しちろ
2023-05-07 19:40:15
6414文字
Public LOM・連載主人公の短編
 

草ムシまんじゅう食い倒れ選手権

聖剣LOM。オールキャラ……? 時間軸としては、『波間に眠る追憶』と『精霊の光』の間。キャラ崩壊・世界観崩壊注意。pixiv投稿作品。6,400字。

アニメのシーンがかわいくて草ムシまんじゅうの話書こうと思ったら何故かこうなった


 前回までのあらすじ
 なんだかんだ、無事にジャングルから生還した主人公二人。
 彼らは今、新たな苦難に立ち向かおうとしていた。
 

求むチャレンジャー! 草ムシまんじゅう食い倒れ選手権!


「かの妖精戦争時代から始まる伝統ある本大会も、記念の900回を迎えております。ここまでの挑戦を振り返って解説のモティさん、一食目から素晴らしい記録が出ましたね」
「『流れの聖騎士@悪魔追跡中』選手の挑戦ですね。一番手のプレッシャーにひるむことなく、孤高の騎士らしい力強く鮮烈な食の生き様を見せつけてくれました」
「『流れの聖騎士』選手の記録は79個。80個を前に79 ならくに落ちてしまいましたが、実に素晴らしいチャレンジでした」
「『一人で突っ走ってきたが、どうやらこれが限界のようだな……』 がくりと片膝をつき草ムシまんじゅうを取り落としたあの瞬間……悲しくも信念の感じられる、印象的なシーンでしたね」
「果たしてその場面は茶化していいのでしょうかね。しかしモティさん、彼を超える記録は難しいのではないでしょうか」
「近年では類を見ない驚異的記録ですからね。なお、歴代最高記録は722個と言われております」
「ありえなさすぎてもはや伝説と言われている『♪あなたの武勇伝語ります♪』の記録ですね。『キミのイメージが世界になる。(記録を)信じるだけでいい』 言っているヒトがヒトだけにふかしの可能性もありますが」
「本大会の一ファンとしては個人的に、『流れの聖騎士』選手と前回覇者『KOKU☆RYU☆OH!』氏との直接対決を楽しみにしていたのですが……直前になり、氏が急遽棄権されてしまって非常に残念に思っているところです。実現すればいい勝負になったでしょうね」
「さてそれは次の挑戦者に期待すると致しましょうか。さあ、本日最後の挑戦者は! みょうちきりんな棒が超マブな彼女と、へんてこな赤い頭巾がベリーナイスな彼! お二人は人探しの旅の途中とのことですが、飛び込み参加してくれました」
「登録名『戦う戦乙女♡@あたしをおねえさまと慕う美少女お探し中☆目撃情報はマイホームまで』『匿名希望@砂マントのストーカー捜索中。見かけたらご一報ください』 食い倒れ選手権を掲示板かなにかと勘違いしてやしませんかね、彼ら」
「SNS中毒の可能性もありますが、もし優勝してその名で新聞に載る気でいるなら恐ろしい子たちですね」
「いかにも食べ盛りなお年頃の挑戦者ですが、この大会は手ごわいですよ。お二人とも、チャレンジ前に意気込みをどうぞ!」

●みょうちきりんな棒がマブな選手のコメント
「ここいら一帯の食べ放題のお店、荒らしすぎて全部出禁になっちゃったんだよね! この際ムシでもなんでも、背に腹は代えられないと言いますか!」
●へんてこな頭巾がナイスな選手のコメント 
「財布の残り少なくて、もう1ルクも使いたくないので。たまたま通りかかっただけで、大会盛り上げようとかいう気持ちは一切ありません」

「ふたりとも清々しいほどのクズっぷり。解説のモティさん、期待が持てますね」
「私のお店のカレーも食いつくされましたからね。ドミナのサグチキンにポルポタのベイガンバルタ、各地で食べ放題カレーの被害続出です。商人モティ族からしますと、お前ら一生ムシでも喰ってろという気分ですね」
「それではレッツ・チャレンジ! マナと大地の恵みを己の血肉と為せ! 草ムシのメッカ・ガトから特別提供された草ムシまんじゅうです!」

 この時、二人の若い挑戦者――カイとシオンは己の前に立ちはだかるまんじゅうがかつてない強敵であることを悟ったという。幾多の激戦(※ただし大半はしょうもない)を潜り抜けてきた彼らすら慄かせるのに十分な外観を、草ムシまんじゅうは有していたのだ。
「でかい……
「うそでしょ、ガト(つーかアニメ版)ぱねぇ!」
 アニメ化で盛られに盛られたガトの草ムシまんじゅう。それは一般に流通しているものの10倍はでかかった。ムチムチと弾力のあるバッタ色のまんじゅうは阿寒湖のまりものように丸々と肥え太り、誰のこだわりなのか、むっちりとセクシーな草ムシの足が犬神家のように生えている。

「ガトの草ムシはカンクン鳥の糞を食べて育つため、身がしまって大変美味です。つなぎを使わず、草ムシをぜいたくに100%使用、ひとつのまんじゅうになんと108匹もの草ムシが使われており……
「食べる気を無くす情報止めてほしい」
「これ、草ムシ絶滅しないの?」
「問題ございません。長い触覚にたぐいまれなる生命力、時として台所の隅で発生しまれに突然空を飛び、1匹見たら30匹と言われております」
「黒光りしてそうな情報止めてほしい」
「やめてシオンそれは言ってはいけない」
 カイはまじまじと手の中のまんじゅうを見つめた。全力で後悔した。取れたて新鮮な足がまだふるふると動いていた。踊り食いも楽しめる趣向だと後に知った。
 おそるおそる、一口。

「生きているって素晴らしい……
 
 なんということでしょう。グロテスクな見た目からは想像もつかない、その美味さ。天から祝福の光が降り注ぎ、快哉を叫ぶラッパがどこからともなく鳴り響く。
「ありがとうございます、誠にありがとうございます! 涙を流すほど喜んでもらえると草ムシも報われるというもの!」
「伊達に900回続いてはいませんからね。シュタインベルガーとのマリアージュも最高ですよ。難点はムードがぶち壊しということですね」
 カイは左右の手にまんじゅうをむんずとつかみ、交互にかぶりつき始めた。
「うまい! うまい!」
「一口がでかい! でかいぞ、棒柱!」 
「砲丸サイズのまんじゅうを一口で飲み込む一種独特のスタイルは、伝説の優勝者『TORIDEOTOSHI』を彷彿とさせるパワープレイですね。120年前の大会で彗星のように現れた彼は、次々と砦を落とすかのごとき破竹の勢いで草ムシまんじゅうを駆逐したと記録に残されております。いやあ、まさかこの目で見られるとは」
「がんばれ帽子のしょうね……いや、こっちは早ぇ!」
「一見普通に食しているように見えながらも発生する青い残像はかつて『TORIDEOTOSHI』と競った『WHITE ASSASSIN』を思わせますね。彼らは元は小国ルーヴランド(注:ラルクとシエラの生国)から生まれた伝説の二人組ロックバンド『DORAGOOOOON!』のボーカルとギター、本大会のために新曲『 ラヴの滝登り』をひっさげた両者のドリームマッチはさながら食のロックフェスティバルだったと有名です。熱狂と興奮のあまり失神する観客が続出したとか」
「『ドラグーン!』と言えば宿敵との奇跡のコラボを果たした『DORAGOOOOON!feat.エナンシャルク』の『ドラグーン哀歌 エレジー』も名曲として知られていますね。TOSHI(※ボーカルTORIDEOTOSHIの愛称)とエニィ(※エナンシャルクの愛称)が歌い上げる、パワハラ知恵の竜もとい上司を持つ部下の悲哀が胸に沁みる一曲です。いやあ、食い倒れ選手権に歴史ありですね」
「少々話が脱線しましたが、勝つのはパワーかスピードか、120年前の名勝負の再来とも呼べそうな、食のパワーアタックとクイックアタックの戦いとなっております!」


 さて、ここで挑戦者本人たちにカメラを向けるとする。
 カイとシオンはこれまでの飢えを満たすべく、ひたすら食っていた。意地汚いLOM主人公とか見たくねーよとかいう方すみません。ここまで読んだら手遅れです。
 必殺技一回使えば相応のマナ……ぶっちゃけると大量にカロリー消費するとかしないとか言われている。HPはHIT POINT、そしてHARAHERI POINT(腹へりポイント)の略である。こちらをお読みの人間諸氏ならばご存じの通り、空腹とはスリップダメージである。主人公たちのHPは現在1だ。喰わにゃ死ぬ。なおこれは余談だが、水着の季節の前や正月後など、結果にコミットしたい女性たちが必殺技のエフェクトを放ちまくるのがファ・ディールの風物詩となっている。
「キミ、こういうの参加しないと思ってたけど」
「ジャングルに入って以来ほとんど食べてない。お前、全然来ないと思ったら、ドゥ・カテの泉にいい匂いさせてきやがって」
 カイはドラゴンステーキの誘惑に負けていた。英雄はのちに言う、見捨てたのではない、遅れただけだ。なぜならばそこに肉があったからだと。
「あの、お前が作ったケバケバしいミドリ色の鍋? 嫌だって言ってるのに無理やり食わされて、ああこれ死ぬなーって思ったら、サルにわしづかみにされて攫われてさ。取って食われるかと思いきや甲斐甲斐しく世話してくれたし、お前よりサルのがよほどいい女なんじゃないか」
 ぐしゃぁ。カイの手の中で草ムシまんじゅうが握りつぶされた。
 こともあろうにドゥ・カテと比べるか。
「なんだと、こんにゃろ、くらえまんじゅうパワーアタック!」
 カイは草ムシまんじゅうを全力のコマンドスラストでシオンにぶつける。
「なんとこれは、草ムシまんじゅうを武器として……!?」
「草ムシまんじゅう剣は剣聖オールボンが食事中に使える技として編み出したと言われていますね。草ムシまんじゅう限定なのが難で、継承が一代で途切れたと思われていましたが」
「もはや何でもありですね! すかさず頭巾少年のカウンター! まさか彼も伝説の使い手、決まったぁ! 棒娘の口に2個押し込んだ!」
「これは盛り上がってまいりました!」
「しかしポイントは『戦う戦乙女』選手に入ります。『匿名希望』選手にはこの2ポイントは痛いですね」
「どれほど技が冴えていても、基本はあくまで食い倒れ選手権ですからね。食べたほうのポイントとなります。カウンター系のアビリティや技は本大会においては諸刃の剣ですね」
「頭巾選手今度は攻勢に出るが……いや、棒選手あの構えは……ジョルト、ジョルトだ!」
「なんて無茶を! ジョルトの破壊力は並の必殺技を凌駕しますが、これが決まれば同時に4倍の得点とMP(まんじゅうポイント)を彼に与えることに!」 ※MP(まんじゅうポイント)=その人の生涯でまんじゅうを食べた数。高いと晩年ちょっと自慢できる。
「このゲーム、聖剣シリーズなのにMPないと思ったらそんなところに発揮されていたんですね!」
「さあ、どうする少年! 避けるか、人生の栄光か!」
 あまり感情が表に出ないシオンだが、実はこの時ちょっと困っていた。どーしよう。迫りくるジョルトまんじゅう。
 彼の背後には罪なき観客がいる。これを避けたら観客のHPが物理的にヤバい。ゲームシステム上、NPCが倒れても時間経過で自動復活するけど、好んで警察に捕まりたくもない。はたから見れば団栗の背比べみたいなもんだが、周りが見えている分シオンはカイよりは1ミリくらい常識的だった。
「ああああ! 少年ーーーー!」
 彼は選んだ。
 世界でおそらく唯一、草ムシまんじゅうに倒された主人公になることを。4個のジョルトまんじゅうを文字通り真正面から喰らい、赤ずきんは華麗に吹っ飛んだ。
「YHAAAA! キミこそヒーロー!」
「ありがとう、君の生き様は忘れない……!」
 『匿名希望』選手 HP0。シオン脱落。(得点&MP+4 獲得)


「さてここからは、棒選手の孤独な戦いとなります。聖騎士選手の79個を超えなければ優勝とはなりません。一人で黙々とまんじゅうを平らげるだけの時間が過ぎていきます」
「正念場ですね。ただ食すのみではこの壁を乗り越えることは難しい。草ムシまんじゅうと己との内なる対話が決め手となります」
「モティさん、内なる対話とは?」
「心を平らにしてまんじゅうの声を聞き、想いを引き出すのです。これができたとき、世界に新たな扉が開かれると言います……
 もはや何を言っているか意味不明の解説とモティさんをバックに、カイはひたすらまんじゅうを詰め込んでいた。本来の目的は空腹を満たすためだが、もはやそんなことはすっかり忘れている。なぜそこまで食すのか。そこにまんじゅうがあるからだ。
 目指せ、頂点……超えろスパッツ。(まだ会ったことないけど) 
 並みいるまんじゅうを打ち倒し、草ムシまんじゅう界の英雄となれ。
 だけど、ああ……だんだん意識が遠く……

「カイ……カイよ……

 だれ……

「聞こえますか、未来の英雄よ……
 
 だれ、あたしを呼ぶのは……

「草ムシまんじゅう食い倒れ選手権が始まったのが900年前。
 草ムシは、草むらや石の下、滝つぼのわきにだけ残され、食欲ある者たちはそれを奪い合いました。
 そして数百にわたる乱獲の時代を経て、草ムシが少しずつ減少するにつれ、それを求める者も消えゆくと、ようやく草ムシの世界に平和が訪れました。
 それ以降も人々は飢えることを恐れ、すきっ腹だけを抱えて、食い倒れ選手権を開催していきました。
 大量の原材料から目を背け、無茶な大食いで腹を痛めています。
 私を思い出してください。
 私を求めてください。
 私は全てを限りなく与えます。
  草ムシは愛です。
 私を見つけ、私へと歩いてください」

「なんかよくわかんないけど……
 薄れかけた意識の中、カイは目の前のまんじゅうをむんずとつかみ取った。
「あたしはようやく、あなた(草ムシまんじゅう)に手を伸ばすーーーー!」
「行ったああああ! 80個目ーーー! 奈落(79個)を超える者が現れたーーー!」 
「なんということだ、最後の最後で草ム しんとの対話を果たすとは!」
「おめでとうございます! 優勝者がついに決定しました!」
 湧き上がる歓声。ファ・ディールに新たな英雄が誕生した瞬間だった。
 カイははじめて、誰からも認められる栄光を手にしたのだ。



 翌日。ある町にて。
 瑠璃と真珠姫が町を歩いていると、行商人に声をかけられた。
「やあ、今年の草ムシまんじゅう食い倒れ選手権は盛り上がったみたいだね。スパッツが奈落に落ちてまんじゅうで人間がありえないほど吹っ飛んで最後には神が降臨したらしいよ」
 一人盛り上がっているおっちゃんは興奮しきりだが、瑠璃には何から何までさっぱりわからない。人間っていったい……
「兄さんよかったらこの感動を分かち合わないか? ってことで新聞一部いかがかね」
「なんだ、商売か。だったら無用だ」
 読み応えあるのになあ、と残念そうな行商人に男女のこんな会話が聞こえてきた。
「おねえさまとおにいさま、おげんきかしら」
「真珠、あの二人の話はもうするな」
 「おねえさま」と砂マント。
 行商のおじさんは新聞と見比べた。受賞者の名前がそういえば。
「ん? もしかしてあの二人……?」


【ファ・ディールタイムズ 第900回 草ムシまんじゅう食い倒れ選手権結果】
 1位 『戦う戦乙女♡@あたしをおねえさまと慕う美少女お探し中☆目撃情報はマイホームまで』 記録80個 (参考:摂取草ムシ総数 8,640匹)
 2位 『流れの聖騎士@悪魔追跡中』 記録79個
 3位 『匿名希望@砂マントのストーカー捜索中。見かけたらご一報ください』 記録51個


「ミーはキュートな郵便屋♪ マイホームとドミナにお届けお届け♪ 美少女とストーカーの情報を」
 カイ達と真珠姫がレイリスの塔で出会ったころ、マイホームとドミナにそれぞれ目撃情報の一報が届いた。