじゃ。おぬしは今の今まで我輩を放って元クラスメイトたちと旧交を温めておったわけじゃな?」
スッと目の前の紅い瞳が細まる。
言葉とは裏腹に、責めたてるような気配は感じられない。意味深な言葉にこちらが動揺するのを待っているのだろうか。
妖しげな雰囲気を纏う瞳に見つめられて、英智は「そうだね」と一度も瞬きしないまま笑みを深めた。
「悪いかい?」
「いや。悪いとまでは言わぬが。
…………
天祥院くん、我輩、まだ貰ってないものがあるんじゃが」
「プレゼントのことかい?」
英智はすかさず被せるように口を開いた。
「それはきちんと白鳥くんから渡されただろう」
「
……
そうじゃな。あのマグカップ、おぬしと白鳥くんで選んだんじゃろう?白鳥くんが言っておった」
「うん。忙しくて君の方には行けそうになかったからね。渡すのは白鳥くんにお願いしたんだ。渡すだけなら彼一人で充分だったからね」
言葉をつらつらと述べながら、サッと胸の前で腕を組む。それを見て、零は確信したような笑みを浮かべて口を開いた。
「ほう。なら、おぬしがチラっとリズリンに来ておったように見えたのは気のせいじゃったかのう」
英智の眉がピクリと動く。そんな英智に気づいているのかいないのか、零は英智から視線を逸らすと、明後日の方向に目をやった。
「ふむ
……
あれはたしかに天祥院くんの後ろ姿だったような気がしたんじゃが
……
。まぁ、すぐ瀬名くんの方に行ってしまったみたいじゃったし、我輩が見間違えただけかのう」
零の形の良い唇が、のらりくらりと緩急をつけながら時折確信をつくように揺さぶりをかけてくる。
どうやら、英智が少しだけ零の様子を見に来たことに気づいていたらしい。英智はすました顔で小さく口を開けた。
「
……
いいや。たしかに行ったよ。一応、同室のよしみでね。けれど、君は大勢から祝われて忙しそうだったからすぐ戻ってきたんだ。君とは後で部屋で会えるし、人混みを掻き分けてまで君を祝いに行かなければいけない理由もなかったからね。千秋も元3Aの皆でお祝いしたいとうるさかったし」
あぁ、勿論羽風くんも後から来てくれたよ。君のところを抜けて。
そう柔らかい笑顔で嫌味っぽく言葉を続ける顔は、他の動物を困らせては喜ぶいたずら好きの子リスのような可愛さと可愛げのなさがあった。
零もククク、と小さく笑った。
「喜んでおるところ残念じゃが、薫くんには我輩が瀬名くんの方にも顔を出してくるように言ったんじゃよ。まぁ誰かさんは言われずともそちらの方に行っておったようじゃが」
「ふふ。負け惜しみかい?羽風くんも僕も、最終的には君より瀬名くんの誕生を祝いに行ったということだよ。可哀想にね」
嫌味を言われてもなお英智は上機嫌だった。かわいい顔が、悪魔のような言葉を優雅な音色で包んで容赦なくぶつけてくる。かわいいお顔から繰り出てくる言葉は、相変わらずかわいくないものばかりだった。
零は少し間を開けると、小さく頷いた。
「
……
そうじゃな。たしかに、負け惜しみかもしれぬのう」
あえて肯定してみせると、英智の目が一瞬訝しげな表情を浮かべたのが視界の端に映った。
零はニヤリと笑った。
「おぬし、日付が変わった時にはもう寝ておったし、我輩が起きた時には既にESに出社しておったじゃろう。こちらのパーティーにもろくに顔を見せぬし。
……
わざと我輩のことを避けておったのではないかえ?」
不敵に微笑む零は、英智が何故そんな行動をとっていたのか、心当たりがあるらしい。英智は一度だけ瞬きすると、零の瞳をじっと見つめた。
「別に、そんなこともないけれど」
「そうかえ?
……
てっきり、誕生日当日になって急に我輩のことを意識して、何となく顔を合わせにくくなっておったのかと思ったんじゃが」
「
……
ごめん。風の音で聞こえなかったよ。誰が誰を意識するって?」
笑みを浮かべながら警戒するように声を低くする英智に、零はおかしそうに笑った。
「言わぬと分からぬのかえ?
……
いいや。おぬしは分かっておるはずじゃ。何故自分が今日一日我輩のことをずっと避けておったのかも、何故こうしてここに呼び出されたのかも」
「
…………
」
「話を変えようとしても無駄じゃよ。いい加減、素直になってくれぬかの」
「
…………
」
「ほれ。プレゼント、今なら存分に渡して良いぞい」
零のスラリとした綺麗な人差し指が、彼の唇を軽くトンとタップする。英智は意図を察して固く腕を組み直した。
「ふふ。キッスをご所望かい?何故僕が君にそんなことをしなくてはいけないのかな」
なおも鉄壁の笑顔を浮かべる英智に、零は「今更じゃな」と食い下がった。
「セックスの時に散々しておるじゃろ」
「それは
……
その場の雰囲気にあてられてしているだけで、特に深い意味なんてないよ。君もそうだろう。キスだけすることに何の意味があるんだい。
……
おかしいだろう」
そんな関係でもないのに。
少しずつ小さくなっていく言葉に、零は口を閉じた。
11月の空中庭園の涼しさをまとった風が、さぁ、と2人の髪を揺らす。
零は真っ黒に染まった空を黙って見つめると、ゆっくりと口を開けた。
「
……
なら、そんな関係になるかえ?」
「
…………
え?」
脳内で、情報の処理が遅れる。今、零は何と言ったのか。
無意識に素直な反応を見せる英智を見て、零は腕を曲げて距離を詰めた。
「おぬしを、我輩にくれぬか。天祥院くん」
零の声が、彼のまっすぐな意志を滲ませるように低く直線状に響く。
「
…………
」
紅い瞳と青い瞳が、瞬き一つせずまっすぐ見つめあう。
「主役のお願い、聞いてくれるじゃろ?」
冗談めいた言葉で、零が駄目押しのように言葉を続ける。零の瞳は、彼の言葉とは裏腹にどこか切なげに揺れているように見えた。
英智はチラリと己の手首に目をやると、「主役、ね」と小さく笑った。
「残念だけれど、そのお願いは聞けないな。ほら」
細い手首に巻き付いた腕時計を、ぐいっと零の目の前に突き出す。時計は、二つの針が綺麗に一つの線になるようにぴたりと重なっていた。せっせと秒数をマイペースに刻み続けるそれを見せながら、英智は言葉を続けた。
「12時は過ぎた。もう君は主役でも何でもないよ。残念だったね。『元』本日の主役くん?」
腕時計を見せてどこか得意げになる英智に、零はクスリと笑った。
「
……
そうじゃな。我輩は、もう、主役ではないのう」
英智の言葉に、零が紅い瞳を細める。横に伸びる唇の端を、英智が不思議そうに見つめてくる。もう主役でなくなったというのに、どこか嬉しそうな零が不思議で仕方ないのだろう。
可愛らしい顔が、脳内のクエスチョンマークを隠しきれないまま訝しげな視線を送ってくる。それが何とも滑稽で、零は笑いをこぼした。
日付が変わるとともにこんなにもあっさりと主役ではなくなってしまう。それが零にとってどんなに大きな意味を持つのか、目の前のかわいい顔は分かっていないのだろう。そう思うとさらに愛しく思えてくるのだから、何とも不思議だった。
珍しい英智の表情をよそに、零はスマートフォンの電話帳を開く。そのまま親指をスクロールさせると、スマートフォンを耳にあてて目の前の蒼い瞳を見つめた。2回のコール音の後、零は口を開いた。
「
……
あぁ、薫くん。天祥院くんはこれから用事があるから、今日はもうそっちには戻らぬよ。
……
うむ。うん、そうじゃ。悪いんじゃが、皆にも言っておいておくれ。よろしく頼むぞい」
「ちょっと。何を勝手に
……
」
零へと手を伸びてきた細い手首を、器用に避けて反動をいなしながら引っ張り上げる。
「うわ、」
バランスを崩したのか、小さく声を上げる英智を気にとめることもなく、零は華奢な両手を自分の首へと巻きつけさせた。
「で?キスしてくれぬのかえ?」
「何故君がキスにそこまで固執するのか分からないな。唇と唇を重ねるだけの行為に深い意味なんてないだろう」
「
……
おぬしにはなくとも、我輩にはあるかもしれぬよ」
美しい顔に並ぶ紅い二つの瞳が、蒼い瞳と交差する。英智は乾いた口を小さく開けた。
「
…………
あるのかい?」
「さぁ。どうじゃろうな」
「意地悪だね」
「おぬしには言われたくないのう。おぬしこそ、わざと日付が変わるまで時間稼ぎしておったじゃろ。性格悪いぞい」
「なんの話かな」
「もし本当におぬしにとってのキスに深い意味がないのなら、ここで今唇と唇を合わせるくらいなんてことないじゃろう。
……
できないのなら、それが答えではないかえ?」
そのまま再びしばらく見つめ合った後、「はぁ、」と英智が溜息をついた。英智は細い腕を零の背中の後ろでさらに深く交差させると、零との距離をつめて小さく微笑んだ。
「良いよ。
……
『元』主役のお願いに免じて、今夜だけは恋人として振る舞ってあげよう」
「おっ、良いのかえ?」
「うん。お望み通り、キスもしてあげるし、僕自身もプレゼントしてあげる。まぁ、これからもそうするかどうかは、保証できないけれどね」
綺麗な顔に挑戦的な表情を浮かべる英智は、まさしく皇帝然としている。夢ノ咲の皇帝は、卒業してもなお健在らしい。魔王陛下もニヤリと笑った。
「保証などいらぬよ。
……
今更我輩以外に目移りできるわけないじゃろう?」
「腹が立つね」
「お互いさまじゃろ」
「ふふ。そうだね。
……
ベッドの上で寝首を掻かれて、あとで後悔しても知らないよ」
零の頬を両手で包むと、艶っぽく目を伏せながら天使が不敵に微笑みかけてくる。
かわいい顔でかわいくない言葉を喋り続ける、悪魔のような天使。本当にこちらの命を狙っているようなその表情に、ぞくりと神経が震えた。零の本能が彼を自然と警戒し、臨戦態勢になる。
これだ。零はこの感覚がずっと欲しかった。
この天使こそ、零がずっと待ち望んでいた、対等な宿敵だった。たった一人の、対等な敵。
ーーあぁ。あの時、紐が切れなくて本当に良かった。
「望むところじゃ」
20歳の青年は機嫌よく笑った。
「我輩はUNDEADーー不死者たちの長じゃよ。何度殺されようと、華麗に墓から蘇る。ベッドの上だろうが何だろうが、いつでも寝首を掻いてくるが良い。いくらでも遊んでやれるぞい」
2歳下の青年が「ふふ」と笑った。
「いいね。せいぜい楽しませてくれることを祈るよ」
少しだけ沈黙を挟んだ後、額を絡めるようにどちらからともなくキスをして、ゆっくりと離れていく。音すら立てない、空気ごしに触れるような短い口づけ。ともすれば幻と錯覚してしまうようなそれに、一瞬だけ意識すべてが釘付けになる。
やがてそれは、燃えかすのように広い夜空へと霧散していった。
寂れた余韻が残る空間へ、零は「さぁ」と明るい声をあげた。
「日付けが変わったといえど、夜は長い。我輩の誕生日は始まったばかりじゃ。まだまだたくさんお祝いしてもらうぞい。次の11月2日まで」
多分、我輩達はもうとっくに『そんな関係』じゃよ。そんな言葉を飲み込んで、吸血鬼は来年の話をして嬉しそうに笑った。来年もまだ、保証が続いていることを祈って。
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