しちろ
2023-05-10 19:13:22
3760文字
Public LOM・連載主人公の短編
 

冥土へようこそ

LOM。オールキャラでなぜかメイドカフェやってる話。過去のリク作品のリメイク。言うまでもなくキャラ崩壊注意。モブ注意。3,700字。

◆登場人物紹介◆

青年:善良な一市民。
友人A:比較的まともな友人。ネコ推し。
友人B:ちょっとマニアックな趣味の友人。敬語ヲタ。踏まれたい。
友人C:だいぶコアな趣味をお持ちの友人。特殊系。


冥土へようこそ



……こんなん、あったっけ」
 謎の施設を前にして、青年は茫然と呟いた。

『ファ・ディールメイドカフェ☆』

 ドミナの町。空き地だったはずの町外れに、どーんと謎の建物が立っている。
 友人たちも、それぞれに何だこりゃと言った表情だ。
 まずは、紹介しておこう。と言っても紹介するまでもないが、彼ら四人は、ただの一般人である。友人同士で連れ立って、ドミナの町に遊びに来た。
「メイドカフェって、誰か聞いたことあるか?」
「いいや、初耳だなぁ……カフェってあるから、カフェなんだろうけど」
 怪しい。怪しいが、どうやら店らしい。
 若者四人が入るか悩んでいると、ぱたんとカフェの扉が開いた。
「おかえりなさいませ、ご主人様! メイドカフェへ!」
「わあ、初めてのお客さんだよ! よかったら入って行って! あたしがオーナー!」
 明るく笑いかけてくるのは、メイドの格好をした翠のおかっぱ髪の女の子と、頭に棒が刺さった金髪の女の子だ。
 なんだ、まじか。めちゃくちゃ可愛い。
「なるほど、だからメイドカフェ……?」
「つまり、あなた方のような素敵なメイドさんが接客してくれるカフェ、という解釈で間違いないでしょうか?」
「うん、そうだよ! きょう開店したんだ!」
「いいですね、入店一択ですね」
 Bの眼鏡がキランと光る。
 彼が言うまでもない。若者たちの心は今、一つになっている。


 可愛い二人のメイドさんに案内され、入店した四人。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
 姿は見えぬが、複数の声が出迎えてくれた。
 店の片隅では、ふわふわわたあめ頭のメイドさんがテーブルを拭いている。青年と目が合うと、にこっと笑ってくれた。青年は自然と赤くなる。……けっこうタイプかもしれない。
 一同着席すると、すぐに一人のメイドさんがメニューを持ってきた。
「いらっしゃいませ、お客様。メニューをどうぞ」
 メイドカフェのマニュアルとは少し違うらしい、いたってまともな接客ぶりのメイドさん。
 友人Aの心臓が跳ね上がる。
「あ、あ、あの、あなたさまは……!」
「ダナエよ」
「ダナエにゃん……!」
 Aは沸騰する。これぞまさしく、萌え萌えきゅんの化身。 
「猫耳、肉球、ω口……! もふもふ! もふもふ……!」
「A! 落ち着け、A! 今はまだ昼だ、深夜帯じゃない!」
 構わずAはダナエの両手をぎゅっと握りしめた。もふもふ&もちもち肉球が与える快楽が、Aの脳髄を貫いた。
「ダナエにゃん! お願いします、お店がはけたらオレと個人的にお付き合いを……!」
「当店はお触り厳禁だ」
 突如、天井から降ってくる黒い影。
 三つの影のうち、ひときわ鋭く速いひとつに、友人Aはぐしゃりと潰される。
「あああ、Aーーーー!」
「此度の開店は、我が主もたいそう喜ばれている。客とて勝手なふるまいは許さん」
 白く美しきメイドに『暗殺』され、Aは力尽きた。
 わが生涯に一片の悔いなし……。ダナエにゃんとのアフターを果たすことなく、志半ばに斃れたAだが、その顔は安らかだ。
「あの、あなた方は……
 全身を冷や汗で濡らしながら、青年はそろそろ尋ねてみる。
 テーブルを囲むように(うち一人はAを踏みつぶし)立つ、三人の美女。メイド姿をした彼女たちが、こちらを全力で威圧してくる。
「レディパール子だ」
「サンドラ子よ」
「シエラ子だ」
 美しい。とてつもなく美しい。でも、ちっとも萌え萌えできない……
 いまにも殺気だけで殺されそうな雰囲気の中、レディパール子が伝票とペンを手にしている。
「ダナエの代わりに我々が注文を承ろう。君たちの望みを聞かせたまえ」
 完全に飲み込まれた青年は、メニューをさかさまに持ってしまう。
「オ、オムライス……人数分で……
 パフェとかドリンクとかいろいろあるようだが、この殺気に耐え吟味できる精神力は彼にはない。
 レディパール子は注文をさらさらと書きつけると、単調な声で言った。
「オムライスだな。オプションで『ふーふーサービス』がつけられるが」
「ふーふーって、まさか……メイドさんがしてくれるんですか」
「いかにもその通りだ」
 
『いいか、君。あーんして待ちたまえ。ほら。ふー、ふー』
『ふふ、ご主人様なのにお利口さんにしてくれて、いい子ね? ふー、ふー』
『お前、悪いが、私が冷ますまで待ってもらうぞ。ふー、ふー』

 ……いいかも。
 なんだかとてつもなくいかがわしいような気もするが、こんな美女――しかもメイドさんにご奉仕してもらえる機会など二度とない。
 生き残った三人は、全員一致でオプションをつけた。
「超特殊っぽいけど、超美女ぞろいだし……
 若者たちがときめきと緊張を胸に待っていると、やがて、
「待たせたな、貴様ら」
 できたてふわふわのオムライスをトレーに載せ、スタイル抜群のメイドたちが現れた。

「エスカデ子だ」
「瑠璃子だ……
「ラルク子だ。さあ貴様ら、ふーふーしてやろう」

 抜群だ。間違いなく、スタイル抜群だ。
 華奢で可憐なメイド服に無駄なく引き締まった身体を、あるいは鍛え上げられた肉体をはちきれんばかりに押し込めて、逞しい漢たちは三人を取り囲んだ。
 ラビの飾りがついたスプーンを片手に、それぞれ定めたターゲットの傍らに膝をつく。
 
「おいしくな~れ♡ おいしくな~れ♡」
「ふぅ~♡ ふぅ~♡」

 メイドさんの、とってもかわいいおまじない♡
 漢の一呼吸ごとにはち切れそうな大胸筋が上下し、身体の筋肉がくっきり浮かび上がる。
 地獄のような光景に青年が絶句していると、青年担当のエスカデ子がぎろりと睨んできた。
「貴様たち。さっきからなにを黙っている。貴様も男ならば唱和しろ」
 圧倒的迫力で促され、青年は念仏のように無心に唱えた。おいしくな~れ……おいしくな~れ……
「さあ、熱さも冷めて程よい頃合いだ。貴様、あーんしろ」
 やたら達筆な筆跡で『悪魔滅殺』と書かれたケチャップ文字の、『殺』の部分を選んでくれるエスカデ子。

 ――思ってたんと違う……

 青年が落涙しながらかみしめ飲み込むと、エスカデ子が指でハートを作った。
「萌え萌えきゅん♡」
 ああ、マナの女神様。俺たち、もう、死んでもいいですか。
 


 悪夢のような時間を終え、青年たちは食後に出されたお茶を飲んでいた。
 なお、茶を運んできてくれたのは。
「ご主人様、今日は来てくれてありがとう! 楽しんでもらえたかな?」
「美女ぞろいだったでしょ? メンバーにはこだわったんだから!」
 最初に出迎えてくれた棒の女の子と翠の子だ。……なんかもう……本当に、こっちにふーふーしてほしかった。
「ああ……最高のメイドカフェだな……
 ようやく戦闘不能から復活したAは、ネコ神と出会った幸せをかみしめているらしい。幸か不幸か、四人のうち彼だけ、逞しきメイドたちの接客は体験していない。
「なあ、みんな。みんなは誰が好みだ? オレはやっぱりダナエにゃんだな~。肉球たまらん」
「う、う~ん……俺は最初の、緑のおかっぱちゃん」
 青年が答え、Bが眼鏡を押し上げる。
「ぼくは、レディパール子さんかサンドラ子さんですね。彼女たちに、虫のような目で蔑まれて踏まれたい」
「いい趣味してんな……お前は?」
「おれは、あの金髪の子……
 最後に口を開いたのは、今日一度も口をきいていないCである。
 彼は、心を奪われていた。運命の出会い。自分の全てをかけてもいい、それは衝撃の恋だった。
 友人Cは陶酔する眼差しで、ひたすらある人物を追っている。彼女の名前はエスカデ子……
 青年は、今にも帰ってこれない世界へ踏み出そうとしている友の肩をつかみ、がっくがくと揺さぶった。
「おい、しっかりしろ! 異世界の扉を開ける気か! 金髪ならあっちだろ!」
 必至に呼びかけながら、黙々と雑務をこなしている金髪のわたあめを指さす。なにげに、そっちも異世界へ通じているが、四人で気づいている者はいない。
 その時である。
 バターン! 
 けたたましい音を立ててドアが開かれ、物々しい一団が店内へ一斉に踏み込んできた。 

「警察である! ここで怪しい店が営業を始めたと通報があったのだが!」

 先頭にたつネズミの獣人が、警察手帳を見せて大声で叫ぶ。
 それを見たわたあめが、棒の刺さったメイドに疑問を投げかけた。
「なあ、お前。開店前に、ちゃんと営業許可とったのか?」
……あ、忘れてた」
 いっけね☆ 棒が自分の頭をこつんと小突く。

 ――っていうか……え? わたあめ、男?

 呆然とした青年たちをよそに、メイドたちの行動は速かった。
「ずらかれ!」
「えっ、ちょっと!」
 ご主人様たちを警察の元へ残し、ファ・ディール初のメイドカフェは一瞬で営業を終えた。