著者: 雷歌/らいと
2024-10-28 21:44:54
2287文字
Public JEシリーズ
 

【JE/八杉】ハロウィンの夜に消ゆ

2024/10/27開催 COMIC CITY SPARK 19内 EXPOSE THE CRIME SP2024にて、同人誌にお付けさせていただいたペーパーの本文です。
実際のペーパーではカットした冒頭シーン(モブ女性と八神さんの会話)も入れております。



「助かったー! せっかくのハロウィンなのに仮装できないところだったよ!」
 そう言うのは、千両通りの鍵屋で受けた鍵開けバイトの依頼人である。ハロウィン衣装を押し込めたスーツケースの鍵が開かなくなった、というものであった。お気に入りのスーツケースだから壊したくないんだよね、ということだったので鍵屋に依頼したらしい。
「今回は対応できるパターンだったんでいいんですが、そうもいかないものもあるんで、紛失しないよう気を付けてください」
 八神は鍵開けのための小道具をしまいながら、依頼人の女性にそう言う。はあい、と軽く返事をする様に、おそらく適当に流してんだろうなあなんてことを思った。
「じゃ、これで」
「あ、お兄さん待って待って!」
 立ち去ろうとすれば、女性が慌てて引き止めた。それから、自身のスーツケースをがぱりと開けて、一番下の方から何かを取り出す。
「これ、余らせてるからあげるー」
「え、でもこれって、女性用……
 女性から差し出されたのは、パッケージにおそらくビニールに内包されている衣装を纏った女性の写真が印刷されているもの。衣装自体は魔女を模したもののようだ。しかし、スカートの短さやビニール包み自体の厚みからして、衣装の生地自体は薄いものなのだろう。
「そ。お兄さん格好いいから彼女いるでしょ? 良かったらもらってよ」
「あー、いや……
「あ。もう彼女さんの衣装ある?」
「いや、ない、けど……
「じゃ、いいよね! もらって!」
 ぐい、と胸に押し付けられてしまえば、受け取らずにはいられなかった。こちらが手を出す前に、女性が手を離してしまったからだ。
 落ちる前に受け取れたが、どうしようか、と考えてしまう。彼女ではないが、確かに恋人はいる。しかしその恋人がコレを着てくれるかどうか自信はなかった。
 やっぱり返すよと言おうとしたが、女性はすでにスーツケースを閉じて、じゃあね! と元気よく手を振っている。
「まじかー……
 八神は女性の行動の速さに、ただ苦笑を浮かべた。



「あ、八神さんお帰りー」
 一人用の方のソファに座って、杉浦がそう言いながら事務所に戻ってきた八神に手を振った。
 八神探偵事務所の定位置だと言わんばかりに、いつもそこに座っている。雑誌を手に暇をつぶしていたらしい。ハロウィンで騒がしい街並みに比べ、いつも通りな様子に八神は柔和な笑みを浮かべる。
「あれ、何持ってるの?」
 八神が小脇に抱えていたものに目ざとく気付き、杉浦は首を傾げた。
 長いソファの方へと座ると、少し困ったように眉を寄せて杉浦が見えるように眼前へ差し出す。
「え、なにこれ? ハロウィンの衣装?」
「さっき依頼人にもらってな。あー……恋人によかったらって」
 実際は彼女という単語ではあったが、まあそこはいいだろうと言い換えた。杉浦はどういう反応するだろうと見ていれば、一気に顔を赤くさせた。
 動揺しながら、衣装と八神を何度も見比べる。
「えっえっ、八神さん依頼人とそんな話したの?!」
「いや、勝手に恋人がいるだろって憶測されて押し付けられただけ」
「そ、そっか……
 複雑な表情をしている。
 それを読み解こうとしている八神だが、よくわからなかった。気になっている様子なら、着てみせて欲しいと言うところだが。
 ややあって杉浦は、おずおずといった様子で言う。
「そ、それで八神さんは……着て欲しい、て思う?」
 おや、と少し目を見開いた。おそらくこれは、YESと言えば着てくれるのだろう。しかし、それではつまらない。
 悪戯心がむくりと湧きあがり、八神は口角を持ち上げた。
「杉浦は? 着てみたい?」
「い、いや、僕は……その、女性用だし、たぶん入らないかなって」
 八神はパッケージを開けて、中を取り出した。衣装を広げて、それから杉浦へとあててみる。男性にしては可愛らしい方だろうが、それでもちゃんとした青年たる相貌だ。似合うかどうかは微妙といったところだろう。
「まあ、そうだな。それにこれ生地が薄いし、スカートも短いしなあ。ハロウィンの仮装っていうより、そういうプレイ用。かもな?」
 パッケージの女性も、胸の谷間を見せるような煽情的なポーズをしていたのだから、どちらかといえばそういうものなのだろう。ハロウィン前からこういう系統の衣装が大量に並べられているため、感覚は麻痺してしまっているが。
 首を傾げてみると、杉浦の眉が困ったように下がっていく。 
 つまりはこれを着れば、そういうお誘いも含まれている──かもしれないということを暗に含んだ。それに気付いているのだろう。
「八神さん……意地悪な顔してる」
「バレたか」
 ニッと笑むと、杉浦は呆れたようにため息をついた。それから立ち上がって、八神の持っていた衣装を奪い取る。
「いいよ。着てあげる。その代わり……今日の残りの時間は僕にちょうだい」
 思わぬ逆襲を受けた八神は、にやける口元を手で覆い隠した。杉浦は強がって澄ましているようだが、耳が赤いのまで隠しきれていない。
 素早く立ち上がると、杉浦の顎に手をかけてこちらに軽く引き寄せた。そうして自身は上半身を少し前に傾け、ちゅ、と音を立ててキスをする。
「最高の誘い文句だな」
 その目に宿る欲情を隠さず掠れた声でそう言えば、杉浦は声にならない声をあげる。そして勝手に期待する体が震えた。
 その後、八神探偵事務所を出た二人はホテル街に姿を消した。どのような夜を過ごしたかは、二人のみぞ知る──


おわり。