しちろ
2023-05-24 20:52:49
3062文字
Public HOM
 

もしも外の世界に出たのが兄さんだったら

HoM。昔サイトに載せていた話のリメイク版。深く考えて読んではいけない。兄さんがアホの子です。3,000字。

1.兄の旅立ち

 協議の結果、兄がミラージュパレスを出て行くことになった。
……ボクは、ロジェのが向いてると思うけどね」
 なんでこーなったんだか。アナイスは頬杖をついている。新主教に兄が向いているという以上に、外の世界にロジェが向いてるっつーか兄が向いていなそうというか……
「あないす、もんだいない、わたしはきちんとやっていける。のーぷろぶれむもうまんたい」
「全っ然大丈夫な気がしないけど?」
 これで年上とかしんじられない。
 すでに片言になっている兄に、ロジェは心配そうに世話を焼いている。
「兄さん、忘れ物はないか? 外の世界にはこことは比べ物にならないほどたくさん人がいるらしい。兄さんは少し人見知りだから、挨拶の基本は欠かさず、笑顔は忘れないようにな。物を手に入れるのに『カネ』というものが必要だそうだ。ここにいるときみたいに、その辺のものをなんでも持って行っちゃダメだからな。それと……
「えがお、かね、てにいれる……。そこの従者よ、面を上げよ。私に金を渡してくれたら赦してやろう。こうか」
「兄さん、それ一番やっちゃいけないやつ!」
「はあああああ……
 救いようのない双子のやり取りに、アナイスは脱力した。パレスの教育に一般常識を加えておくべきだったね。父上(先王)も先代主教もつくづくバカなんだから……
「あんしんしろ、だいじなおとうとにめいわくをかけたりはしない。なぜならば、わたしはおまえのおにいちゃんだからな」
「あ、ああ……すごく心配だが……
 どっちが兄だかわかりゃしない。
 兄は弟に手を振り、名残を惜しみながらパレスを去っていった。魔力は超級だが身体能力園児並みの兄は途中、ローブのすそを踏んで三回ほど転びかけた。
……大丈夫かな、兄さん」
「大丈夫じゃないと思うな、ボク」



2.兄の出会い

……釣れん」
 釣竿を垂れながら、彼はがっくり肩を落とした。かれこれ二時間が経過しようとしている。弟のロジェは器用で、釣りをしてもあっという間に魚を釣り上げてしまう。運動神経もいいし、なにより性格がいい。新しい従者が来てもすぐに仲良くなるし、よく気が利く。私の苦手なピーマンも代わりに食べてくれるし、怪我したらばんそうこう貼ってくれるし、我が弟ながら完ぺきではないか。
「ロジェ……我が弟よ……。今頃何をしているだろうか」
 彼は会えない弟を懐かしみ、天を仰ぐ。彼がミラージュパレスを出て、まだ三日しか経っていない。
「あら、あなたも釣り? それとも何か悩み事?」
「なんだ、女か」
 声を掛けられ振り向くと、釣竿を手にした銀髪の少女が立っていた。少々きつい顔立ちだが美少女と言って差し支えない。おそらく同じ年ごろだろう。
「私、エレナ。今度、ペダン軍の兵士に志願しようと思っているの」
「女なのに?」
「その言い方はないわね。弟がいるのよ。親はもういないし、私が稼いで食べさせなきゃ。採用されるまでの間、釣ったり狩ったりで食いつないでいるわけ」
「弟がいるのか」
「ええ」
……そうか、私にもいる。私の弟は最高だ」
「気が合うわね。私の弟も最高よ」
 強度のブラコン兄と同ブラコン姉の間にロマンスは生まれなかった。しかし、同類として熱い友情が育まれようとしていた。



3.兄の就職(※21歳の5年前)

「はい、次の方」
 履歴書を手に、ユリエルは応募者へにっこり微笑む。
「この度はペダン軍にご応募ありがとうございました。私は面接官のユリエルです。こちらはバジリオス。お名前は……幻夢の主教さん、ですか。珍しいお名前ですね」
「よく言われます」
「早速ですが、自己紹介をどうぞ」
「幻夢の主教、16歳。ミラージュパレス出身、趣味、弟。特技、弟。および、MOB召喚とエインシャントです。将来の目標はスーパーカリスマである弟を召喚すること。休日は弟宛てのポエムを作り過ごしています。貴軍に採用されましたら、特技の魔法を活かし、故郷の弟の耳に届くような活躍をしたいと考えております」
「なるほど。常人にはもちえない、素晴らしい技能をお持ちですね。採用です。主教さん、セレスタンの部隊へどうぞ」
「流れるように押し付けたな、ユリエル……



4.一方、弟。ミラージュパレス

「あれからけっこう経つけど、兄さん、大丈夫かなあ。アナイス、何か聞いていないか?」
「気になるけど、ボクも会えないんだよね。様子見てみる? なんか、変な鏡持ち込まれたけど」
 
『ロジェ……我が愛しい半身よ……。おそれることはない。今一度一つになるのだ、生まれる前のように……(超約:さみしい、会いたいよう。兄さん、たまにはロジェに会いに行ってもいいかな……)』※弟ぬいぐるみを抱きしめながら

……
……
「見なかったことにしよう」
「そうだね」
 かくしてエジーナの鏡は使われることなく、宮殿奥深くに永遠に封印されることになった。



5.そして兄、ナイトソウルズへ。

 ユリエル以下5名、ペダン王国へ反旗を翻す。
 笑いザメの超絶笑えない戦法と、兄さんのえげつない召喚&エインシャントの嵐により、ナイトソウルズは破竹の快進撃を続けていた。
「主教さんのおかげで、世界征服さえできちゃいそうですね」
「隊長、マジで笑えねえぜ……
 エジーナの鏡がない以上、そもそもペダン、なんも悪いことしてない。何もしてないが、ナイトソウルズはミラージュパレスに突入した。
「帰ってきたよ、弟よ……
「兄さん……何しに来たの……
 一応、ロジェは真面目に主教業に励んでいた。ろくすっぽ魔力のないロジェでは占いも祭事もたかが知れているが、国王がアナイスなのでどうでも良かった。
「ねえ、ソウルメイト主教、あの変な帽子の彼があなたの弟? ちょっとタイプかも、顔はあなたと同じだけど」
「そうだ、ソウルメイトエレナ。しかしロジェは我が最愛の弟。いくらソウルメイトのお前でも渡すわけにはいかない」
 というわけでユハニも元気です。

 ――ロジェ……

「ん?」
「どうしたの? ロジェ」
「気のせいかな。なにか聞こえたような……

 ――ロジェ……聖剣の勇者になるはずだった人……。私はマナの女神です……。あなたに剣の代わりに、言葉を一つ授けましょう……

「アナイス……オレに、はじめてご神託が」
「ロジェ、ついに!?」
 ロジェが主教の座に着いてから、なんもなかったのに!
「そこのうねうねヘアの人!」
「はい?」 ロジェが指したのは、言うまでもないがユリエルである。
「あなた、もうすぐお子さんが生まれるようです! 今すぐ帰ってください!」
「えっ、セシリアに!?」
 ユリエルはナイトソウルズに乗って帰って行った。夫婦で二人の子どもはきっと無事に産声を上げることだろう。
「ロジェ、せっかく神の声聞こえたと思ったら、そんなことなの……
「いいだろ、めでたいじゃないか」
 これが世界を救うご神託だったことを、ロジェもアナイスも知らない。
「ところで兄さん……おいて行かれちゃったみたいだけど」
 ナイトソウルズが去り、兄がぽつねんと残されている。
「ロジェ……迎えが来るまで、ここにいてもいいか」
「うん、いいけど」
 結局、弟のもとに帰ってきちゃった兄だが、その後もペダンとパレスを行ったり来たりで幸せに暮らした。らしい。


ハッピーエンドになっちゃったよ!