しちろ
2023-05-06 10:49:23
3287文字
Public 聖剣3
 

白銀の、黄金の騎士

聖剣3。パラディンになったデュランと、英雄王とブルーザーの話。ED後。企画参加作品。3300字。ちなみにリチャードの性格はHoMがもとになっています。

「またずいぶんと、立派になっちまって」
 ブルーザーの、感心したようなどこか呆れたような物言いに「そうか?」とデュランは答える。粗野で粗暴だった以前の彼とは違い、美しく洗練された鎧に身を包んだ今のデュランは高潔そのもので、神々しさすら放つ聖騎士だ。まあ、大したものなのだろうが、元を知っているブルーザーから見れば、信じられないというか、はっきり言えば胡散臭い。
「最近じゃ、新たな黄金の騎士とか呼ばれてるんだって? ちっともお前らしくないし、大概のやつは、こうツッコむけどな。見た目とぜんぜん違うじゃねーかって」
「うるせえなぁ……確かに、よく言われるけどよ」
 パラディンの鎧は黄金ではない。白銀だ。少なくとも外見上では、『黄金』の要素は皆無である。



「見違えたな、デュランよ。亡き父ロキもさぞ喜ぶであろう」
 フォルセナ城、玉座の間。
 主君を前に膝をつくデュランは、恐れ入ります、とうやうやしく頭を垂れた。
 よい、面を上げよと告げ、英雄王は話し始める。
「さて、さっそく本題だが。実は家臣たち……そして私自身からも、お前に一つ提案があってな。デュラン、お前に『黄金の騎士』とは別に、新たな地位と称号を授けてはどうか、と」
 聖剣の勇者デュラン。竜帝を倒しマナの樹を再生させ、世界を救った。
 功績を考えれば普通にあり得る話なのだが、デュラン自身には意外であったらしい。そもそも彼は基本的に訓練バカ・剣バカで、富や名誉にはあまり興味がない。
 はあ……と間の抜けた返事をしかけて、デュランは慌てて表情を引き締めた。そんな彼の様子は主君にしっかり見られており、軽く笑われてしまう。
「ふふ。剣術以外には欲のないお前のことだ。あまり、関心はないか」
「あ、いえ……身に余る光栄では、ありますが」
 光栄と言いつつ、戸惑っているようでもある。あまり嘘や取り繕いは得意ではない若い剣士を、英雄王リチャードは今まで、厳しくも温かく見守ってきた。
 さて、国中の尊敬と畏敬の念を一身に受けるリチャード王だが、今回の本音は次のとおりである。聖騎士となったデュランを『黄金の騎士』と呼ぶたび、兵や家臣たちのもの言いたげな視線を感じるのだ。なんかこう……黄金じゃないよね、銀だよね? それか白か、白銀とかじゃね? 的な。
 そういう雰囲気を察したとき、リチャードは「見た目の話ではない。彼の持つ高潔な精神が黄金そのものなのだ」とかもっともらしいことを言うようにしているが、実は心の中で、自分もちょっと思っていたりする。うん……黄金じゃないよね。見た目。
「黄金の騎士の名が、お前にとって特別なものであることは重々承知しておる。だがなデュラン、世界を救ったお前自身の功績にも名をつけたいと思うのだ。それに……黄金の名は、お前自身困る場面もある、と聞いた」
 このセリフも建前ではない。本心である。
 リチャードの言葉を受けて、デュランは、確かにそういうことはあります、とはにかんだ。仲間や酔っ払いにからかわれるのはどうでもいいが、町の子どもなどにもよく言われてはいる。
 デュランは居住まいを正し、改めて王に平伏した。
「国王陛下。私などのためにそのお心遣い、心より感謝申し上げます」 そこで彼は、さらに深く頭を下げる。「しかし恐れながら、お申し出をお受けすることはできません」
 後方に控えた家臣たちから、少しのどよめきが起こった。王から直接栄誉を賜る機会を蹴るなど、普通は考えられない。
 デュランは続ける。
「私は幼いころからずっと父に憧れてきました。王様に……そして父に認めてもらえる騎士になれたのであれば、これほど光栄なことはありません。『黄金の騎士』という称号以上に名誉な称号は、私にはないのです」
 そこで彼は、失礼しますと言って立ち上がった。
 胸に拳を当て、騎士の礼の形をとる。
「私は黄金の騎士。亡き父ロキの遺志を継ぎ、民を邪悪より護る剣となり、邪悪から護る盾となり、人々のための騎士であり続けることを、私はここに誓う」
 主君へ、愛する家族へ、そして護るべき世界の人々へ。
 パラディンの剣とは、敵を討ち倒すための剣ではない。誰かを護るための剣だ。パラディンの盾とは、己を護るだけの盾ではない。誰かを護るための盾だ。
 リチャードは、黄金の精神を持つに至った親友の息子を眩しく見つめた。ロキよ、我が生涯の友よ。お前の息子はこれほどまでに立派に成長した。世界を知り苦難を乗り越え、私を、お前を遥かに超える男になった。
「なるほど、よくぞ言った。此度お前が為した一連の事柄は、実に偉大だ。お前の父ではなく、お前自身の功績に報いたいと思ったのだが、デュランよ、私のいらぬ思料であったな。デュラン、新たな世代の黄金の騎士よ。誇り高きロキの名を継ぐ者がお前であったことを、私は心より誇らしく思う。フォルセナの王として、なによりも黄金の騎士ロキの友として」
 このとき英雄王のみならず、その場にいた兵や家臣たちの目にも、白銀の聖騎士デュランがまさに金色に輝く騎士に見えたに違いない。
 彼は聖剣の勇者、そして、黄金の騎士。それに、今ここで王や国が称号を与えずとも、いずれ世界中の人々が、あるいは世界の歴史が、彼自身にふさわしい彼だけの名をデュランに与えるだろう。
 なお同時にリチャードは、今後も国民に「でもカラーリングは金じゃねえよな……」とか言われ続ける覚悟もひそかに決めた。



 フォルセナの訓練場にいたブルーザーは、デュランの立ち居振る舞いについて、誰かから噂で聞いたらしい。
「見た目だけじゃねえ、言うことまでやけに立派になっちゃってよぉ。ホントにお前、どこの誰よ」
 力がすべてだ、力しか信じねえとか言ってたくせに。
「なんだよ、知らねえよ。誰だよ、そのあぶねえ奴」
 模擬刀を手に鼻白んだ顔のブルーザーへ、デュランはとぼけて見せる。鎧を脱ぎ、半裸で剣術に励むデュランは、玉座の間での凛々しさはどこへやら、ただの荒っぽいあんちゃんである。
「デュラン、お前だよお前。忘れたのかよ、このクソトリ頭ヤローが」 ブルーザーが吐き捨てる。
 はっ? ぴきっと来たらしいデュランは、訓練用の剣を放り出し、腰の剣をじゃらっと抜いた。誰もツッコミを入れない、デュランそれ、聖騎士限定装備のブレイブブレード。
「誰がトリだって? なんなら今すぐそこで、一戦やってやってもいいぜ? オレの自称ライバルのブルーザーさんよ」
「おっ、やるか? このイノシシヤロウ、オレ様こそいつでもいいぜ」
 なんだかんだ言って、所詮は似た者同士。
 血の気の多いブルーザーもまた、模擬刀を投げだした。宿命のライバルにつられて抜刀仕掛け……ブルーザーははた、と我に返る。「なぁんて、私的な決闘はご法度だって忘れたのかよ! マジでトリ頭だなお前! お前と仲良く懲罰コースなんて、オレ様はごめんだぜ!」
「ブルーザーのくせにゴチャゴチャ細けえな。誰かに見つかったら『すんません、訓練なんです~』って言っとけばいいじゃねーか。いいから早く戦ろうぜ、さっき思いついた技試してえんだよ」
 一応手加減はするつもりだが、死んだらすまねえ。
 デュランがボソッとこぼした呟きは、きっちりブルーザーの耳に届いていた。
「冗談じゃねえぞ! デュラン、お前、ナリはやたら立派なくせに、中身はチンピラかタダのごろつきじゃねえかよ!」
「どこだがよ、どこをどう見ても立派な聖騎士になってるじゃねえか。最近じゃあ、街に出ると、じいちゃんばあちゃんが泣きながら両手合わせて拝んでくるんだぜ? たまらねえよ……ってそんなことはどうでもいいから、いいから早く戦ろうぜ! もっと剣振らねえと身体がなまってしょうがねえ!」
「変わってねえ! 変わってねえし、なんなら前よりもっとひでえ!」
 その後こだましたブルーザーの悲鳴は、彼が逃げだしたゆえか、デュランの新必殺技を食らったゆえか。それは彼自身とデュランしか知らない。