しちろ
2023-05-04 13:03:52
1739文字
Public 聖剣2
 

彼のドロップ、彼女の魔法

聖剣2。ランプリ。まだ出会ったばかりの頃と思われる。1700字。

 持てる数は四個と決まっている。
「まんまるドロップに、ぱっくんチョコ……
 荷物の中を確認して、ランディはカバンのふたを閉めた。
「そんなちっちゃいモノなんだから、もっと詰め込めばいいじゃない?」
 四個のドロップと四枚のチョコレート。
 プリムは、くせになっている腕組みをしてぷうと頬を膨らませた。
 物騒なこの世の中、命を守る大事な大事な回復アイテムだというのに、なぜだか五個以上はどこの道具屋も売ってくれない。チョコは薄っぺらい板チョコだし、ちいさなドロップなんて、ぎゅうぎゅうに押し込めばもっと入ると思うのに。
「だってあまりたくさん持ち歩くと、傷んじゃうし、溶けるしって……
 別に彼のせいではないのだが、なぜだかランディは頭をかいて言い訳している。モティさんやニキータに、売れるのは四個まで! と言われれば、彼はそれじゃ困る、もっと売れなんて無理強いできる性格でもない。
 反骨精神溢れるプリムは「そんなの商売人の建前だわ」と唇を尖らせている。
「私が思うに、きっとそんな簡単に怪我を治されたら困るからじゃない? 高いドリンクや聖杯がたっくさん売れるように、道具屋が裏で結託しているのよ。こっちはそんなお金の余裕なんてないのに」
「さ……さすがに、そんなことはないと……思う、けど……なあ……
 言いつつ、ランディの語尾がだんだん弱くなっていくのは、ニキータの阿漕な商売っぷりが脳裏をよぎったからだろう。ニキータほどではなくても、どこのモティさんたちも商売命なのは変わりなく、正直言えば防具なんかは泣けてくるほど値段が高い。例えば、今プリムが着ているチャイナドレスを買うのだって、どれだけ苦労したことか……
「で、でも今ある分でも足りてるだろ? プリム、今、ケガはないよね?」
「そうね。足りてるし、ケガもないわ。……私はね!」
 急にぷりぷり怒り始めたプリムは、先に早足で町のほうへ歩いて行ってしまう。
 置いて行かれて、ランディはぽつんと取り残された。
 ぼく、なにか怒らせるようなこと、したかな……

 
 プリムは怒っていた。
 飴やチョコが少ないこと自体が問題なわけじゃない。そこは根本的原因ではない。
 だが、プリムは怒っている。ランディ、あなた、自分の分まで私にくれるのが困るのよ!

『プリム、大丈夫? これ使って』

 ランディは、少ないドロップやチョコを怪我したプリムにいちいち渡してくれる。
 ぼくは大丈夫だから、といっていつも笑う。プリムはそれが不満だ。とっても不満だ。
 ランディはいつも笑うけれど、そんなの、心から笑って受け取れるわけがないじゃない。
 だって。だって、あなたのほうが傷ついているのに!
 四個のドロップと四枚のチョコレート。私が必要な時に使わせるために、自分が消費しないようにって、自分がつらくても我慢してるでしょう。いやよ。私は、そんなのは嫌。

「ねえ、まんまるドロップもっと売りなさい! チョコでもいいわ!」
「そう言われましても、商会の決まりなんでねえ……申し訳ございません」
「もう、誰も彼も何なのよ!」
 大臣の娘として何一つ不自由に育ったプリムだが、今や飴ひとつままならない。ランディ、確かにあなたは優しいわ。けれど私は、こんな風に優しくされたいわけじゃないの。
 それでもあなたは、譲ることを止めない。自分はいつも耐えて、仲間を優先してばかり。

 だったら、もっと別の。
 なにか、別の手段を。

「プリムには、回復と補助の魔法を」
 水の精霊ウンディーネによって、新たな力が授けられる。プリムには、癒しの呪文と仲間を守る防護呪文。
 
「ネエちゃん、なんかうれしそうじゃん?」
 性格的に、オイラなんかより攻撃魔法で敵をぼっこぼこにしてやりたそうだけど。
 軽口たたくポポイの頭をこつんと小突いて、プリムは腰に手を当てた。
 ドロップとチョコは彼が持っている。でも、この魔法は彼女のものだ。
「ねえ、ランディ。私、回復魔法を覚えたんだけど」 プリムは少し得意げに笑う。まんまるドロップを、指でつまみ上げて見せながら。「私の魔力まで私やチビちゃんだけにどうぞ、なんて、言わないよね?」