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しちろ
2024-03-09 23:42:14
2975文字
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聖剣3
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はんぶんたすはんぶんは
ワンドロワンライ参加作品。シャルロットとケヴィン。
夜は血が騒ぐ。
気分が高揚し、自分が自分でなくなる気がする。
あの夜、突然カールが凶暴化したのは獣人王の罠だった。だけど親友を傷つけ、その命を奪ってしまったのは、紛れもなく自分の手だ。その時の意識は残っていないけれど、カールを痛めつけた感触だけは生々しく残っていて
――
だからケヴィンは、あの日以来、夜が来るのが怖かった。
◆
獣人化というものはある程度、自分でコントロールできるものらしい。例えば非戦闘時や町の中では、普通の人間として振る舞っていられる。だから、故国を出たケヴィンは、夜になってもできる限り獣人になることは避けていた。
そしてそれは、仲間になったばかりの彼女
――
シャルロットに対しても。異形を晒して、小さな彼女を怯えさせたくないから。獣人であると知られたくないから。なによりケヴィン自身が、自分の中にいる獣に怯えていた。
……
もしかしたら、また我を忘れて、カールと同じようにしてしまうかもしれない。
けれど、いつまでも隠し通せるわけがなかったのだ。
「ひゃあああ!」
腰を抜かしたシャルロットの目の前で、魔物の口があんぐりと開いた。月夜の下、鋭い牙がギラリと光り、今にも柔らかい肉に食らいつこうとする。ケヴィンからは遠い。ただでは間に合わない。
「シャルロット、危ない!」
咆哮を上げ、飛びかかったケヴィンの姿が、みるみる変わった。
全身が逆立つ体毛に覆われ、筋肉はその骨格ごと大きく盛り上がり、身体の質量が一気に膨れ上がる。烈風とともに振り抜かれたケヴィンの足が、魔物の横っ面を強かに蹴り飛ばし、魔物はゴム毬のように地面を跳ねてそのまま動かなくなった。
「あ、あぶなかったでち
……
」
危うく食べられそうだったシャルロットがほっと安堵する。
……
が、すぐにその表情を固まらせた。
「ケヴィンしゃん
……
でちよね?」
しまった。
シャルロットは尻もちをついたまま、呆然とケヴィンを見上げている。
「オ、オイラ
……
」
ケヴィンは獣の姿だった。シャルロットに出会ってからひたすら、彼女には隠してきたのに。
だが、動揺するケヴィンをしり目に、なぜだかシャルロットの瞳はキラキラと輝きだした。
「すごいでち! ふっかふかでち! あったかいでち!」
「え?」
そうでちか、これがよるのじゅーじんさんでちか。これなら、さむい『のじゅく』もあんしんでち
……
。
今の今まで腰を抜かしていたことなど忘れ、すっくと立ち上がったシャルロット。遠慮なくケヴィンの身体をばふばふ叩き、しっぽを触りまくっている。犬ではないのだが
……
。
「ほうほう。ケヴィンしゃん、にんげんではなかったでちね。おおかみしゃんでちか」
「えっとオイラ、ハーフ。母さんが人間で
……
父親は、獣人」
ビーストキングダムの獣人
……
ジャドを封鎖し、アストリアを滅ぼした。
どちらもシャルロットは知らないようだが、ウェンデルで獣人がいい印象が持たれないことくらい
――
いや、確実に敵と思われることくらい、ケヴィンは痛切に理解できている。あんな残酷なやり口、本来の獣人のやり方じゃない
……
そう思うのに、ケヴィンにはもう何が正解なのかわからない。
あれこれと思い悩むケヴィンだが、シャルロットは言葉通りに受け取っただけだった。
「そうだったでちか! それだったら、あたちもおなじでち! シャルロットはエルフとにんげんのハーフなんでち。ぱぱがにんげんでままがエルフ。そしてびしょうじょシャルロットは、はなもはじらうじゅーごさい!」
「えええっ! オイラと同い年!? 信じられない
……
」
「しつれーでちね。ってかケヴィンしゃん、おないどしだったでちか。おっきいから、てっきり、としうえだとおもったでち」
だったら、『ケヴィンしゃん』でなくて、『ケヴィン』でちね。
シャルロットはそう言うと、片口の端を上げてニヤッと笑った。それが、普段の天真爛漫さと幼い見た目に似合わない大人っぽさを含んでいて、シャルロットの言うことが真実なのだと告げている。
「シャルロット、怖くないのか? だってオイラ」
「こわい?」
のんきに身体を左右に揺らすシャルロットの頭には、わかりやすく疑問符が浮かんでいる。
「なにがこわいでちか? だっていまのケヴィンは、からだじゅうけむくじゃらで、ふかふかになっただけのケヴィンでち。ひるとよるでみためがちがって、しもべがふえたきぶんでおとくでち」
「そ、そう
……
かな?」
ひどい言われようだが、シャルロットはまるで気にしていないらしい。
獣人化を解いたケヴィンは道すがら、うまくはない言葉遣いでシャルロットに説明した。カールのこと、獣人王のこと、自分に流れる血のこと。聖剣を求める理由。
「なるほどなるほど
……
あんたしゃん、そういうじじょうがあったでちか。シャルロットばかり、ひげきのびしょーじょとおもってまちたが、ケヴィンもたいへんだったでちね」
もっともらしくうなずくシャルロットに、ケヴィンは背中を丸めて小声で謝る。悪気はなかったとしても、偽っていたことには変わりない。
「べつに、あやまらなくていいでちよ。そんなことでおこる、こころのせまいシャルロットじゃないでち。なんてったってシャルロットは、すっごくエライ、ひかりのしさいのおまごしゃんでからね!」
シャルロットは歯を見せてにかっと笑う。太陽みたいな、という文句がケヴィンに浮かんだ。
だが、その太陽がふと、月のような陰りを見せた。
「あのね
……
ケヴィン、まけちゃだめでち」
真剣な声が、ケヴィンの胸を打つ。
「シャルロットもケヴィンも、どっちのちもはんぶんこずつだけど、ふたりでいればきっと、いちにんまえいじょうになれるでち。ひとりじゃできないこと、いっぱいできるはずでち。
……
だから」
シャルロットはそこまで言って、声を詰まらせた。ケヴィンに見えないよう、下を向く。お腹の前できゅっと握られた、十五歳にしては小さな、小さすぎる手。
彼女の小さな頭を見ているうちに、ケヴィンは気づかされた。
エルフと人間のハーフの、シャルロット。彼女の時間の進み方は、明らかに他の人間と違う。ケヴィンが半血であることに悩み、傷ついてきたように、シャルロットも、強気な笑顔の裏で同じ思いを秘めて生きてきたのではないだろうか。
自分の中に今までにない静かな決意が生まれてくるのを、ケヴィンは感じていた。
「うん
……
がんばろう、シャルロット。オイラたち一人じゃ難しいことも、二人ならきっとできる。ヒースさんもカールも、きっと助けられる。シャルロットの言うこと、オイラ信じるよ」
シャルロットは、顔を上げてケヴィンをまじまじと見た。それから照れくさそうに、鼻の下をこすって笑ってみせた。
「えへへ、これからのたびは、シャルロットにどーんとおまかせでち! あらためまして、よろしくでちよ。ケヴィン」
シャルロットはそう言うと、軽く握った拳をケヴィンに向けて突き出した。目を丸くしたケヴィンは、にこっと笑ってそれに拳を合わせる。
一人では難しくても、二人なら。自分一人では困難だった道も、二人ならきっと。
そうして二人は、新たな友と勇気を得て、まだ見ぬ未来へと歩きだした。
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