しちろ
2024-07-08 19:08:35
9362文字
Public LOM・連載主人公の短編
 

ある騎士の回顧録

珠魅たちとW主人公の話。煌めきの都市復活後、ギャグです。ティアストーンよりだいぶ後の時期と思われる。
名もなきモブ珠魅視点。過去に書いた話のリメイクです。

「つまりは、何も起こらず何も知らず、今日まで生きてきたと」
「はい」
「驚いたな、そんな珠魅がいたとは……
 到底信じがたいと言いたげに、深紅の青年は私を上から下まで観察しています。
 しかしこの方、まあ美しい。顔の彫りの深さだとか、完璧に配置された顔のパーツだとか、すらりと均整の取れた長身の体つきだとか――まるで、美術館に展示されている、高名な芸術家が彫った彫像みたいです。
 その美しい顔をあからさまに曇らせて、青年は私に確認しました。
……そもそも、君は、珠魅でいいんだよな?」
「自分でも疑わしいと思ってはいますが、核があるのでたぶん珠魅です。……たぶん」
 美しく儚い種族、珠魅。
 しかし、私、美しくも儚くもないのです。
 なんか、そう、普通です。普通。

 
 少しだけ私の話をさせていただきましょう。
 私は、とある珠魅の騎士です。
 名前? いいえ、名乗るほどの名は持ち合わせてはおりません。
 珠魅に生まれた身ではありますが、私の核は名もなき石。
 煌めきが弱かったのが幸いしたのでしょう。
 一人で諸国を放浪しながら、地味すぎて誰にも珠魅と気づかれない……どころか、かの宝石泥棒からも完全に忘れ去られてしまい、気がついたときにはすべてが終わっておりました。滅んだはずの都市が復活したという噂を聞きつけて、遅ればせながら馳せ参じたのです。

「これが、煌めきの都市……!」
 
 夢にまで見た桃源郷、宙に浮く宝石と水の都。
 ああ、なんと美しいのでしょう!
 かつてない感動に震えながら都市に足を踏み入れると、間もなく、集団と思われる足音と声が聞こえてきました。まさに奇跡です。滅びゆく種族とすら呼ばれた珠魅が、いまやこんなにも集まり、豊かに暮らしているとは……
「おい! アイツらどこに行きやがった! ぜってえとっ捕まえてやる!」
「お前たち、わかってるな、敵はあの怪物どもだ! 下手に追いかけても殺られるか撒かれるだけだぞ、一対一は避けろ! 囲んで追い込むんだ!」
「こっちは完全に包囲したはずだ! 絶対に逃がすな、騎士の名に懸けて!」
「おおおおお!」
 ……非常にヤバい場所に来てしまった気がします。
 恐怖のあまり、つい手近な小部屋に身を隠してしまった私は、こそこそと周囲を窺う羽目になりました。
「どこだ、あのクソガキどもがぁあああああ!!!!」
「功労者には報奨が出るとのことだ! みな、大いに名を上げ栄誉を得よ!」
 抜き身の武器を手にし、猛り狂う騎士の軍団。
 戦争が始まったとでもいうのでしょうか。まずは、自分の煌めきが乏しくて良かった……
「え、ええと……どこへ行けば……
 騎士たちに見つからないよう、おそるおそる、部屋から顔をのぞかせれば、
「誰かそこにいるのか!」
「ひいいいい!」 
 びぃぃぃん! と、殺意のこもった矢が、目前に突き立つではありませんか。都市にいれば安全とかどこ情報ですか。危うく死ぬところです。
「おや……君は誰だ?」
「わあああああ!」
 ぎゃああ、見つかったァァァ! 殺されるぅぅぅ!!!!
 私の瞳から恐怖の涙があふれたその瞬間、核がかつてないほど激しく煌めきました。こ、これは……核、ならぬ格が違う……! 
「大変申し訳ございません……! このような高貴な方のお目に、私のような下賤な者が映り込んでしまうなどと、いとおこがましく……
 ひれ伏す私の顔の前に、上質な誂えの赤い靴がありました。そして、落ち着いて品のある佇まい、隠しきれないオーラ……。同族をあまり知らない私でも、この目の前のお方が明らかに上級の珠魅だとわかります。
 怯えて震える私に、お名前も知らない赤い珠魅様は、優しくお声をかけてくださいました。
「何を勘違いしているのか知らないが、顔を上げなさい……見かけない珠魅だな。君は姫か?」
「騎士です!」 
 姫、万年募集中ですが!
「都市の噂を聞き、先ほど到着いたしました!」
 で、冒頭のやり取りに至ります。
「なるほど、そうだったのか。来てくれてありがとう。俺はルーベンス。僭越ながら、ここの騎士長を務めている。煌めきの都市は甦ったばかりで、仲間の数も物資も不足している。頼りにしているよ」
 な、な、なんということでしょう……
 この方が、かのエタンセルの騎士長、ルーベンス様……
 ガチガチになりながらも私が名乗ると、ルーベンス様はよろしく頼むとおっしゃって、握手してくださいました……! ああ、この手は一生洗えません……
「ありがとうございます、騎士長様! 感動のあまり核が砕け散りそうです……!」
「頼む、そんなことに貴重な命を浪費しないでくれ」
「私などの命を心配してくださるとは、騎士長様はなんとお優しい……!」
「いいからやめろって! いい加減、その涙石を止めろ!」
 だって輝石ですよ! 騎士長様ですよ! ここで泣かずにいつ泣くというのですか!
 私が感動の落涙を止められずにいると、今度は背後にゆらりと細い影が差しました。何事かと思い、振り返ってみれば、銀の長髪をした青い珠魅がそこにいます。
「なんだい、ルーベンス。そっちは見ない顔だね」
「ああ、サフォーか。彼、新顔なんだが、ちょっと困っているんだ」
「君が? 困っている? それは傑作だ」
「面白がるなよ」
 ルーベンス様が弱り顔で腕組みしたところで、私の尻に激痛が走りました。おかげで涙は止まったもののバランスを崩した私、あえなく自分の流した涙石の海にダイブを決めてしまいます。い、一体、何が……。ところで後ろの青い方、片足上げて私を虫でも見るような目で見降ろしていますが、まさか……
「しかしどうするんだ、この涙石……。なんか嫌だけど、もったいないからストックにしておくかな……
 サフォーと呼ばれた珠魅は、どこからかほうきとちりとりを取り出して、私の涙石をさっさと集めはじめました。何かの役に立つのでしょうか。
 ところで、サフォーという名前……どこかで耳にしたことがある、ような。
「サフォー……様?」
「姫長だ」
「ひいいいいいい! あなた様がエタンセルのサフォー様!」
 私は高速バックダッシュで土下座しました。
「サフォー様、頭の高いご無礼をお許しください。私はあなた様に敵対する意志などございません。どうぞお気の済むまで私の頭をお踏みください」
「君は一体、僕のどういう話を聞いていたんだい」
「はい、パートナーの騎士様を奴隷のように扱う血も涙もない男だってウワサだとか、半輝石以下はクズ扱いでことごとく足蹴にしていたらしいとか、口が裂けても言えないです」
「してないし、全部口に出して言っているよね」
 底冷えする声で言うと、サフォー様は靴で私の頭をぐりぐり踏みました。あ、あああ……さっきのローキックと言い、私、新しい何かに目覚めそう……
「ところで、ルーベンス様、サフォー様……この騒ぎ、都市で何かあったのですか?」
「ああ、ちょっとした人間騒ぎでね」
「に、人間……?」
 私の全身から音を立てて血の気が引きました。ちょっとではない、一大事ではありませんか! まさか、珠魅狩りが侵入したとでもいうのでしょうか。
 サフォー様はけだるげに髪をかきあげると、私にお命じになりました。
「実は人間が二人、都市のどこかに潜んでいてね。さっそくだが、騎士の君にも任務についてもらおうか。その人間たち、その手で捕まえてきたまえ」


 ■■■


 人間は恐ろしい、ですが手柄は立てたい……
 生まれたての小鹿のように震える足を励ましつつ、私は都市の最上階に至りました。もしかしたら、ここに隠れているかも……
「たのもー!」
「ん?」
 勢いよく扉を開けると、中にいた女性がこちらを見ました。黒い衣装を着て、おおきなバトルハンマーを手にしています。すらりとした立ち姿の女性ですが、これは、明らかに騎士……しかも、とんでもなく強そうな……
「あ、あの…………に、人間を探して……おりまして……
「なんだ、あの二人を探しているのか。残念ながら、連中ならばここにはいないぞ。ところで君は初めて見る珠魅だが……ほう、新顔か。この都市まで一人でよく来たな」
 うっすら微笑む、漆黒の真珠の騎士。あまりに美しく……そして、貫禄がすごすぎました。ど、どういうお方なのでしょう。
「あの二人ならば、私の騎士が熱心に探している。サフォーにせっつかれた? まあ、ほどほどにしておくがいい。もし見つけたところで、君ではとても相手にならないだろうから」
 ぞっ……そんなに恐ろしい人間なのでしょうか。
 ところで、黒騎士様のお話で一つ気になったのですが。
「あの、失礼ですが……騎士様に騎士様がいらっしゃるのですか」
「ふふ、頼りにしているよ」
 私が尋ねると、騎士様は意味ありげに微笑みました。なんと凛々しくお美しい……気のせいなのか、背景に大輪の華が咲いて見えます。このようなお方に頼りにされるとは、さぞかし凄い方なのでしょう。
「瑠璃という、ラピスラズリの珠魅だ。声も言動もいちいち大げさで目立つから、一度見ればすぐわかる。どうやら君も若い珠魅だろう? 若い者同士、仲良くしてやってくれ」
 美しい騎士様に応援されて、不詳私、俄然やる気がわいてきました! これからの明るく楽しい都市ライフのためにも、がんばらなくては……
 頂上のお部屋を出たところで、ひたり。冷たい感触が喉元に当てられました。
「キサマ……
「ひい……っ!」
 必死で目だけ動かすと、なんということか、黒い刃が私の喉元に押し当てられているではありませんか……! 私珠魅、喉を搔き切られたからって死にはしませんが、恐怖感が薄らぐわけもありません……! しかもこの声……! 先ほどのサフォー様とは異なる、凄まじく憎悪のこもった声です……! ままま、まさか、この男が……
「に、にんげ……!」
 涙声で叫ぶと、きらり。わたしの核が煌きました。え、え? なんで?
「あの……あなた、もしかして、珠魅……ですか?」
「そうだが、それがなんだ」
 だとしたら私、何故、同族に襲われているのですか……! 未だ刃で拘束されたまま、相手を必死に確認してみます。
 胸元に見える、青い核……ラピスが見えます。声と言動が目立つ(?)ラピスラズリの騎士……
「まさかとは思いますが……あなたが、瑠璃さん?」
「そうだが」
「黒真珠の騎士様の、騎士?」
「そうだが」
……
 ……ねえあなた、世の中って無情だと思いませんか。あの強く美しく知的で凛々しい黒騎士様のパートナーがまさか、こんな粗暴で荒々しくて、悪魔みたいに凶悪なお顔をされていて、しかも。
「この都市で妙な真似をしたら……とくに、オレの真珠姫とレディパールに指一本でも触れたり妙な色目を使ったりしたら、オマエを殺す……わかったな……
 こんな、独占欲丸出しの、偏執じみた言動なさっているとか……
「あのう……オレのって、まさか瑠璃さん、二股かけているのですか? それはどうかとおも……ああああ、なんでもないですぅうう!」
 喉元に当てられていた刃が私の核まで降りてきて、私は平謝りしました。
 どす黒いオーラ全開で黒騎士様(あの方が、有名なレディパール様とは……!)に近づくなと念押しされた私、かくかくと首を縦に振ることしかできません。というかほぼ脅しです……! だって瑠璃さんの剣、今にも私の核刺しそうでしたよ……
 半泣きで階段を降り、私は都市を下へと下って行きました。
「こ、怖すぎる……
 魔境です。煌めきの都市は魔都です。姫長もラピスも恐怖です。
 そして異世界すぎます。会う方会う方、みんな大輪の薔薇かカサブランカでも背負っているような世界です。美しく耽美すぎます。私に似合う花など、せいぜいドクダミとか布団の下に生えているキノコですが……
 もはや人間探しなど忘れ、私は適当な小部屋に逃げ込みました。
「は、はあああ……怖かった……
 どうしましょう……いっそ、ルーベンス様に泣きついたら助けていただけるでしょうか……
……誰?」
 わああ、誰かいたとは気づきませんでした……
 これまでの恐怖から反射的に土下座しかかった私ですが、声の主を見た途端、安堵感からうっかり泣き出しそうになりました。
「あああああ! この街で初めて見ました、薔薇も百合もベニテングダケも背負ってない少年!」
「は、はあ……?」
 いた、いました! まるきりオーラのない、普通の珠魅っぽい人!
 何の石の珠魅でしょうか。赤い帽子をかぶった少年で胸当てをつけており、核は見えません。
 警戒する彼に、私は慌てて自分の核を見せました。人間と間違われてはいけません。
「怪しい者ではございません。私は、煌めきの都市に来たばかりの珠魅の騎士です」
 私が胸を張って自己紹介すると、帽子の少年は首を傾げました。
「ここへ来たばかり……? 今は、正門は閉ざされていて出入りできないはずじゃ?」
「それがうっかり裏口から入ってきたもので、警戒されてしまいまして」
「裏口……
 そうなのです。この都市、分かりにくいところに裏口が設けられていて、そうと知らなかった私はうっかりそこから入り込んでしまったのです。おかげで騎士軍団に襲撃されるわ、姫長様に足蹴にされるわ、えらい目に遭いましたが……
 私の話を聞いた少年は、顎に指をあててなにやら思案したように見えました。
……よければ、そこまで案内していただけませんか? 外に大事な用があるんですが、この騒ぎで困っていて」
 驚く私に、騎士様が一緒なら安心ですから、と少年はおっとりと言いました。この様子からして、彼は姫なのでしょう。都市に来てから恐ろしい珠魅ばかり見てきただけに、少年の和やかさがひどく泣けてきました。
「お任せください! お出口まで、私がしっかり護衛させていただきます!」
「ありがとう」
 この街のどこかに、人間が潜んでいるという話ですからね……! 短い時間ながらも、裏門までご案内する間、私の心は熱くわき立っておりました。騎士として守るべき者がいるというのは、こんなに誇らしいものなのですね!
 人間の妨害に遭うことなく、無事に裏口へたどり着くと少年は驚いたようでした。
「こんなところに、裏口が……
 彼は、助かりましたと言ってくれながら、私の頭に自分の赤い帽子を乗せました。
「大したお礼もできませんが」
「って、こんな大層なものは、いただけません……!」
 だってこの帽子、飾りに使われている石とか、けっこういい品なのでは……
 恐縮しきりの私に、少年はいいからと言い、結局私は帽子を受け取ることになりました。よ、よかったのでしょうか?
「じゃあ……がんばって?」
 都市を出て行くとき、一度こちらを振り返った彼の、藍色の瞳の奥が、悪戯っぽく光ったのは気のせいだったのでしょうか。少年が門から出て行ってからも、私はしばらく、頭に帽子を乗せたまま、その後ろ姿が見えなくなるのをぼんやり見送っておりました。たしかに華やキラキラ効果は背負っていませんでしたが……なんとも不思議な雰囲気の方でした。
「見つけたぞぉおおおおおお!」
 ん? なんでしょう、上の方の回廊からものすごい砂煙が……
 と思うや否や。
「レーザーブレード!!」
 殺意のこもった青い光の刃が、私目がけて叩きつけられるではありませんか……! 死ぬ、完全に死ぬ!
 私が死ぬ気で避けると、凶行の主はチッと舌打ちして噛みついてきました。
「クソ、なんで避ける!」
 そんな無茶苦茶な! 
「避けるなって、避けないと死にます!」
……アンタ、さっきの」
 ……ってか、瑠璃さんではありませんか!
「この帽子、どうした」
 瑠璃さんは剣を抜いたまま、私を胡散臭げにじろじろ見て訊ねてきます。
「これは、先ほど外へ案内した方からいただいたもので……
 私が答えると、瑠璃さんの顔にびしりと青筋が浮きました。
「それはスカートみたいな袴をはいてこんな赤い帽子をかぶった金髪の、シオンとかいう白けた小僧じゃなかっただろうな……!」
「それはスカートみたいな袴をはいてこんな赤い帽子をかぶった金髪の、物腰柔らかい少年のことでしょうか……?」
「物腰柔らかい以外すべて正解だな……!」
「ひいいい、すみません~! 知らなかったんですぅ~!」
 指をバキボキ鳴らす瑠璃さんの、真っ黒な世紀末オーラが怖すぎる……
「クソ、シオンは都市の外だ! カイはどうした!」
「外へ逃げたという報告は上がっていない! まだ中にいるはずだ!」
「よし、探せ! そちらだけでも捕獲するんだ!」
 呆然とする私を置いて、騎士たちは一斉に走り去っていきます。
 それにしてもなんということでしょう、さっきの少年が例の人間だったとは、私、なんてことを……
「もう駄目だ……終わった……私の珠魅生……
 私はその場にがくりと膝をつきました。
 ああ、なんという……取り返しのつかないことをしてしまいました。
 私、きっとこれから鬼の姫長になじられ、ラピスの騎士になぶられて一生を終えるんです……
「キミ、ちょいとそこをどいてはもらえないかね……?」
「え……? ……ひいいいいっ!」
 鬼でした。
 私の目に前にいつの間にか、鬼が立っていました。
 黒々としてその姿はよくわかりません。逆光を背に、頭部に六本もの角を生やして、ひゅーう、ひゅーうと瘴気にも似た呼気を吐き出しています。そして、全身から放たれる凄まじい闘気と殺気……
 全身冷や汗出ずぶ濡れになりながらも、目を細めてなんとか視認することに成功しました。
 そうです……見なければ、よかったのです。
「か、かかかか」
 核がない! 胸に、核がない!
「ま、まさか珠魅狩り……!」
「はぁ?」
 とうとう限界が訪れました。私は完全に腰を抜かしてしまいました。
 動けない私は、その場でひいひい悲鳴を上げるしかできません。
 ですが、悪いことばかりでもありませんでした。私の悲鳴を聞きつけて、騎士たちが戻ってきてくれたのです!
「いたぞ、そこだ!」
「今度こそ捕まえろ、逃がすな絶対にだ!」
「ほら、ぐずぐずしてるから見つかっちゃったじゃん! キミのせいだよ!」
「そんな無茶苦茶な!」
 この都市、本当にこんなのばっかりだ!
「エリアルブレード!」
 またしても激しい土煙を上げ、高速回転の瑠璃さんが迫ってきます。ああああ、罪なき騎士たちが巻き込まれていく……
「調子に乗らないでよ、瑠璃! あたしだって腕上げたんだからね……!」
「腕上げすぎだろ、アンタ!」
 瑠璃さんの背後には牙をむく黄色い龍、そして角の生えた人間の背後には吠え猛る青い龍が見えました。辺りには瑠璃さんの技に巻き込まれた騎士たちが無残な姿に……もうなんなのでしょうか、戦争はほかでもないこの街で起きていたのです……
「覚悟瑠璃、青龍……
 その時、瑠璃さんがさっと明後日を指さしました。
「あっ、あそこに期間限定巨大プリンが!」
「えっ、どこどこどこ!?」
 なぜでしょう。瞬時に、人間から殺気が消え失せました。
 人間が気を取られた隙に、瑠璃さんが居合抜きを放ち……ついに人間に直撃しました。瑠璃さん、やった……
「ぐふっ……もはや、これまでか……
「英雄……討ち取ったり……!」
 芝居がかった仕草と口ぶりで、瑠璃さんが納刀します。
 ともあれ、これにて一件落着……って。
 え、えいゆう?
 えいゆうって、英雄? 
「よし、カイ様がついに、我らのもとにお越しになられたぞ……! 我らの悲願を今こそ……!」
「きゃああああ、素敵ぃ、カイ様ーーー!」
 カイ……様? って、この方が、珠魅を救ってくれた、珠魅の英雄?
「さあ、神輿もってこい! 花道開けろ!」
「道に花を撒け! 音楽を鳴らせ! 総力を挙げて、できる限りのおもてなしをするのだ!」
 私が呆気に取られている中、カイ様と呼ばれた人間はあれよあれよと神輿に載せられ、騎士たちに担ぎ上げられていきます。あれほど殺気立っていた都市が、今や興奮と熱狂に包まれていました。……なお、私が角だと思ったモノは棒飾りだったようです。
 風変わりな姿の英雄は、神輿の上で足をばたつかせて暴れていました。
「いやだああ! 銅像なんて嫌だあ! そんな恥ずかしいもん建てなくていいってばぁーーーー!」
「何をおっしゃいますや! それに銅像ではございません! 数十キロ先からでも見える、純金製の超巨大像でございますぞ!」
「ぜひとも我らに、そのありがたいお姿を拝ませていただきたく……!」
「もっといやだあ、恥ずかしいーーーー!」
 絶叫するカイ様に向かって、瑠璃さんが冷静に声をかけています。
「珠魅千人復活なんて派手なことをやるからだ。グダグダ言ってないで、大人しく祀られて来い。あとで、隣にあのひねくれ野郎の像も作って飾ってやるから」
「瑠璃、思いっきり笑ってるじゃん! ぜってえ、覚えてろーーー!」 
 私が都市で見た、一連の騒動。
 恩人に対して暴走した珠魅一族のラヴと、本気で嫌がる人間たちの攻防戦だったと、私はその時ようやく知ったのでした……。瑠璃さんだけは違うかもしれないですが……



 煌めきの都市に来たあの日から、三か月が経ちました。
 私は、都市に所属する騎士として、裏門の見張りの仕事を与えられました。姫は未だ見つかっておりませんが、いつか自分だけの宿命に出会えるものと信じております。
 そして、例の英雄像ですが……
 先日、ついに完成し、ランド周辺にそれはそれは神々しい光を放っております……。多くの珠魅たちは喜んでおりますが、私が同じものを造られたら……核が砕けるくらいには泣き散らすかもしれません。像を作られるのを心底嫌がっていたらしいシオン様(帽子は郵便ペリカン経由でお返ししました)が、もしこの裏門からいらしたら、他の珠魅に見つからないよう、こっそりご案内するべきか悩んではいるところです……
「お久しぶり、騎士くん」
 ん?
「こ、こんにちは、カイ様……
 なんと、裏門の前にカイ様がいらしているではありませんか……! 表情はやや険しく、恨みがましい目で私を見ていらっしゃいます。あの金剛巨大英雄像、私のせいで完成したも同然なので……軽く恨まれているようです。
「本日は、どのような御用で……?」
「騎士くん、今日はあたしの邪魔はしないでよ。これから、あの像をぶっ潰す……!」
 もはや角にしか見えない棒を振り乱し、鬼の形をした英雄は良く研いだ槍を都市へと向けました。
 珠魅は涙をとりもどしましたが、この街ではまたしても戦争が始まろうとしているようです……