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しちろ
2023-05-07 19:52:42
8216文字
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LOM
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私は草ムシまんじゅう屋
聖剣LOM。pixiv投稿作品。シャイロ。そのまんま草ムシまんじゅう屋の話。エスカデ編です。8,200字。
紳士淑女の皆々様、風と炎と癒しの町ガトへようこそ。
私は草ムシまんじゅう屋です。
なんだよつまらねえ?
そうだよ、おじさんはひとつも武勇伝なんてない、大きな兜すらかぶってはいないまんじゅう屋。もっとこの世界の有名人とか英雄さんの話とか、もしかしたらしょーもない話とか期待されてるかもしれないところナニだけど、正真正銘普通のまんじゅう屋さんだよ。
草ムシまんじゅうの作り方、知ってるかい?
修験の道を越えた滝の辺りで採取した元気な草ムシを、まずは最低一日置いておく。お腹が空っぽになったところで熱湯でしっかり茹でこぼし、余分な部位を外して下ごしらえ。すり鉢で粘りが出るまでよくすりつぶし、つなぎを加えながら練り上げる。少しエビにも似た香りの種をまあるく丸めて、蒸気の上がる蒸し器でふっくら蒸しあげればできあがり。
ガトの門前町で草ムシまんじゅう売って三十年。屋台のわきにのぼりを立て、美味・新鮮・誠心誠意の三本柱を軸にこれまで商売を続けてきた。
さて開店間もない、お昼前。
「一つください」
ガトの坂道を下って、常連のお客様がやってきた。
「いらっしゃいませ。僧兵長」
「もう、おじさん。その呼び方はやめてちょうだいったら」
可愛らしく苦笑いするのは、猫の獣人のダナエちゃん。私は子どものころから知っている。昔からしっかりした子だったけれども、意外にお転婆な面もあって、険しい山道をいつも風のように駆けている元気な女の子だった。そんな彼女は、今や癒しの寺院のお偉いさん
――
僧兵長だ。
「はい、ダナエちゃん。いつものね。しかし、お昼なら寺院の昼食があるだろうに」
「こっちの方が忙しい時にはちょうどいいわ。あと実は、精進料理があまり好きじゃないのよね
……
なんて、人に聞かれちゃまずいわね」
内緒よ内緒。
声を潜めるダナエちゃんは、仕事の凛々しい顔なんてどこへやら。屋台わきに設置したベンチに腰掛けてさっそくぱくついている。
たしかに、猫に野菜だけの食事は厳しいのかもねえ。大人になってますます綺麗になったダナエちゃんだけど、こうしてまんじゅう食べているところを見ると子どものころみたいだ。
「最近、寺院はどうだね?」
「そうね
……
」
私がなにげなく聞くと、ダナエちゃんは、実は悩んでいる、と打ち明けた。
「悩み事? 司祭様に聞くのじゃダメなのかい?」
「悩みってのはその
司祭様
マチルダ
のことなのよ。一人で考えていても埒が明かなくて。誰かに話でも聞きに行こうかと思っているわ。差し当たって、リュオン街道のガイアにでも、と」
「ふうむ。天下の寺院の僧兵長様が相談に乗ってほしいだなんて、そのがいあってお人は大したもんだねえ」
がいあっていう人を、私はよく知らない。
ダナエちゃんはたぶん、世界中の悩める人々に相談される側だ。釈迦に説法みたいなことになりそうなんだけど。
「やめてよおじさん。大地の顔ガイアはマナの七賢人の一人なのですって。何かお知恵を拝借できないかと思って」
「七賢人
……
昔話で聞いたことがあるなあ。そんな気軽に相談できるもんなんだ」
屋台の売り上げがどうすれば伸びるかとか新商品のアイデアとかも相談できるのかな。だったら私も一度聞きに行きたい。
「そう、聞くんだけど
……
」
「なんだい、しゃっきりしないねえ。らしくないよ、僧兵長」
「だからやめてよ。私、そんな大した人間のつもりじゃないのよ。
……
ねえ、おじさん、私って昔からなにか変わったかしら」
「いいやあ、こうしてうまそうにおまんじゅう食べてるダナエちゃんは、昔のまんまのダナエちゃんだねえ」
真面目で気さくで人が好い。
私は褒めたつもりなんだけど、ダナエちゃんはそうは取らなかったみたいだ。
むしろ余計に悩むように、
「そうよね
……
。今の彼女を見てると、なんだか私だけ置いて行かれてるみたい」
はぁ、とため息をついた。
別の、とある日。
「二つください」
その日来たのは、かわいらしい二人組だった。
赤い帽子をかぶった優しげな男の子と、頭に棒飾りをつけた綺麗な金髪の女の子。
自慢の草ムシまんじゅうを前にニコニコ顔の女の子に比べると、男の子のほうは幾分顔が引きつっている。うん、君は初めてだね。見た目がヤバいのは私もわかっている。だってヤバく作ってるんだもん。競合相手は多いんだ、インパクトとか映えとか必要だからね。
「ガトの草ムシは、ほかのとは一味も二味も違うんだ。騙されたと思って思いきりガブっといってみて」
「は、はい
……
思いきって逝ってみます
……
」
男の子は今にも奈落に落ちるか処刑台に上がるんじゃないかって顔で去っていき、ほどなく駆け足で戻ってきた。
「もう二個ください!」
うん、ありがとう。気に入ってくれてうれしいよ。
さっきとは打って変わって幸せそう。気のせいかぽわぽわと花が飛んで見える。
間もなく彼は、さらに追加で二個買いに来た。ありがとう、少し落ち着こうか。
「さっきからいい食べっぷりだね。そんなに喜んでもらえると私もうれしいよ」
「とても、おいしいので。あっという間に食べちゃいました」
どこか照れたように、人好きのする顔で笑う。なるほどいい子だ、見ている方も気持ちがいい。
「ところで」私は向こうのベンチに目をやった。「あの子は、キミの彼女?」
屋台から少し離れたベンチにいるのは、さっきまんじゅうを買ってくれた綺麗な女の子だ。私が見ていることに気付いたのか、女の子はにっこり笑ってこちらに手を振った。
「あ、いや
……
あの子とはさっき、初めて会ったばかりで
……
」
男の子が見る間に赤くなる。
うんうん少年、そういう気持ちに時間は関係ないのだよ。
あんまり初々しいもんだから、おじさん、ちょっと応援したくなった。
「たくさん買ってくれたからおまけだよ」
買ってくれたまんじゅう二個に、おまけに二個足して渡してあげる。
赤面していた彼の背後で再び、ぱぁ~と花が咲いた。
「ありがとうございます!」
今時珍しいねえ、こんなわかりやすくて素直な子。
おまけしたかいがあるってもんだ。
「ひとつくれ」
ある日来たのは、無愛想な剣士だった。
よく日に焼けて鍛え抜かれた長身の体躯は見事なもんだけど、見た目にあまり頓着しないのか、褪せた金髪は腰まで雑に伸びていて、やたら身軽そうな格好をしていた。もったいないなぁ、服を流行りのものに変えて髪をきちんと整えさえすれば、けっこう女の子にモテそーなのに。
「兄さん、うちのまんじゅう見ても驚かないんだね」
蒸し器から取り出したまんじゅうを見ても、剣士はしかめ面のまま眉一つ動かさない。初めてのお客さんはたいてい笑うか驚くか、この間の赤い帽子の子みたいな反応をするんだけど。
「昔ときどき買っていたからな」
財布を無造作に取り出すしぐさが、私の記憶の何かと合致した。
――
おやっさん、今日も四個。
――
はいはい、坊ちゃん。いつものね。
――
だからその呼び方は止めてくれ。もう子どもじゃないんだぞ。
「ああ! まさか君はライオット家の坊ちゃんか! すっかり見違えたよ!」
む、とつまった顔に、やんちゃ坊主だった面影がちょっぴりのぞいた。昔のように、その呼び方はやめてくれと言いながら代金を渡してくれる。
そうだそうだ。
聖騎士一族ライオット家のエスカデ坊ちゃん。
子どもの頃の坊ちゃんは、ガト有数の名家のご子息なのに、その辺の子どもと変わらないラフな格好をして、毎日剣術の訓練に明け暮れていた。「将来は父の跡目を継がなきゃいけない」って言ってたっけ。なんと立派な剣士になったもんだ。
「坊ちゃん無事だったんだね。十年前はそりゃ大騒ぎだったんだよ」
「それは、そうだろうな
……
」
エスカデ坊ちゃんは十年前に鉱山で行方不明になった。寺院を守護する家の大事な跡取りだ。ガトは上を下への大騒ぎになった。寺院に箝口令が敷かれたとかで事件の詳細を私は知らないのだけど、寺院にとっては大スキャンダルになるような話らしい、とは噂になっていた。
「今までどこにいたんだい? 探してもぜんぜん見つからなかったし、奈落に落ちちゃったんじゃないかなんて話まであったんだよ」
「まあ、剣の修行でな」
おっと流されてしまったか。あまり話したくはなさそうだ。
「なんにしろ、元気そうでよかったよ。昔はよく三人で買いに来てくれてたねえ」
坊ちゃんとよく来ていたのは猫の子と、たしか半分悪魔の子。ちなみに、その猫の子はダナエちゃん。
買いに来るのは三人なのに、まんじゅうの数はいつも四個だった。残りの一個をどうするのかと聞いたら、窮屈な生活をしている友達に持って行ってあげるんだと、彼は仏頂面を少し赤らめて言った。年相応に照れている坊ちゃんの反応を見て、きっと相手は可愛い女の子なんだろう、なんて思ったもんさ。
「昔の話だ。今は関係ないだろう」
すっかり大人になった坊ちゃん、目がちっとも笑ってない。
家には顔を出したのかい? と聞いてみれば、どういう顔をして帰ったらいいかわからないと坊ちゃんはぼやいた。
「十年も前に死んだはずの者が生きて帰って、今更どうするというんだ」
「ご家族は絶対喜ぶと思うけどなあ。帰ってやんなよ」
「その気があれば、いずれな」
坊ちゃんは、ガトにはもう自分の居場所はないと思っているみたい。そんなことないだろうに。
エスカデ坊ちゃんが来た日からしばらく経って、知ってる顔がやってきた。
「こんにちは、お久しぶりです」
「あれ? 君は確か」
前に来た、赤い帽子の子じゃないか。前に一緒だった女の子はいないみたい。今日は一人かい。
男の子は、シャイロと言います、とわざわざ名乗ってくれた。相変わらず礼儀正しい子だね。
「人を探しているんです。ダナエさんという、猫の獣人の女性です」
「ダナエちゃん?」
「ご存じなんですか」
「うん、よく買いに来るからね。最近来たのは三日くらい前だったかな」
『おじさん、今日は三つ』
『ダナエちゃん、今日は多いね。もしかしてこれから仕事かい?』
『仕事は、しばらくお休み』
『久しぶりに休暇かね』
そうじゃないけど出かけるわ、と言って、ダナエちゃんはいつも通りまんじゅうを一個食べた。
『腹ごしらえに一個だけ。これ、後から火であぶってもおいしいのよね』
「そうですか、ありがとうございます」
シャイロくんには、あんまり役に立たない情報だったかも。
それでもぺこりと一礼し、顔を上げた彼の正面で、しゅんしゅんと蒸し器の蒸気が上がっている。
「おまんじゅう
……
」
ふとまんじゅうが気になったのか、シャイロくんはなんとなく物欲しそうな顔でお腹をさすった。
……
もしかして、お腹がすいてる?
「形の悪いのでよければ、あげるから持っていきなさい。歩きながらでも食べられるから」
「ただでもらうわけには」
「じゃあ、半額でいいよ」
「あ、ありがとうございます」
彼は財布から銀貨を取り出し私に渡すと、まんじゅうを受け取った。何やら考え事をしているようで、上の空。
「シャイロくん、おつり! おつりを忘れてる!」
ある日、最大の危機が訪れた。
強欲商人のウサギネコが、この場を譲れと交渉を持ち掛けてきたのだ。
「なんとにゃ。おいらがこれだけ言っても聞かないというかにゃ」
「いいや、私はここをどかぬ。どうしてもというならば私を倒していくがよい」
露店は場所が命だ。マナの聖域? それがどうした、私はここを三十年守り抜いてきた。誰が何と言おうが
ガトの門前町
露店の一等地
こそ私の侵されざる聖域だ。よそ者などに奪われるわけにはいかない。
「かくなる上は実力行使にゃ
……
」
「若造めが、半人前の安商人などに倒される我ではないわ
……
」
行くぞ、草ムシまんじゅう屋奥義!
「受け取れ賄
……
ではなく、プレゼントにゃ!」
「喰らえメタボ! 自然食品・草ムシまんじゅう!」
ウサギネコは私の手に巨大なプレゼントを押し付け、私は草ムシまんじゅうをつめた菓子折りをメタボウサギネコの胸元に押し込んだ。よいかね、諸君。これは商人たちの必殺技、高尚な奥義である。
ただのプレゼント交換では、断じてない!
「ぬぁ! こ、これは
……
!」
「にゃ! こ、これは
……
!」
「坊ちゃん坊ちゃん」
最近ガトでちょくちょく見かける、懐かしい顔。
ライオットの坊ちゃんだ。
「昔のよしみだ。買っていってよ」
私がちょいちょい手招きすると、坊ちゃんが、今それどころじゃ
……
と言った。
「大体な、俺のことをそんな風に呼ぶのはオヤジさんくらいだぞ。最近新しく知り合ったやつと言えば、お人よしの妙な小僧くらいで、大概のやつは寄り付かん」
「それは坊ちゃんが、そんな大きな剣持って怖ーい顔してるからだよ。もちょっと小綺麗な格好して笑顔の一つでもみせりゃあ、女の子なんていちころなのに」
坊ちゃんは明後日に目線を投げて「余計なお世話だ」と肩をすくめる。
そうだよ、それそれ。坊ちゃんは、険が取れればいい男なんだから。
「で? 忙しそうだけど、次はいつガトに帰るんで?」
「次?」
私の質問に、坊ちゃんは片眉を上げた。そんな変なことを私は聞いたかね。
「次は
……
ないかもしれんな」
「どういう意味だい」
「
……
オヤジ、気が変わった。今日は持てるだけ買ってやる」
「モテたいだけに?」
「誰がうまいこと言えと」
坊ちゃんはいつもと変わらない様子に見えたけど、私はなんだか不安になった。
ご要望通りに持てるだけのまんじゅうを紙袋に詰めると、坊ちゃんは金貨を取り出した。この屋台で金貨を出す人めったにいない。っていうより初めてだ。
「釣りはいらん。取っておけ」
「ちょっと待ってくれよ、これはあんまり多すぎる。今あるまんじゅう全部渡したって、金貨の半分にもならないぞ」
私が金貨を返そうとしても坊ちゃんは受け取らなかった。
「なら、残りの金の分は俺の家にでも届けておいてくれ」
「そういうことなら、喜んで頼まれますがね
……
」
結局、家には帰ったのかな。なんとなくだけど、そうじゃないような気がした。
「坊ちゃん。来た時、一個でいいんだよ。また買いに来てくれよ」
「
……
気が向いたらな」
エスカデ坊ちゃんのおかげで、今年一の売り上げを達成した数日後。
「シャイロくん」
「
……
あ、おじさん」
屋台の前をとぼとぼ歩く様子が気になって、つい声をかけた。
「元気ないね、どうしたい?」
「あ、えーと」
シャイロくん、言葉を濁して何も答えない。なにかあったみたい。
その日、彼はまんじゅうを三個買っていった。
いつも三個は食べるから、今日も全部平らげるんだろうと思ったら、そうでもなかった。ひとつだけもぐもぐ食べて、残りは袋に詰めて持ち帰った。
「冷めたら温めるといいよ。手間でなければ蒸し器が一番おすすめだよ」
シャイロくんは少し考えるような顔をして、ありがとうございます、そうしますと困ったように笑った。
「
……
悔しいなあ」
ガトの風に乗って、そんな呟きがポツンと聞こえた。
間もなく司祭が亡くなったと聞き、ガトの住人として私は墓参に行った。
持参したお供え物は、やっぱりお店のまんじゅう。
「おや?」
真新しい司祭の墓に、私の草ムシまんじゅうがふたつ、すでに供えてあった。
「ひとつください」
「こんにちは、ダナエちゃん。しばらく見なかったね」
「ええ。いろいろ、バタバタしていたものだから」
それはそうだろう。司祭の後継はいないというし、葬儀やら何やら、僧兵長のダナエちゃんがほとんど取り仕切ったはずだ。
お疲れさまとねぎらうと、ダナエちゃんは、やっと屋台に来られるくらいには落ち着いた、とすっかり疲れきった顔で笑った。
「司祭様のことは
……
残念だったね」
あまりに早すぎた。まだ二十六歳だった。
ダナエちゃんはそうね
……
とだけ言って、こんなことを私に聞いた。
「おじさん、このお店はいつからやってるの?」
「十五で露店を構えて、ちょうど三十年
……
もうすぐ三十一年さ」
「三十年
……
世界もいろいろ変わったでしょうね」
「そうだねえ。けれども特にここ一年はめまぐるしいね。まるでファ・ディール全体がひっくり返ったみたいだよ」
今年になってからというもの、世間がびっくりするような事件が立て続けに起きている。この歳になって初めてじゃないかなあ。ここまで、いろいろな出来事が起きた年なんて。
「賢人が言うには、時が動こうとしている、世界が変わろうとしているのですって」
「世界? それはまた大仰な」
「本当よね。私もまだ信じられない」
驚く私に、ダナエちゃんは少し寂しそうに笑った。まんじゅうを持ち上げて。
「もしかしたら、マチルダは笑うかしらね。でも私はそう簡単には変われない。こうして昔から変わらないものがあるってことのほうが、ずっと落ち着くわ」
じい~。
つぶらでいたいけな瞳が、屋台の私をまっすぐに見つめている。
「なんだい、草人くん」
草人がまんじゅう食べるなんて聞いたことないんだけど。
買うのかい? と試しに尋ねてみると草人は残念そうにぱたぱた腕を振った。
「おかねないの」
「小さいので良ければひとつあげよう」
「わーい」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる彼の頭から、突然、ぽんと綿毛が開いた。
えっと
……
草人って
……
頭から綿毛出るのかい?
「どうしようどうしよう。ちょっとまって、たべられないよ」
「おやおや、どうしたなんだい急に?」
よくわからないけど、急いでまんじゅうを何個か袋に詰めて渡してあげた。小さいのじゃなくて、普通のやつ。
「おだいは?」
「ラヴでけっこう」
私が言うなり、綿毛の開いた草人は風に吹かれて空へ飛んで行った。
「おみやげもってくの~」
世界が変わろうとしている、だっけ? おじさんまだ信じてない。
その日、まるで紙吹雪が一面広がるみたいに、空がピンクに染まった。
そのうちの一人は、ふわふわと紙袋抱えて私の草ムシまんじゅうを持って行った。
いろいろ台無しだとおエラい誰かに言われたみたいなんだけど、そんなのおじさん知らないよ。
私は草ムシまんじゅう屋。
まんじゅう売って三十一年。
最近、マナの聖域が開かれたとか噂になりました。草人ももういません。
ライオットの坊ちゃんも、それはおいしそうに食べてくれた帽子のあの子も、いつからか買いに来なくなりました。飽きちゃったのかな。
「おこーんにちわー、だにゃ」
「ああ、会長。やっぱり私はこの場所は」
「別にいいにゃ。あんたが引退したら、この場所もらうことになってるにゃ。気の済むまで何年でも好きに売ればいいにゃ」
私の小さな露店は、今や急成長を遂げるニキータ商会と提携することになりました。私の草ムシまんじゅうは、今では世界各地で売られています。
会長は、あんたのまんじゅう悪くはないにゃ。おいらはすごく忙しいから、こんな小さな店まで構っていられないにゃって言うんだけれど、私の引退なんて待ってたら、ニキータさんが私くらいの年になっちゃうんじゃないかな?
なんて言ってるところへ、おっと、見たことのないお客さん発見。
「やあやあそこ行く、ハンサムなお兄さんと綺麗なお嬢さん。ガトに来た記念に草ムシまんじゅうはいかがかね?」
お兄さんはまんじゅうを見てぎょっとしたけれど、目をしばたたかせてまじまじ見た。
「これ、もしかして、アイツが言ってたやつじゃないか?」
「わたし、たべてみたいなあ
……
」
ありがとうございます、二個お買い上げ。
紳士淑女の皆々様、風と炎と癒しの町へいつでもどうぞ。
私の露店は誰もが必ず通る一等地。
昔なじみの坊ちゃんも、赤い帽子の彼も、君たちがまた買いに来てくれると信じながら、いつまでもまんじゅう売って待っています。
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