溶けかけ。
2024-10-28 23:18:37
1525文字
Public ほぼ日刊
 

異なる世界の片隅で。

エロ同人によくある、異界の住人(ヌヴィレット)に飼われる人間(フリーナ)のお話です。
エロ同人を参考にしたわりには、えっちくないです。

「フリーナ……おいで」
 ソファに座っていたヌヴィレットがポンポンと太ももを叩いた。言っている言葉はあまり分からないが、「フリーナ」と「おいで」あと「ヌヴィレット」は、辛うじて分かるようになった。ヌヴィレットの膝の上にちょこんと乗れば彼が僕を抱き締める。少し恥ずかしいけど、悪くない。
「だ、駄目だよ……これ以上は……んっ…………っあ……
 ヌヴィレットがフリーナの首筋に唇を寄せた。
「駄目だって言ってるだろう……っ!」
 フリーナの首からチャリッと金属の擦れる音がする。丁寧に鞣された革で作られたそれは、彼女がヌヴィレットの“所有物"である証であった。

 ────フリーナはヌヴィレットに飼われている。

「では、行って来る。そんな顔をしないでくれ……行きたくなくなってしまう……
 わしゃわしゃとフリーナの髪をかき混ぜる大きな手に思わず縋り付く。袖口に指を引っ掛け「行かないで、」と声に出した。
「すまない……君が何を言っているのか理解出来れば、不安を取り除くことも出来るのだが……
「✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕、✕✕✕✕✕!」
「あぁ……もうこんな時間だ。仕事へ行って来る。食事は、いつもどおり温めて食べてくれ」
 ヌヴィレットがやんわりとフリーナの指を外して立ち上がる。彼を掴もうとした細い指が宙を切った。
「行かないで、ヌヴィレット……でも、仕事じゃ仕方ないか……どこかで倒れないといいんだけど……
 窓から出勤していくヌヴィレットを眺める。この世界に来て早3ヶ月。帰ることなどすっかり忘れてしまったフリーナは自身の飼い主に想いを馳せた。早く帰ってこないかな、体調を崩していないかな──ヌヴィレットのことを想うだけで胸が高鳴る。フリーナは許されないと知りながら、ヌヴィレットに恋をしていた。所有物ペット所有者飼い主、例え、同じ人の形をしていてもヌヴィレットとフリーナには大きな溝があった。人外と人間、相反する種族が交わることは、この世界のご法度だ。人間はあくまで、人外の愛玩動物であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。
「早く、帰って来てよ……
 ソファで膝を抱えて蹲る。一人とはこんなに寂しいものだっただろうか、とフリーナは目を閉じた。

 その日、フリーナはついていなかった。目覚まし時計の電池が切れていて寝坊するわ、苦手な俳優に腰を抱かれて口説かれるわ、ロケバスから降りた途端、雨に降られるわ──とにかく、挙げたらきりがないほど、ありとあらゆる面でついていなかった。
「疲れた……
 スリッパを中途半端に脱ぎ捨て、濡れることも厭わずにふかふかのベッドにうつ伏せに沈み込んだ。あぁ、メイクを落とさなきゃ……頭では思うものの、指一本動かない。フリーナの瞳に涙が滲む。
 寝に帰るだけの家、女優として大成すればするほど、仕事のせいで疎遠になる友人たち。成功を妬み、嫌がらせをしてくる大先輩────……………僕、なんのために頑張っているんだろう?
 純粋な疑問が頭を過ぎった。誰でもいい、ただ少し、頭を撫でてくれるだけで、元気になれるのに。
「ホスト……は駄目だな。スキャンダルの良い種だ……風俗……知らない人とえっちなんて無理。何より、ホストより世間体が悪い」
 フリーナはスマートフォンをナイトテーブルに置くと仰向けになった。疲労が蓄積された身体は休息を求めているようで、目蓋が俄に重くなる。アラームを、と思い、手を伸ばそうとして、明日が休暇であったことを思い出した。まあ、いいか。明日は休みだし。フリーナは眠気に従い目を閉じる。どうか、明日は少しくらい、良い日でありますように。