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しちろ
2024-07-27 23:05:26
2588文字
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LOM
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ボクが生まれた日
ワンライ。草人。
「ボクたちココロないの?」
ボクがきくと、そうかもしれないね、キミたちはみんなで一つだからと詩人のポキールはいった。そういわれてもボクわからないや。ココロってなんだろう。
「心というものはね。本来は生きとし生けるもの、誰でも持っているものだよ。生きていくうちにいろんな色に染まることもあるけれど、生まれたての心はみな無垢で真っ白だ。白い心があれば好きな場所へ行ける。世界を思う通りに描いて、好きなように歩くことができる」
「それっていいことなの? ボクよくわからない。ボクたち、べつのどこかにいきたいとかおもわないの。でも、星はすきだよ。お日さまも月も、葉っぱが風でくるくるするのも、あったかい雨にぬれるのも、夜の虫といっしょにうたうのも。ポキールのちょっとへんな詩も」
そうかいとわらって、ポキールはボクにちいさな道具をくれた。木でできた、まるとかさんかくとかしかくとか。
「これしってる。ニンゲンのこどもがあそぶの。つみき」
「そうだよ、積み木。こうして組み立てれば家になり、いくつか並べれば村になり、たくさん集めれば町になる。もしかしたら、木とか教会とか、もっと違うモノを積み上げる人だっているかもしれないね。この世界はね、イメージでできている。街も人も自然も、キミがそこにあると思うと思うからあるのさ」
おもうってなんだろう。イメージってなんだろう。やっぱりボクにはわからないよとボクはポキールにいった。
「ボクじゃないボクがいってたよ。世界はイメージだなんて、そんなのチガウって人はいうって。でもね、それとはべつのボクじゃないボクが、ポキールのいうことはホントウだってことをしってるきがする。さいしょのいばしょとはちがう、とおいどこかにいった、ちがうボクがどこかにいるきがする」
「そうかい。それがわかるのなら、『キミ』にもいつかわかる日が来るかもしれないね。ならばキミにひとつだけ、こことは違う場所を教えてあげよう」
ボクは、ちょっとだけわくわくした。そこにいくと、なにかいいことがあるのかな。
「あるよ、きっとね。新しい場所に行けば、新しい友達ができるかもしれない」
「なかよくなれるかな」
「そう思うよ。キミと出会った人が何も知らなければ、キミの知っていることを教えてあげればいい」
おしえるってどうすればいいんだろう。うーんと、むずかしそうだけど、できるかな。イメージ? ってなんだろう。
つみきつみき。
もらったつみきをだいじにかかえて、ポキールにおそわったばしょへいってみた。おおきな木のある、きいろいやねのおうち。すきだな、ここ。むねのあたりがあったかくなる。
そのうち時間がたって、いえから人がでてきた。金色の髪をしたニンゲンのこ。なかよくなれるかな?
「こんにちは。ボク、草人」
はなしてみると、世界はイメージだなんてしらなかったっていう。ボクといっしょだ。
だから、ポキールにおそわったとおりにボクもおしえてあげた。世界はイメージなんだって。
「これをあげるね」
はなしのさいごにつみきをわたすと、その人はさっそく、つみきをもってでかけていった。
ドミナの町って、いうらしい。
その日の日がくれて、またのぼったころ、つみきをあげた子は家にかえってきた。そしてボクに、自分がみた町のはなしをしてくれた。ああ、この人のなかにドミナの町はあったんだ。ボクのむねがまた、すこしあったかくなったきがした。
それから人間の子は、いろんなところへ出かけていった。
心がある人はどこかに行けるんだって。イメージできるんだって。だからきっと、きっと真っ白な心でたくさんイメージしてるんだ。
そしてこの家に帰ってくると、ボクに見てきたものをおしえてくれたりおしえてくれなかったりした。おしえてくれたのは、寒い雪原とか、くらい洞窟とか、ふしぎな塔とか、ピカピカの海とか、こわい魔物とか。でも、なにも言わずにボクのよこをとおりすぎることもあって、そんなときはいつもなきそうにしていたり、顔をぎゅっとゆがめたり、こわい顔をしたりしていた。そんな顔してるの見ると、ボクも胸がぎゅってなる。目とはながつんてなる。なんだろう、きみがそんな顔、ボクしてるのいやだな。
『かなしい』な。
人の子が帰ってくるたびに、ボクの胸はふくふくふくらんでいった。きみのいろんな話を聞くたびに。きみのいろんな顔を見るたびに。ときには、ボクにおみやげを渡してくれたりもした。きみはやさしい。きみの周りはいつもあたたかい。ボク、それが『うれしい』な。
「ただいま」
「おかえり」
ねえ、きみ。きみの見る世界、教えてくれる世界、ボクはとてもすきだよ。世界ってこんなにキラキラしていたのかな。人は、こんなに忙しく笑ったり泣いたりしているのかな。きみが見てきた景色はどんなかな。だってきみはいつも、いろんな顔でボクに話しかけてくれている。それがボク、とても『たのしい』よ。
またひとつ大きな冒険を終えたころ、人間の子はボクにこう言った。
「ねえ、君。草人には心がないと、君は言っていたね」
「うん、どっかのボクがそういったよ。ポキールも、そうかもしれないって。だからボク、ココロないの」
すると金色の子はこう言った。自分はそうは思わない。
「だって君は、ここではないどこかの話を聞く時に、こんなにも目を輝かせている。新しいことを知って、いつも自分の知らない世界のことを考えている」
ココロ。こころ。
ああ、そうか。そうだったんだ、ポキール。
ボクは今、考え、思っている。いろんな景色。人の想い。世界の色。きみの笑顔。
そうか、ココロだ。これがココロだ。
ここではないどこかを、知らない誰かをイメージする。笑い、喜び、悲しみ、怒り、きみの心を受け止めたいと思っている。これが、ボクの、心だ。
ボクはきっともう、たくさんのボクたちのなかの一個じゃない。今、ボクの中にあるのは、ボクだけの、ボクだけが感じる心だ。
とてもあったかくなった胸に手を当てて、ボクは友達に話しかけた。
「ねえ、きみ」
「なんだい?」
「ボクはボク。ボクたちじゃ、もうないの。ボクの心はここにある。だからきっと、今ならこことは違うどこかに、行けるような気がするよ」
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