カイの自宅の裏手には、墓がいくつか建っている。どれも素朴なつくりだがよく手入れされており、墓の前には季節の花が供えられていた。
シオンの家にはなかったもので、だからカイと二人でその前を通りかかった時、シオンの目に留まった。
「あたしの家族」
立ち止まったシオンに気づいて、カイが笑った。
カイは、ついでだからと近くから新しい花を摘んできた。
墓に落ちた落ち葉を払い、水で清め、花を取り換える。綺麗な場所だった。墓所にありがちな寂しさは一切なく、よく光が入り、清浄さと優しい空気に満たされている。
「あたしさ、ドミナ生まれなんだ。子どもの頃、ここに引っ越してきたの」
カイのこういう話を聞くのは初めてだった。
彼女が落ち葉を払う傍から、大樹の葉が降ってくる。この樹はよく葉を落とすから、きれいに保つのは大変だろう。
墓の周囲を手際よく整えながら、カラっとした話しぶりでカイは言う。
「あたしのパパとママ、あたしが小さい頃に事故で死んじゃって。この家に一人で住んでたじいちゃんに引き取られたの。最初は反発して泣いたっけなぁ。町からは遠いし、周りにはなんもないし。今はここ、大好きだけどね」
なんと言えばいいかわからず、シオンは、そう、とだけ返した。こういう時、どうも自分はうまくないと思う。
この家の周りにあるものといえば、広い草原と遠くに見える山、それからリュオン街道へ続く長い一本道だけである。物心ついた時にはすでにマイホームにいたシオンには当たり前の景色だったが、にぎやかな町育ちのカイには最初のうちはそれがさみしく、つまらなく思えたのかもしれない。
手入れを終えたカイが、立ち上がりながら何気なく聞いてきた。
「シオン、キミの家族は?」
「さあ、どうだったか……。家はあったけれど、気がついたときには一人暮らしだったし」
返事を聞いたカイは、すこし気まずそうに、そっかと言った。
別に、シオン当人は気にしてはいない。そんな余裕などなかったし、血縁の有無を気にする年頃でも性格でもないし。
カイと入れ替わりで墓前にしゃがみ、渡されていた花を供える。あとは死者の冥福を祈るなり、何かを伝えるべきなのだろうが、何を言うべきなのかやはり悩んでしまう。
結局思いつかずに形ばかりの祈りを捧げ、シオンは顔を上げた。眩しい。
「あーーーーっ!」
とんでもなく、でかい声。
思いっきり鼓膜が痺れたシオンが顔をしかめて文句を言う前に、カイがシオンの顔をぐいっとつかんできた。シオンが驚くのもかまわず、穴のあくほどのぞきこんでくる。ものすごく近い。
「な、なんだよ」
「紫!」
「は?」
「キミの瞳だよ、光の加減で紫に見える!」
カイの頬が興奮して紅潮している。聞いたことなかった。自分の目は濃い青のはずだ。
「そっかぁ、だからキミの名前、シオンなんだね」
呆気に取られているシオンをよそに、カイは、ものすごい発見をしたとばかりに満面の笑みを見せている。だが、はたと我に返ったらしい。
「あ、えーと、その」
明後日の方角を向きながら、両手をぱっと離した。なんかもう、はたから見れば完全に誤解される距離だった。
「……キミ、知ってた? 自分の目のこと」
「……。いや……」
気にしたことない。興味もないし。
しかし、それを聞いたカイは、改めてにこっと笑った。
「キミのパパとママ、きっとキミのこと大事にしていたと思うよ。だって本当によく見てないと気づかないもん」
せっかくだから鏡で見てみたらと上機嫌のカイが言う。なぜそんなことで楽しくなれるのか、よくわからない。
「よかったら貸すよ、あたしの鏡。持ってくるからさ、待っててよ」
言うが早いか、玄関へ向かって駆けていく。相変わらず落ち着きないし、絶対びっくりするからとカイは自信たっぷりに言うが、自分の性格的に絶対びっくりしないと思うし。
「……へんなやつ」
無意識に目を抑えてつぶやいていた。
彼女はいつも天真爛漫で、悪意を知らない。きっと愛されて育ったのだろう。
彼女の未来も行く末も分からないけれど、せめて自分と同じにならなければいいなと、そう思った。
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