汗ばんだ肌をくっつけたまま、月明かりを頼りに目の前のうなじに鼻先を埋めた。そのまま肺を膨らませれば、体の中まで全部ミゲルの匂いで満たされる。
それは、実りをもたらす恵みの雨と、太陽が降り注ぐ大地の匂い。
ヒューゴが生まれ育ったのはベリルウッド城だが、もしも故郷というものがあるとしたら、きっとこの腕の中の温もりを言うのだろう。
すん、と鼻を鳴らすと、ミゲルがくすぐったそうに身じろぎをした。
ココアブラウンの毛先が揺れて、くしゃみを誘ってくる。
「……っ、ふ、ふふっ。ねえ、くすぐったいんだけど」
「ふ、ははっ……先にしてきたのはそっちだろ」
月だけが二人を見ている静かな部屋で囁くように笑い合って、それから、後ろを向いたミゲルの泣きぼくろに、ヒューゴは触れるだけのキスをした。
もぞりと、体ごと半回転させたミゲルとほんの一瞬見つめ合う。すぐに照れたように顔を逸らすミゲルだったが、無防備に晒された首筋にヒューゴの悪戯心がむくむくと湧き上がってきた。
「っ、おい、匂い嗅ぐな……って、こら、吸うな!」
「別にいいじゃない、減るもんじゃないんだし」
ミゲルからのクレームを右から左に聞き流しながら、少し伸びた襟足を掻き分けてうなじに舌を這わせる。舐めて吸って、ヒューゴのものだと主張するように赤い跡を散らしていくと、どことなく満たされた心地になるから不思議だ。
「あ! 髪は括るから跡はつけるなって言っただろ!」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ、今度の演奏会に出るからって話しただろ!」
「大丈夫だよ、このくらい近づかないと見えないから」
「はぁ……ほんっと、お前なぁ……」
顔を上げたヒューゴの確信犯の笑みに、ミゲルは盛大な溜息を吐く。
ここまでおまえに近づくことができるのは俺だけだよと、そんな副音声が聞こえてくるようで。
怒っていいのか喜んでいいのか分からず、ミゲルは口をへの字にした。
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