しちろ
2024-03-16 23:07:10
2487文字
Public LOM
 

シュタインベルガー

ワンドロワンライ参加作品。ニキータと主人公。二人称。

1 ガト『酒造所』 ニキータ

 ふわああ、よく寝たにゃ……
 あれ、なんでアンタここにいるにゃ? そもそも、ここどこにゃ? ガトの酒造所? どうしてそんなところに……ってなんにゃ、アンタ、そんな怖い顔して……お前こそ、何故こんなところにいるんだ、だって?
 ええと、そうそう、思い出したにゃ! オイラ、お酒の仕入れに来たにゃ。ガトの銘酒『シュタインベルガー』、アンタも知ってるにゃ? 大切な商品だからにゃ、ちょっと味見をと思って……思って……どうしたんだっけかにゃ……
 酒蔵の酒、オイラが全部飲んじゃった? 自分も飲みたかったのに一滴残らず飲み干しやがって、ふざけんな? そんなわけないにゃ、オイラほどの商売人がそんなヘマするわけ……ない!? ないにゃ! ここの酒樽、全部空になってるにゃ! 中身はどこに……って、オイラの腹の中だって? うっ、そんな、頭が……記憶が……。 
 って、ちょ、このコブなんにゃ! アンタ、酒飲めなかった腹いせに殴るとか酷いにゃ! え、違う? オイラが酔って暴れて手が付けられなかったから仕方なく……って、それ、殴ってるのに変わりはないにゃ! 修道女に頼まれたからって、ここまでタコにすることないにゃ!
 え? 飲み逃げなど許さん、金払え? なに言ってるにゃ、オイラは商人にゃ。契約にも記憶にもないモノになんか1ルクも払えないにゃ。へ~んだ、そんな顔したってダメにゃ、出さないったら出さないにゃ。ビタ一文出さないにゃ。……そんならせめて飲んだ分はきっちり補填しろだって? だぁかぁら~、補填もなにも……わかった! わかったから、いちいち拳握るのやめるにゃ、どれだけ酒好きなんだにゃ……アンタ、出会った頃はもっと可愛げあったにゃ。
 それで、これからどうするにゃ? ふうん、新しいシュタインベルガーを作るのかにゃ? ロアとオアシスに行く? 原材料がそこにあるのかにゃ。
 うーん、遠いけど、いいにゃ! 人気のお酒の新酒、お金の匂いがプンプンするにゃ!


2 ロア『悪魔のぼったくり亭』 マスター

 いらっしゃいませ、お客様。
 本日はどうなさいましたか? 砂漠のオアシスへ? なるほど、シュタインベルガーに使う水を汲みに行くのですね。
 あれはですねえ、誰でも持ち帰れるわけではないのですよ。『心に樽』のある者でなければ……
 樽を語る前に少々、蘊蓄を述べさせてくださいね。酒は樽に仕込むと、醸造過程で当初より少し量が減ります。このことを我々は『悪魔が少し持っていった』、つまり『悪魔のぼったくり』と呼ぶのですが、それを我々は恨んだりしません。それがなぜだか……わかる? ほほう、これは愚問でした。そちらの旅のお方は、すでに心に樽をお持ちのようですね。
 で、こちらのウサギネコの方……なんですと、自分が仕込んだ酒は全部自分のもんだ? それを断りなく飲んでいくだなんて、悪魔だろうが天使だろうが、例え神様だろうが許せないにゃ……ですか。はあ、あなたの心に樽が宿るまでには、少しお時間が必要かもしれませんねぇ……
 これからオアシスへ行くのでしたら、こちらの方がお持ちの『心に樽』を見ることができるでしょう。それを見ればもしかしたらあなたも、なにか感じるものがあるかもしれませんね。


3 デュマ砂漠『オアシス』 再び、ニキータ

 砂漠のオアシス……あったにゃ! やっと着いたにゃ、途中で干からびるかと思ったにゃ。
 ええと、この水を持ち帰ればいいにゃ? なら、さっさと使うにゃ。『心に樽』……えっ。……なんだにゃ、その怪現象。アンタ、そんなでかい樽どこに持ってたにゃ。不気味すぎるにゃ。
 これをガトまで持っていけば、シュタインベルガーができる……わけじゃない? 修道女たちが選別した葡萄を発酵させて踏んで潰して、絞って、酒になるまでまた寝かせて……それ、いつできるにゃ。最低数年から? ……気が遠くなるにゃ。
 アンタ、なんだにゃその目は。たくさんの人が手間ひまかけて、時間をかけて大事に作ったものを、オイラが勝手に飲んじゃったんだろって? おまけに弁償もしないで、修道女たちが弱りきってた? 楽しみにしてる人たちだっていたのに?
 ………………
 わかったにゃ、反省してるにゃ! 飲んだ分の代金は払うにゃ! この水と一緒に酒造所まで届けるにゃ。オイラ、お客さんを笑顔にするのがモットーにゃ。代金踏み倒して大損させるのはポリシーに反するにゃ。それに、ここでコネ作っとけば、あとからたくさん買い付けて大儲けできるしにゃ……。にゃひひ……
 しっかし、アンタもザンネンだったにゃ。シュタインベルガー飲めるのは、当分先になるにゃ。え? 最初から全部お前のせいだろって? そんなつれないこと言わないにゃ。とりあえず今は、酒の代わりにオアシスの水で喉を潤すにゃ。ほら、オイラの大事なコップ貸してやるにゃ。これで水をすくって……と。
 さ、受け取るにゃ! このコップ、なんと! 注いだ水がおいしくなる魔法のコップ! その名もアダマソコップお値段たったの300ルク……冗談にゃ! そんな顔で睨むにゃ、サービスにゃ! そのコップ、アンタに預けとくにゃ。要らない? 胡散臭い? そんなこと言うにゃって。
 はい、まずはお疲れさんだにゃ! 乾杯するにゃ! かんぱ~い!
 はぁ~。乾いた喉に水が染み渡るにゃ~。砂漠で道案内や水の販売やったら大儲けできそうだにゃ……
 ん? こないだのマスターの『悪魔のぼったくり』の話、わかったかって? そうだにゃ~、百歩譲って、悪魔が無断で飲むのは許してやるにゃ。そのかわり、飲んだお代はきっちりいただくにゃ。悪魔も天使も神様も、世界は全部オイラの金ヅルにゃ。……え、そんなんじゃ一生『心に樽』なんか持てない? 別にそんなん要らないにゃ、オアシスの水が欲しくなったら、ここにアンタ連れてくればいいにゃ……絶対やだ? そんなイヤそうな顔するにゃ、人生はスマイルにゃ。ほら、笑って! スマ~イル!