しちろ
2024-07-25 19:17:51
1723文字
Public LOM
 

精霊の光、月の煌めき

ワンライ。主人公とリュミヌー、未登場珠魅ムーンの話。

 常夜の町の、月が綺麗な夜。路地の奥に店を構えるランプ屋に、ふらりと客がやってきた。
「やあ、リュミヌー」
「あらまあ、いらっしゃい」
 作業に没頭していたリュミヌーの顔が、ぱっと明るくなる。先日、ランプを売ってきてくれた若い旅人だ。
 今日は何の用かと尋ねると、旅人は自分のランプを買いに来たと告げた。
「本当は、もっと早くに買いたかったんだけどね。あの時はお金に余裕がなかったもんで」
「エレに聞いたわ。旅の途中だったんですってね。あなた最初から最後まで何も言わないんですもの……おかげさまで、私は無事にごはんをいただきまして、今日もこうしてランプを作っていられるわけですけど。あなただって忙しかったのに、悪いことしちゃったわ」
「そんなことはないよ。とくべつ目的のある旅じゃないし、ああいうのも楽しいと思っている。少しだけだけど、アナグマとも話せるようになったし」
 ハプニングが本当に楽しいのか、金髪の旅人は明るく言う。人が好い。あの日はたまたま通りかかっただけなのに、ギルバートに強引にランプを押し付けられたんだったか。
 旅人のおかげで三つが売れ、あれからまた少しランプは増えて、店内のあちこちで色とりどりに明かりをともしている。奇妙な形をした手作りのランプは、どれ一つとして同じものはない。
 商品をじっくり品定めしている旅人に、カウンター内のリュミヌーが説明する。
「私のランプにはね、ひとつひとつに精霊が入っているの。光や金や火や、色だとか明るさだとか光の雰囲気だとかそういう違いがあるわけですね。セイレーンの歌を聴かせて、もし気に入ってくれたらお礼にランプの中に入ってくれる」
「へえ、魔法のコインをもらうときみたいだね。いつまでランプにいてくれる?」
「それは精霊の気分次第ね。それと、ランプを買った人を気に入るかどうか、かしら?」
 あなたは気に入られそうねと、リュミヌーが笑う。自分の作品を気に入ってわざわざ遠くから買いに来てくれる、ランプ屋としてこんなにうれしいことはない。
 旅人は時間をかけて一つを選んだ。会計をし、リュミヌーがランプを梱包する。
 それをのんびり待ちながら、旅人は別のランプに目を止めた。
「その奥のランプ。他のとは違う気がするね。造形も光の感じも、独特な感じがする」
「あら、よくおわかりで」
 リュミヌーが目を丸くする。リュミヌーの後ろに置いてある、細長い形のランプ。光の精霊でも火でも金でもない、青白い光が灯っている。
「それはね、この店唯一の非売品なの」
「思い入れのある品?」
「いいえ、たぶん、前の店主の作品かしら」
「前の?」
 ええ、とリュミヌーが頷く。慣れた手つきで、ランプをくるりと紙に巻き包んでいく。
「ここの店、前もランプ屋だったようなんです。それがいつの間にか誰もいなくなって、蜘蛛の巣張るようになっちゃって。気味悪いってずっと空き家になっていたのを、私が安く借りたってワケ。ライムライトって名前つけてね。だから、私の頼りない売上チャンでもこんないいお店持ててるのよね」
 私のランプは、精霊に入ってもらっているんだけど……と言いながら、いったん作業の手を止めて、リュミヌーは青いランプを手に取った。
「月の光みたいでしょ? 気に入ってるのよ」
 見るだけねと片目をつぶり、旅人に手渡す。
 旅人は、青白いランプを窓の方へ差し向けた。まるで月の雫をランプに閉じ込めたような。窓から射し込む月明かりとよく似た、神秘の色。冷たくて優しい、不思議な煌めき。
「私のお店の名前はライムライトなんだけど」リュミヌーが歌うような声で言う。「そのランプの主のお店の名前は、きっとムーンライトかしら?」
 割れないように保護した紙をしっかりテープで止めて、袋に詰める。
「なぁんてね。ベタだと思った?」
「いいや、そんなことは」
「またまた、いいのよ、思ってるだけですから」
 笑ってリュミヌーは精霊のランプを旅人に渡し、旅人は月のランプをリュミヌーに手渡した。

 月夜の町、ロア。
 この場所でかつて営まれていたランプ屋には、月の名前の珠魅がいた。それは、今では誰も知らない。