しちろ
2023-05-06 23:10:42
2118文字
Public 聖剣3
 

王女と盗賊の恋物語

聖剣3。ホークリ。PT:ホークアイ、アンジェラ、ケヴィン。ローラント城奪還作戦後。ワンライ参加作品。2100字。

 ローラント城奪還作戦が成功した。
 先発隊として作戦の主軸を担ったホークアイ一行は、謁見の間で王女リースとの別れを済ませ、城を発つところだった。
 正門を出、どことなく後ろ髪を引かれる様子のホークアイに、
「ホークアイ」 旅の仲間・アンジェラが、ふふんと訳知り顔で背中をつついてきた。「アンタ本当は、もうちょっとあの王女様と一緒にいたかったんじゃない?」
 何故だかアンジェラは妙に楽しげだ。ところでどうでもいいがこのお姫様、リースと同じくれっきとした一国の王女だというのに、肌もあらわなアマゾネス軍よりさらに露出度が高い。
 からかうような態度のアンジェラに、ホークアイは肩をすくめて見せる。
「盗賊と王女様だぜ? 国民ですらない、どころか敵国出身のオレなんて、どうやって彼女に見てもらうのサ」
 これが本当に恋なら、身分違いの恋ってやつだねぇ。
 ホークアイが大げさに溜息を吐いて見せると、アンジェラこそ口元に手を当ててわざとらしく目を丸くしてみせた。
「あっ、思ったより本気だったんだ」
「ってカマかけたのかよ、アンジェラチャ~ン」
 美女とはそれなりにご縁があるつもりのホークアイだが、ことこの手の話題にかけては、アンジェラのほうが一枚上手だ。
 ためしにホークアイは、頼もしい人生の先輩――なんて間違って口に出した日には、攻撃魔法が飛んでくるかハイヒールで踏みつけられそうだが――へ、ちょっぴり情けない声で訊いてみた。
……ちなみに、オレにチャンスってあると思う?」
「そうねえ、私の国で上演している演劇とかなら、いい題材になるかもね」
 つまり、ほぼ無理ってことね。
 ホークアイは、トホホ……と、芝居がかった泣き真似をした。いつもこんな調子だから、彼は本気か冗談かわかりにくい。けれど、勘の鋭い女の目は誤魔化せない。
「なによ、だったら今からでも城に戻って盗んできちゃえばいいのに。このパーティだって、三人が四人になったところで大して変わらないわよ」
 ねえ、ケヴィン?
 言ってアンジェラは、後ろを歩いていたケヴィンを振り向く。
「え、え? オイラ?」
 脈絡なく同意を求められたケヴィンは、とっさに返事ができずにあわあわと自分を指さした。そもそも彼だけいまいち会話についていけていない。口の回るホークアイとアンジェラはとにかく会話もテンポが速いのだ。
 ケヴィンは彼なりに話を飲み込むと、訥々と答えた。
「オイラ、ホークアイのしたいこと、よくわからないけど……リースが一緒に来るのは、オイラもいいと思う」
「でしょ? 人のために盗んで自分が一番欲しいモノは我慢して、何のための盗賊なんだか」
 積極的に泥棒――人さらいを勧める、とても王女様とは思えない物言いである。
 そそのかすことしきりのアンジェラに、ホークアイがとうとう声を上げた。
「あのね、オレは義賊なの! 善良な人に迷惑かけるような、イケナイことはしないの! 人様が困るようなものは盗まないの!」
「要するに、誰も困らなきゃ盗みたかったってことよね」
 盗賊の言い訳も、もう一人の王女様には通じない。この自称義賊、世渡り上手そうに見えるのに、何を遠慮しているんだか。アンジェラからすれば、リースだって、ホークアイに誘われたそうに見えた。
「なんだ、ホークアイ。もしかしてドロボーしたいのか?」
 よくわからないけど、よそではやめた方がいいぞ。
 真顔で心配するケヴィンへ、ホークアイはちっちっちと指をふる。
「ケヴィン、いい子だからこのことは今すぐ忘れるんだ。だいたい、お前にこの話題はちぃっと早い。もう少し大人になるまで待つんだ」
……ホークアイがそうしろってんなら、そうするけど……。でもホークアイ、オイラとそんなに変わらない……
 いいから忘れとけ。妙に迫力のある笑顔で詰め寄られ、ケヴィンはこくこくと頷いた。
 ――あーあ、本当に情けないわねえ。
 口数は多いし口もうまいくせに、自身の肝心なことはうまく言えない。変なところで不器用な盗賊に、アンジェラが呆れかえっている。


 三日月の昇る夜、美しい城のバルコニー。
 絶えぬ守護の風が吹く中で、盗賊は軽く身を躍らせ忍び込む。
「さあ、王女様。叶わぬ恋に身を焦がし、眠れぬ夜を過ごすこの盗賊を哀れと思うならば、どうかこの手をお取りください」
 闇夜に紛れた盗賊は、促すように手を差し伸べる。
 金の髪の姫君もまた、戸惑いつつもそっと手を伸ばし……


 ――なぁんて、ね。


 劇にしてみたところで、こんなありがちの題材じゃ、きっと客なんて呼べやしない。くだらない男の見るくだらない夢、安っぽい空想だと笑われるだけだ。
 止まない風に吹かれながら、ホークアイはローラント城を振り返る。

『リース、オレは……

 王女と盗賊。ナバールとローラント。
 身分違いの、敵国同士の恋。あまりにできすぎてて、三流作家が書いた脚本だって、もう少しマシだろう。
 首を振り、つかの間の空想は打ち消して、ホークアイは風の城を背に歩き出した。
「さあ、二人とも行こうぜ。まずはフォルセナだ」