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しちろ
2023-04-30 20:03:00
3096文字
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LOM・連載主人公の短編
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英雄の一番弟子 ―73年後―
73年後のバドが二人目の師匠について語る話。バドとエメロード。ちなみに師匠一人目→マイホームの女主、二人目→ドミナの男主です。約3000字。
「俺様を誰だと思ってる! あの英雄の後継者だぞ!」
追い詰められた賊の魔導士が、ロッドを振り回している。
「英雄、ねえ」 バドはエメロードと目を合わせ、後頭部をポリポリと搔いた。「
……
いるんだよな、この手のやつら」
珠魅の救世主。黒竜王を倒した勇者。ドラゴンキラー。
で、とどめに伝説のマナの英雄様。
設定盛りすぎだろうってレベルだが、これっぽっちも盛っちゃいないし、何ならまだまだ逸話がある。
(我が師匠ながら
……
あの人は
……
)
逸話に似合わぬ明るい笑顔が偲ばれる。いなくなってずいぶん経つのに、未だにこの影響力だ。
名前が売れすぎるというのも問題である。
「超物知りのバド様が、愚かなおまえの間違いを正してやりますと」 バドは焦るどころか、いっそ諭すような口調である。なんていうか、この手の阿呆
……
見すぎて慣れたし。「世界一有名なマナの英雄サマは、魔法なんかこれっぽっちも使えねえし。アーティファクトは使えても魔法に関しちゃ一般人以下だぜ、あの人。魔法書開きゃ嫌気がさして秒で破る」
そもそもあの人、物理的に強すぎて魔法必要ない。
可愛い笑顔に騙されて、ぼっこぼこにされた悪党は数知れない。
「そんで、知られていないもう一人は」 バドの目つきがぎろりと変わる。両足を開いて構えをとると、勢いよく両手を前に突き出した。「おまえなんか足元にも及ばない、とんでもねえ魔法使いだよ!」
大気から抽出された膨大なマナが、見る間に重ねられた手のひらに集積する。
マナは巨大な火球となり、放たれた。魔法使いは逃げる間も与えられない。過剰すぎる火力の魔法に撃たれ、哀れな魔導士は紙屑のように吹っ飛んだ。
「あっちゃー」
エメロードが肩をすくめるが、言うほど困った顔はしていない。彼女が抜いた剣は無駄になってしまったらしい。
賊はひくひくと痙攣し、ぶすぶす煙を上げている。
――
よくあれで生きてるわ
……
。
エメロードは完全に呆れているが、バドはあれで一応死なせないよう加減はしているらしい。なお、エメロードが攻め手の場合、バドに全く同じことを思われているが、エメロード当人は気にしていない。そもそも気づいていない。
「媒介
……
媒介は
……
」
魔導士がうわごとのように繰り返す。精霊魔法は一般的に、魔法楽器や道具の媒介を必要とする。しかしこの森人の青年にそれは見当たらない。
バドはべっと舌を出した。
「学園出たばっかりのオコサマじゃあるまいし。魔法楽器なんかとっくに卒業したっての」
仰向けになって動けぬままに、魔導士は驚愕におののいた。媒介なしの魔法。それが可能なのはごく一部だ。
「バド、やりすぎじゃない? あたしの出番なくなっちゃったじゃない」
「あー、つい。頭に血が上って」
八〇になるのに未熟だねえ、おれも。
口先だけであまり思っていなそうなバドに、エメロードは手を腰に当てて見せる。
「やれやれ。頭冷やさなきゃだめね」
「なんだよ、コロナじゃないんだから」
子どもの頃、バドは姉に全く同じことを言われたことがある。
バドには師と仰ぐ人物が二人いる。
一人はバドとコロナに居場所を与え、人の温もりと生き方を教えてくれた人。
もう一人は、魔法と魔法使いとしての在り方を教えてくれた人。
一人目は共に暮らし、二人目は町にいた。
二人目の師は、めったに魔法を使わなかった。
自称弟子のバドにしても基礎魔法を使ったのを一度見たことがあるだけだし、手ほどきを受けたこともない。それでなぜ師匠かといえば、その基礎がそもそも尋常ではなかった。召喚された精霊たちは歓喜し、魔力に導かれたマナの流れは、澄み切った歌の調べのように流麗で美しかった。
ほれ込んだバドは、彼に魔法を教えてもらえるよう同居の師に仲立ちを頼んだが、先生役を引き受けてもらうのに師は結構苦労したらしい。
「自分から教えはしない。質問があれば答える」
この条件で吞んでくれた。
指導は厳しいが日常は優しく温かかった一人目の師と異なり、彼は普段も教えも厳しかった。
バドがうっかり師匠と呼ぼうものなら即座に、お前の師匠は俺じゃなくてあいつだろうと咎められた。だから彼のことは名で呼んだが、バドはどちらも師匠だと思っている。二人目の師匠は、訊きたいことがあっても簡単には答えてはくれなかった。バドが自分で可能な限り勉強して、どうしてもわからないことがあった時だけ質問に答えてくれた。
ある時、こんなことを尋ねたことがある。
「魔法書は読むわりに魔法使わないよね? なんで?」
彼は、個人的な質問になると大抵はぐらかして答えてくれない。
ダメもとの問いだったが、彼は本
――
まさに魔導書だった
――
を繰る手をぴたりと止めた。
「
……
剣で斬ったほうが速いから」
「こっ、怖いこと言わないでよ! あんたが言うとシャレにならないし!」
大人しそうに見えて、師匠と同類だ、この人!
「あとは、まあ
……
」
「剣は本当なんだ
……
」
「そもそも俺は魔法に向いてない」
「ど、どこが? だって、し」 しょう、と言いかけて、バドは慌てて名に呼び変えた。白皙で無表情気味の彼に睨まれるとかなり怖い。「めちゃくちゃ魔力強いだろ? それで向いてないなら誰が向いてるんだよ」
「ただ強ければいいわけじゃない。魔法使いに向くのは二種類だ。精霊の声を聴き協力を得るのが上手い者か、精霊を力でねじ伏せ屈服させられる者。俺はどちらも向いてない。魔法を行使するたびに、いちいち声を聴いてやれるほど気の利いた性格してないし
……
」 少し妙な顔しているようにも見える。「後者は一度やったことがあるけれど、精霊が血の涙を流して泣いた。だからもうやりたくない」
「
……
」
「バド。魔法使いとしてどちらを目指すかは、お前が自分で考えることだ。答えを急ぐ必要はないけれど、後悔はしないように」
言って彼から渡されたのは、おそらく彼が読むには初歩的すぎる、魔導士の心得が書かれた本だった。
……
同じことを、いつかどこかで言われた気がするのは気のせいだろうか。
『師匠ってさ。魔法書は読むわりに魔法使わないよね? なんで?』
『普通に剣のほうが得意だからだけど
……
急にどうした?』
『おれ、すんごい魔法使いになりたくて』
すんごい
……
。
師は本をめくる手を止めると、考えるように視線を上向けた。おっとりした仕草は、彼が剣を手にしているときとはまるで別人だった。
『すんごいって、具体的にどういう?』
『えっと、すんごい魔法が使えて、師匠みたいに強くて
……
あと』
なんだろう?
バドは首をひねった。憧れの大魔法使いなのに、思ったより具体像が浮かんでこない。
それもそのはずで、バドはすごい魔法使いになりたいとは考えていたが、どんな魔法使いになりたいかは考えていなかった。すごい魔法は使いたかったが、何のために使うかは考えていなかった。
若い師は少し笑って、弟子を椅子に座るよう勧めた。
自身が読んでいた魔導書を見せて話し出す。
『バド。将来大魔法使いになりたいのだとしても、単純に魔法だけ勉強すればいいわけじゃない。例えば、優秀な魔法使いは二種類に大別されるけれど
……
』
「へへ」
バドは操っていたマナを解放すると、大気へ還っていく精霊に手を振った。
師匠。もう一人の、本当は最初のおれの師匠。
たくさん時間をかけてやっと出せた、おれの答え。
あなたは今、どこかで見ていますか?
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