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しちろ
2024-02-14 16:22:08
3964文字
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聖剣3
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あなたは私の誇り
ワンライ参加作品。アンジェラ主人公。
聖都を出たアンジェラとデュランは、光の精霊を探して滝の洞窟を進んでいた。
先を行くのは剣士のデュラン。本職である彼の腕前は伊達ではなく、慣れた剣捌きで襲いくるモンスターを片っ端から斬り捨てていく。
彼に置いていかれないよう、小走りでついて行きながら、アンジェラは虚空に向かってぼそりと独り言を言った。
「
……
物好きよね、アンタも」
独り言、ではない。相手はアンジェラの体内に住み着いてしまったフェアリーだ。
案の定、『いきなりなぁに?』と頭の中で高い声が響いてきて、アンジェラは自分で話しかけておきながらため息をつきたくなった。何度やられてもこれには慣れない。
「お互い、運が悪いと思ったの。私、アンタなんかに憑りつかれて災難だとばかり思ってたけど、よくよく考えたらアンタも災難だったのよね。よりによって私なんかに憑りついちゃってさ」
聖剣を抜く勇者様なんてのは、もっとドラマチックに選ばれるものだと思っていたのよ、とアンジェラは肩をすくめてみせる。
「前にも言ったけど私、これでも魔法王国の王女なの。マナの仕組みや歴史の勉強はうんとさせられていたわけ。マナの聖剣だって、抜くのは宿命の一族だったとか神様から神託が下った人だとかさ。でも現実ってこんなもんなのね」
『このさい、しょーがないわね
……
』
アストリアの森で出会った夜。フェアリーがそう言ったのを、アンジェラはきっちり覚えているのである。
そう、フェアリーとの出会いは本当に偶然。森に落ちていくフェアリーをたまたまアンジェラが見かけて追いかけた。持てる力を使い果たし、限界だった彼女のそばにたまたまいたのが、アンジェラだったというだけなのだ。
実際、戦闘となればこの通り。草原の国の剣士の独壇場だった。
アンジェラはあえて口にはしていないが、フェアリーが選ぶべきだったのは彼のほうだったろうと思う。同じ日に近くにいたらしいし、荒っぽいしがさつだし暑苦しいけど、こちらの方がまだそれっぽかったんじゃないだろうか。あとはまあ
……
本音を言えば、面倒ごとは自分で引き受けたくないし。
「
……
強いのよね、やっぱり」
多くの魔物がデュランによって見る間に駆逐されていく。
彼に向かって、敵はアンタに任せたわ、私はその間はラクしちゃうからと投げキスすると、「ふざけんな!」と怒鳴り返してきた。アンジェラは優雅な笑顔で手を振ってやり、やがて、ひっそり肩を落とす。
……
そうなのだ。母に言われたとおりの『役立たず』。
国を逃げ出した今、王女の肩書など何の意味もないし、『マジシャン』というクラスだって格好だけ。アルテナならば誰でも使えるような魔法ひとつ放つことができない。ラビやマイコニドを杖で叩きのめすのが精いっぱいの、魔法が使えない魔法使いなど、険しい旅では何の役にも立たないだろう。
『ねえ、アンジェラ。光の精霊に会えばあなたもすぐに魔法が使えるようになるって、私、言ったはずだけど?』
「
……
。そうね」
アルテナの王女のくせに。母君と違ってあまりにも。
魔力を持たぬ姫。役立たずの娘。王家の恥。
幼少のころからずっと、陰で言われ続けてきた言葉。
大丈夫、ヴァルダ様のご息女なのですから。姫様にも今に使えるようになりますよ
……
励ましとは裏腹の、あからさまな嘲笑。
「アンジェラ。あなたは自己評価が低すぎると思うわ」
いきなり、アンジェラの胸の谷間から、フェアリーがにゅっと顔をのぞかせた。
「うわっ、やだ! 気持ち悪っ!」
「失礼しちゃうわね。さっきからへこんでいるみたいだから、いっちょ励ましてあげようかしらと思ったのに」
どうやら宿主の頭の中を覗いたらしい。フェアリーは、よっこらしょとアンジェラの胸に手をかけ、するりと出てくる。アンジェラは「いくら女同士でもセクハラよセクハラ」と顔を真っ赤にした。フェアリーが、見た目と違って意外とうぶねえなどと言うものだからますます腹が立つ。
「私は別に、へこんでなんかいないわよ。こんなに美人でスタイル抜群ですっごくモテて、自信に満ち溢れてる私のどこがそんな風に見えるって?」
「そうねえ、魔法を使えないことを気にしてばかりいて、仲間相手にコンプレックスを持っていて、聖剣を手に入れるなんて本当に私にできるのかしらって不安ばっかり抱えているところかしら」
アンジェラがジト目でフェアリーを見た。
「
……
はっきり言いすぎる人って、私、嫌いだわ」
「私は人じゃないもの、妖精よ」
「ハイハイ、ああいえばこういうのね。妖精って面倒くさいわ」
愚痴る宿主などどこ吹く風、フェアリーは再び主に入り込んだ。
――
アンジェラ、あなたには誰よりも強い力が眠っているわ。この世の理を変えられるほど、強い力。あなたが自分で気がついていないだけ。
そんなの嘘よ、とアンジェラは思った。
◆
「で、今でもそう思うかしら? 聖剣の勇者の、アンジェラさん?」
「思うわ。思うわよ」
アンジェラの隣で羽ばたきながら、フェアリーがにやりとして問いかける。アンジェラはやや不満そうに双眸を細めて答えた。
「アンタが森にたどり着いた夜、私が偶然アストリアの宿に泊まっていて、偶然アンタの光を見た。そして私は」
「魔法を使えなかった」
アンジェラとフェアリーの声がそろった。
「バッカね」
アンジェラが吹き出した。笑い事ではない。あの頃はそれこそ、この世の全てに絶望してしまうくらい
――
本当に、本当に悩んでいたのだから。
今のアンジェラは、『グランデヴィナ』。世界中の魔法使いが生涯をかけて目指し、そして至ることのできない、高みのひとつ。その名に恥じぬ通りの、偉大なる術者となった彼女は、生来の負けん気の強さと強い意志と人並み外れた魔力を持って困難な旅を駆け抜けてきた。しかしそうなった今も、アンジェラは旅の始まりを、あの時抱いていた気持ちを忘れることは決してない。
「でもね。もしもあの時、私が魔法を使えていたら、私はアストリアにはいなかった。国に追われることも、旅に出ることもなかったのだもの。落ちこぼれだったからアンタに出会えた。魔法が使えなかったから、ここまで来られた。人生ってほんっと、何が起きるか分からないわ」
もしかしたら、紅蓮の奴と一緒にあの穴の中にいたのは私だったかもしれないわね
……
自分で言って、アンジェラは少し背筋が寒くなった。自分が最初から強力な魔導士だったなら、自らフォルセナを攻め、アルテナの世界侵攻に加担していたかもしれないのだ。
「ねえ、アンジェラ。私、やっぱりあなたを選んでよかったわ」
「当たり前でしょ?」
さも当然と言うアンジェラは、フェアリーと出会った夜とはまるで雰囲気が違っている。全身が気力と魔力に満ち溢れている。瞳に、強い意志の光が宿っている。
「そうよ、あなたは世界を変える力を持っている。誰よりも強く、熱い力。この世の理を変えられるほどの」
覚えていたのねとアンジェラが目を丸くすると、自分が言ったことくらい覚えているわよとフェアリーが返した。
「あなたこそ覚えていたんじゃないの、アンジェラ。あんなに反発してたくせに」
「そりゃそうよ。国中から見捨てられた、落ちこぼれの私に本気でそんなことを言ったのは、お節介なホセのほかではアンタだけだったのよ。気休めだと思ったわ。バカにしないでって思ったわ」
フェアリーがくすりと笑う。
「今なら、信じられるでしょ?」
「そうね。信じてみても、いいわ」
アンジェラの強大な魔力は、嘆く彼女自身をよそにじっと息をひそめていた。アンジェラの身体奥深くで眠り続け、いくら乞い願っても開花することのなかった力。今やそれは時を迎えて色鮮やかに芽吹き、成長し、そして美しい大輪の花を咲かせている。こんな力があったのになぜ、世界が危機を迎えるその時まで覚醒めなかったのだろう。
「それはきっと、私に会うためよ。
……
なぁんて言ったら、アンジェラは怒るわよね?」
またアンジェラの思考を読んだらしい。いたずらっぽく言うフェアリーに、当然でしょ、とアンジェラが笑う。
「私はね、ワガママで有名なアルテナの王女なの。力をこの日のために眠らせていた、なんて殊勝なこと、思ったりしないわ。だって何があっても私の心は私のもの。私の力は私のものだもの。使い方は私が決める。私はかならず助けるわ。お母さまを。この世界を。私が手に入れたいものすべてを、私の手で。かならず」
アンジェラは真正面を見据え、決然と言い放つ。フェアリーが宿主の体内に戻っていく。今や勇者と呼ばれる一行の前には、底の見えない竜の巣が不気味に口を開けている。
「どうした、アンジェラ?」
彼女に並ぶデュランが訝しげに尋ねた。
決戦の地へ一歩を踏み出そうとした、アンジェラ。その口元にわずかな笑みが浮かんでいた。
「いいえ、なんでもないわ。行きましょう、二人とも」
表情を引き締め、紅い衣を翻すアンジェラを先頭に、三人の姿が暗い竜穴に消えていく。
国を追われすべてを失った日から、世界の希望となった今。
アンジェラには今も、あの高い声が聞こえていた。出会った瞬間からいつでもうるさくって、めんどうくさくって、自分を励まし続けてくれたあの声が。
そうよアンジェラ、あなたは誰よりも強い力を持っている。それはあなたに宿る魔力というだけではないの。
あなたならばきっと、運命を変えられる。あなたの宿す意志の力、炎のように燃える心。
誰よりも熱い心を宿す氷の王女。私の選んだ、聖剣の勇者。
気高き魔女アンジェラ
――
私はあなたを、誇りに思う。
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