しちろ
2024-09-16 17:30:47
6894文字
Public コラボLOM小説(ごちゃLOM)
 

特別コラボ企画:ジュンくんとシオン

・この話は火悠さん、yoshidaさん、しちろとの聖剣LOM二次創作共同作品です。
・X(旧Twitter)『#ごちゃまぜLOM』のタグからお二人の関連作品(絵、漫画、小説など)が見られますので是非。
・とあるLOM主が他のファ・ディールのLOM主と出会ったら的おはなし。
・何でも許せる人向け。温かい目で見てやってください。

0:事の発端


 シオンは久方ぶりに怒りを覚えていた。
 原因は書斎に残された置手紙だ。

 マスターへ。
 マナの樹復活したてほやほやの、いい物件を見つけました。
 まずは下見ですが、住み心地がよさそうならそのまま引っ越すかもしれません。
 さっそく遊びに行ってきますね♡

 書斎の本棚には、ちょうど一冊分の空きが開いている。
「あ、あの、クソ本がーーー!!!!!」
 シオンは置手紙を握りつぶして、勢いよく玄関のドアを開けた。



※※※※

特別コラボ企画小説『ジュンくんとシオン』

主な登場人物紹介

●ジュン(火悠さん宅の男主人公)
19歳。力&体力カンストのゴリラ。
優しく温厚で人当たりが良い。最近、マナまでクリアした。
ユノちゃんという可愛い彼女(女主)がいる。
なお、この話はジュンの世界で行われている。

●シオン(しちろんちの男主人公)
16~17歳くらい。旅を止めた元周回主人公。
無愛想でとっつきにくいが根は真面目。
禁断の書の持ち主。どうやら女主(のちの相方)とは出会う前の模様。

●禁断の書
シオンが持て余している……もとい管理している、世界一たちの悪い禁断の書。主人に無断でNFモードにしてくる。ノリが軽いうえに話し方が絶妙にむかつく。


※※※


そのいち:はじめまして。ジュンの目線。


「おや? ジュン、さっき向こうのほうにいなかったかい?」
「え?」
 ジュンが訪れたドミナの町で、ドゥエルに声をかけられた。
 言われて、示されたほうへと顔を向ける。女神の使い噴水公園の方角だ。今日は買いだしに来たから、そちらには行っていない。
「さっき、君みたいな赤い帽子かぶってる、金髪の人物を見かけたさ。町の人にあれこれ聞いて回ってるみたいだったな。君じゃなかったなら、もしかすると知り合いとか家族かい? 帽子だけじゃなくて服装もそっくりだったし、こんな特徴的な格好そう何人もいないと思うさ」
「僕に、そっくり……
 買い物かご片手に、唸ってしまう。
 ジュンの脳内では、過去の記憶がいくつか再生されていた。町の人に情報を聞いて回ってる(というかほぼ脅してた)と言えば初対面時の瑠璃だし、自分とうり二つと言えば、悪質ないたずらをしていたシャドウゼロがいた。瑠璃は今では親友だけど……どちらにしろ、ろくなもんじゃなかった。
「放っては、おけないよね」
 買い物はひとまず置いて、すぐに現場へ向かう。すると、情報通りに見つかった。自分にそっくりの赤い帽子の男。噴水公園のベンチで休息している老婦人に声をかけている。
「見つけたよ! なにやってるの!」
 険しい態度で、偽物の肩をつかんだ。すると、偽物がじろっとこちらを見た。
……何の用?」
……え、えっと」
 瞬時に、気勢がそがれた。
 はじめて見る少年だった。たしかにそっくりだ。赤い帽子に金髪。だが、服装が同じというだけで、他はジュンと全く似ていない。大剣使いのジュンと同じ武器種を扱うらしく、少年もまた大剣を佩いていたが、体格はずっと小柄だし顔つきもまるで違う。柔和で少し気の抜けた雰囲気のジュンと違って、少年の目つきはとげとげしく険がある。
 なんとも気まずくなって、ジュンは必要以上に明るい声を出した。
「あ、もしかして、僕のファンの子とかかな! これでも最近、ちょっと有名になってきたみたいで……なぁんて冗談……えっと、君?」
 完全にハズしたらしい。
 そっくりの格好をした少年は、婦人に一礼すると、ジュンを無視してすたすた行ってしまう。
 ジュンとは顔見知りの老婦人は、取り残されたジュンに非難めいたことを言った。
「ジュンちゃんったら、あんな怖い顔でいきなり、可哀想に。あの子、探し物してるだけみたいよ。私への聞き方だって丁寧だったわ」
「そ、そうでしたか……
 素直に、悪いことをしたと思った。ジュンが勝手な思い込みをしていたようだ。
 そうなると今度は放っておけず、ジュンは立ち去った少年を早足で追いかけた。幸いなことに、すぐそばの住宅街で見つかった。
「さっきはごめんね、僕の勘違いで。本当にごめん」
「別に……気にしてないんで」
 少年は相変わらず早足で、立ち止まる気配はない。
「ところで、君。どうしたの、なにかあった?」
「なんでもないです。あと、服が似ているのは偶然です」
「町の人にいろいろ聞いてるって。困りごととかあるのかな」
「なんでもないです。あなたには関係ないことです」
「やっぱり困ってるんだね! 僕で良ければ手伝うよ」
「大丈夫です。俺一人でできるんで」
 前を向いたままつっけんどんに答えていた少年が、ふと空を見上げた。
「あ」
 つられてジュンも仰ぎ見る。
 謎の物体が、空にいた。鳥のように、バサバサと羽ばたいている。
「本が、飛んでる……
 古びた、分厚い本だった。それが、こちらを馬鹿にするみたいに一回転をしてから向こうへと飛んでいく。当然ながら、空を飛ぶ本など見たことも聞いたこともない。
 ジュンが呆気に取られて眺めていると、少年が突然、謎の本を追いかけて駆けだした。
「あ、ちょっと、君!」
 信じられないくらい、足が速い。
 慌てて追いかけると、少年が町外れの空き地で苦々しげに舌打ちしていた。
「くそ、逃げられた」
 見失ってしまったらしい。
「あの本、追いかけてるの?」
 ジュンが尋ねると、「あなたには関係ないですから」と冷たい返事があった。
「協力するよ。君一人じゃ大変だろ?」
「要らないです。俺一人で探すんで」
 そうは言われても、ここまで見てしまっては見ないふりもできない。そもそもジュンは人が良く、困った人は放っておけない性格だった。
「僕、ジュン。君は?」








2:はじめまして。シオンの目線。



 赤い帽子の青年を一目見て、すぐにわかった。ああ、彼がここの英雄だ。
 そして、彼の二つ目の台詞でもう一つ分かった。
「あ、もしかして、僕のファンの子とかかな! これでも最近、ちょっと有名になってきたみたいで……
 自分は彼――ジュンに、なるべく関わらないほうがいいってこと。


 ドミナから逃げ出した禁断の書は、リュオン街道で見つかった。
「我は世界に地獄と未来亡き世界を与える存在……よくぞここまでたどり着いたな、愚かなる民草よ……
 ……
 これまで散々、淡泊だの無感動だの言われてきた俺だが、コイツに対する殺意は生きてる限り何度でも芽生えると思う。
「っていうか、カースカース、ゴミマスター! こんなところまで追いかけてくるとか、執念深くてマジ怖いぃ! 引きこもりは引きこもりらしく巣穴に引っ込んでろ、このドグサレがーーー!」
「うるっせええ、このクソ本が!!!!」
 その辺の石を投げつけて本を地面へ落とし、持ってきていたテープでぐるぐる巻きにする俺を、追いかけてきたジュンはちょっと引いて見ていた。
「なんか、すごいね……その、君……
……なんでもないです。今、終わったんで」
「う、うん」
 俺は未だに、彼に名乗っていない。
 さて、自分の知る限り、AF使いというのはいくつかに大別される。度の越えたお人よしとかお節介とか、もしくはよほど運が悪いか変人かだ。
 このジュンも例外ではなかった。禁断の書を追う俺のあとを、ジュンは何度追い払ってもついてきた。
「君、困ってるんでしょ? 僕も手伝うよ! 人手は多い方がいいからね!」
 頼んでないし。
 で、やっとのことで本を捕まえた今も、ジュンは朗らかに笑ってみせている。
「無事に見つかってよかったねえ。あ、僕のことは気にしないで? 僕が君を助けてあげたかっただけなんだから」
……。そうですか」
 だから、別に頼んでないし。
 ジュンはこの辺りでは顔が広いらしく、しかも聞き上手だった。俺一人ではなかなか集まらなかった目撃情報が、ジュンが加わると面白いように集まった。だから、彼がいて助かったか助からなかったかと言えば、まあ、助からないことはなかった。なかった……けど。
 しかし、つくづく、お手本みたいな英雄だと思う。きっと、強くて優しくて思いやりにあふれていて、誰からも好かれているんだろう。困った人間を見たら手を差し伸べられずにはいられない、そんな正義の味方の見本みたいなやつ。
 俺が本を小脇に抱えると、ジュンはすっかり暮れた空を見て、また笑った。
「うん。これにて一件落着……だけど。ずいぶん遅い時間になっちゃったね。ねえ、君。よかったら僕の家においでよ」
「え?」
 なに言ってんの、こいつ。
「本追いかけるうちに、ドミナからずいぶん離れちゃったしね。偶然なんだけど僕の家、すぐ近くなんだ。お腹すいたろ? ご飯食べて泊まって行ったらいいよ」
 偶然……いや、偶然じゃない。あのクソ本、大樹の家の書斎に収まりたくて仕方がないんだから。
 というより、こいつの家ってことは。
「この街道、夜に一人じゃ危ないよ。魔物増えるし盗賊も出るし。それに君の格好。昼にも言ったんだけど僕、けっこう有名人でさ……ときどき変なのに絡まれたりするんだよね。もし君が間違えられてそんなんなったら、申し訳なさすぎるし……
「あの、俺なら大丈夫なんで。自分で帰れるんで」
「いやいや、遠慮しないで」
 断じて遠慮してない。だが、俺が抵抗する間もなく、ぐいぐい手を引かれて連れていかれる。こいつ、何だってこんなに馬鹿力なんだ!!
「ほら、ここが僕の家」
「あ、あの、俺、本当に」
 いや、この家は困る。本当に困る。
「ささ、遠慮しないで。僕、こう見えても料理得意なんだよ。バド! コロナ! お客さんだよ!」
……
 ジュンの呼びかけに応えて、奥からパタパタと小さな足音が二つ聞こえた。
 ……俺、どんな顔して二人に会えばいいんだろう。
 


 やけに豪勢な夕食が用意された。ほとんど食べられなかったけど。
 食事に手を付けない礼を欠いた客(別に好きで客になったわけではないが)に嫌な顔一つ見せず、ジュンはドラム(おそらく火属性)を抱えて外へ出て行った。
「僕、お風呂いれてくるね。適当にくつろいでて」
 だそうだが、適当にって言われても。それに、風呂いれるのに楽器が必要なんだろうか。
 そしてこの数十分が、今日の自分にとっては一番気まずい時間だった。ジュンの弟子……コロナとバドの双子と三人きりになったからだ。
「さっきも自己紹介したけどさ。おれバド! 師匠の一番弟子。兄ちゃん、師匠のファンとか? よくできた衣装だね」
……
 俺、ここにいる限り、コスプレと言われ続ける気がする。
「兄ちゃん、名前は」
……シオン」
「あ、やっと名乗ってくれましたね! 私はコロナです、改めてよろしく」
 ……。うっかり名乗ってしまった。なにやってるんだろう。
「シオン、魔法使える? おれたち双子の魔法使いでさ、おれは大魔法使い目指して勉強中なんだ」
「俺は、魔法は使えない」
「でも、それ、魔導書だよね? ちょっと見てもいい?」
「これは誰にも見せられない。危ないから」
 バドが言うのは、テーブルに置かれた禁断の書だ。さっきまで大暴れしていたが、今はおとなしくなっている。
「危ない本? そんなん、余計に気にな」
「ダメだ」
「ケチ~」
 バドが口をとがらせ、コロナが弟をぽかりとやる真似をする。
 バドはしっかり者の姉に向かってあかんべをすると、外の方を見て言った。
「うちの風呂、外にあるんだ。サラマンダーのドラムで沸かすんだけど、師匠、魔法のコントロールがいまいちでさぁ。風呂の湯加減、よく失敗するんだよね。ぬるすぎたり、逆に沸騰させちゃったり」
 弟子の台詞を見計らっていたかのように、屋外から「あっちぃいいい!」と悲鳴が聞こえてきた。失敗したらしい。
「兄ちゃんのその本がダメなら、うちにある本、読んでくんない? いつもは師匠に読んでもらうんだけど、師匠、セリフ回しとかやたら大げさでさぁ、それはそれで面白いんだけどいちいち笑っちゃって」
 ちっとも勉強にならない、と言いながら、バドが分厚い事典をこちらへ差し出した。
 見覚えのある……ありすぎる本だった。以前、双子によく読んでやった、世界事典だ。



 背後に気配を感じて、音読を止めた。
「あ、師匠」
「いいよ、続けて」
 玄関のドアが開き、ジュンが入ってくる。子守りの役割が終わったところで、本にしおりを挟んで閉じた。
「俺はここまで。続きは師匠に読んでもらえ」
「え~? もう少し読んでくれてもいいのに」
 事典を主に返すと、事典を受けったジュンはニコニコ笑った。
「二人の相手してくれてありがとう。君、読み聞かせ上手いね。僕よりずっと上手だ。僕が読むと、コロナなんかはダメ出しばかりでさ」
 何故そんなことわかったのかと思ったが、見れば、居間の窓が少し開いている。そこから外へ漏れ聞こえていたのか。
「師匠、『君』じゃないよ。やっと名前教えてくれた。シオン」
「そっか、シオン君。ありがとう」
……
 本当に、屈託のない笑顔をするやつだと思う。
「風呂沸いたよ、待たせてごめんね。あ、そうそう。シオン君、着替えないだろ? 僕ので悪いけど、夜の間、着ていてくれるかな?」
「え」
「泊まるよね、もちろん。双子も君のこと気に入ったみたいだし」
 で、風呂に入りたいとも泊まるとも言っていないのに、半強制的に風呂にぶち込まれた。それも自家製らしい露天風呂。ジュンが掘ったらしい。
 俺は、人んちの一番風呂に浸かりながら、ため息をついた。
……俺、何しに来たんだろう」
 一度沸かしすぎたらしい湯は、ちょうどいい湯加減になっていた。
 星空が綺麗だった。風が吹いていた。夜の鳥が、虫が鳴いている。
 自分の場所には、どれももうない。
 今まで、よその英雄には何人か会ったことがある。
 けれど、草人がいなくなった後の世界は初めて見た。人間が女神の闇に打ち勝ち、英雄となった世界。新しい時代に向けて、時を刻んでいる世界。
『僕、ジュンっていうんだ。よろしくね』
 馬鹿みたいな笑顔の男だと思った。明るくて、光みたいで、裏表がなくて。
 でも、あの笑顔の裏に多くの苦労や哀しみがあったことくらい、俺にもわかっている。旅を重ね、出会った出来事全部ひっくるめて、マナの樹まで至った彼の精神の根幹には、大樹を支える太い幹のような確かさがあった。強さが、しなやかさがあった。人は時に嘘をつく。だけど、マナは嘘をつかない。彼を包み込むマナは、この世界のマナは、人の心をとかすように温かい。だからわかる。ジュンが本当にどういう人間か。
 家の中から、大きな笑い声が聞こえていた。師匠の大げさすぎる読み聞かせ、とやらが行われているのかもしれない。
 ジュンは知らない。ここのほかにも、同じような世界がたくさんあること。
 自分と同じような存在が、他にもたくさんいること。
 そんなこと、一生知らないほうがいい。知らなくていい。知らないほうが幸せなことなんて、この世にはいくらでもあるのだから。
……
 湯舟の中に、頭まで沈んだ。
 明日一番で帰ろうと思った。できればまだ暗いうち。どうせ寝られる気もしないし、彼らに覚えられないうちに、さっさといなくなった方がいい。
 風呂から上がると、先ほど言われた夜着が用意してあった。
……これ」
 若干嫌な予感を覚えながら袖を通してみると、案の定袖は長いし身幅は緩いし、肩が落ちてくるほどガバガバだった。
 ほんの少しだけ、イラっとした。


 その、翌日。早朝のうちにドミナに着いた俺は、本気で途方に暮れた。
「おや、ジュンのコスプレ君」
 ある場所の前で立ち尽くしていると、早朝ジョギングに出てきたらしいドゥエルが、声をかけてきた。
「君、ジュンには会ったかい? ああ、そこの空き家ね。なんか、昨日の夜、急に雷が落ちてきてすっかり燃えたさ。まあ、そのままってことはないけどね。瓦礫退けて建て直すのには、しばらく時間かかりそうさ」
……
「大丈夫かい、コスプレ君。君、なんだか今にも泡吹いて気絶しそうだけど」
 もしかしたら知ってる人もいるかもしれないけど、俺の家は、この空き家(燃えた)を通った先だ……
「あ、よかった、やっぱりここにいた!」
 絶望感しかない俺とは真逆の、やたらさわやかな声が聞こえた。ジュンだった。
「昨日の夜ね、バドとコロナと、君がもう少しいてくれたらいいねー、仲良くなれそうだね、なんて話してたんだけど……あれ、この家どうしちゃったの? もしかして……君の家?」
 大変だ! よかったら、家が直るまでうちにいていいよ!
 そんなジュンの度を越えた親切が、俺の耳にひどく遠く聞こえた。