しちろ
2024-09-21 15:55:19
6444文字
Public コラボLOM小説(ごちゃLOM)
 

ジュンくんとシオン 2

火悠さん、yoshidaさんとのコラボLOM小説第二弾。
ギャグです。ほぼ変な人しかいません。
何でも許せる人向け。温かい目で読んでください。

登場人物紹介

●ジュン(火悠さん宅の男主人公)
世界の英雄。
強い優しいイケメンとモテる要素がそろっているため当然のごとくモテる。……が、本人は極度の鈍感で女性からの好意には全く気付かない様子。友人も多く、特に珠魅の瑠璃とは親友同士。
なお、この舞台になっているファ・ディール。いろいろ斜め上に育っているが、これが彼のイメージによるものなのかは謎である。

●シオン(しちろんちの男主人公)
ぶっきらぼうなよそ者主人公。
トラブルがあって空き家を通ってジュンのファ・ディールに来たが、帰る前に空き家が壊れてしまい、仕方なくジュン宅に居候中。明るいマイホームで居心地の悪い日々を送っている。
手先が器用で、作成関連が得意。


※※※


「あ、あの……! すみません……
 ドミナの町で声をかけられた。若い娘の声。
 振り向くと、若い娘が「ひゃっ」と小さく叫んで飛び上がった。エプロン姿に三つ編みの、可愛い少女だった。
「す、すみません、人違いです……! 失礼しました!」
 娘は汗だくになり、焦った様子でぺこぺこと頭を下げる。
 誰と間違えたのか、そしてその理由は明らかで、シオンは今にも駆け去りそうな娘を呼び止めた。
「俺と間違えたって、ジュンさん?」
「は、はい……
 この世界の英雄ジュンと居候のシオン、同じ格好だから、間違われても仕方がない。
「彼に、何か用でも? 俺、ジュンさんの家に滞在しているから、俺で良ければ伝えておくけど」
 シオンが言うと、娘は三つ編みを振り回してあわあわと首を振った。だが、ぎゅっと唇を結ぶと、意を決したように言った。
「あ、あの! ジュンさんって、好きな方とか、お、お付き合いしてる人とか、いるんでしょうか!」
……。えーと」
 なるほど、そういうことか。
「わからないです。知り合って間もないし」
「そ、そうですか……
 勇気を出した娘に対して、シオンとしては、正直に答えるよりない。
 娘はほっとしたようながっかりしたような顔でふーっと息を吐き出すと、シオンに向かって小さな包みを差し出した。花柄の可愛い包み紙で包んであり、ピンクのリボンまでかけられている。
「あ、あの! すみませんけどこれ、ジュンさんに……いえ、皆さんで召し上がってください! えっと、その、そう! お菓子焼いて、作りすぎちゃったから! 商店街のパン屋の娘だって言えば、たぶんわかると思うので!」
 焼きすぎた……そんなわけないことくらい、シオンでも気づいている。
……本人に、聞いておこうか。さっきのこと」
「いえ、いいです! わ、忘れてください!」
 娘は真っ赤な顔でそう言って、シオンに小さな包みを渡しかけ……添えられていたメッセージカードだけ慌てて抜き取った。
 あとはろくにシオンの返事も聞かず、バタバタと走り去ってしまう。
「パン屋の、娘さん……
 託されなかったメッセージに何が書いてあったか、なんとなく予想はついたし、肝心なところで人違いさせて、少し申し訳ない気もした。
 そんな、恋の甘酸っぱさを浴びせかけられながら、シオンはジュンの家に戻った。
「ジュンさん、付き合ってる人とかいるんですか」
「えっ!!!」
 帰宅したシオンは、とりあえずジュンに聞いてみた。ものすごく動揺している。
 ジュンはすぐには答えずに、話を逸らすようなことを言い出した。
「あ、ほら、シオン君! その、敬語! やめてねって言ったよね! さん付けも! なんか他人行儀だし!」
「他人だけど」
「いいの! 僕がいいから、いいの!」
 ジュンはみるみる赤くなりながら、誤魔化すように大声を出す。ジュンのほうがよほど挙動不審だと思う。
……ジュンくん、恋人とか、いるの?」
「あー、その……
 言い換えたシオンに、もごもごと口の中で何やら言っていたジュンは、やがて「うん」と肯定した。耳まで真っ赤になっている。
「あ、あのね……ユノちゃんって言って、あちこち旅しながら踊り子さんやってるんだ……。ここには、旅の合間に、たまに来てくれるんだけど……は、恥ずかしいな、なんか」
……そう」
 真珠姫並みの赤面で、滝のような汗を流しながら説明してくれる。そんなジュンののろけを無表情で聞くシオンの内心が、『リア充爆発しろ』であることは言うまでもない。
 シオンは一つ息を吐くと、ジュンに花柄の包みを差し出した。
「パン屋の娘さんから。焼きすぎちゃったから、皆さんでどうぞって」
「あ、うれしいなぁ! わー、美味しそうなハート形のクッキーだぁ! あとでお茶淹れようか。バドとコロナも喜ぶね!」
 罪作りな男だな……奈落に落ちちまえ、とシオンは思った。

 

 翌日も、シオンはドミナへ出かけた。
 というより、空き家が焼失被害に遭って以来、ドミナで現地を確認するのがシオンの日課になってしまっていた。いつ自分の家に帰れるのか気になったし、なによりジュンの家がひどく居心地悪かった。なお、空き家の建て直し工事はなかなか始まらず、しばらく帰れそうにはなかった。
 そして、毎日町に顔を出していれば、目立たない彼もそれなりに人目につくようになってくる。
「ミニジュンくん。こんにちは。今日も来たのかい」
「やあ、ミニジュンくん。ジュンくんは元気かい?」
 ……誰がミニジュンだ。
 気のいい住民たちに会釈しつつも、腹の底はあまり穏やかではないシオンである。
 この町におけるジュン人気はシオンの予想をはるかに超えており、バザーに英雄グッズやジュン様まんじゅうは売ってるし(今や草ムシまんじゅうを抑えて売り上げトップらしい)、果てはジュンくんファンクラブまで存在しているらしい。とりあえずジュンはデスペインにでも蹴られて死んでほしい。
 日課の空き家チェックを終えてため息交じりに踵を返すと、ぱたぱたと駆け寄る足音がした。
「あ、あの、ジュンさん……!」
 近づくごとにはじけ飛ぶ、恋の桃色オーラ。またか。
「あ、あの! こんなところでいきなり、すみませんけど、ちょっとお話が」
「悪いけど、人ちが……
 シオンが言い終える前に、声をかけてきた娘がチッと舌打ちした。
「なんだよ。ジュン様かと思ったらミニジュンかよ。紛らわしいことしてんじゃねえよ」
 俺が何かしたというのか。
 恋する乙女から夜叉へと変貌した娘は、シオンに向かってハート柄の小包を差し出した。
「そうだ、ミニジュン。ジュン様とこに居候になってるんだって? ジュン様にこれ渡しておいてくれない? ジュン様を思いながら一晩かけてじっくり仕込んで焼いた、愛のクッキー。ジュン様に召し上がっていただこうと思って……。ミニジュン、お前は間違っても食うなよ」
 拒否権を発動する前に包みを押し付けられたシオンは、このクッキーだけは決してジュンには渡さないと、静かに決意した。
「ってか、こうしちゃいらんないんだよ、次のイベントの締め切りに間に合わな……
「しめきり」
 本好きの性で、つい反応してしまった。失礼ながら人は見た目に寄らないというか……小説家とかだろうか。
 娘は、反応の鈍いシオンを上から下までじろじろ見ると、やれやれと肩をすくめた。
……惜しいな、ミニジュン。お前だって、そのコスプレ衣装でさえなければワンチャンないでもなかった」
「わんちゃん?」
 何のことだと思った。
 彼女の言葉の意味は、娘と別れた後まもなく理解した。
 たまたま立ち寄った本屋で見つけた、妙に薄い本。見覚えないなと思って手に取ったら、ひどく慌てた店主に止められた。
「ちょっとちょっと! 君にはこの本は、まだ早いから、ね?」
 いかにも見せたくないと言わんばかりに、素早く取り上げられる。ちらっと見えただけだが、表紙にたぶんR18とか書いてあった。あと、なんかこう……あんまり言いたくないけど、見覚えのある人たちが仲良くしてた。(お察しください)
 『今月の新刊』と銘打たれたコーナーでは、娘たちがワイワイ会話している。
「また来るかなぁ、エメ氏」
「エメ氏って、翠色のおかっぱの子だよね? 最近よく見かけるね」
 シオンは反射的に耳をそばだててしまった。エメ氏とはおそらく彼女だろう。
「エメ氏、すっかり常連だよね~。こないだも、ほっかむりして新刊まとめ買いに来てたわよ。一人でそんなにたくさん持って帰れる? って聞いたら」

『大丈夫よ……! 何しろ街のみんな、娯楽に飢えてるからね……! 姉さまたちとかほ●る姫様とか、楽しみにしてる仲間多いのよ! お土産に、たくさん買っていなきゃいけないの……! 大丈夫、持ちきれない分はペリカンに届けてもらうから……!』

……みたいな! 今度はジオまで遠征するんだって。ジオコミ、私も行きた~い!」
「エメ氏の住んでる町ってどんなんかなぁ? 気になるね~って、どうしたの、コスプレ君。いきなり壁に頭ぶつけて」
「なんというか……度重なる、俺の存在意義と根本的価値観へのダメージがすごくて……
 ものすごい頭痛とめまいがする。
「よくわかんないけど、ミニジュン君には刺激が強かったのかな。ごめんごめん」
 そうだけどそうじゃない。
(この世界、どうなってんの……
 ぶつけた側頭をさすりながら本屋を出たシオンは、改めてここが異世界であることを痛感した。自分の世界の常識は、ジュンの世界では通用しない。三次元強火オタも、奔放でイメージ力の高い女性方(※マイルドな表現を用いています)の存在も、ここでは普通なのだ。
 先ほど言われた『ワンチャン』の意味もなんとなく理解した。
 今のところ、ジュン様のコスプレ野郎で済んでいる(それはそれでどうかとは思う)シオンだが、もし別の服に着替えたら別の危険が発生する気がしないでもなかった。
……うーん」
 このまま英雄強火オタで通すか、万が一薄い本の餌食になるか悩んだシオンは、第三の策を思いついた。
「ジュンさんの遠い親戚です。俺の一族はみんなこの格好です」
「し、親戚?」
 シオンは、町の人間一人一人に、丁寧に説いて回った。
「これは民族衣装です。内陸の奥地に住む赤い帽子族です。モティさんのモティ村みたいなもんです。同じ服を着て同じ帽子をかぶって、同じ踊りを踊ります」
「親戚って、聞いたことないけど……
「親戚です。俺たちの一族の男はこの装束を着るのが習わしです」
「親、戚……
「その通りです。親戚です」
「そ……そっか、親戚か……じゃあ、その恰好も、しょうが、ないよね……
 かつての英雄としての、強力な威圧と挑発力を無駄に発揮した結果、数時間後には、シオンをミニジュンと呼ぶものはいなくなった。ジュンの世界にきてはじめて、シオンは戦いに勝ったのだ。
 なお、この説得行脚の最中、シオンの興味を引いた情報が一つだけあった。
「そうかぁ、ジュンくんにも親戚とかいたんだねぇ。よかったよ。あの子、子どもの頃に一人で引っ越してきてさ、家族とか見なかったからねえ」
……そうでしたか」
 シオンはマイホーム出身である。どうやら出生が異なるらしいと思ったシオンだが、別におかしくはないだろうと思いなおした。ジュンとシオン、立場は似ていても生きてきた人生は違うのだし、生まれも育ちもそれぞれだろう。
 こうして、無事に住民たちへの刷り込み、でも、洗脳、でもなく意識改革を終えたシオンは、ジュンのマイホームへ帰ろうとした。
……まだいたわね。アンタに話があったのよ」
 ボスキャラのBGMが聞こえた。
 町の入り口で腕組みし、仁王立ちして立ちはだかっている。一度会えば忘れもしない、さっきの強火女だった。
「聞いたわよ、ミニジュン。いえ、シオン君。ジュン様の親戚だったのね。早く言ってくれればいいのに」
「理解したのなら、そういうことなので。気にしないでください」
 足早に通り過ぎようとしようとすると、娘がシオンのスカーフをつかんで止めた。
「違うのよ、誘いの話よ」
「は?」
 娘はにたりと笑って、イベント案内と書かれた冊子を差し出した。
「ジュン様の親戚君。そのねちっこさ、その根暗さ、テンポの悪さ。君にはオタクとしての素質を感じるわ。なにより、ジュン様と生活を共にしているというその環境。よかったら今度、一緒にジュン様について語り合わない? よければToMの回もあるわよ。それから、最近のニューウェーブがVoM、カプ論争が定まってないから煮えたぎっててみんな熱いわ」
……いえ、俺はそういうのは、いいんで」
 関わっちゃいけない世界だと本能で思った。
 根は真面目で凝り性のシオン、たしかにオタクっ気のある自覚はないこともない……が、そこに素質とか感じないでほしい。
「なんだ、ザンネン。ジュン様のお揃い衣装、じっくり見せてほしかったのに。いつでも気が変わったら声かけてよね。……あ、さっきのクッキー食べていいのはジュン様だけだから。いくら同志でも、そこは間違えないでよね」
……
 ジュンの家への帰り道。
 シオンは、渡されたクッキーを何度も投げ捨てようと思った。
 だが結局、しっかり持って帰ってしまった。ひねくれもののシオンだが、やっぱり真面目なのである。



「ドミナでまた渡された」
 帰宅して強火クッキーをジュンに渡すと、ジュンは無邪気に喜んだ。
「あー、町に行くとよくもらうんだよねえ。ドミナの女の子たちって、みんなよく気が利くし、親切だよね! わあ、アイシング凝ってるなぁ。ちょうどお茶の時間だし、お茶淹れようか。バドとコロナも喜ぶしね、いつも助かってるよ~」
 ニブいのも大概にしろ、この筋肉。と思う。
 うきうきとお茶の用意を始めたジュンに向かって、シオンは何気なく問いかけた。
「ジュンくん、子どもの頃にこの家に引っ越してきたんだって?」
 他愛ない質問のつもりだった。シオンには。
 がちゃりと、ジュンの手から玻璃の茶瓶が落ちた。
「あ、えっと、その」
 ジュンの顔色が変わったのは、恋人の有無を聞いた時と同じだった。ただし今日は、かすかに青い色に。
「あ、えっと、うん。それ、どこで?」
「さっき、ドミナで町の人から聞いた」
「あ、そっか。そうだよね」
 それから、いけない落としちゃったと、ジュンはぎこちない動きで茶瓶を拾い上げた。
「あ、よかった。割れてなくて。そう、そうなんだ。僕がまだ、子どもの頃にね」
……。そう」
 シオンは、それ以上訊くのはやめた。ジュンは笑って答えたが、明らかにその笑い顔は引きつっていて、様子がおかしかったからだ。
……お茶、俺が淹れるよ。コロナやあなたに入れてもらってばかりじゃ、悪いし」
「そ、そっかぁ。うれしいな、ありがとう」
 茶瓶を受け取り、かわりにお茶を入れた。
 強烈な作り手からは想像もつかない、華やかなクッキーに双子は大いに喜んだが、その日のお茶の時間、ジュンとシオンは言葉を交わさなかった。



 その日の夜、来客があった。
「よう、ジュン」
「あれ、瑠璃じゃんか。来るって聞いてないよ」
「言ってないからな。どうせ近所同士だ。いちいち知らせる方が手間だろ」
「まあね」
 どうやら、ここの煌めきの都市は、この家から近いらしい。
 先ほどの曇り顔が嘘のように、ジュンは砕けた笑顔で瑠璃を出迎えた。親友なのだ。
 友人と気さくに笑い合っていた瑠璃は、離れた場所で少し固まっているシオンに、すぐ目を止めた。シオンの前まで歩み寄り、物珍しそうに観察する。
「なんだ、お前。ジュンそっくりだな」
……
「ジュンのコスプレ?」
……
……ミニジュン?」
 シオンは、禁句を発した瑠璃の向う脛を、思いきり蹴り飛ばした。