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しちろ
2023-05-08 12:56:47
1894文字
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HOM
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持たざる王のパヴァーヌ
聖剣HOM。アナイス一人称。ロジェ、幻夢の主教。暗め。1,900字。
ボクと同じなのは、この世に三人だけだと思ってた。
ボクと、幻惑の城に住む友人と、もう一人。
「ねえ、ロジェ。今からでも、ボクの側につかない?」
こうして彼と話すのは五年ぶり?
遠い異国の神殿で、ボクの誘いに、ロジェは即座に言い切った。
「断る!」
なぁんだ、つまんないの。
ロジェ。一緒に遊ぼうよ。
ボクは王だ。
家臣たちはみなボクに頭を垂れ、美辞麗句を並べ立てる。
王だから何でも持っているし、ほしいものがあれば何でも手に入る。
ボクは人形だ。
家臣たちは垂れた頭の内側でボクを嗤い、陰で好き勝手に言っている。
傀儡っていうの?
ボクが王となったとき、『仕事のできる』家臣たちは、子どものボクなんて思い通りにできると思ったんだろう。先代の父がぽっくり逝ったせいで早くに即位したボクは、だから、王様になっても何一つ楽しくなんてなかった。
「お互い、苦労するよね」
暇を見つけては顔を出しているミラージュパレスで、ボクが愚痴ると、年上の友人(と言うと、向こうは迷惑そうな顔をするけど)は「お前は昔から、何も苦労などしていないだろう」とつれなく言った。ボク一応、彼の主君に当たるんだけど、王様に対する物言いじゃなくないかな。まあ、今更へりくだられても気持ち悪いから、これでいいんだけど。
彼は『幻夢の主教』と呼ばれている。名はない。ない、というか、なくなった。
生まれてこの方、彼はここから一度も出たことがないらしい。出ることを許されていないんだって。彼には双子の弟がいるんだけど、弟
――
ロジェは、兄が主教の座につくと同時に、外界へ出た。平たく言えば、追い出された。弟は過去と身分を剥奪され只の民となり、兄のほうは個人としての名前を剥奪され、称号だけの存在になった。どちらが幸せなのかは、ボクにはわからない。
「主教なんてさ。キミじゃなくても、誰でもいいんだろうね」
ボクはミラージュパレスの主に言ってやるけど、彼は意に介さない。
後継ぎとして必要なのは一人だけ。次期主教が双子ってのは異例だったらしいけど、万が一があった時に代わりが利くよう、二人は同じように育てられた。まあ、幸いにもそんなことにはならなくて、順当に兄が跡目を継いだ。数分の違いで、ずいぶんと運命が違っちゃったもんだ。
主教となった兄は本当に何も思わないらしく、ボクを無視して教本などめくっている。
「そんなことはわかっているが、どちらにしろ、私は外の生活には向かない。外界で生きるなら、おそらく私よりもロジェのほうがずっと向いている。剣術が得意だし手先も器用だしな。私は今の生活に不満はないし、二度と会えなくても、アイツが幸せにやってくれているのならそれで構わない」
「そう? ボクから見りゃ、キミもロジェも大して変わらないけど」
名前がなくなったせいで、『キミ』としか呼べないこの不便。
ミラージュパレスを出て一般人になったロジェは、ペダン軍に入った。つまりボクとロジェは、王様とただの兵士。ミラージュパレスの存在は国家機密だ。もちろんロジェの出自も。だから彼を城に呼びつけて遊ぶこともできない。
そして今や、離反された国の王と反逆者同士ってわけ。
「断る!」
ああ、つまらない。
ロジェ、昔のキミはもっとつまらなそうな目、してたじゃない。自由がなくて縛られて。自分のことは何一つ自分では決められなくて。
ボクが気づいていなかったと思う? 兄弟そろって死んだ魚みたいな目、してたじゃない。
たったの五年で、すっかり普通になっちゃって。
たったの五年で、すっかり楽しそうになっちゃって。
自分にはやるべき事がある、信念がある。そんな顔、していなかったじゃない。
ボクはこんな世界、キライだった。
ほしいものは手に入らない。見えるもの、与えられるものは仮初ばかり。
めちゃくちゃに壊してやったら、思い通りに変えてやったら、きっと楽しいはず。
そうさ、ボクは何一つ持っていなかったんだ。
失うものなどない。怖いものなどないさ。
ボクは誰かのつくりものなんかじゃない。
ボクはボクの王様になろう。
なにひとつ自分の思い通りにならない、いやな世界なんか壊して、新しい、ボクの好きな世界を創ろう。
ああ、それなのに、なぜ。
「闇が
……
闇が
……
押し寄せ
……
」
ボクを飲み込み、押し寄せてくる、暗い昏い闇。
深い闇、光なき世界など、ボクはよく知っているはずだったのに。
なぜ、ボクは今、こんなに怖いのだろう
……
。
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