しちろ
2024-07-25 19:16:34
1987文字
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メガロードと風読み士

メガロードと普通の風読み士の話。

 幼少のころから、この村に生まれた者はドラグーンになるのだと言われてきた。
 風読み士の村。知恵の竜の住むノルン山脈のふもとにあり、成人してドラグーンとなった者は皆、主君の鱗を模した色の衣を身に着けている。
「どうしても、ならなきゃいけないの?」
「なにを言うか。これほどの名誉はないのだぞ」
 子どもの頃、大人たちには何度も聞いた。だが両親も他の大人たちも、ドラグーンであることに疑問を持ってはいなかった。ドラグーンであることを当然と考え、知恵の竜に仕えることに誇りを抱いていた。
「メガロード様。どうしても、ドラグーンにならなきゃダメ?」
 生まれた瞬間から人生が決まっているなんて、おかしいと思った。人はもっと自由であるべきだ。生き方には、もっと選択肢があるべきだ。
 今から思えば怖いもの知らずもいいところだが、幼かった自分はよりにもよって偉大なる知恵の竜にそんな疑問を遠慮なくぶつけてしまった。両親が知ったら卒倒する……どころか下手をしたら腹を切ったかもしれない。
 意外にも、メガロードはからから笑った。メガロードから風読み士たちにドラグーンになることを勧めたことは一度もないらしい。
「私は人との絆は尊いものだと思っているし、お前たちとの絆を深めたいとも思う。だがそれを強制することはすなわち絆を自ら壊す、ということだ。義務としてドラグーンになるなど過ちでしかない。お前は大人たちをどう見ているのだ」
「どうもこうも、みんな同じに見える。言ってることも同じだし。将来はドラグーンになれ、メガロード様は素晴らしいお方だ。こんな名誉なことはないって」
「なるほど。お前にはそう見えたか」
 メガロードは面白そうな顔をしている。
「僕はね、ここを出て都会に行きたい。ジオという街には大きな学校があるんだって。僕は歴史を学びたい。たくさん勉強して学者になりたいんだ」
「良い夢だな、素晴らしい」
「けど、父さんも母さんも許してくれない。ドラグーンとして知恵の竜にお仕えするのが僕ら一族の使命だって言う」
 そうかね、とメガロードが言う。
「よいかね、少年。使命というものは、人から与えられるものではないのだよ。お前が自分で定めた道ならば、それを為すを己が使命とすればよい」
「難しくてよくわかんないや。でも、僕のしたいようにするのが一番だってことだね」
「そうだ。学者を目指すだけあって呑み込みの早い子だ」
 それから間もなく、両親から町へ行く許可が下りた。渋々ではあったものの、親の心変わりの裏には、知恵の竜の説得があったと知った。


「で、あれからずいぶんと経ちましたが」
 二十年ほど前に街に出た少年は青年になり、長じて学者になった。新進気鋭の論者として将来を嘱望されてもいたという。それが……
「まさか、ここに戻ってくるとはな」
「僕のことなど覚えていて下さるとは、光栄の至りです」
「忘れはせぬよ。村の者は、一人として」
 ましてやお前は、なかなか印象深かったからなとメガロードが笑う。そう言われると恥ずかしい。
 少年は村に戻ってきた。先日契約を果たしたばかりの、新たなドラグーンとして。
「無事に入学を果たし、死ぬ気で学んだ成果でしょうかねえ。今はここで新しいことを知りたくて仕方がない」
 彼が世界の歴史を、とくに知恵の竜のそれに興味を持ったりしたのが、よかったのやら悪かったのやら。歴史学者となった彼は、研究の新たなステージとしてメガロードに仕えることを選んだ。
「新しいことか。ここは古い村だ。だが見る目が変われば新しいものも見えるであろう」
「そうですね……メガロード様。僕はね、学者でいることを止めたわけではないのですよ。街に出て以来、歴史を……知恵の竜の歴史と役割を学んできた。で、結局のところ机上で語るよりこうして研究材料のそばにいるのが一番だと考えたわけです。まあ、この通り青い衣を着てますし、三元老になどまったく及ばぬ下っ端ですがね」
「ふふ。研究材料などと呼ばれたのは初めてだな。お前の知りたいことはお前の原点にあったか。それもまた良し。面白いな」
 自らの興味と学びのためにこの生き方を選ぶ、それもまた選択だろう。
「今はね、両親も他のドラグーンの方々も、個別の人間に見えますよ。それぞれに考えがあり、ドラグーンとしての生き方を選んでいる。あの頃の僕は子どもでした」
「そうか。お前の選んだ道ならばそれを全うすれば良い。私個人としては、またよい友人ができたことをうれしく思っている」
「そうですか、それは良かった」
 ノルン山脈に風が吹く。いつもとは違う風。
……侵入者が、いたようだ」
 村で警笛が鳴った。ドラグーンとしての役割を果たすため、新米の風読み士は翼を羽ばたかせる。
 赤い獣人と、金髪の人間が眼下に見えた。