しちろ
2024-02-14 16:24:43
1686文字
Public LOM
 

おかえり

ワンライ。LOM、男主人公。

 一言で言えば、変わった人だった。
「すげえや、弟子にして下せえ!」
 ドミナの町外れでのカボチャ騒ぎ。それが、赤い帽子をかぶった師匠とおれとの、運命の邂逅だった。
 当時七歳の悪ガキそのものだったおれは、その場のノリと勢いで弟子入りを志願してしまったのだが、おれもおれなら師匠も師匠だった。おれたちの事情一つ聞くことなく、あっさりOKしたのさ。大人になった今ならわかるんだけど、素性の知れない居候がいきなり二人だぜ? コロナは「心が広い」と言ったけど、あの人、細かいこととか何も考えてなかったんじゃないかとおれは思う。
 とにかく変わった人だし、つかめない人でもあった。
 風の吹くまま気の向くまま、ふらっと出かけては、何かしらやらかして帰ってくる。
 サボテンの日記は意味不明だし、師匠は何も言わないのでよくわからないんだけど、その活躍(というか騒動というべきか)はあとから噂で聞くことが多かった。ファ・ディール各地に散らばる、師匠の知られざる冒険を見つけ出すのが、今のおれの、旅の目的のひとつでもあるわけ。
 で、冒険に明け暮れていたかと思えば、何日でも気の済むまで作成小屋にこもって、とんてんかんてんやっていた。どえらい業物を作ることもあったがヒドイなまくらであることもあり、適当に組まれたゴーレムはしばしば暴走した。
 変わったやつに弟子入りしたもんだ、物好きだと、師匠の仲間には散々言われた。実はおれ自身そう思う。それでも後悔したことはなかったし、選択を誤ったと思ったことも一度もない。だって、師匠は誰よりも強く、優しくて、
「ただいま……
 どんなに危険な目に遭っても、たとえどんなに遅れても、必ずおれたちのところへ帰って来てくれる人だったからだ。
 
 だけど。
 師匠は、ある日を境に、ぱったり帰ってこなくなった。

 綿毛になって空高く飛んでいく草人たちをコロナと二人で見送って、それから何日経っても何か月経っても、待てど暮らせど戻ってこない。きっと今日は、明日こそはと思ううちに一年二年……おれとコロナは歳を重ね、気がつけば、いなくなった時の師匠と同じくらいの年齢になってしまった。
 師匠がいなくなって変わったことは、世界中の草人もいなくなったこと、少し世界が明るくなったということだろうか。……それと、マイホームがさみしくなったことも。 
 不在の本人を差し置き、師匠はすっかり有名人になってしまい、今や学者や歴史論者の格好の議題になっていたり、子どものごっこ遊びに使われたり、吟遊詩人の詩の題材になったりしている。近々、英雄を主人公にした書籍が刊行されるらしい。「さすが師匠!」なんて調子に乗るかと思うだろ……正直おれは、どれも素直に喜べずにいる。
 先日、マイホームにどっかのお偉いさんがきて「記念碑でも」と言われたが、冗談じゃないとにらむとすごすご帰って行った。帰らないからって死んだと決まったわけじゃない。よく知りもしない連中に、勝手に過去にされてたまるかってんだ。
「ねえ、バド。マスター、本当に帰ってくると思う?」
「なんだよ、コロナ。弟子のおれたちが信じなくて誰が信じるのさ。なんたって、あの師匠なんだぜ。帰ってこないわけがないさ」
「うん、そうだよね……うん。きっと……
 コロナとのこんな会話、何度……何百回したか、もうわからないけれど。
 そうさ、師匠はかならず帰ってくる。ほら、大嵐だったあの日だって、うんと遅れて帰ってきたんだから――
 
 がちゃり。

 音を立てて、ドアノブがひねられた。おれとコロナの耳がそろってピクリと反応する。

……ただいま」

 赤い帽子をかぶった待ち人は、ドアを開くと、そう言ってはにかんだ笑顔を見せた。
 ああ、バカバカ! おれたち、世界の隅々まで、どれだけ探したと思ってるのさ!
 会えなかった年月の分、お互い年は取ったけど。
 そうさ、おれたちの師匠はどんなに遅くなっても帰ってくる。
 子どもの頃、オーロラが出ていたあの日のように、おれとコロナは無我夢中で飛びついた。