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しちろ
2023-05-25 21:53:30
4431文字
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LOM・連載主人公の短編
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リュオン街道の怪異
LOM。サイトに載せていた話のリメイク。W主、エスカデ、瑠璃、ラルク。リュオン街道にチカン退治に行く話。キャラ崩壊注意。4200字。
「じゃんけんぽん! あいこでしょ! あいこでしょ!」
マイホームに響き渡る野太いじゃんけん。
瑠璃、ラルク、エスカデ、赤ずきん。
なんでこんな濃ゆいメンツが全マナ込めてじゃんけんしてるかって、ちょっと話はさかのぼる。
「男性諸君。本日はマイホームによくお集まりいただきました
……
」
マイホームに上記一同を集めた棒の英雄は、着席するや重々しく口を開いた。背景に、ゴゴゴ
……
と謎の効果音と炎が見える。ただならぬ気迫に誰かの喉がゴクリとなる。
珠魅の騎士に聖騎士にドラグーン。英雄と呼ばれるカイを含めてそうそうたる顔ぶれであり、これだけの面子をそろえるとはただ事ではない。
「来てもらったのはほかでもありません。実はだね、リュオン街道に出るんだよ
……
」
「出るってなんだ? 幽霊か魔物か
……
」
訊ねる瑠璃の顔も緊迫している。カイ一人の手に負えない相手だ。相当な強敵には違いない。
「どっちも違うよ! 出るったらあれだよ! チカン!」
ファ・ディールの騎士たちはテーブルに頭を打ち付けた。
「なんだい、キミたち。そろいもそろって! 昭和のリアクション止めてよね」
「アンタなあ、そんなの警察に任せろよ! ネズミの管轄だろ!」
「貴様、まさかチカンごときでジャングルから俺を呼んだのか!?」
「瑠璃もエスカデも『ごとき』ってなんだよ! 世界の平和を守るのが聖騎士の務めじゃないの!? 瑠璃も! 真珠ちゃんやパールがヘンタイに遭遇しても、キミは同じことが言えるかね!?」
「ぐっ!」
瑠璃とエスカデが言葉に詰まった。この女、的確に騎士の弱点を突いてくる。
「まあ、呼ばれたものは仕方がない。で、どういう奴なんだ」
「さすがラルク、話が早いね! 噂によると、通りがかった人に裸の上半身を見せつけてくるらしいんだ」
「ガチなやつか
……
」
各自、思い思いに腕組みしたり目を閉じたり、天井を仰いだりしている。
なおこの時、瑠璃は『男にも女にもなれるセクシー系』を思い浮かべ、ラルクは『誇大妄想的赤いマハラジャ』を。エスカデは「マチルダァァァ!」と叫ぶ全裸の悪魔を連想したが、たぶん、変態の意識に種族差とか人生観の差が出てはいる。
「しかも、一緒に来いって勧誘しながら、胸毛をぶちぶち毟ってこっちに投げつけてくるらしいんだよ! こんなのを放っておいたら、ファ・ディールの平和は無茶苦茶だよ!」
「
……
ド変態だな」 胸毛があるならアレク〇ンドルは無罪か
……
疑ってすまない。
「姫溺愛野郎に言われるとは相当だな」
「スパッツ聖騎士、オマエにだけは言われたくないが」
なお、ここで無関係を装うラルクだが、彼のシスコンぶりもまた弩級の代物であることは突っ込んではいけない。
「いいだろう。ひとまず放置できない事態であることは理解できた」
一同を代表し、エスカデが受諾した。世界平和に影響を及ぼすかはわからないが、事態は深刻らしい。
「で、どうやって捕まえる気だ?」
「それが、警戒心が強いみたいで一人の時しか出ないんだって。だから、おとりを立てようかと」
「おとりって、カイ、アンタがやるのか?」
瑠璃が訊くと、カイはパタパタと手を振った。
「やだよ。女の子だよ、あたしゃ
……
待て、瑠璃。帰ることは許さない」
「
……
チッ」
男たちはここで、なぜ自分たちが呼ばれたか理解した。つまりこの女、このメンバーの誰かをおとりに仕立てて、犯人を捕まえる気なのだ
……
。
「この中で誰かひとり
……
」
さまよう全員の視線が、自然と一点に集まった。
「なんで俺を見る
……
」
シオンだった。
「なんでもなにも年功序列だ。年上の言うことは素直に聞くものだ」
「今は令和だ、パワハラ反対」
「いや、適任はやっぱりアンタだろう
……
。男だか女だかよくわからん顔してるし、あまり背も高くな」
全力の一刀が瑠璃をかすめ、マイホームの壁に穴をあけた。
「おとりなら瑠璃がやればいいだろ。俺より目立つし、化粧映えしそうだし」
「い、いやオレはだめだ。『女装をするな』と医者に止められてて
……
。そうだラルク、オマエどうだ? 獣人好きのチカンかもしれんぞ!」
「俺のような女がいるか! エスカデどうだ! 恥をさらすなら、スパッツもスカートも大して変わりあるまい!」
「貴様、どういう理屈だ! ライオット家をスキャンダルで滅ぼす気か! スカートなら帽子野郎が最初から穿いてるだろ!」
「袴だし。どうせ着替えるんだから、髪の長いエスカデのほうが応用効いていいだろ。意味なく伸ばし放題なんだから活用しろよ」
「俺の毛量が問題だと!? ならば俺より全身毛のラルクが」
「毛云々じゃなくて見た目を考えんか! 俺より公式美形の瑠璃だろ、瑠璃!」
「なんだと!? そもそもカイ! おとりは言い出しっぺのアンタでいいだろうが!」
「だから、あたしは女の子だっての! 女の子を危険に晒す気かね!」
大人たちの低レベルな争いを見て、コロナとバドは思っていた。
醜い
……
。
まあ、女装にしても普通にチカンを捕まえるってんなら一人くらいは引き受けてくれたかもしれないが、なにしろ依頼主がカイだ。やったが最後、ファ・ディール全土に広まりそうだし、絶対末代までネタにされる。
いつまで経っても収拾がつかない様子を見て、カイが言った。
「じゃあ
……
平等にじゃんけんで決めよっか」
■■■
リュオン街道を、一人の淑女が歩いていく。
白く清楚な日傘を差し、傘のレースとお揃いの、清楚な白のワンピース。
「そして揺れるその裾からは、逞しい太ももと緑色のスパッツが
……
」
街道の茂みの影。
頭に棒+カモフラージュの枝を刺した迷彩服のカイが、カリカリとメモ帳にペンを走らせている。ご丁寧に顔面を塗りたくっている念の入れようである。
「カイ
……
頼むから、その実況を止めてくれないか」
同じく迷彩コスプレで茂みに潜伏しながら、顔面黒塗りのシオンがげんなりしている。あのネタ帳(恐ろしいことにけっこう分厚い)何に使う気なのか。
「あっぱれ
……
あっぱれだエスカデ」
オレの代わりに負けてくれてありがとう
……
。
「瑠璃、涙石出てる」
フードに大量の枝をぶっ刺した珠魅の迷彩騎士は、怪しい以外の何物でもない。
迷彩トリオのさらに隣、獣人のラルクに至っては全身の毛を迷彩色に塗られていた。意外と気に入っているラルクはちょっと思っている。帝国との戦争時代にこれをやればよかったと。
「俺たちのカモフラージュは完璧だとして、肝心のチカンが出るかだが
……
」
びゅおう。リュオン街道名物の、強い空っ風が吹いた。
ひらり♡
エスカデ嬢のスカートがめくれ、下があらわになる。
何がとは言わないが、むち♡ むち♡ である。
「無理じゃないかな
……
」
カイを除き、三人の戦士たちは一斉に目を逸らした。これで出てくるとしたら、よほどのマニアだろう
……
。
だが、奴は現れた。
「そこの者!」
大音声とともにエスカデ嬢に立ちふさがった、怪しい男。
「その稀有なる肉体美! こんなところに埋もれさせるにはあまりに惜しい!」
「いた! マニア!」
アンブッシュしていたカイがつい身を乗り出した。
「うそだろ!」
その他三人が声をそろえて立ち上がる。身体を張ったエスカデに失礼だ。
「って
……
」 未だメモ帳を手放さないカイが、ぽかんと口を開けた。
「ご奉仕する肉体!」
「穴掘り団じゃん!」
「刮目せよ! 躍動する筋肉! うなる肉体! 穴掘り団、リュオン街道にて春の新規団員募集中である!」
「ど、どーゆーことだ?」
「日傘の者! 恵まれた肉体を駆使し、プッツィ様に仕える気はないか!?」
「話が見えんが、俺はマチルダにしか興味はない」
「何やら一途なその心意気、あっぱれ! ますます我が団に迎えたい!」
穴掘り団団長コンゴは、エスカデに汗で光る肉体を見せつけている。
「カイ
……
」
シオンがカイを横目で見ると、カイはわざとらしく口笛を吹いた。
「そういえば、チカンの被害者が女性って話はなかったかも
……
?」
穴掘り団じゃ、そもそも、痴漢じゃねーんじゃん
……
。
裸の上半身を見せつけポーズを決めるコンゴの背後では、団員のアナグマたちがかゆそうに胸のあたりを手でこすっている。抜けた綿のような毛が風に吹かれ、ぽわぽわ飛んでいた。ああ、そういえば換毛期だったな
……
などと獣人のラルクは思う。話に尾ひれ背びれ胸鰭までついた、これが投げつけられる胸毛の正体らしい。
「ところで、お前たち。どこの軍隊だね。他にも逸材がそろっておるようだが
……
」
ぎくり。
穴掘り団、熱き男たち募集中。
コンゴは明らかにラルクたち、迷彩軍団をターゲッティングしている。
危機感を募らせたうち、いち早く動いたのはシオンだった。
俊足でエスカデの白い日傘を奪い取り、さりげなく顔を隠す。目にもとまらぬ早業だった。
「こんにちは♡ 私はキュートな迷彩ガール♡ カイちゃんのお友達なの♡」
真珠姫ばりの可憐な声音で話す、彼の名はシオン。目的のためなら割と何でもやる男である。
「なんだ、娘っ子か。娘には用はないわ」
「そうなんですかぁ、残念~♡ 私の代わりにそっちの人たち、よろしくお願いします♡」
「うむ、そうするとしよう。行くか、新たなる団員たちよ」
この裏切り者! ゴミ頭巾ーーーー!
見る間に大量のアナグマに取り囲まれ、穴掘り団に連れ去られる瑠璃たちに罵倒されながら、シオンはエスカデから盗んだレースのハンカチを振っていた。いつまでも、いつまでも
……
。
「ふう
……
危なかった
……
」
安全を確認できたところで、シオンは日傘を閉じ、額をぬぐう。その様子は女物の傘を持っているだけで、いつもの彼だ。(顔黒塗りだけど)
「キミのほうがどうかと思うよ
……
」
カイは全力で引いていた。キモくて鳥肌が止まらねえ。
「穴掘り団が団員を勧誘していたんだな
……
。狙いは男だったわけか」
「じゃあ、エスカデなんかカモネギだったかもねえ
……
」
エスカデたちは鉱山へ連れ去られ、残されたのは丸められた胸毛のみ
――
。
残された二人、ファ・ディール迷彩軍として新たなミッションが
……
。
「ま、いいか」
「うん、いいよね」
始まることはなかった。
カイとシオンは自分に関係のないことはどうでもいい、薄情な英雄だった。
きっと瑠璃とラルクは迷彩柄にふさわしい漢になり、淑女エスカデは
……
どうなるかは知らないが一回り大きくなって帰ってくるだろう。
なおこのしばらくのち、穴掘り団では迷彩柄がブームになり、仲間を見捨てたカイとシオンは、ポエムに目覚めた三人に苦しめられることになるが、それはまた別の話である。
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